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日常編㉓
第664話、漢のため息
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ある日。バルギルドは一人、東屋に酒を持ち込み飲んでいた。
仕事を終え家に帰らず、アーモに「今日の食事はいい……」と伝え、酒瓶だけ持ち家を出た。
なんとなく、一人で飲みたくなったのだ。
アーモも何となく察したのか、何も言わずに見送った。
すっかり日も暮れ、東屋のランプが灯る。日が暮れると自動で光りだす魔道具らしいが、バルギルドに詳しいことはわからない。
たまにあるのだ。こうして一人、酒を飲みたくなる時が。
「…………森は広いな」
実はバルギルド……少し、落ち込んでいた。
世界の広さを実感していた。
理由は、巨人族、そして幽鬼族である。
デーモンオーガ族として生まれ、力ならどんな種族にも負けたことがなかった。
別に誇っていたわけではない。だが……やはり、力自慢であるがゆえに、力で負けるとやや気落ちしてしまう。
そして、幽鬼族。
対峙した瞬間、『戦ってはならない』と本能が警告した。たとえ全力を出そうと勝てないだろう。
今では『炎龍の村』にある墓守だ。一度、炎龍の村に獲物を卸しに行ったときに挨拶をしたが、人柄もよく丁寧に挨拶をしてくれた……ただの頭蓋骨だったが。
「いい夜だ……」
月が明るく、星が瞬いている。
酒をグラスに注ぎ、そっと掲げる。
月明かりが、透明な酒をキラキラと光らせてくれる。
バルギルドは、グラスを一気に煽り、息を吐く。
「まだ、オレの中にもあるのか……闘争心が」
思い出すのは、自分を育ててくれた父親。
母は覚えていない。覚えているのは、アーモを守る自分と、バルギルドとアーモを守る父の背中。
父は、男手一つでバルギルドとアーモを育ててくれた。
「……親父」
デーモンオーガは、オーガ系一族にとって『災い』とも呼べる存在だ。
悪魔の鬼。悪鬼。魔王の眷属。
その強靭な肉体はどのオーガ種族よりも強靭、腕力、脚力も最強クラス。オーガにとって尊敬ではなく畏怖の対象……ゆえに、迫害された。
実際、迫害されたのではない。自ら出て行ったのだ。迫害などしようものなら、迫害した側のオーガ族はデーモンオーガの怒りに触れ皆殺しだろう。
バルギルドたちも、そうだった。
オーガの集落から少し離れた場所を住みかとして、細々と暮らしていた。
「……村長と出会わなければ、今も穴倉生活だったろうな」
そう言いつつ、村長であるアシュトと出会ったからこそ飲める美味い酒をグラスに注いだ。
夜はまだまだ長い。
バルギルドは、酒瓶が空っぽになるまで、月明かりの下で飲み続けた。
◇◇◇◇◇
翌日。
バルギルドは一人、罠を設置した森の奥へ踏み込んでいた。
最近は肉の消費が激しく、罠も複数設置している。ディアムド一家とは別の場所にいくつか罠を設置し、それぞれ確認する方法を取っていた。
今頃、アーモたちも罠を確認しているだろう。
バルギルドは、落とし穴を確認し、巨大な猪が落ちているのを確認。猪を回収して帰ろうとした。
「ぐ、ぅ……」
「……む」
すると、藪から苦し気な声。
藪をのぞくと、若いオーガの男が傷だらけで倒れていた。
オーガの男が薄く目を開けると、バルギルドを見て慌てだす。
「でで、デーモンオーガっ!? ひ、っひぃぃ!?」
「……その元気があれば大丈夫だな」
それだけ言い、バルギルドは帰ろうとした。
「あ……ま、待ってくれ!!」
「…………なんだ」
「あ、あの……あんた、デーモンオーガだよな?」
「オーガ族が、オレの姿を見てデーモンオーガ以外に見えるのか?」
「い、いや……」
「悪いが、仕事がある。気を付けて帰れ」
それだけ言い、バルギルドは歩き出す……が、オーガの青年がバルギルドの腕を掴んだ。
「ま、待って、待ってくれ!! お、オレの村が……デーモンオーガに、乗っ取られちまったんだ!! た……助けてほしい」
「……デーモンオーガに乗っ取られた?」
「あ、ああ……い、いきなり、その……」
「……迫害したデーモンオーガが、復讐に来たか」
「っ……」
復讐。
デーモンオーガは恐れられている存在だ。
バルギルドたちのように、オーガたちから恐れられ、迫害され故郷を追われ、各地を転々として生活するデーモンオーガは、実は希少なのだ。
迫害したデーモンオーガが反旗を翻し、オーガに復讐することが実は多い。
そうやって、オーガの村が乗っ取られ、デーモンオーガの支配下に置かれることも珍しくない。
「は、迫害はしていない……ただ、あいつは、ガルバモンの奴はデーモンオーガだからって暴力的で、オーガの女をよこせって暴れて、食い物とか酒とかも独り占めして……だから全員で協力して、奴を追い出したんだ。そうしたら……あいつは、どこからかオーガの手下を集めて、村を襲撃したんだ。お、男たちは戦ったさ、でも……みんな負けて、村で磔にされて……お、オレは逃がされた。た、助けを……」
「…………」
「む、娘がいるんだ。まだ小さい娘が……た、頼む、助けてくれ」
「…………」
ふと、バルギルドの脳裏に、娘のノーマが浮かんだ。
そして、小さく息を吐く。
「……村まで、案内しろ」
◇◇◇◇◇
オーガの村。
デーモンオーガのガルバモンは、村の中央に岩石を叩き砕いて作った巨大な椅子に座り、村のオーガ女性を何人も集めては、酒と食事を楽しんでいた。
周りには女しかいない。
オーガの男は全員が傷だらけで、磔にされていた。
オーガの女性たちの夫も、娘もいる。だが、全員が恐怖でひきつった笑みを浮かべ、涙を流している者もいた。
大人も子供も、女はみんなガルバモンのモノになっていた。
「ぐぁっひゃっひゃっひゃぁ!! ワシを迫害するからこうなるんじゃぁ!! 愚かなオーガ、憐れなオーガ!! なぁオメェら!!」
「へっへっへ、兄貴の言う通り!!」「さっすが兄貴ぃ!!」
「「「「「ぎゃっはっは!!」」」」」
ガルバモンの部下であるオーガたち。
酒を飲みながら、女たちに触れては下種な笑みを浮かべていた。
そんな時だった。
巨大な猪を抱えたデーモンオーガが、のっしのっしと歩いてきた。
「あぁん? なんだぁ、あいつ? お? デカイ猪じゃねぇか!!」
「あ、兄貴……あいつ、デーモンオーガですぜ」
「おおお?」
デーモンオーガ……バルギルドは、猪を下す。
そして、無言でガルバモンを見つめていた。
「なんだぁオメェ。猪……ああ、オレの土産か? デーモンオーガが、オレの部下になりてぇのか?」
「め、メイ!! ユンナ!!」
「おとうさん!!」「あなた!!」
バルギルドの後ろにいたオーガが叫ぶ。
すると、小さな女の子と女性が立ち上がる。だが、オーガに腕を掴まれ動きを止める。
ガルバモンはゲタゲタ笑った。
「ああ、仲間になりてぇならいいぞぉ? その猪、うまそうだしなぁ」
「…………臭いな」
「あ?」
「お前、デーモンオーガなのか?」
「あぁ? 見りゃわかんだろ!! 浅黒い肌、ツノ、どう見てもデーモンオーガだろうが!!」
「…………違うな、貴様はデーモンオーガではない」
バルギルドは、落胆していた。
「力も、誇りも感じられない。欲に溺れた醜いブタだ。貴様……十秒やる。ゴミどもを連れて消えろ」
「…………あ?」
「貴様など殴る価値もない。さっさと消えろと言ってる。それとも、言葉も理解できんのか?」
「…………」
ガルバモンの顔に大量の青筋が浮かぶ。
座っていた岩石の椅子が砕け、二の腕が倍以上に膨れ上がった。
身長が三メートルを超え、横幅も二メートル以上に膨らむ。
「ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉ!!」
ズドン!! と、ガルバモンの打ち下ろした拳がバルギルドの頭に突き刺さった。
が……次の瞬間、血が噴き出した。
「う、っぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ガルバモンの拳が砕け散ったのだ。
バルギルドは一歩も動いていない。頭でガルバモンの拳をモロに受けただけ。
そして、首をゴキゴキ鳴らした。
「殴る価値はない。だが……喧嘩を売られたなら、話は別だ」
びき、ビキ、ビキキ……と、バルギルドは右拳を強く握りしめる。
バルギルドの立つ地面にビキビキと亀裂が入る。
ぎろりガルバモンを睨みつけると、ガルバモンの全身が硬直した。
「ひっ」
恐怖。絶望。畏怖。
ガルバモンが真っ青になった。
「墳ッ!!」
ズドン!! と、轟音が響いた瞬間、ガルバモンの顔面に拳が突き刺さった。
ガルバモンは高速で回転しながら吹き飛び、周囲の木々を吹き飛ばし、岩石を砕き、湖を水きりのように跳ねてそのまま沈んだ。
ざっと十二キロ。ガルバモンは吹き飛んだ。
バルギルドは、残ったオーガを睨む。
「次、この地に踏み入れてみろ……その時、オレが喰い殺してやる」
「「「「「ヒッ……すすす、すみませんでしたぁぁぁぁ!!」」」」」
オーガたちは、一目散に逃げ出した。
◇◇◇◇◇
ようやく全て終わったが……圧倒的な怒気を発したバルギルドに、近づくオーガはいなかった。
近づいてきたのは、バルギルドに助けを求めてきた青年だけ。
「あ、ありがとう……その」
「……無理をするな。怖いのだろう」
「…………」
「オーガは、デーモンオーガを本能で恐れる。礼はいらん……そのイノシシは、村で食え。ではな」
それだけ言い、バルギルドは村を去ろうとした。
すると。
「おじちゃん!!」
「…………」
青年の娘が、一輪の花を持ち、バルギルドの差し出した。
「ありがとー!!」
「…………ああ」
バルギルドは、ほんの少しだけ微笑み、その花を受け取った。
淡い桃色の、とてもきれいな花だった。
◇◇◇◇◇
その日の夜。
村に戻ったバルギルドは、また一人で飲んでいた。
先日と同じ酒を飲みながら……今日は、一人ではない。
机の上には、少女からもらった花が一輪、花瓶に生けてある。
「…………ありがとう、か」
この村の住人ではない、オーガに言われた。
恐れられてもきっと、あの言葉は心の底から出た言葉だろう。
それが聞けただけでも、バルギルドには十分だった。
「ふ……悪くない」
今日も、月明りが眩しい。
でも……月ではなく、一輪の花を眺めながらの一杯も、なかなか美味かった。
仕事を終え家に帰らず、アーモに「今日の食事はいい……」と伝え、酒瓶だけ持ち家を出た。
なんとなく、一人で飲みたくなったのだ。
アーモも何となく察したのか、何も言わずに見送った。
すっかり日も暮れ、東屋のランプが灯る。日が暮れると自動で光りだす魔道具らしいが、バルギルドに詳しいことはわからない。
たまにあるのだ。こうして一人、酒を飲みたくなる時が。
「…………森は広いな」
実はバルギルド……少し、落ち込んでいた。
世界の広さを実感していた。
理由は、巨人族、そして幽鬼族である。
デーモンオーガ族として生まれ、力ならどんな種族にも負けたことがなかった。
別に誇っていたわけではない。だが……やはり、力自慢であるがゆえに、力で負けるとやや気落ちしてしまう。
そして、幽鬼族。
対峙した瞬間、『戦ってはならない』と本能が警告した。たとえ全力を出そうと勝てないだろう。
今では『炎龍の村』にある墓守だ。一度、炎龍の村に獲物を卸しに行ったときに挨拶をしたが、人柄もよく丁寧に挨拶をしてくれた……ただの頭蓋骨だったが。
「いい夜だ……」
月が明るく、星が瞬いている。
酒をグラスに注ぎ、そっと掲げる。
月明かりが、透明な酒をキラキラと光らせてくれる。
バルギルドは、グラスを一気に煽り、息を吐く。
「まだ、オレの中にもあるのか……闘争心が」
思い出すのは、自分を育ててくれた父親。
母は覚えていない。覚えているのは、アーモを守る自分と、バルギルドとアーモを守る父の背中。
父は、男手一つでバルギルドとアーモを育ててくれた。
「……親父」
デーモンオーガは、オーガ系一族にとって『災い』とも呼べる存在だ。
悪魔の鬼。悪鬼。魔王の眷属。
その強靭な肉体はどのオーガ種族よりも強靭、腕力、脚力も最強クラス。オーガにとって尊敬ではなく畏怖の対象……ゆえに、迫害された。
実際、迫害されたのではない。自ら出て行ったのだ。迫害などしようものなら、迫害した側のオーガ族はデーモンオーガの怒りに触れ皆殺しだろう。
バルギルドたちも、そうだった。
オーガの集落から少し離れた場所を住みかとして、細々と暮らしていた。
「……村長と出会わなければ、今も穴倉生活だったろうな」
そう言いつつ、村長であるアシュトと出会ったからこそ飲める美味い酒をグラスに注いだ。
夜はまだまだ長い。
バルギルドは、酒瓶が空っぽになるまで、月明かりの下で飲み続けた。
◇◇◇◇◇
翌日。
バルギルドは一人、罠を設置した森の奥へ踏み込んでいた。
最近は肉の消費が激しく、罠も複数設置している。ディアムド一家とは別の場所にいくつか罠を設置し、それぞれ確認する方法を取っていた。
今頃、アーモたちも罠を確認しているだろう。
バルギルドは、落とし穴を確認し、巨大な猪が落ちているのを確認。猪を回収して帰ろうとした。
「ぐ、ぅ……」
「……む」
すると、藪から苦し気な声。
藪をのぞくと、若いオーガの男が傷だらけで倒れていた。
オーガの男が薄く目を開けると、バルギルドを見て慌てだす。
「でで、デーモンオーガっ!? ひ、っひぃぃ!?」
「……その元気があれば大丈夫だな」
それだけ言い、バルギルドは帰ろうとした。
「あ……ま、待ってくれ!!」
「…………なんだ」
「あ、あの……あんた、デーモンオーガだよな?」
「オーガ族が、オレの姿を見てデーモンオーガ以外に見えるのか?」
「い、いや……」
「悪いが、仕事がある。気を付けて帰れ」
それだけ言い、バルギルドは歩き出す……が、オーガの青年がバルギルドの腕を掴んだ。
「ま、待って、待ってくれ!! お、オレの村が……デーモンオーガに、乗っ取られちまったんだ!! た……助けてほしい」
「……デーモンオーガに乗っ取られた?」
「あ、ああ……い、いきなり、その……」
「……迫害したデーモンオーガが、復讐に来たか」
「っ……」
復讐。
デーモンオーガは恐れられている存在だ。
バルギルドたちのように、オーガたちから恐れられ、迫害され故郷を追われ、各地を転々として生活するデーモンオーガは、実は希少なのだ。
迫害したデーモンオーガが反旗を翻し、オーガに復讐することが実は多い。
そうやって、オーガの村が乗っ取られ、デーモンオーガの支配下に置かれることも珍しくない。
「は、迫害はしていない……ただ、あいつは、ガルバモンの奴はデーモンオーガだからって暴力的で、オーガの女をよこせって暴れて、食い物とか酒とかも独り占めして……だから全員で協力して、奴を追い出したんだ。そうしたら……あいつは、どこからかオーガの手下を集めて、村を襲撃したんだ。お、男たちは戦ったさ、でも……みんな負けて、村で磔にされて……お、オレは逃がされた。た、助けを……」
「…………」
「む、娘がいるんだ。まだ小さい娘が……た、頼む、助けてくれ」
「…………」
ふと、バルギルドの脳裏に、娘のノーマが浮かんだ。
そして、小さく息を吐く。
「……村まで、案内しろ」
◇◇◇◇◇
オーガの村。
デーモンオーガのガルバモンは、村の中央に岩石を叩き砕いて作った巨大な椅子に座り、村のオーガ女性を何人も集めては、酒と食事を楽しんでいた。
周りには女しかいない。
オーガの男は全員が傷だらけで、磔にされていた。
オーガの女性たちの夫も、娘もいる。だが、全員が恐怖でひきつった笑みを浮かべ、涙を流している者もいた。
大人も子供も、女はみんなガルバモンのモノになっていた。
「ぐぁっひゃっひゃっひゃぁ!! ワシを迫害するからこうなるんじゃぁ!! 愚かなオーガ、憐れなオーガ!! なぁオメェら!!」
「へっへっへ、兄貴の言う通り!!」「さっすが兄貴ぃ!!」
「「「「「ぎゃっはっは!!」」」」」
ガルバモンの部下であるオーガたち。
酒を飲みながら、女たちに触れては下種な笑みを浮かべていた。
そんな時だった。
巨大な猪を抱えたデーモンオーガが、のっしのっしと歩いてきた。
「あぁん? なんだぁ、あいつ? お? デカイ猪じゃねぇか!!」
「あ、兄貴……あいつ、デーモンオーガですぜ」
「おおお?」
デーモンオーガ……バルギルドは、猪を下す。
そして、無言でガルバモンを見つめていた。
「なんだぁオメェ。猪……ああ、オレの土産か? デーモンオーガが、オレの部下になりてぇのか?」
「め、メイ!! ユンナ!!」
「おとうさん!!」「あなた!!」
バルギルドの後ろにいたオーガが叫ぶ。
すると、小さな女の子と女性が立ち上がる。だが、オーガに腕を掴まれ動きを止める。
ガルバモンはゲタゲタ笑った。
「ああ、仲間になりてぇならいいぞぉ? その猪、うまそうだしなぁ」
「…………臭いな」
「あ?」
「お前、デーモンオーガなのか?」
「あぁ? 見りゃわかんだろ!! 浅黒い肌、ツノ、どう見てもデーモンオーガだろうが!!」
「…………違うな、貴様はデーモンオーガではない」
バルギルドは、落胆していた。
「力も、誇りも感じられない。欲に溺れた醜いブタだ。貴様……十秒やる。ゴミどもを連れて消えろ」
「…………あ?」
「貴様など殴る価値もない。さっさと消えろと言ってる。それとも、言葉も理解できんのか?」
「…………」
ガルバモンの顔に大量の青筋が浮かぶ。
座っていた岩石の椅子が砕け、二の腕が倍以上に膨れ上がった。
身長が三メートルを超え、横幅も二メートル以上に膨らむ。
「ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉ!!」
ズドン!! と、ガルバモンの打ち下ろした拳がバルギルドの頭に突き刺さった。
が……次の瞬間、血が噴き出した。
「う、っぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ガルバモンの拳が砕け散ったのだ。
バルギルドは一歩も動いていない。頭でガルバモンの拳をモロに受けただけ。
そして、首をゴキゴキ鳴らした。
「殴る価値はない。だが……喧嘩を売られたなら、話は別だ」
びき、ビキ、ビキキ……と、バルギルドは右拳を強く握りしめる。
バルギルドの立つ地面にビキビキと亀裂が入る。
ぎろりガルバモンを睨みつけると、ガルバモンの全身が硬直した。
「ひっ」
恐怖。絶望。畏怖。
ガルバモンが真っ青になった。
「墳ッ!!」
ズドン!! と、轟音が響いた瞬間、ガルバモンの顔面に拳が突き刺さった。
ガルバモンは高速で回転しながら吹き飛び、周囲の木々を吹き飛ばし、岩石を砕き、湖を水きりのように跳ねてそのまま沈んだ。
ざっと十二キロ。ガルバモンは吹き飛んだ。
バルギルドは、残ったオーガを睨む。
「次、この地に踏み入れてみろ……その時、オレが喰い殺してやる」
「「「「「ヒッ……すすす、すみませんでしたぁぁぁぁ!!」」」」」
オーガたちは、一目散に逃げ出した。
◇◇◇◇◇
ようやく全て終わったが……圧倒的な怒気を発したバルギルドに、近づくオーガはいなかった。
近づいてきたのは、バルギルドに助けを求めてきた青年だけ。
「あ、ありがとう……その」
「……無理をするな。怖いのだろう」
「…………」
「オーガは、デーモンオーガを本能で恐れる。礼はいらん……そのイノシシは、村で食え。ではな」
それだけ言い、バルギルドは村を去ろうとした。
すると。
「おじちゃん!!」
「…………」
青年の娘が、一輪の花を持ち、バルギルドの差し出した。
「ありがとー!!」
「…………ああ」
バルギルドは、ほんの少しだけ微笑み、その花を受け取った。
淡い桃色の、とてもきれいな花だった。
◇◇◇◇◇
その日の夜。
村に戻ったバルギルドは、また一人で飲んでいた。
先日と同じ酒を飲みながら……今日は、一人ではない。
机の上には、少女からもらった花が一輪、花瓶に生けてある。
「…………ありがとう、か」
この村の住人ではない、オーガに言われた。
恐れられてもきっと、あの言葉は心の底から出た言葉だろう。
それが聞けただけでも、バルギルドには十分だった。
「ふ……悪くない」
今日も、月明りが眩しい。
でも……月ではなく、一輪の花を眺めながらの一杯も、なかなか美味かった。
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