大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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もう一つの龍人族

第659話、レヴィとローレライとクララベル、ついでにアイオーン

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 アシュトが「じゃ、薬院にいるから。後は頼むぞローレライ」と言って行ってしまい、残されたレヴィはチラッとローレライを見た。この三人の中では一番高貴で華がある存在と感じたからである。
 ローレライは、改めて言う。

「改めまして。私はローレライ。龍名は『月光龍ムーンライト・ドラゴン』よ。よろしくね」

 ローレライは胸に手を当て、優しく微笑んだ。
 レヴィは「ふん」と鼻を鳴らし、胸に手を当てる。

「ドラゴンエイジ森国、偵察部隊隊長……『水漣󠄁龍メイルシュトロム・ドラゴン』レヴィだ」
「はいはーい!! わたしは『白雪龍ブランシュネージュ・ドラゴン』のクララベルです!! よろしくね、レヴィ!!」
「やかましい。騒がしいのは嫌いだ」
「えへへー」

 クララベルは嬉しいのかニコニコしている。
 レヴィは残りの一人。紫がかったショートヘアの女……アイオーンを見る。なぜかニヤニヤしてメモ帳に何かを書きなぐっていた。

「いいネタ、いいネタ……ん? あ、私の番? 私は『時流龍クロノスタシス・ドラゴン』のアイオーン。くひひ、まあよろしくねん」
「…………」

 レヴィは、淑女、騒がしい子供、気色悪いヤツとローレライたちを印象付けた。
 一番まとも……というか、間違いなく高貴な存在であるローレライに言う。

「村を回る前に、お前……いや、貴女の話を聞きたい」
「ふふ、なにかしら?」
「あなたたちの祖について。我らも、ムルシエラゴ様から聞くまで、龍人の祖がもう一つあることなど知らなかったのだ」
「おじいちゃんのことー?」
「……そうだ」

 レヴィは、クララベルのことを『淑女の妹』と見ることにした。
 ローレライは少し考えて言う。

「お爺様のことだけど……私たちの祖国、ドラゴンロード王国を建国したってことくらいしかわからないの。優しくて、おばあ様のことが大好きな人、ってことかしらね」
「……何?」
「おじいちゃん、パパに国を任せてから、世界中の温泉巡りしたり、ずーっとお昼寝したりしてるってパパが言ってた。楽しそうでいいなー、また来ないかなー」
「……龍の祖が、温泉」
「ええ、うちの村にも来たことがあるのよ」
「…………」

 レヴィは少し考え、言う。

「祖とは、そのような軽い存在なのか? 龍人にとって象徴すべき存在だろう」
「軽くないわ。きっとお爺様は、次の世代に龍人という存在を託したのよ。お父様も普段は軽いノリだけど、お爺様から託された想いは忘れていない……私は、そう思う」
「…………」

 ドラゴンエイジ森国は、今も祖であり王のトルトニスが管理している。
 ドラゴンロード王国とは違う。

「国の在り方はそれぞれ違うわ。あなたの祖は、託すのではなく守っている。そういうことじゃない?」
「……私には判断できない」
「あの~、質問いい?」

 と、アイオーンが挙手。
 レヴィは返事をせず、眼球だけを動かしアイオーンを見た。

「龍名があるってことは、あなたはドラゴンに変身できるんだよね? つまり、高貴なお方?」
「あ、そっかー。変身できるの、王族だけだもんねー」

 ドラゴンに変身できるのは、龍人族だけ。
 ドラゴンロード王国では、半分だけドラゴンの血が流れている半龍人が主な種族だ。現在、竜騎士は全て半龍人で構成されている。
 レヴィは頷いた。

「私は、祖の孫だ。孫といっても数え切れないくらい血が薄いがな」
「そうなの?」
「ああ。ドラゴンエイジ森国には、龍人が二百以上存在する。全員、龍名を持つ」
「……すごいわね。私たちの方は、親戚の血筋を合わせても百くらいかしら」
「ふむふむふむ。なるほど、一夫多妻制……いいネタ、いいネタ」

 アイオーンがメモを取る。
 レヴィは言う。

「その気になれば、オーベルシュタインを統一することも可能だろうな」
「それは無理。アシュトがいる限り、ね」
「……ムルシエラゴ様の加護を受けた人間か。私が気になっているのはそこだ。なぜ、ムルシエラゴ様は我が主に加護を与えず、あのような非力な人間に……」
「むー。お兄ちゃんはすごいからだよ!!」
「意味が解らん」
「……とりあえず、そろそろ外に出ましょうか。村を案内するわ」

 ローレライたちは立ち上がり、村の案内をすることにした。

 ◇◇◇◇◇◇

 最初に農園、そしてお菓子屋、大浴場、そして図書館と案内した。
 案内を終え、ローレライお気に入りの場所である、川べりの東屋へ来た。クララベル途中、お菓子や飲み物をたくさん持って来たので、東屋からは甘い香りがしている。
 レヴィは、お菓子に手を付けずに言う。

「……平和な国だ。まともな軍隊が、半龍の騎士だけとは」
「あなたの国、軍があるの?」
「ああ。オーベルシュタインは魔境だ。いつ、どこから攻められるかわからん。それに、我らの国も領地拡大を目指し、他領地へ侵攻することも考えられる。軍は必要だろう」
「……あなたの言うことも、間違いじゃないわね」
「ここのは自警団だ。攻めることを想定していない。はっきり言って甘すぎるぞ」
「…………」

 レヴィの指摘に、ローレライは黙り込む。
 視線を向けた先には、川で遊ぶクララベルとアイオーンがいた。

「ここは、守るだけでいいの。攻めることはないわ」
「……何?」
「だって、戦うことよりも、受け入れることが多いから。知ってる? アシュト……私の夫の名前、オーベルシュタインじゃけっこう有名なのよ? 様々な種族を集め、村を作ったって。その名前を聞いて、いろんな種族が集まってきたの。最近じゃ、助けを求めに来た種族たちに、新しい村を作ってあげたのよ。その種族たちはみんな、アシュトに感謝している。知らず知らずのうちに、村がこんなにも大きくなったの。戦うことなく、でも……闘う時は、本気で闘う。おかげで、敵だった人たちも、今ではアシュトを認めてくれている」

 かつて、魔龍族という者たちがいた。
 ミュアを傷付け、アシュトが初めて本気で敵対した種族。だが、アシュトと戦い、アシュトを認め、今では交易をするまでになった……交易品に必ず、ミュアに大量のお菓子を添えて。

「……甘いな。本当に甘い。そんなことでは「───……あら」

 ゾッとした。
 背筋に冷たい汗が流れ、レヴィは硬直した。
 川べりに、『何か』がいた。

「あら、シドラ」

 薄緑色の肌をした、女だった。
 川べりから、ゆっくり上がってきて……レヴィの前へ。
 樹帝シドラ。現時点で、アシュトが生み出した最大最強最悪の『植物魔法』の化身。生み出されてからは消えることなく、村をフラフラしている。今は、この川べりがお気に入りのようだ。

「可愛い子ね。でも……ちょっと怒ってるのかしら?」
「……ッッ!!」

 死。
 絶対に敵対してはいけない『ナニカ』だった。
 たった今言ったことが、全て過去になるくらい『凶悪』な存在。
 たとえ自分が千人いても、秒で消滅する。
 それほど圧倒的な『戦力』だった。

「シドラ、あまり怯えさせないで」
「そう?」

 それだけ言い、シドラは近くの岩へ座り、鼻歌を奏で始めた。

「……な、なんだ、このバケモノは」

 レヴィは、この村がドラゴンエイジ森国の『脅威』だと認識した。
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