大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ドラゴンズ・ウォー

第634話、聖龍門の先にあるもの

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 俺、ローレライ、クララベル、シドラ、ルミナ。そして魔龍族の王アジダハーカと、数人のお付き。
 二十人くらいでやって来たのは、オーベルシュタイン、緑龍の村から数百キロ離れたところにある、巨大な二つの山……ではなく、巨大な岩石が二つ並んだ、奇妙なところだった。

「……ここ、力を感じる」
「力?」
「ええ。ドラゴンの力、ね」

 シドラは、二つに並んだ巨大な岩石の間に立つ。
 そして、二つに並んだ岩石の間に、大きな門があった。
 門は、それぞれ魔龍と龍人の壁画が彫られている。そして、俺たちの目線に、小さな鍵穴が二つ空いていた。
 
「姉さま、この鍵穴」
「ええ……ここに、聖龍門の鍵を使うのね」
「一つは龍人、もう一つは魔龍が管理している」

 アジダハーカは、お付きの龍人が持っていた立派な金属製の箱を開け、中から銀色に輝くカギを取り出す。
 ローレライも、聖龍門の鍵を取り出した。アジダハーカと全く同じ鍵だ。
 そして、アジダハーカは言う。

「アシュトよ。本当にいいのか?」
「ええ。もう、力はいらないんでしょう? だったら、この中にあるのはただの遺骨……ですよね? 遺骨だったら、持って帰って供養した方がいいと思います」

 この中には、かつてアンフィスバエナ様とアジダハーカの祖先が戦った跡が残っている。
 アジダハーカの祖先は敗北し、そのまま死亡。
 その時の戦いで『地脈』とやらの流れが不安定になり、大地のエネルギーがあふれ出る場所になった……だっけ? その時、アジダハーカの祖先の遺骨に、膨大な力が流れ込んだとか。
 その骨を取り込むと、大地の力を得られる……だったかな。
 だが、その力を取り込んでも、シドラには叶わないとか。

「じゃあ、開けるか。ローレライ、頼む」
「ええ」
「アジダハーカ王、あなたも」
「……うむ」

 二人は、聖龍門の鍵を手に門の前に。
 鍵を差し、同時に回すと……なんと、鍵が吸い込まれ、扉が自動で開いたではないか。
 
「おお、すっげぇ……」
「じゃ、行くわよ」
「はーいっ!」
「みゃう」
「……今更だけど、なんでルミナが」
「ふん、別にいいだろ」

 そう言い、俺に抱きついて頭をぐりぐり押し付けてくる。
 まぁ、最近忙しくて構ってやれなかったし、別にいいか。

「黒いネコも可愛いわね」

 そしてシドラ……よくわからんけど、こいつも付いてきた。
 消える気もないし、消し方わからんし、このまましばらくいるらしい……まぁ、怖いけど強いし、大丈夫だろう……たぶん。うん、たぶん。

「ふふ、アシュトくんってば心配性ねぇ~」
「いや、別に……って!?」
「はぁ~い♪」

 いつの間にかシエラ様がいた!
 まぁ、なんとなく来る気はしてた。

「魔龍族の、アジダハーカくんね?」
「あ、あなた様は───まさか、緑龍様!?」
「ええ。アルカンシエルちゃんが、お世話になったみたいねぇ。あの子の眷属になってくれて、ありがとうねぇ~♪」
「も、勿体なきお言葉……ッ!!」

 アジダハーカが跪き、他の魔龍も全員跪いた。
 シエラ様、やっぱりすごい……最初からいてくれたら、こんな面倒なことにならなかったんじゃ……なんて考えちゃう。
 シエラ様は、シドラを見た。

「シドラちゃん、アシュトくんの呼び声に応えたのねぇ?」
「そうね。その子、なんだかあったかくて気持ちいいし」
「わかる! ふふ、気まぐれなあなたを呼べるなんて、アシュトくんはさすがねぇ♪」
「い、いえ……」

 褒められてるんだけど……なんか、くすぐったいな。
 シエラ様はポンと手を合わせ「さて!」という。

「門が開いたし、行きましょうか」
「え、シエラ様も行くんですか?」
「ええ。こんな日が来ると思ってたし、ね」

 さっそく、全員で中に入る。
 岩で囲まれ、天井部分も岩で覆われているせいで、日の光がほぼ刺さない暗い場所だ。
 中に入ると……足下に感じた。

「うわっ……な、なんだこれ」
「アシュト、どうしたの?」
「お兄ちゃん?」
「いや、足下がムズムズする……お前たち、何ともないのか?」

 ローレライとクララベルは首を振る。
 しがみついたままのルミナを見ると、首をぷるぷる振った。

「地脈が不安定だから、大地のマナが脈動しているのよ。私と繋がっているアシュトくんにしかわからないかもねぇ~」
「そ、そうなんですか?」
「うん。アンくんたちの大喧嘩で、地脈が不安定になっちゃったの。で、あれが……」

 シエラ様が指を鳴らすと、どういう原理なのか周囲が明るくなった。
 そして、部屋の中央にあったのは……大蛇の骨。
 長すぎる蛇のような骨に、ドラゴンの顔の骨があった。
 
「おお……これは」

 魔龍族の祖先、その骨だ。
 アジダハーカたちは骨の前にフラフラと向かい、全員が跪いて祈りを捧げる。その眼には涙があり、全員が涙を流して静かに祈りを捧げていた。
 俺たちは黙り込む。そして、祈りを終えると俺に向かってアジダハーカが言う。

「アシュト殿。そなたには感謝してもしきれない……改めて、これまでの非礼を心からお詫びする。そして、貴殿に至上の感謝を……このことは、生涯忘れない。貴殿の名を、魔龍族の歴史に刻み込もう」

 感謝はいいけど、それはやめてくれ……とは言いにくい!!
 とりあえず曖昧に頷くと、魔龍族たちは遺骨を綺麗な布に包み始めた。
 すると、魔龍族の一人が言う。

「王、これは……」
「む……ローレライ嬢、これを」
「……これは」

 アジダハーカがローレライに差し出したのは、『腕』だった。
 骨と化した、人間の右腕だ。肘の部分から食い千切られたような跡がある。

「これは、アンフィスバエナ様の腕だろう。言い伝えでは、祖先との戦いで腕を失ったとあるが」
「確かに、祖父は右腕がありません。普段は魔力で作った腕で代用しています」

 え、そうだったの? 
 俺は驚きクララベルを見ると、クララベルは「そうだよー」と言う。
 ルミナも、ローレライの手にある腕の骨を見て「これ、ヒトの腕と同じ。ドラゴンじゃないのか?」と言っていた。俺も見せてもらったが、ヒトの腕の骨と全く同じで驚いた。 
 ローレライは、腕の骨を綺麗な布で包む。

「お父様にお送りして、お爺様に届けてもらうわ。骨の状態でも、お爺様なら自分の腕として使うことができると思うから……ふふ、きっと喜ぶと思うわ」
「そうか……うん、よかった」

 さて、用事が終わった。
 ざっと見るが、もう何もない。
 聖龍門の鍵とか、いろいろあったけど……なんかあっけないな。

「シドラちゃん」
「ええ」

 すると、シドラが腕から伸ばした蔦を地面に刺す。
 それから、一瞬だけ地面が揺れ───……シドラが根を抜くと、地面の脈動が消えていた。

「地脈、調整したから」
「……え?」
「もう大丈夫、ってこと」

 それだけ言い、シドラはスタスタ歩き出した。
 え、もしかして……地脈を治すために付いてきたのか?
 
「えーと……と、とりあえず帰りますか」

 こうして、俺たちは骨を回収して村に戻った。
 聖龍門の鍵を巡る一件は、幕を閉じたのである。

 ◇◇◇◇◇◇

 村に戻り、アジダハーカたちは俺たちに感謝しつつ帰っていった。
 それから数日後に、村に大量の贈り物が届き、ミュアちゃん指定で大量のお菓子が届いた。どうやら謝罪の気持ちらしく、ありがたく受け取った……お菓子は、ミュアちゃんが食べすぎないようにシルメリアさんが管理している。
 ガーランド王からも手紙があった。
 魔龍族との抗争は回避され、友好条約が結ばれるとのことだ。そして、アンフィスバエナ様にも腕の骨が届き、今は接合して自分の腕として使っているらしい。
 アンフィスバエナ様は、魔龍族の国に近々行くと言ってるそうだ……魔龍族の祖先の骨を埋めた霊園ができたそうなので、墓参りに行くとのことだ。
 俺は、ガーランド王の手紙を、川沿いの東屋で読み終えた。

「いろいろあったけど、万事解決かな」
「そうね」

 隣にはシドラがいる。
 どうやら、こいつは村に住み着くようだ。
 村を散歩したりするだけで、何もしないけど……フンババやベヨーテ、マンドレイクとアルラウネと仲良くお喋りしている光景が見られるようになったとか。
 すると、ルミナとミュアちゃん、ライラちゃんが慌てて来た。

「にゃあ!! ご主人さまー!!」
「お、ミュアちゃんたちだ」
「お兄ちゃん、犬たちが赤ちゃん産みそう!! きてきて!!」
「えっ……」
「みゃう、早く行くぞ!!」

 ルミナたちに手を引かれ、俺は柴犬たちの元へ向かうのだった。

「平和っていいわね」

 シドラがポツリと呟き、微笑を浮かべているのが見えた気がした。
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