大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編㉒

第636話、緑龍の村の財政

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「村長。現在の村の財政ですが……はっきり申し上げます。お金が余り過ぎて困っています」
「…………ええと」

 ある日。
 今日は薬師ではなく、緑龍の村の村長として、もう何度目かわからない回収を終えた村役所へ来ていた……ああ、ここは村役所の『村長室』で、俺の部屋である。
 俺の仕事は薬師がメインだが、村を治める立場としての村長という顔もある。
 なので、十日に一度ほど、村役所に入り、村長としての仕事をこなしているのだ。
 まぁ、領地経営みたいなもの……だと思っていたことがありました。正直、かなり大変だ。

「お金が余っている?」
「はい」

 珍しい悩み、というか問題だな。
 文官であり俺の補佐であるディアーナが、眼鏡をくいっと上げる。

「現在、村の住人は三千人ほどですが……ほぼ全員が何らかの職に就き、村に多大な貢献をしています。生産業において、私の知る限り、緑龍の村が最も素晴らしい成果を上げているといっても過言ではありません」
「そうなのか?」
「ええ。この村の住人は一人一人が高度な技術を持つ職人ですので……皆様が生産するモノが全て、ベルゼブブをはじめとする町や地域で、それはもうとんでもない売り上げを出しています。そのお金が村に入ってくるのはいいのですが……この村ではもう、お金を消費することができないくらい、大金が入ってきているのです」
「そ、そんなに?」
「はい。それはもう」

 贅沢すぎる悩みだろ。
 お金余り過ぎて使えないとか。

「本来は、生産品などを生み出す場合、材料費や製作費など必要経費が生じるのですが……この村では、材料費も製作費もかかりませんし、ゼロから生み出した物が全てお金になりますからね……」
「とはいっても、村の人たちに『お金余りまくってるから生産止めて』なんて言えないしなぁ……」
「備品などの購入を、と考えましたけど……村で使っている椅子やテーブルを始め、カーテンやカーペット、衣類や食料品も全て、村で作ったモノですね……しかも、出すところに出せばいい値が付く高級品」
「じゃあ、酒とか」
「最近、エルミナ様が新酒の開発に成功しまして。人狼族の村から、大量に送られてきました」
「うーん……」

 どうすりゃいいんだ。
 村で必要な物を買おうとすれば全部村にあるし、食べ物とか酒とかも高級品がずらりとある。

「そういや、先生が言ってたな。金は天下の回り物。お金は使うことで巡り、人の助けになるって。この村だけにとどめておくわけにはいかないぞ」

 とはいえ、どうすればいいんだ。
 ばら撒くわけにもいかないし、臨時ボーナスを渡したところでたかが知れている。
 
「参ったな……お金なくて困ることはあるけど、ありすぎて困るなんて」
「寄付という手もありますが……」
「寄付、か」

 寄付。意外と悪くないかもしれない。

「寄付っていうと、孤児院とか?」
「はい。魔界都市ベルゼブブにある孤児院も寄付を募っています」
「じゃあ、孤児院に寄付するか。そうだな……いきなり大金を寄付するんじゃなくて、三十日に一度、決まった額をずっと渡そう。いきなりの大金だと驚かれるしな」
「わかりました」
「その辺はディアーナに任せる。あとはどうしようか?」
「そうですね……寄付とは違いますが、投資はどうでしょうか」
「投資?」
「はい。魔界都市ベルゼブブや、天空都市ヘイブンなどには、無名の発明家や魔法技術を持つ者たちが集まり『コミュニティ』を形成しています。そのコミュニティを支援するのはどうでしょう?」
「コミュニティ……よくわからんけど」
「つまり、こういうことです」

 たとえば。
 コミュニティに所属する『魔法科学技術の会』という、魔法を用いた科学道具を開発するチームがあったとする。ここで緑龍の村が『支援します』といってお金を渡し、結果として『魔法科学技術の会』が開発資金で作った道具が認められて商品化、馬鹿売れしたとする……すると、村はその商品の権利の一部をもらうことができる。
 商品一個につき、売値の一割をもらうことができる……とかね。

「なるほどな……でもそれ、もし売れたらまたお金入るんじゃ」
「ですが、認められ、世界に広がるのはほんの一部です。でも……資金によって開発が進み、技術が進歩することは無駄ではありません」
「……確かにな」

 そう言い、俺は村長用の立派な椅子に深くもたれる。
 すると、ドアがノックされた。
 ティーカートを押して入ってきたのは、この役所担当の銀猫、ココネだ。
 ロングヘアをゆるく結んだ、どこかふんわりした銀猫。俺とディアーナを見てにっこり笑い、お茶の用意をしてくれる。

「ご主人様、ディアーナ様。お茶が入りました~」
「ありがとうございます」
「ありがとう、ココネ」

 とりあえず、少し休憩することにした。
 
 ◇◇◇◇◇◇


 お茶を飲んでいると、ココネがネコミミをぴこぴこさせながら俺の傍へ来た。

「ご主人様、何やら大変なようですねぇ」
「ああ。お金が余っててさ……ココネ、お金を消費するいい案、ないか?」
「そうですねぇ。私だったら、お船を買って、いつでも海に出られるようにしたいですねぇ。お魚、いっぱい食べられますし」
「あはは。船か……な、ディアーナ。船買うか?」
「いいですね。ベルゼブブにある造船業を支援すれば、いい船が手に入るかもしれません」
「そういや、大きな湖とかいっぱいあるし、釣り船とか桟橋の整備とかお金かけるか。村から派遣するんじゃなくて、悪魔族とか、天使族の職人に依頼するのもいいな」
「なるほど……村以外の職人を派遣する、ですか。それはいいですね」

 ディアーナはメモを取る。
 俺はお茶を飲みながら言った。

「あはは、よかったなココネ。お前の案、採用されたぞ」
「にゃあ! 嬉しいです~」

 ココネはニコニコしながら尻尾を揺らす……かわいいな。
 
「金を使う、か……なあディアーナ。ここの通貨ってベルゼ通貨だろ? これ、ビッグバロッグ王国とか、他国で使う金に換金できるか?」
「可能です。村長、まさか……」
「いや、ビッグバロッグ王国にも孤児院はあるし、寄付できたらいいなと」
「それなら、お任せください」

 俺とディアーナはお金をの使い道を考える……こうして考えると、意外とあるようでないな。
 でも、最後はやっぱりこれしかない。

「住人たちが生み出したお金だし、やっぱり住人たちに還元したいな。またお祭りでも開くか? そうだな……住人たちは完全にお客さんで、出店とかは全部、外部に委託するお祭りとか」
「かなりのお金を使うことになりそうですね……」
「面白そうだな。『住人は出店禁止』にして、完全にお客さんとして遊ぶとか。食べ物、飲み物はもちろんタダ」
「なるほど……わかりました。企画を考えておきます」

 ディアーナは頷き、ココネはディアーナにおかわりの紅茶を注ぐ。
 住人が何もしない、もてなされるだけの祭りか……どうなるんだろう?
 
「ご主人様。私たち銀猫も、おもてなしされるんですかぁ?」
「まあ、そうなるな」
「そうですか~……」

 あ、しまった。
 銀猫族、おもてなしするのは大好きだけど、おもてなしされるのは苦手なんだっけ。
 ココネのネコミミがちょっとだけペタっと萎れた。
 
「あー……とりあえず、銀猫たちには、いろいろお手伝いしてもらおうかな」
「にゃう? お手伝い、したいです」
「あ、ああ。そのときは頼むぞ」
「はい!」

 お、ネコミミがピンと立った。
 とりあえず、これでいい。何を手伝うかはディアーナに任せちゃえ。

「それにしても、お金が余って大変、か……贅沢過ぎる悩みだよな」
「それだけ、ここはお金が動く場所、ということですね」

 とりあえず、お金の使い道は決まった。
 寄付、投資、そして外部委託のお祭り。
 住人たちが何もしないお祭りか……一体、どうなるのかな。
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