大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ビッグバロッグ祭り

第644話、ハイエルフたちの商業区巡り

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 エルミナ、メージュ、ルネア、シレーヌ、エレイン。
 同じ村に生まれた幼馴染のハイエルフたちは、ビッグバロッグ王国の古商業区を散策していた。
 エルミナ以外の四人は、人間の国は初めてであった。
 アシュトに言われた宿屋に荷物を置き、さっそく町へ出たのだ。
 そして、古商業区を散策中。

「人間の国、なかなか栄えてるわね」

 メージュが、露店で買った果肉入り果実水を飲みながら言う。
 ルネアは、クリームがたっぷり入ったパンをモグモグ食べ、エレインも同じもの食べてウンウン頷く。
 シレーヌは、串焼きを齧りながら言う。

「初めて来たけど、いろんな種族いるわー……あむ」

 シレーヌが言うと、エルミナが胸を張った。

「ふふん。ビッグバロッグ王国は、多様な種族を受け入れてここまで大きくなった国なのよ。今では異種族にも爵位を与えて貴族にしてるらしいわ」
「なんであんたが胸張るのよ……」
「い、いいでしょ別に」

 シレーヌの肩をぺしっと叩くエルミナ。
 メージュたちは飲み食いしているが、エルミナは手ぶらだった。
 エレインが言う。

「エルミナちゃん。何も食べないの?」
「ふふん。せっかくだし、ここでしか食べられない『珍味』を狙うわ」
「「「「珍味?」」」」

 四人の声が揃う。
 エルミナはさらに胸を張り、自慢するように言う。

「アシュトから聞いたの。ここでは、珍しいモノや飲食店が多くあるって」
「え、そうなの? ってかあんた、そういう情報は先にいいなさいよ」

 メージュがジト目で言う。
 エルミナは「ごめんごめん」と謝り、キョロキョロする。
 現在、エルミナたちは商業区の中央広場にいる。周りには古めかしい建物が多く、露店が多い。
 細い路地がいくつもあり、アシュト曰く全て繋がっているらしい。路地には怪しげな飲食店や、珍味を扱う食材屋が多くあるそうだ。

「ね、路地に行こう。面白い発見あるかも!!」
「おや、きみは……エルミナさんじゃないか」
「ん?」

 と、エルミナに声をかけてきたのは、アシュトの兄であるリュドガだった。

「おお、イケメン」
「確か、村長のお兄様ですね」

 シレーヌが嬉しそうにジロジロ見て、エレインがペコっとお辞儀。
 リュドガはにっこり笑った。

「メージュさん、ルネアさん、シレーヌさん、エレインさん、だったね」
「え、覚えてるの?」
「ああ。一度会った人の顔は忘れないんだ」
「こりゃモテそうだねぇ……」

 シレーヌがリュドガをジロジロ見てウンウン頷く。
 リュドガは「あはは」と笑い、エルミナに聞いた。

「祭りに来ているとは聞いていたけど、どこか行くのかい?」
「路地!! あっちの細い道に、面白いお店いっぱいあるんでしょ?」
「路地か……」

 と、リュドガの部下である騎士が前に出る。

「美しいお嬢さんたち、よければオレたちが案内しようか?」
「団長、いいっすよね?」
「バルト、ハインツ……全くお前たちは」

 リュドガの部下である騎士バルトと、騎士ハインツだ。
 二人とも二十代半ばのイケメンで、騎士として一礼する。やや芝居がかっており、リュドガが呆れていた。
 リュドガは言う。

「むぅ……路地裏は確かにいろいろな店があるが、法外な値段をふっかける店もあるし、治安の悪いところもある。アシュトの奥方と、その友人だけで行かせるのも……」
「私はいいけど。みんなは?」

 エルミナが言う。
 メージュは「いいよ」と言い、ルネアも頷く。
 シレーヌは「イケメンの案内最高じゃん」と言い、エレインは「では、よろしくお願いします」と頭を下げた。
 バルトは指をパチンと鳴らし言う。

「よし決まり。じゃあ団長、案内してきますわ」
「団長は、他のチームの視察でもどうです?」
「わかったわかった。ただし、羽目を外すなよ?」
「「了解!!」」
「エルミナさん。こいつらを護衛と案内に付ける。好きに使ってくれ」
「ん。ありがとね、アシュトのお兄さん」
「ああ。では、祭りを楽しんでくれ」

 そう言い、リュドガは行ってしまった。
 シレーヌは首を傾げる。

「なんか、優しい人だね」
「それがウチの団長だからな。でも、怒ると怖いし、訓練じゃ厳しいぜ」
「ルナマリア副団長、ヒュンケル副団長とは違う厳しさと優しさっす」
「へー……」
「さ、路地裏に行くわよ。あんたら、面白い店あったら教えてね!!」
「「了解」」

 エルミナたちは、バルトとハインツを連れて路地裏へと歩き出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 路地裏に入ると、独特の香りがした。
 物が焼ける匂い、ツンとした匂い、生ゴミの匂いもすれば、動物の香りもする。
 そして、やはり路地裏は狭い。五人並んで歩くのがやっとだった。
 人の出入りも激しく、二人ずつ並んで歩いている。

「わぁ~!! この狭さ、匂い!! 私好きかも!!」

 エルミナは興奮していた。
 エルミナの隣にバルトが並ぶ。
 そして、ジュウジュウと音がする方向を見た。店頭で、大きな鍋を振って何かを炒めている。
 エルミナが覗き込むと、それは芋虫だった。
 バルトが苦笑する。

「ははは、お嬢さんには厳しいかな?」
「え? なんで? すっごく美味しそうじゃん!! おじさん、それ一つちょうだいっ!!」
「あいよっ!!」
「え……」

 バルトが固まる。
 芋虫の炒め物を二皿もらい、一つをバルトへ手渡した。

「ほい、案内のお礼」
「え」
「あ~んっ……ん! おいしいっ! プチプチして、クリーミーな甘さが広がるわぁ」
「…………」

 バルトは凍り付いていた。
 すると、違う店を覗いていたメージュたちも来る。

「あ、エルミナ美味しそうじゃん!!」
「ずるいー」
「そこの店にあるわよ。って、あんたらそれ何ッ!!」
「ふふん。砂サソリモドキの串焼き。コリコリで美味しいわぁ~」
「うまうま」

 メージュ、ルネアは、黒いサソリの串焼きを食べていた。
 シレーヌ、エレインも見慣れない物を食べている。

「みてみて、こっちはマイマイシェルのソースがけだって。すっごく味濃くて美味しいっ!!」
「とろけるようで美味しいですっ!!」
「…………あ、あはは」

 後ろにいたハインツの顔色が悪い。
 ハイエルフたちは、森の民。
 畑で作物を育て、森の果実を収穫し食べる。
 森の恵みに、獣や昆虫も含まれる。九千年以上生きているエルミナたちにとって、昆虫食は当たり前の物であり、忌避間などない。
 エルミナたちは、それぞれの食べ物を交換して味わっていた。
 バルトは、芋虫の皿を持ったまま立ち尽くす。

「あんた、食べないの?」
「い、いやぁ~……仕事中だし」
「そう? いいから食べなさいよ。アシュトのお兄さんには、私から言ってあげるからさ」
「え、ええと」

 ハインツを見るが、そっぽ向かれた。
 バルトは「裏切り者……」と呟き、青い顔で芋虫を口に入れた。

「う、うまぁ」
「でしょ? あ、ハインツだっけ? あんたにも奢ってあげる」
「え!? あ、いや」
「何がいい?」
「え、ええと」
「エルミナ嬢。あっちの昆虫炒めなんてどうです?」
「え!? わぁ、美味しそうじゃん!!」

 いろんな昆虫が混ざった炒め物が、鍋の上で踊っていた。
 ハインツは「この野郎……!?」とバルトを睨むが、バルトは青い顔のまま芋虫を食べ「道連れだこの野郎」と笑っていた。
 エルミナたちは炒め物を買い、美味しそうにバリバリ咀嚼する。

「ほら、あんたも」
「…………イタダキマス」

 ハインツは、青い顔をしながら昆虫を口に入れた。

 ◇◇◇◇◇◇

 裏路地から戻ると、エルミナたちはお土産をいっぱい抱えていた。
 芋虫の幼虫ハチミツ漬け、干しコオロギ、イナゴジャムなど、珍味というかキワモノが多い。だがエルミナたちは大満足なのか、ホクホク顔で言う。

「いやー堪能したわ。裏路地、面白いじゃん」
「ね、ね、お腹いっぱいになったし、一回宿に戻って荷物置こう。その後さ、甘いの食べに行こうよ」

 シレーヌの意見に全員賛成。
 青い顔で腹を押さえているバルトとハインツも頷いた。
 エルミナは、メージュたちに言う。

「ね、人間の国もいいもんでしょ?」
「そうね。すっごく楽しいわ。ね、ルネア」
「最高」
「エレイン、いっぱい食べてたもんね~」
「し、シレーヌちゃん、わたしそんなに食べてないよぉ~」

 五人のハイエルフたちは、キャッキャウフフしながら宿へ戻る。
 バルトとハインツは互いに顔を見合わせて言った。

「あ、甘い物……なら、大丈夫……だよな?」
「そ、そう信じたい……」

 ちなみに、裏路地にある甘味店に行くことになるのだが……やっぱり、キワモノ系だったそうだ。
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