大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編㉒

第638話、エルミナと海と釣り(後編)

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 さて、広い桟橋を歩いて進む。
 というか……桟橋、長すぎだろ。数キロはあるぞ。
 もちろん、エルミナは先端付近まで行くつもりのようだ。奥に行けば行くほど、大物が釣れるとか。
 俺としては、帰るのめんどくさいから、入口付近でいいんだけどね。
 
「わぁ~……」

 すると、ココロが海を見て目を輝かせていた。

「ココロ、海は初めてなんだよな」
「はい。エルフは森からあまり出ませんし、学園に通ってた頃も海に行きませんでしたし……」
「そっか。じゃあ、これからも来るといいよ」
「はい!」

 うれしそうにはしゃぐココロは、子供にしか見えなかった。
 まぁ……俺よりも年上なんだけどね。
 すると、ルミナが。

「みゃう。エビ」
「エビ? おお、エビ……って、エビでっか!? おま、エビでっかいぞ!? なんだそれ!?」
「そこでジャンプしたから捕まえた」

 ルミナは、両手で抱えられるサイズのエビを俺に見せてきた。
 さっきのカニといい、サイズが半端ない。ルミナの上半身くらいの大きさだが、ルミナは片手で背中を掴んで俺に見せてくる。
 海面から飛び跳ねた瞬間を捕まえたとか。いやはやすごいな。

「みゃう。食べたいぞ」
「喰いごたえありそうだな……」
「ちょっとそこ!! エビなんてどうでもいいでしょ。ほら、行くわよ!!」

 エルミナの気合がすごい。
 仕方なくエビを逃がし、桟橋の先端を目指して歩くこと十分。
 ようやく先端に到着。先端から手前は円形の広場になっており、東屋があった。ここに荷物を置くと、エルミナはさっそく釣竿を準備。
 俺たちに『リール』の使い方を説明した。
 リールは何となくわかったけど、気になることがある。

「なあエルミナ……餌はないのか?」

 釣りと言えば餌だが、あるのは疑似餌だけだ。
 キラキラした疑似餌に針が付いており、針を結ぶ糸にも、いくつもの小さな張りが付いている。

「これ、サビキっていう仕掛けね。ほらこの小さな針、ただの針じゃないのわかる?」
「にゃう、エビみたい」

 そう、枝分かれした糸の先に、針に紛れて赤い紙が付いている。まるで小さなエビのようだ。

「疑似餌を泳がせて糸を巻くと、疑似餌が小エビを追っているように見えるのよ。そして、小エビを狙って大きな魚が食らいつくってわけ。今回は餌なしでやるわよ。じゃ、そういうことで!」

 エルミナは飛び出して行った……動きが早い。
 俺たちも釣りを……と、その前に。

「みゃうー……お腹へったぞ」
「にゃあ、お弁当」
「うん。ココロ、まずは朝食にしようか。みんな釣りに夢中で、東屋には誰もいないし、ここで食おう」
「はい!」
「にゃあ、お茶淹れるー」
「おい、弁当」

 まずは腹ごしらえ……ミュアちゃんの持って来たバスケットを開けると、色とりどりのサンドイッチが入っていた。これはうまそうだ。
 ちなみにこのサンドイッチ。シルメリアさんじゃなくてミュアちゃんが作ったらしい。なんともまぁ、成長したことで……しかも、すっごくおいしい。
 食後にお茶を飲み、ようやく俺たちは腰を上げた。

「よし、みんなで釣りを楽しむか」
「にゃうー!」
「みゃあ」
「はいっ! えへへ、楽しみです」

 さて、いっぱい釣るぞ!!

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、さっそく釣りを開始。

「それにしてもこの竿、すごいな……今まで使ってた竹竿とは素材が違うぞ」
「私、釣りのこと詳しくないですけど、この竿すっごく軽いです」
「にゃあ、引いてるー」

 と、ミュアちゃんの竿がクイクイ引いていた。
 竿を投げ、ゆっくりリールを巻いていただけなのに。
 竿をくいっと上げ、ゆっくりとリールを回してもらうと……見えた。

「お、釣れてるよ」
「にゃあ! おさかないっぱい!」

 小さな針に、中くらいの魚が三匹かかっていた。
 確か……アジェだったかな。焼いてもサシミにしても美味い、マーメイド族がよく送ってくれる魚だ。
 針から外し、バケツに入れると元気よく泳ぎ出す。

「にゃあぁ……おさかな」
「今日の晩ごはんだね」
「にゃぅぅぅ」

 ミュアちゃんは嬉しいのか、俺に抱きついて頭をぐりぐり押し付けてきた。可愛いので頭を撫でてネコミミを揉んでいると、今度はルミナがかかった。

「きた」
「よし、竿を立てて、ゆっくりリールを回して」
「みゃう……こうか?」

 リールを回すと、魚が見えてきた。
 ミュアちゃんよりも大きなアジェが一匹だ。ルミナ用のバケツに入れると、ルミナはアジェをジーっと見る。

「……うまそう」
「今日の晩ごはんだな」
「みゃう」
「わわわ!? せせ、先生!!」
「お、今度はココロか」

 ココロもかかった、が……こっちは引きが強い。
 俺は網を用意し、ココロは苦労しながらリールを巻く……そして、見えてきた。
 でかい。そして黒い。これは確か……。

「ブラックダイヤ、だな」
「ぶ、ぶらっく……だいや?」
「ああ。海の宝石って呼ばれている、黒いサカナだ。これはサシミが絶品なんだ」
「おおー……えへへ、すっごく嬉しいです」
「うん。今日、帰ったら銀猫たちに調理してもらおう」
「はい!」
「にゃああ、おいしそう」
「みゃうう、黒い……」
『ミャァァ!』

 ネコたちも興奮しているな。
 と───ここで、俺の竿にもアタリがきた。
 
「よし!!」

 竿を立てて、リールを慎重に巻いていく。なかなかの強い引きだ。
 くぅぅ……この感覚、これだから釣りは楽しい。
 そして、魚影が見えた。赤い、トゲトゲした魚だ。
 
「にゃう!」

 ミュアちゃんが網を海面に突っ込み、魚を掬う。
 釣れたのは、赤いトゲトゲした魚。素手で触ると危険なので、トングで摑み針を外す。

「これは、カサロクだね。サシミ、煮物が絶品なんだ」
「にゃぉぉ! すごい!」
「先生、すごいです! こんな大きな魚……」
「みゃぁぁ……煮物、うまそう」

 やばい、釣り楽しい。
 みんなは負けじと竿を振り、今夜のおかずを釣り始めるのだった。
 そういや……エルミナはどうなったかな?

 ◇◇◇◇◇◇

「っしゃぁ!!」
「!!」

 エルミナのすぐ隣で、幼馴染のハイエルフであるフィオルンが『イダナ』という大きな魚を釣り上げた。
 五十センチはある大物だ。フィオルンは、仕掛けからイダナを外し、エルミナに見せつける。

「ふふふ。今日はこいつを捌いてお刺身にするわ。エルミナ、あんたはどう?」
「くっ……まだよ」

 エルミナにはまだ大きなアタリはない。
 アシュトたちが釣っているような小物は何度かヒットしたが、すぐにリリースする。
 狙うのは大物だ。

「エルミナ、場所変わってあげよっか?」
「いい!! 私は私の場所で、最高の魚を釣ってやるわ!!」
「あっそ。じゃああたしは続きといきますか」

 フィオルンは再び竿を振る。
 すると、投げ入れてから数秒でヒットした。

「また来たっ!!」

 そして、今度はエルミナの竿にもアタリが……しかも、大きい。

「大物きたっ!! フィオルン、勝負っ!!」
「面白いっ!!」

 リールを巻き、二人が釣り上げたのは───。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 釣った魚をシルメリアさんに調理してもらい、今日はミュアちゃんとルミナとココロも加えて、立食形式での夕食となった。
 釣り過ぎたので全部はうちで食えないので、銀猫たちに残りは寄付。
 ミュアちゃんとルミナは、魚の塩焼きを美味しそうに食べていた。

「にゃあ。おさかな美味しいー」
「みゃう。普段のさかなより美味い気がする」
「自分で釣った魚だしな」

 サシミを食べながら言うと、ミュアちゃんとルミナのネコミミがピコピコ動く。
 魚の煮物を食べていたシェリーが、周りを見ながら言った。

「あれ? お兄ちゃん、エルミナは?」
「ああ、あいつならバーでフィオルンさんと飲んでる。自分で釣った大物をサシミにして、二人で次の釣り計画を立てるんだって」

 何やら『勝負が~』とか『今回は引き分け~』みたいな話が聞こえてきたけどな。フィオルンさんも相当な釣り好きだし、エルミナとは気が良く合いそうだ。まぁ幼馴染らしいから仲良しだけど。
 俺は、魚の炊き込みご飯をもらって食べる。

「ん、うまい」
「ありがとうございます」

 シルメリアさんがお礼を言う……ああこれ、シルメリアさんが作ったんだ。
 ミュアちゃんたちも美味しそうに食べてるし、シルメリアさんも嬉しそうだ。

「ご主人様。また釣りに行くときは、私をお誘いください」
「あ、はい」
「あ、シルメリアずるいー! またわたしが行くもん」
「駄目です。今度は私です」
「にゃうー!!」
「みゃあ、やかましいぞ」
「あの、先生。私もまた行きたいです」

 とりあえず、海釣りはすごく楽しかった。
 今度はみんなを誘って行こうかな。
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