大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編㉒

第639話、ミュディの休日

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「え? ミュディ、明日休みなの?」

 ある日の夜。シェリーがミュディとドラゴンチェスをしながら、明日の予定を聞いたところ、ミュディから「明日はお休みなの」と返って来た。
 ミュディは、『飛龍』の駒を動かして言う。

「うん。本当はお仕事だったけど、製糸場に『ホワイトアント』が出ちゃって……放っておくと、建物が倒壊しちゃうかもしれないから、ネズミのニックくんたちに退治してもらうんだって。だからお休み」

 ホワイトアント。
 建物に侵入し、柱や板をかじる厄介者だ。過去に、ホワイトアントに狙われた家屋が、たった数日で柱を喰われて倒壊した、なんて話もある。
 ホワイトアントは群れで建物を襲う。
 真っ白な、米粒サイズのアリで、数は数千から数万……とても、ヒトでは対処できない数だ。
 シェリーは聞く。

「ホワイトアントね……ネズミたちに任せて大丈夫なの?」

 ネズミのニックと、その仲間たち。
 村の害虫駆除を一手に担うハンター……といえば聞こえはいいが、アシュトの薬物実験に協力した代わりに、村で生活するようになったネズミたちだ。
 ミュディは盤上を見て考えこむ。

「ニックくんたち、『久しぶりの御馳走だ』って言ってたよ。なんでも、ホワイトアントは、人間でいうチコレートみたいなおやつなんだって」
「そ、そうなんだ……チコレートねぇ。ほい」
「あ」

 シェリーが『地龍』の駒を動かし、ミュディの敗北が決定した。

 ◇◇◇◇◇

 そんなわけで翌日。
 ミュディは、一人で村を散歩していた。

「んー……暇、かなぁ」

 アシュトたちは仕事。
 いきなりの休みなので予定はない。製糸場の従業員たちも休みだが、みんなそれぞれの休日を満喫している。
 なんとなく、村外れにある川沿いの東屋に座り、のんびりと読書をする。

「…………」

 川のせせらぎ、風の音、緑の匂い。
 いつもは、デザインを書いた羊皮紙を眺めたりしている時間だ。
 急な休みになり時間を持て余していたが、たまにはのんびり読書もいい。
 すると、ミュディの背後に。

「おい、かくまえ!!」
「きゃっ!? し、シオンちゃん?」

 黒猫族のシオンが現れた。
 急いでいたのか、汗を流して息を切らしている。
 シオンはミュディの座る椅子の下に隠れた。すると、シルメリアが来た。

「ミュディ様……シオンを見かけませんでしたか?」
「え、えっと……どうしたの?」
「あの子、おやつに焼いていたサツマイモを一人で食べてしまって……」
「あ、ああ……」

 それは酷い。
 どうしようか悩んでいると、シルメリアは「では、失礼します」と言い行ってしまった。
  シルメリアがいなくなると、シオンがひょっこり現れる。

「ふぅぅ、助かった」
「シオンちゃん。焼き芋、一人で食べちゃったの?」
「仕方ないだろ。おなか減ってたんだ」
「……もう。ダメだよ? シルメリアさんが焼いてたってことは、ミュアちゃんやルミナちゃんのおやつでもあったんだから」
「む」
「ね? ちゃんと、謝りに行こう。私も付き合うから」
「むむ……」

 シオンのネコミミがピコピコ動き、尻尾も揺れる。
 迷っているようだ。

「シオンちゃん」
「むむぅ……わ、わかったよ」
「うん。じゃあ、一緒に行こうか……と、その前に」
「?」
「ちょっと、製糸場に行こうか」

 ミュディは立ち上がり、シオンと一緒に歩きだした。

 ◇◇◇◇◇

 屋敷に戻ると、シルメリアが本気で怒っているようだった。

「シオン。素直に出て来たことは評価しましょう……」
「みゃ、みゃ……」
「し、シルメリアさん。あの、ちょっとだけ待ってくれない? これ……」

 ミュディは、ポケットからクッキーの袋を取り出した。
 製糸場にあるミュディの部屋からもってきたのだ。
 疲れた時用の糖分として、お菓子がいっぱい置いてある。

「これは?」
「その、シオンちゃんも反省しているので、許してあげて欲しい……かな?」
「…………」

 ミュディの差しだしたクッキーを受取り、シオンを見る。
 シオンは、ネコミミがペタッとなり、尻尾も項垂れている。しかも、ミュディの背に隠れてしまい、ビクビクしているようだった……シルメリアが怖いのに、怒られるとわかっているのに、つまみ喰いはやめられないシオン。
 シルメリアは、ため息を吐いた。

「わかりました。今回は許しましょう……その代わり、今日は私と一緒に、ミュアたちのお菓子を作りましょう」
「みゃ……アタシ、お菓子なんて作ったことないぞ」
「お手伝い、です。悪いことをしたなら、償いなさい」
「…………わかった」

 シオンはミュディから離れ、シルメリアの元へ。

「ミュディ、ありがと」
「うん」

 二人は行ってしまい、ミュディは一人になってしまった。

「あー……私もお手伝いするって、言えばよかったかなぁ」

 ◇◇◇◇◇

 部屋に戻り、ミュディは『リンリン・ベル』を手に取る。
 通話部分の花を取り、相手を念じると───繋がった。

『はいよ、ヒュンケルだ』
「ヒュンケルさん、こんにちは」
『お、珍しいな。ミュディか』

 相手はヒュンケル。
 ミュディの姉ルナマリアの幼馴染であり、ミュディにとって兄のような人だ。

「ヒュンケルさん、お姉様は元気かなぁ?」
『ああ。元気だぜ。騎士に復帰して、毎日楽しくやってるよ』
「ふふ、そっかぁ……」
『あのなぁ……アシュトといいお前といい、オレを窓口にするのやめろよ……直接連絡すりゃいいじゃねぇか』
「だって、お姉様、いつも忙しくて連絡しても繋がらないんだもん。アシュトも言ってたよ? ヒュンケルさん、連絡すると必ず出る、って」
『まぁ、そうだけどよ……』

 どこか困ったような声。
 
『ま、いいか。ところでミュディ、今度はいつ来る?』
「そうだなぁ……アシュトもシェリーちゃんも忙しいし……」
『三年に一度の『ビッグバロッグ祭』がもう少しで始まる。せっかくだ、遊びに来いよ』
「あ、もうそんな時期なんだ……」

 ビッグバロッグ祭。
 ビッグバロッグ王国の建国祭とは違う、三年に一度のお祭りだ。
 建国祭は国の祭りだが、ビッグバロッグ祭は平民の、商人たちが主催となって行う祭りである。世界各国から、いろんな商人が露店を出店しに来る。

『アシュトに伝えてくれ。祭り、見に来いってな』
「うん。わかった」
『それと、ルナマリアには、今夜連絡するように伝えておく』
「えへへ、ありがと」
『おう。じゃ、またな』

 通信を終え、ミュディは『ビッグバロッグ祭』のことを思い出すのだった。

 ◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 ミュディは、夕食の席でさっそく話してみた。

「ビッグバロッグ祭かぁ……そういや久しぶりだな」

 アシュトが懐かしむように言う。
 ローレライとクララベルも知っているのか言う。

「そういえば、古書店なんかも出店してたわね」
「珍しいお菓子のお店もあるって聞いたかも!」

 そしてエルミナ。

「はいはい!! お酒ある?」
「予想通り過ぎるな。もちろんあるぞ」
「やったぁ!! アシュト、私行きたいっ!!」
「んー……今なら、転移魔法もあるし、みんなで行くのもいいかもなぁ」

 アシュトがそう言うと、エルミナが大喜びした。
 シェリーが言う。

「でもでも、リュウ兄とか騎士団は、城下町の警護とかに回るんだよね。ビッグバロッグ祭って商人のお祭りだから商人協会だっけ? そんな名前のところから騎士団に警備の依頼が入るんだった気がする」
「なら、一緒には遊べないか……まぁ、さすがに少しくらいは時間が取れるんじゃないか?」
「だといいけど」
「大丈夫だって。よし、じゃあみんな、予定を立てて、みんなでビッグバロッグ祭に行こうか」
「「「「「賛成!!」」」」」

 こうして、ビッグバロッグ王国商人たちの祭り、『ビッグバロッグ祭』に行くことになった。
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