大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ドラゴンズ・ウォー

第629話、真なるドラゴン

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 ドラゴンロード王国。
 国王でありガーランドは、いつになく真面目で神妙な顔つきで、一通の手紙を読んでいた。
 その覇気は『王』そのもの。娘を溺愛する馬鹿親っぷりがまるでなく、ピリピリとした覇気が執務室内にいる数名の護衛たちすら圧倒する。
 手紙を執務机に置き、立ち上がった。

「アルメリアの元へ行く」
「「「は、はっ」」」

 立ち上がり、ガーランドは自らドアを開けズンズンと歩く。
 護衛たちがガーランドを追う。だが、背中まで追いついたのに、先へ進むことができない。
 王を守るための護衛は、王の前を歩くこともある。だが、ガーランドの前を歩くという行為に、護衛たちは迷いが生じていた。それくらい、今のガーランドの『歩み』は邪魔してはならない。
 そして、アルメリアの執務室へ。扉の前にいた侍女が、慌ててドアを開けた。

「アルメリア、話がある」
「奇遇ね、私もよ」

 アルメリアの手にも、手紙があった。
 護衛と侍女を下がらせると、茶も出さずに本題へ。

「我ら、『龍人ドラゴニュート』を劣等種と呼ぶ、あのトカゲどもから手紙が来た……来るべき日が、来たのかもしれん」
「……魔龍ドラゴニアン族ね。全く……大昔、お爺様に負けたくせに、まだ『神龍』に憧れているのかしら」
「ふん。あんなトカゲもどき、何匹来ようが問題ないわ」
「ガーランド。侮るのはやめなさい。魔龍族の王、アジダハーカはあなたと同格の強さよ」
「……ふん」

 魔龍族。
 龍人族と長き戦いを繰り広げてきた、もう一つの『龍』の種族。
 かつて、始祖龍人であるアンフィスバエナと数千年戦い敗北、最強の種族は龍人となり、魔龍は影に消えていった……というのが、ガーランドがアンフィスバエナから聞いた話だ。
 だが、実際は違う。魔龍族はアンフィスバエナに敗北した後、ひっそりと力を蓄えていた。
 ドラゴンロード王国から遥か西に巨大な国を建国。
 実質、西方は魔龍族が支配する地域だ。恥ずかしいことに、ガーランドが王に即位して数百年後に存在を知り、今では無視できない大国となっている……それこそ、ドラゴンロード王国と同レベルの国として。

「クソが。無視してもいいが……」
「駄目。魔龍族の国は西方で最も大きな国。ドラゴンロード王国が魔龍族の正式な書状を無視したと、周辺国に吹聴するかもしれないわよ」
「ちっ」
「それに、今回はあくまでも『挨拶』みたいなもの。いきなり喧嘩を吹っ掛けるような馬鹿でもない、はずよ」

 アルメリアの言葉も、トゲがあった。
 それもそのはず。この二人は魔龍族が大嫌いだった。
 
「ただの挨拶ではあるまい」
「ええ。向こうは、私たちが『龍』の名を持つことを良しとしていない」
「けっ、親父に負けたくせに生意気な」
「そうね。まぁ……いざという場合には備えておきましょうか」

 こうして、魔龍族がドラゴンロード王国に来ることになった。

 ◇◇◇◇◇◇

 数日後。
 ドラゴンロード王国に、魔龍族がやって来た。
 町の大通りを、巨大な二足歩行のドラゴンが闊歩する。
 その背には大きく、装飾の施された『荷台』があり、そこに『魔龍ドラゴニアン』が乗っていた。
 魔龍族。
 龍の名を持つ、もう一つの龍族。
 
「ふん。相変わらず……臭い国だ」

 その背に乗るのは、魔龍族の王。
 アジダハーカ。ガーランドと同格の強さを持つ、魔龍族である。
 その容貌は、ドラゴンそのものだ。
 リザード族に近いといえば近い。顔はドラゴンそのもので、鱗の色は輝くような黄金。身長も三メートル近く、近づくだけで周囲を威圧するオーラがあった。
 アジダハーカは、黄金の煙管を咥える。すると、煙管から火が出た。

「父上。イライラするのもいいですけど、喧嘩はしないでくださいよ?」
「黙れ。我輩に命令するのか? アポプス」

 アジダハーカの息子、アポプス。
 黄金の鱗ではなく、鈍い銀色の鱗を持つ魔龍だ。今回、同行を許可された魔龍であり、西方にある大国、『魔龍皇国』の次期後継者でもある。
 そして、最後。
 鈍い深緑色の鱗を持つ魔龍、アポプスの弟であり魔龍皇国の将軍、グレンデルは言う。

「ククク。この国と喧嘩できたら、クソ面白れぇだろうなぁ」
「グレンデル……王の前では言うなよ」
「ケッ、臆病モンの兄貴らしいぜ。こんなクセェ国、さっさと潰しちまいてぇよ。龍の名を持つ種族は、オレら魔龍族だけでいいってのに」
「そこは同意する。だが、物事には順序がある」
「そこまでにしろ。到着だ」

 アジダハーカは、大きな口を開けて煙管を丸呑みし、咀嚼した。
 ドラゴンロード王城の正門が、ゆっくりと開く。
 出迎えたのは、正装したガーランドと、その妻アルメリア。護衛のフォルテシモ、その夫イクシオンだ。
 ガーランドは、両手を広げ出迎える。

「よく来た。龍の名を持つ同胞よ」

 ガーランドの出迎えに、魔龍族たちは形だけの挨拶をした。

 ◇◇◇◇◇◇

 ドラゴンロード王城。
 魔龍族の三人を、王族専用の会議室へ。
 部屋に入り、席に座るなり、ガーランドは笑顔を浮かべて言った。

「して、アジダハーカ殿……どのようなご用件かな?」
「……ふ、せっかちなところは変わらんな、ガーランド」
「ああ。私の取り柄だ」

 さすがのガーランドも、公の場では「私」になる。
 アジダハーカは煙管を取り出すと、ガーランドの許可もなく煙草を吸い始めた。
 ほんの少し、ガーランドの眉がピクリと動いたが……アルメリアが、ガーランドの足を自分の足で小突く。

「『聖龍門』の鍵を渡せ」
「…………今、何と?」
「聖なる龍の門を開ける、鍵を渡せと言ったのだ」
「貴様……」
「くだらん挨拶など無用。貴様も、我に挨拶をするなど虫唾が走るだろう? 龍人と魔龍は、互いに争う運命なのだ。龍という字を背負うのは、我らだけで十分……貴様の背後に『神話七龍』が付いていようが、もう我らは恐れん。その理由、わかるか?」
「…………まさか」
「そういうことだ。我々も、神話七龍の加護を得た、ということだ」

 アジダハーカは、煙を吐き出す。
 その煙がガーランドの顔にかかる。だが、ガーランドは瞬きすらしない。
 
「ガーランド。貴様は確かに強い。我に匹敵する龍であることは認めよう。だが……貴様は脆い。例えば……この国を戦場にしたら、貴様は戦えるか? 国民を犠牲にして戦えるか?」
「……貴様」
「我はできる。己の国を犠牲にしようとも、何人犠牲となろうとも、『龍』を背負う覚悟がある。ガーランド……貴様のような甘坊に、龍は背負えんよ」
「…………」
「だから、渡せ」

 アジダハーカは、煙管をガーランドへ突きつける。

「オーベルシュタイン領土にある、『龍の聖域』に繋がる門を開ける鍵を。そこで我は祝福を受け、『真龍』へ至る。始祖龍である貴様の父と我の父ですら成し遂げることができなかった、偉大なる龍へな」
「…………はっ」

 ガーランドは、椅子に深く座り直して笑った。
 バカにするように笑い、アジダハーカを見る。

「アジダハーカ。お前じゃ無理だ」
「……何?」
「真龍? そんなものになってどうする? その先に何がある?」
「知れたこと。そうだな……まず、偽りの龍である貴様ら、龍人族を滅ぼしてやろうか? 知っているぞ……貴様には大事な娘がいたなぁ?」
「…………」

 ガーランドが激高するかと思ったが、意外にも冷静だった。
 そして、静かに首を振る。

「それこそ、不可能だ」
「……何だと?」
「私の娘には、私をも超える夫が付いている。アジダハーカ……忠告しておこう。私の娘と、義息子に手を出してみろ。その時貴様は、偉大なる『緑龍』の眷属によって、滅びを迎えるだろう」
「緑龍ムルシエラゴか。ふん、その名を出せば怖気づくとでも思ったか?」
「違う。純粋に心配しているのだ。ああー……そういえば、オーベルシュタインには、私の大事な娘がいるんだった。貴様がちょっかいを出すのは自由だぞ? うんうん」
「…………」

 ガーランドは、もう余裕だった。
 アジダハーカがアシュトに、娘たちに手を出せば間違いなく終わる。
 そう、魔龍族という種族が終わるのだ。あの村にいる精鋭は、間違いなく最強。
 伝説の希少種族たちが住む、緑龍の村。
 以前、アシュトと手合わせをしたが、アシュトは本気ではなかった。アジダハーカは間違いなく『喰われる』だろうと確信していた。
 ガーランドの余裕が気になるのか、アジダハーカは目を細める。

「……フン。ガーランド、無駄話は終わりだ。『聖龍門』の鍵を渡すのか、渡さないのか」
「ここにはない」
「……なにぃ?」
「我が娘に託した。オーベルシュタインに住む娘にな」
「…………」
「欲しいなら、自分で取りに行け。取れるなら、な」
「フン。魔境オーベルシュタインに出向くことを恐れるとでも?」
「さぁな。話は終わりか? 一応、来客だ。望むなら部屋を用意しよう」
「…………」

 こうして、ガーランドとアジダハーカの話は終わった。
 魔龍族が、オーベルシュタインに……緑龍の村に出向くまで、残り三十日。
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