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黒猫のシオン
第617話、久しぶりの薬草採取
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「こ、これは……」
ある日。俺はバルギルドさんが持ってきた薬草に目が釘付けになった。
バルギルドさんは腕組みをしながら言う。
「狩りに出かけた時に見つけた。いつものルートから少し外れて歩いていたら……妙な草が大量に生えていてな、貴重な物かと思い、念のため一つ採取してみた」
「せ、先生。これ……まさか」
「あ、ああ。間違いない」
虹色の花弁……これは、ビッグバロッグ王国で見たことがある薬草だ。
花弁は薔薇のようで、綺麗な虹色をしている。資料で見た限りでは、葉っぱは星型で、まるでミュディの『華美』がそのまま薬草になったようなデザインだ。
俺は、恐る恐る葉の部分を掴む。
「ナナイロシンギョウレンゲだ……すごい、実物を見たのは初めてだ」
「お、オーベルシュタインに咲くという、百薬の原料、ですよね」
「ああ。保存用に魔法で加工した物は見たことがあるけど、こうして実際に触れたのは初めてだ。すごい、本当にすごい……!!」
「せ、先生。わ、私も触りたいです!!」
ココロに花を渡す。
バルギルドさんは首を傾げた。
「ふむ。オレが見た限りでは、採取した場所に大量に咲いていたぞ」
「マジですか!! ほ、欲しい。めっちゃ欲しいぞ……!!」
「あのあの、これ、ウッドくんに葉っぱを食べさせれば、増やせるんじゃ」
「だよな。ここにあるのは花だけど、葉を採取すれば、こいつを温室で育てられる!!」
「ふぉぉ!! すごいです、本当にすごいです!!」
興奮する俺とココロ。バルギルドさんはピンと来ないのか首を傾げた。
俺とココロはバルギルドさんに言う。
「バルギルドさん!! こいつを採取した場所を教えて下さい!!」
「お願いします!!」
「あ、ああ。構わんが……ここから一日は歩くぞ。野営が必要になる」
「問題ないです!!」
「はい!!」
「むぅ……わかった。案内しよう」
「よし!!」
俺は拳をグッと握る。
ココロも喜んでいたが───ふと、我に返った。
「あ。でも……私も先生も、村を空けるのはまずいんじゃ」
「……だよなぁ」
「……先生。ここは、先生にお任せします。私、留守番していますので」
「いいのか?」
「はい!! オーベルシュタインなら、先生のが詳しいでしょうし」
「……わかった。ココロのぶんまで収穫してくるよ」
「はい!!」
よーし、久しぶりの薬草採取だ。がんばるぞ!!
◇◇◇◇◇◇
ナナイロシンギョウレンゲ。
ビッグバロッグ王国では標本しかない貴重な薬草だ。
こいつの特徴は、花弁、茎、葉、根と全ての素材が貴重な薬の素材となる。
霊薬エリクシールとは比べられない。エリクシールは『作ることができない薬』なのに対し、ナナイロシンギョウレンゲを使った数々の貴重な薬は『大金を払えば辛うじて作れる薬』なのだ。
つまり、こいつを使えばいろんな薬が作れる。
媚薬ココデメール、妙薬ハオマ、命薬トリスメギストス。今の薬学で作れる最高の薬たち。その素材となるのがナナイロシンギョウレンゲ。
こいつは、育てることができないのだ。おしべとめしべがない花で、枯れても種にならないし、勝手に地面から生えてくるんじゃないか?ってくらい得体が知れない。
標本も、かつてオーベルシュタインに出向いた総勢四十名になる調査隊が、命がけで採取してきた物だ……今更だけど、俺は一人でオーベルシュタインに乗り込んで生活しようとしてたんだな。アホみたいだ。
まぁ、そんな感じで……ナナイロシンギョウレンゲは未知の薬草である。長々と説明して悪かった。
「───と、これから採取しに行くのは、そんな薬草だ。二泊三日で、道中は野営をするから」
「にゃあー」
「みゃう」
「かしこまりました。ご主人様」
「護衛は任せろ」
『オデカケ、オデカケ!』
「たまには森で寝泊まりするのもいいわねー」
薬草採取に行くのは、俺、案内のバルギルドさん、食事係のシルメリアさん、助手のミュアちゃん、俺の補佐をするルミナ、暇そうにしていたエルミナだ。
シルメリアさんは大きな荷物を背負い、バルギルドさんはドワーフたちが作った簡易テントや、武器の大鉈を背負っている。ミュアちゃんとルミナはリュックと水筒、エルミナも弓矢を持っていた。
「じゃ、さっそく出発しますか」
村を出て、バルギルドさんの案内で歩き出す。
バルギルドさんは、地図を手に広げた。
「え、地図なんてあるんですか?」
「……狩場を記した周囲の地図だ。大雑把で、普通の地図としては使えんがな」
確かに、大雑把だ。
簡単な地形に道、狩場がマークしてあり、番号が振られている。
バルギルドさんは、狩場⑰とマークしてある部分を指さした。
「件の場所はここだ。徒歩でも一日くらいで行けるだろう」
「わかりました。あの、途中に崖とか、危険個所は」
「ある。だが、問題ない」
うーん……この人の『問題ない』って、大問題な場合が多いからな。
ミュアちゃんたちもいるし、あまり危険な場所には行きたくない。まぁ……この中で一番身体能力が低いのは、間違いなく俺だけどね。
「にゃああー」
「ミュア、フラフラ歩かないように」
「にゃう。シルメリア、綺麗なお花さいてるー」
「そうですか。ふふ、ありがとうございます」
ミュアちゃんは、花を採取してシルメリアさんにプレゼントしていた。なんとも可愛いな。
「ルミナルミナ、この赤い実、食べられるのよ」
「みゃう。よこせ」
「はいはい。どうぞ」
「みゃ……あまずっぱい」
エルミナは、ルミナに構っていた。
頭を撫でたりしなければ、基本的にエルミナとはよく話すんだよな。
ウッドは……あ、なんか根っこを伸ばして地面から養分吸ってる。
「まずは、ここにある滝を目指す。滝から少し歩いた場所に洞窟があるから、そこで野営をしよう」
「わかりました。滝の傍で野営とかは?」
「やめた方がいい。滝の音がうるさく、夜は眠れんぞ」
「なるほど……魚とかいるかな」
「洞窟の傍には川がある。恐らく、いるだろう」
釣竿持って来ればよかったな……ま、いいか。
◇◇◇◇◇◇
それから、半日ほど歩いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ぶはぁ、シルメリアさん、水を」
「はい、ご主人様」
けっこうな荒れ道だ。
バルギルドさんは大鉈で藪を掻き分けながら道を作る。最初は俺が『樹木移動』で木々をどかしながら進んでいたけど……険しい道に、俺の体力がヤバい。
「にゃうーっ!! ルミナ、こっちこっち」
「ふん、あたいのが早いぞ」
ミュアちゃんとルミナは、木々の枝をぴょんぴょん飛びながら進んでいる。体力、身体能力やばいな……もう半日以上あれで進んでるぞ。
シルメリアさん、ウッドは俺の傍で。エルミナはバルギルドさんの地図にいろいろ書き加えながら進んでいた。
でも、悪いことばかりじゃない。
「お、ウッド。こっちの葉っぱも食べてくれ」
『ワカッタ!』
途中、珍しい薬草を見つけては葉っぱをウッドに食べてもらう。
葉さえ食べれば、ウッドは薬草を複製できるからな。
「いろんな薬草……ふふふ、温室に植えるのが楽しみだ」
サンプルもいくつか採取した。
これだけで、森を歩く価値はある……すると、滝の音が聞こえてきた。
「村長。そろそろ到着する」
「は、はい……」
「まったく、少しは体力付いたと思ったんだけどねー」
「う、うるさいな……そういうお前は疲れてないのかよ」
「別に? ハイエルフは森の民だしー」
「くっ……」
エルミナは涼しい顔でニヤニヤする……くぅぅ、ムカつくな。
男の意地を見せ、先頭を進むと……見えた。
「おお、滝……!!」
高い崖の上に立つ俺たち。近くには大きな滝が流れていた。
かなり大きな滝だ。滝つぼを覗くと渦がすごい。落ちたら死ぬな。
バルギルドさんは、崖沿いを指さす。
「ここを降りて進めば、洞窟がある。今日はそこで休もう」
「はい」
よく見ると、日がだいぶ高いな。あと数時間もしないうちに日が暮れる。
バルギルドさんは薪を拾いながら歩き出した。
今度は下りだから疲労も少ないだろう。
「にゃあ。ご主人さま、お腹すいた」
「みゃう。甘いの食べたいぞ」
「もう少しで今日泊まる場所に付くから待っててくれよ」
ミュアちゃんとルミナの頭を撫で、俺たちは崖を降りた。
崖沿いの道。意外と横幅が広い。滝を眺めながらゆっくり下る。
「いい景色ねー」
「ああ。ほんと、オーベルシュタインは広いよ」
崖を降り、バルギルドさんを先頭にして進むと……小さな洞窟が見えた。
「ここが、今日の宿だ」
入口はバルギルドさんが少し屈んで入れるくらいの大きさだ。だが、洞窟内はけっこう広い。奥へ続く道があるのかと思ったら、行き止まりだ。
「なかなかいい場所ね。奥から魔獣が襲ってくるわけでもない、入口は狭いから大型魔獣が入ってくることもない。野営には理想の場所だわ」
「だろう? 天然の洞窟で、これほどのものは珍しい」
エルミナとバルギルドさんは満足していた。
まぁ、安全安心ならいい。
洞窟内に入ると、さっそくシルメリアさんが張り切りだす。
「バルギルドさん。テントの準備をお願いします。ミュア、ルミナは水を汲んでくるように」
「任せておけ」
「にゃう」「みゃう」
「あの、俺とエルミナは?」
「お二人はお休みください」
「えー? 私たちも働くわよ。ね、アシュト」
「もちろん」
「……では、テーブルの用意を」
シルメリアさんが背負っていたデカいカバンの中には、三日分の食材や調理道具が入っていた。
バルギルドさんはテントを二つ作る。折りたたみ式で、ミスリル製のテントだ。テントというか小型のロッジに近い……というか、ミスリルは軽いけど、さすがに寝床が二つだと重い。
よくこんなの二つも抱えて歩いて来れたな……って、あれ?
「あの、バルギルドさん。テントは二つでいいんですか?」
「ああ。村長とエルミナ、シルメリアとミュアとルミナの二つでいい」
「バルギルドさんは?」
「いらん。それに、睡眠なら四日前に取った」
「……え」
「そういえば言ってなかったな。デーモンオーガは、十日に一度睡眠を取ればいい。村で生活するようになってからは毎晩寝ているがな」
「そ、そうだったんですか?」
戦闘民族っぽいな……まさか、十日も寝ずに行動できるとは。
野営の警備は、バルギルドさんに任せて大丈夫みたいだな。
バルギルドさんはテキパキとテントを組み立て、外にあった大岩を素手で砕き積み重ね、かまどを作った。って……岩を素手で砕いてる。もうこの人には何も言うまい。
ウッドは、大きな木を生やす。
生やした木を見ていると、みるみる枯れてしまった。
『コレ、マキ!』
「ああ、薪か。枯らして乾燥させるとは……やるな、ウッド」
『エヘヘ』
バルギルドさんはウッドを撫で、大鉈で斬り倒し、薪に加工する。
ミュアちゃんたちが水汲みから戻り、シルメリアさんと一緒に食事の支度を始めた。
俺とエルミナも食事の支度を手伝った。
「にゃあ。ご主人さま、なんだか楽しいね!」
「そうだね。ふふ、今度はみんなで野営をしようか」
「にゃうー!!」
こうして、薬草採取初日は……疲れたけど、とても楽しかった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「…………」
楽しそうに野営の支度をするアシュトたちを、何者かが眺めていた。
ある日。俺はバルギルドさんが持ってきた薬草に目が釘付けになった。
バルギルドさんは腕組みをしながら言う。
「狩りに出かけた時に見つけた。いつものルートから少し外れて歩いていたら……妙な草が大量に生えていてな、貴重な物かと思い、念のため一つ採取してみた」
「せ、先生。これ……まさか」
「あ、ああ。間違いない」
虹色の花弁……これは、ビッグバロッグ王国で見たことがある薬草だ。
花弁は薔薇のようで、綺麗な虹色をしている。資料で見た限りでは、葉っぱは星型で、まるでミュディの『華美』がそのまま薬草になったようなデザインだ。
俺は、恐る恐る葉の部分を掴む。
「ナナイロシンギョウレンゲだ……すごい、実物を見たのは初めてだ」
「お、オーベルシュタインに咲くという、百薬の原料、ですよね」
「ああ。保存用に魔法で加工した物は見たことがあるけど、こうして実際に触れたのは初めてだ。すごい、本当にすごい……!!」
「せ、先生。わ、私も触りたいです!!」
ココロに花を渡す。
バルギルドさんは首を傾げた。
「ふむ。オレが見た限りでは、採取した場所に大量に咲いていたぞ」
「マジですか!! ほ、欲しい。めっちゃ欲しいぞ……!!」
「あのあの、これ、ウッドくんに葉っぱを食べさせれば、増やせるんじゃ」
「だよな。ここにあるのは花だけど、葉を採取すれば、こいつを温室で育てられる!!」
「ふぉぉ!! すごいです、本当にすごいです!!」
興奮する俺とココロ。バルギルドさんはピンと来ないのか首を傾げた。
俺とココロはバルギルドさんに言う。
「バルギルドさん!! こいつを採取した場所を教えて下さい!!」
「お願いします!!」
「あ、ああ。構わんが……ここから一日は歩くぞ。野営が必要になる」
「問題ないです!!」
「はい!!」
「むぅ……わかった。案内しよう」
「よし!!」
俺は拳をグッと握る。
ココロも喜んでいたが───ふと、我に返った。
「あ。でも……私も先生も、村を空けるのはまずいんじゃ」
「……だよなぁ」
「……先生。ここは、先生にお任せします。私、留守番していますので」
「いいのか?」
「はい!! オーベルシュタインなら、先生のが詳しいでしょうし」
「……わかった。ココロのぶんまで収穫してくるよ」
「はい!!」
よーし、久しぶりの薬草採取だ。がんばるぞ!!
◇◇◇◇◇◇
ナナイロシンギョウレンゲ。
ビッグバロッグ王国では標本しかない貴重な薬草だ。
こいつの特徴は、花弁、茎、葉、根と全ての素材が貴重な薬の素材となる。
霊薬エリクシールとは比べられない。エリクシールは『作ることができない薬』なのに対し、ナナイロシンギョウレンゲを使った数々の貴重な薬は『大金を払えば辛うじて作れる薬』なのだ。
つまり、こいつを使えばいろんな薬が作れる。
媚薬ココデメール、妙薬ハオマ、命薬トリスメギストス。今の薬学で作れる最高の薬たち。その素材となるのがナナイロシンギョウレンゲ。
こいつは、育てることができないのだ。おしべとめしべがない花で、枯れても種にならないし、勝手に地面から生えてくるんじゃないか?ってくらい得体が知れない。
標本も、かつてオーベルシュタインに出向いた総勢四十名になる調査隊が、命がけで採取してきた物だ……今更だけど、俺は一人でオーベルシュタインに乗り込んで生活しようとしてたんだな。アホみたいだ。
まぁ、そんな感じで……ナナイロシンギョウレンゲは未知の薬草である。長々と説明して悪かった。
「───と、これから採取しに行くのは、そんな薬草だ。二泊三日で、道中は野営をするから」
「にゃあー」
「みゃう」
「かしこまりました。ご主人様」
「護衛は任せろ」
『オデカケ、オデカケ!』
「たまには森で寝泊まりするのもいいわねー」
薬草採取に行くのは、俺、案内のバルギルドさん、食事係のシルメリアさん、助手のミュアちゃん、俺の補佐をするルミナ、暇そうにしていたエルミナだ。
シルメリアさんは大きな荷物を背負い、バルギルドさんはドワーフたちが作った簡易テントや、武器の大鉈を背負っている。ミュアちゃんとルミナはリュックと水筒、エルミナも弓矢を持っていた。
「じゃ、さっそく出発しますか」
村を出て、バルギルドさんの案内で歩き出す。
バルギルドさんは、地図を手に広げた。
「え、地図なんてあるんですか?」
「……狩場を記した周囲の地図だ。大雑把で、普通の地図としては使えんがな」
確かに、大雑把だ。
簡単な地形に道、狩場がマークしてあり、番号が振られている。
バルギルドさんは、狩場⑰とマークしてある部分を指さした。
「件の場所はここだ。徒歩でも一日くらいで行けるだろう」
「わかりました。あの、途中に崖とか、危険個所は」
「ある。だが、問題ない」
うーん……この人の『問題ない』って、大問題な場合が多いからな。
ミュアちゃんたちもいるし、あまり危険な場所には行きたくない。まぁ……この中で一番身体能力が低いのは、間違いなく俺だけどね。
「にゃああー」
「ミュア、フラフラ歩かないように」
「にゃう。シルメリア、綺麗なお花さいてるー」
「そうですか。ふふ、ありがとうございます」
ミュアちゃんは、花を採取してシルメリアさんにプレゼントしていた。なんとも可愛いな。
「ルミナルミナ、この赤い実、食べられるのよ」
「みゃう。よこせ」
「はいはい。どうぞ」
「みゃ……あまずっぱい」
エルミナは、ルミナに構っていた。
頭を撫でたりしなければ、基本的にエルミナとはよく話すんだよな。
ウッドは……あ、なんか根っこを伸ばして地面から養分吸ってる。
「まずは、ここにある滝を目指す。滝から少し歩いた場所に洞窟があるから、そこで野営をしよう」
「わかりました。滝の傍で野営とかは?」
「やめた方がいい。滝の音がうるさく、夜は眠れんぞ」
「なるほど……魚とかいるかな」
「洞窟の傍には川がある。恐らく、いるだろう」
釣竿持って来ればよかったな……ま、いいか。
◇◇◇◇◇◇
それから、半日ほど歩いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ぶはぁ、シルメリアさん、水を」
「はい、ご主人様」
けっこうな荒れ道だ。
バルギルドさんは大鉈で藪を掻き分けながら道を作る。最初は俺が『樹木移動』で木々をどかしながら進んでいたけど……険しい道に、俺の体力がヤバい。
「にゃうーっ!! ルミナ、こっちこっち」
「ふん、あたいのが早いぞ」
ミュアちゃんとルミナは、木々の枝をぴょんぴょん飛びながら進んでいる。体力、身体能力やばいな……もう半日以上あれで進んでるぞ。
シルメリアさん、ウッドは俺の傍で。エルミナはバルギルドさんの地図にいろいろ書き加えながら進んでいた。
でも、悪いことばかりじゃない。
「お、ウッド。こっちの葉っぱも食べてくれ」
『ワカッタ!』
途中、珍しい薬草を見つけては葉っぱをウッドに食べてもらう。
葉さえ食べれば、ウッドは薬草を複製できるからな。
「いろんな薬草……ふふふ、温室に植えるのが楽しみだ」
サンプルもいくつか採取した。
これだけで、森を歩く価値はある……すると、滝の音が聞こえてきた。
「村長。そろそろ到着する」
「は、はい……」
「まったく、少しは体力付いたと思ったんだけどねー」
「う、うるさいな……そういうお前は疲れてないのかよ」
「別に? ハイエルフは森の民だしー」
「くっ……」
エルミナは涼しい顔でニヤニヤする……くぅぅ、ムカつくな。
男の意地を見せ、先頭を進むと……見えた。
「おお、滝……!!」
高い崖の上に立つ俺たち。近くには大きな滝が流れていた。
かなり大きな滝だ。滝つぼを覗くと渦がすごい。落ちたら死ぬな。
バルギルドさんは、崖沿いを指さす。
「ここを降りて進めば、洞窟がある。今日はそこで休もう」
「はい」
よく見ると、日がだいぶ高いな。あと数時間もしないうちに日が暮れる。
バルギルドさんは薪を拾いながら歩き出した。
今度は下りだから疲労も少ないだろう。
「にゃあ。ご主人さま、お腹すいた」
「みゃう。甘いの食べたいぞ」
「もう少しで今日泊まる場所に付くから待っててくれよ」
ミュアちゃんとルミナの頭を撫で、俺たちは崖を降りた。
崖沿いの道。意外と横幅が広い。滝を眺めながらゆっくり下る。
「いい景色ねー」
「ああ。ほんと、オーベルシュタインは広いよ」
崖を降り、バルギルドさんを先頭にして進むと……小さな洞窟が見えた。
「ここが、今日の宿だ」
入口はバルギルドさんが少し屈んで入れるくらいの大きさだ。だが、洞窟内はけっこう広い。奥へ続く道があるのかと思ったら、行き止まりだ。
「なかなかいい場所ね。奥から魔獣が襲ってくるわけでもない、入口は狭いから大型魔獣が入ってくることもない。野営には理想の場所だわ」
「だろう? 天然の洞窟で、これほどのものは珍しい」
エルミナとバルギルドさんは満足していた。
まぁ、安全安心ならいい。
洞窟内に入ると、さっそくシルメリアさんが張り切りだす。
「バルギルドさん。テントの準備をお願いします。ミュア、ルミナは水を汲んでくるように」
「任せておけ」
「にゃう」「みゃう」
「あの、俺とエルミナは?」
「お二人はお休みください」
「えー? 私たちも働くわよ。ね、アシュト」
「もちろん」
「……では、テーブルの用意を」
シルメリアさんが背負っていたデカいカバンの中には、三日分の食材や調理道具が入っていた。
バルギルドさんはテントを二つ作る。折りたたみ式で、ミスリル製のテントだ。テントというか小型のロッジに近い……というか、ミスリルは軽いけど、さすがに寝床が二つだと重い。
よくこんなの二つも抱えて歩いて来れたな……って、あれ?
「あの、バルギルドさん。テントは二つでいいんですか?」
「ああ。村長とエルミナ、シルメリアとミュアとルミナの二つでいい」
「バルギルドさんは?」
「いらん。それに、睡眠なら四日前に取った」
「……え」
「そういえば言ってなかったな。デーモンオーガは、十日に一度睡眠を取ればいい。村で生活するようになってからは毎晩寝ているがな」
「そ、そうだったんですか?」
戦闘民族っぽいな……まさか、十日も寝ずに行動できるとは。
野営の警備は、バルギルドさんに任せて大丈夫みたいだな。
バルギルドさんはテキパキとテントを組み立て、外にあった大岩を素手で砕き積み重ね、かまどを作った。って……岩を素手で砕いてる。もうこの人には何も言うまい。
ウッドは、大きな木を生やす。
生やした木を見ていると、みるみる枯れてしまった。
『コレ、マキ!』
「ああ、薪か。枯らして乾燥させるとは……やるな、ウッド」
『エヘヘ』
バルギルドさんはウッドを撫で、大鉈で斬り倒し、薪に加工する。
ミュアちゃんたちが水汲みから戻り、シルメリアさんと一緒に食事の支度を始めた。
俺とエルミナも食事の支度を手伝った。
「にゃあ。ご主人さま、なんだか楽しいね!」
「そうだね。ふふ、今度はみんなで野営をしようか」
「にゃうー!!」
こうして、薬草採取初日は……疲れたけど、とても楽しかった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「…………」
楽しそうに野営の支度をするアシュトたちを、何者かが眺めていた。
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