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第三章
S級の停学
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停学処分。
生徒会長リリーシャは、生徒会室の椅子に深く腰掛け、弟のダオームを目の前にしていた。
ダオームは、アルフェンと戦った時の怪我で包帯を巻いている。
「怪我の具合は?」
「……問題ありません」
「そうか。知ってるとは思うが、S級の連中を停学処分にした。これで教室はもちろん、学園の設備も全て使用不可……曲がりなりにも学生だ。私の決定には逆らえない」
「……はい」
「学園はもちろん、アースガルズ王国にも抗議の書状を送る。S級の生徒三名が風紀を乱し、これを諫めようとした風紀委員長に怪我を負わせたとな」
「…………」
ダオームは悔しそうに唇を噛む。
だが、リリーシャは取り合わなかった。
「屈辱を噛みしめろ。その思いがお前をさらなる高みに引き上げる」
「姉上……オレは、奴にリベンジしたい」
「……今はやめておけ。正直、相手が悪い。私でさえ、引き分けるか……いや、かろうじて勝利できるかどうかだろう」
「…………」
「今は傷を癒せ。風紀委員の仕事は下の連中に任せろ」
「……はい。失礼します」
ダオームは頭を下げ、生徒会室を出た。
一人になったリリーシャは、机の中から一通の手紙を取り出す。
それは、リグヴェータ家───父と母からの手紙。
「……くだらん」
内容は、アルフェンのことだ。
魔人討伐者、前代未聞のS級、莫大な報奨金、除名処分の取り消し……そんなことばかり書いてある。アルフェンに送られた手紙だが、アルフェンが受け取り拒否をしたので全てリリーシャの元へ渡ったのだ。
両親は、アルフェンに執着していた。
だが、アルフェンはもうリグヴェータ家の子ではない。
「ふん。なにがS級だ……私は認めんぞ」
リリーシャは手紙を破り、ゴミ箱に投げ捨てた。
◇◇◇◇◇◇
傲慢の魔人ヒュブリス。
魔人ヒュブリスは、アースガルズ王国から離れた場所にある集落で、神のように扱われている。
貧乏な農村を少しずつ裕福にし、貧しい暮らしをしていた人たちを《至福》という名の毒に侵し、少しずつ、少しずつ傲慢に変えていく。
その過程を楽しみ、自分が育てた人間が傲慢に他者を見下す瞬間に恍惚を覚えるという、全く理解のできない変態魔人(ウィリアムがそう言っている)だ。
「出発は三日後。それまで支度を済ませておきな。十日は帰れないからね」
ガーネットがそう言うので、それぞれ宿泊の準備をした。
アルフェンは、服や下着をカバンに詰める。
「……携帯食品も持って行くか」
寄生型になってから、腹が空くようになった。
毎日の訓練で身体も引き締まり、いくら肉を食べても太らない。それはウィリアムも同様だった。
寮の食堂に行って冷蔵庫を探すが、携帯食品がない。
停学中なので学園の施設は使えない。なので、町まで買いに行かないといけなかった。
「はぁ……面倒だけど行くか。たぶん、ウィリアムは分けてくれないだろうな」
ウィリアムに『携帯食品ある?』と聞いても『あるけどおめーにはやらねーよ』と言われる未来しか見えなかった。
町に出るため、着替えて外へ出る。
ウィリアムは寮にいない。サフィーは部屋で服や下着をカバンに詰めているだろう。さすがにアルフェンは手伝えないので、一人ででかけることに。
すると、寮の前にある樹の影に、エメラルドグリーンの髪が見えた。
「あ、アルフェン……やっほ」
「……フェニアか」
「あ、あの……どこ行くの?」
「……買い物。しばらくアースガルズ王国から出るからな。準備がある」
「えっ……ど、どこ行くの?」
「……お前には関係ない」
そう言って、フェニアの脇を素通りした。
だが、フェニアはアルフェンの隣に並んで歩きだす。
「あたしも行くっ!」
「…………」
「……お願いアルフェン、あたしの話を聞いて」
アルフェンは、無視して歩きだす。
フェニアは、悲し気に言う。
「あたし、あの時……アルフェンから目を逸らしたのには理由があるの。あの時、アルフェンを助けに行こうとしたら、すっごく変な気分になって……その、アルフェンを見て、恥ずかしくなっちゃったの……アルフェンが大変だってわかってるのに、アルフェンを見てられないくらい恥ずかしくて……」
「……で?」
「それで、その……動けなくなったの。気付いたらもう終わってて……」
「だから許せって?」
「……ねぇアルフェン。あたしとアルフェン、もう戻れないの? ……アルフェン、変わっちゃったよ……強くなって、ダオームさんをやっつけて……モグもいなくなっちゃって……あたしとの思い出も全部、どこかにいっちゃって……あたし、アルフェンのこと……ずっと心配してるのに」
「……モグはいる。ここに」
アルフェンは、右手をフェニアに向けた。
次の瞬間───アルフェンの手が『ジャガーノート』の姿に変わった。
「え……?」
「……モグ、お前」
アルフェンの右手が、まるで握手を求めるようにフェニアに向けられたのだ。
まるで、和解しろとでも言うように。
アルフェンは、フェニアを見た。
「フェニア……モグが、仲直りしろってさ」
「モグが……?」
フェニアは、アルフェンの右手を取り、頬に当てる。
モグを抱きしめ、何度も頬ずりした記憶がよみがえる……そして、アルフェンの意志とは別に、右手がそっとフェニアの頬を撫でる。
「……いる。モグ、ここにいるね」
「……ああ」
「モグ……あたし、頑張ってるよ。だから……アルフェンのこと、お願いね」
フェニアは、アルフェンの手を握る。
モグは、アルフェンの次にフェニアが好きだった。
きっと、アルフェンとフェニアが仲違いするのを望んでいない。
だから……アルフェンは決めた。
「わかった。もうわかったよ……フェニア」
「え……?」
「俺は、お前を許すよ……お前さえよければ、S級に入ってくれ」
「……いい、の?」
「ああ。サフィーも同性のお前がいれば、少しは楽になるだろ」
「……アルフェン」
フェニアは、ぽろぽろと涙を流した。
そして……アルフェンの胸に抱きつき、顔を埋めたのである。
「ごめんね……ごめんね……いっぱい辛いときに傍にいなくて……あたし、アルフェンがすごく辛いの知ってたのに……」
「もういいよ。それと……俺も、お前に八つ当たりみたいな態度取ってた。悪かった」
「うぅん……いいの」
フェニアは、泣いた。
アルフェンは、フェニアをそっと撫でた。
こうして、二人は和解した。
同時に、S級召喚士に四人目───フェニアが加わった。
◇◇◇◇◇◇
買い物を終え、大荷物を抱えて寮に戻ったアルフェン。そしてフェニア。
フェニアは、ちょっとだけ寂しそうにアルフェンの右手を撫でた。
「モグ……もう会えないのかぁ」
「……まぁな。でも、モグの心は俺の心に生きている」
「うん。そうだね……」
フェニアは、モグと仲がよかった。
アルフェンとモグが喧嘩したとき、モグは必ずフェニアの胸に飛び込んで甘えていたことを思い出す。そして、フェニアがモグを連れてアルフェンのところを訪ねるのも当たり前になっていた。
でも、モグはもういない。愛くるしいモグラにもう会えない。
アルフェンは、話題を変えた。
「お前のことはガーネット先生に報告しておく。あと、寮はどうする? S級寮はB級寮みたいに設備は揃ってないし、自分のことは自分でやらなきゃだけど……」
「当然、引っ越すわよ。あたしの部屋はある?」
「空き部屋なら山ほどあるよ」
「うし! じゃあ荷物取ってこよっと!」
フェニアはリグヴェータ家に仕える執事の家系だ。一通りの家事はこなせる。それに、アルフェンは何度もフェニアに世話になった。
寮に入ると、読書をしていたサフィーが顔を輝かせた。
「アルフェン! おかえりなさい……? あ、あなたはたしか……?」
「そういえば……あ、あなた……アイオライト公爵家の!? 入学式の後に倒れられて、静養中のはずでは!?」
「あ、いえ……私、S級なんです。アルフェンと一緒」
「……アルフェン、どういうこと?」
「あー……なんというか、ガーネット先生に頼まれて」
「む。アルフェン、確かにおばあ様のこともありますが、S級に入ったのは私の意志ですよ!」
「う、うん。わるかった」
「……むむむ」
なぜかフェニアは不機嫌だった。
なんとなく居心地が悪く、アルフェンは談話室内を見回す。
「ウィルは?」
「さぁ? お出かけになってまだお帰りではありませんけど」
「そ、そっか。フェニア、荷物取りに行くんだろ? あ、部屋どうする? そうだ、サフィー、女同士だしさ、空き部屋にフェニアを案内してやってくれよ」
「わかりました。っと……その前に」
フェニアはスカートの裾をつまみ、優雅に一礼した。
「S級召喚士。サフィア・アイオライトです。よろしくお願いします」
「あ……えっと、フェニアです! リグヴェータ家に仕える執事の家系で……えっと、アルフェンとは幼馴染です。よろしくお願いします!」
「幼馴染、ですか。ふふ、いいなぁ……っと、フェニアとお呼びしても?」
「は、はい。サフィア様」
「サフィーで構いませんわ。その……私、同い年の女の子とお話ししたことないので……よろしければ、お友達になってくださらない?」
「そ、そんな。公爵家の方みたいなお方が、私みたいな平民と……」
「ここでは貴族の地位なんて関係ないです。私とあなた、フェニアとサフィーの関係でお付き合いしていただけませんか? 私、お友達とお茶とかお買い物とかしてみたかったの!」
「…………」
「それと、敬語もなしで……だ、駄目ですか?」
サフィーはモジモジとフェニアを見る。
フェニアは、アルフェンを見た……アルフェンは頷く……そして、深呼吸。
「わかった。じゃあサフィーって呼ぶわね。サフィー、さっそくお部屋に案内して。それと、喉乾いたしお茶でも飲みましょ!」
「は、はい! ではこっちです! お部屋、私のお部屋の隣でいいですか?」
「大歓迎!」
アルフェンを残し、フェニアとサフィーは女子寮へ。
その後姿を見送りながら、右手を見た。
「仲良くやれそうだ。モグ……フェニアと仲直りしてよかったよ」
右手は何も語らない。でも───アルフェンは満足そうに微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
B級寮。
男子寮と女子寮に分かれているのはもちろん、購買は城下町のメインストリート並にたくさんの有名商店が並び、食堂だけで二十店舗以上の有名料理店が店を構えている。
部屋は当然個室。トイレシャワー完備、足りない物があれば、寮専属のメイドに声をかけるだけで何でもそろう充実っぷりだ。
フェニアは、女子寮の自室で荷物をまとめていた。
服、下着、本、お菓子、友達に勧められて始めた化粧品、アクセサリー。
アクセサリーボックスの中から、安っぽい緑色の石がはめ込まれたヘアピンを取り出す。
「アルフェン……」
幼馴染のアルフェン。
このヘアピンは、アルフェンからもらった物で、フェニアの宝物だった。
一度は崩れかけた信頼関係が、モグのおかげで改善した。
そして、想う。
「……あの約束も、復活したのかな」
アルフェンは言った。
フェニアと結婚する……と。もしかしたら、その約束も。
でも、サフィーを見て少し不安になった。
アルフェンの傍に、あんなに優しくてかわいい子がいる。それに……サフィーは公爵家。男爵とはいえアルフェンの家も貴族だ。執事の家に生まれた平民のフェニアとは身分が違う。
もし、あの二人が……そう考えると、フェニアの胸が痛む。
「……負けないし!」
フェニアはカバンに荷物を詰め込み、窓を開けた。
そして、指パッチンすると、窓の外でエメラルドグリーンの風が渦巻き、フェニアの召喚獣『グリフォン』が現れたのである。
「グリフォン。悪いけどこれ、アルフェンのいるS級寮まで運んで。あたしもすぐに行くからさ!」
『キュォォーン!』
グリフォンはカバンを軽々と咥え、S級寮に向かって飛んでいった。
フェニアは、世話になった部屋に軽く頭を下げて寮を出た。
寮を出ると……まるで、待ち構えていたかのように、数名の男女がいた。
「どういうつもりだよ……まさか、B級を裏切るのか!!」
「グリッツ……」
「フェニア、きみはまさか、あのF級のところに行くのか!? あんな劣悪な環境で何を学ぶ!! B級だぞ? きみはこの学園で約束された地位を捨てようとしてるんだぞ!!」
「いらないし。ってか、B級ってだけで偉いわけじゃないでしょ。それに、あたしはアルフェンに誘われたのよ。S級にね」
「ふざけんな! そんなわけのわからない等級、リリーシャ様がすぐに潰す!! きみの居場所はもうないんだぞ!! それでも」
「それでも、あたしはアルフェンのところに行く。もう……目を反らさないって決めたから」
「馬鹿な……」
フェニアは、力強い足取りで歩きだす。
もう迷いはない。フェニアは、アルフェンと共に歩く。
だから、こんな場所で止まるわけにいかない。
「じゃあね、いろいろありがとう」
「っく……フェニア、ボクは!!」
「あ、それとグリッツ。前から思ってたけど、馴れ馴れしく女の子の肩とか腰に触れない方がいいわよ。はっきり言って気持ち悪いわ」
「えっ」
グリッツは硬直───フェニアは何の迷いもなく横切った。
こうして、フェニアは完全にB級から抜け出した。
生徒会長リリーシャは、生徒会室の椅子に深く腰掛け、弟のダオームを目の前にしていた。
ダオームは、アルフェンと戦った時の怪我で包帯を巻いている。
「怪我の具合は?」
「……問題ありません」
「そうか。知ってるとは思うが、S級の連中を停学処分にした。これで教室はもちろん、学園の設備も全て使用不可……曲がりなりにも学生だ。私の決定には逆らえない」
「……はい」
「学園はもちろん、アースガルズ王国にも抗議の書状を送る。S級の生徒三名が風紀を乱し、これを諫めようとした風紀委員長に怪我を負わせたとな」
「…………」
ダオームは悔しそうに唇を噛む。
だが、リリーシャは取り合わなかった。
「屈辱を噛みしめろ。その思いがお前をさらなる高みに引き上げる」
「姉上……オレは、奴にリベンジしたい」
「……今はやめておけ。正直、相手が悪い。私でさえ、引き分けるか……いや、かろうじて勝利できるかどうかだろう」
「…………」
「今は傷を癒せ。風紀委員の仕事は下の連中に任せろ」
「……はい。失礼します」
ダオームは頭を下げ、生徒会室を出た。
一人になったリリーシャは、机の中から一通の手紙を取り出す。
それは、リグヴェータ家───父と母からの手紙。
「……くだらん」
内容は、アルフェンのことだ。
魔人討伐者、前代未聞のS級、莫大な報奨金、除名処分の取り消し……そんなことばかり書いてある。アルフェンに送られた手紙だが、アルフェンが受け取り拒否をしたので全てリリーシャの元へ渡ったのだ。
両親は、アルフェンに執着していた。
だが、アルフェンはもうリグヴェータ家の子ではない。
「ふん。なにがS級だ……私は認めんぞ」
リリーシャは手紙を破り、ゴミ箱に投げ捨てた。
◇◇◇◇◇◇
傲慢の魔人ヒュブリス。
魔人ヒュブリスは、アースガルズ王国から離れた場所にある集落で、神のように扱われている。
貧乏な農村を少しずつ裕福にし、貧しい暮らしをしていた人たちを《至福》という名の毒に侵し、少しずつ、少しずつ傲慢に変えていく。
その過程を楽しみ、自分が育てた人間が傲慢に他者を見下す瞬間に恍惚を覚えるという、全く理解のできない変態魔人(ウィリアムがそう言っている)だ。
「出発は三日後。それまで支度を済ませておきな。十日は帰れないからね」
ガーネットがそう言うので、それぞれ宿泊の準備をした。
アルフェンは、服や下着をカバンに詰める。
「……携帯食品も持って行くか」
寄生型になってから、腹が空くようになった。
毎日の訓練で身体も引き締まり、いくら肉を食べても太らない。それはウィリアムも同様だった。
寮の食堂に行って冷蔵庫を探すが、携帯食品がない。
停学中なので学園の施設は使えない。なので、町まで買いに行かないといけなかった。
「はぁ……面倒だけど行くか。たぶん、ウィリアムは分けてくれないだろうな」
ウィリアムに『携帯食品ある?』と聞いても『あるけどおめーにはやらねーよ』と言われる未来しか見えなかった。
町に出るため、着替えて外へ出る。
ウィリアムは寮にいない。サフィーは部屋で服や下着をカバンに詰めているだろう。さすがにアルフェンは手伝えないので、一人ででかけることに。
すると、寮の前にある樹の影に、エメラルドグリーンの髪が見えた。
「あ、アルフェン……やっほ」
「……フェニアか」
「あ、あの……どこ行くの?」
「……買い物。しばらくアースガルズ王国から出るからな。準備がある」
「えっ……ど、どこ行くの?」
「……お前には関係ない」
そう言って、フェニアの脇を素通りした。
だが、フェニアはアルフェンの隣に並んで歩きだす。
「あたしも行くっ!」
「…………」
「……お願いアルフェン、あたしの話を聞いて」
アルフェンは、無視して歩きだす。
フェニアは、悲し気に言う。
「あたし、あの時……アルフェンから目を逸らしたのには理由があるの。あの時、アルフェンを助けに行こうとしたら、すっごく変な気分になって……その、アルフェンを見て、恥ずかしくなっちゃったの……アルフェンが大変だってわかってるのに、アルフェンを見てられないくらい恥ずかしくて……」
「……で?」
「それで、その……動けなくなったの。気付いたらもう終わってて……」
「だから許せって?」
「……ねぇアルフェン。あたしとアルフェン、もう戻れないの? ……アルフェン、変わっちゃったよ……強くなって、ダオームさんをやっつけて……モグもいなくなっちゃって……あたしとの思い出も全部、どこかにいっちゃって……あたし、アルフェンのこと……ずっと心配してるのに」
「……モグはいる。ここに」
アルフェンは、右手をフェニアに向けた。
次の瞬間───アルフェンの手が『ジャガーノート』の姿に変わった。
「え……?」
「……モグ、お前」
アルフェンの右手が、まるで握手を求めるようにフェニアに向けられたのだ。
まるで、和解しろとでも言うように。
アルフェンは、フェニアを見た。
「フェニア……モグが、仲直りしろってさ」
「モグが……?」
フェニアは、アルフェンの右手を取り、頬に当てる。
モグを抱きしめ、何度も頬ずりした記憶がよみがえる……そして、アルフェンの意志とは別に、右手がそっとフェニアの頬を撫でる。
「……いる。モグ、ここにいるね」
「……ああ」
「モグ……あたし、頑張ってるよ。だから……アルフェンのこと、お願いね」
フェニアは、アルフェンの手を握る。
モグは、アルフェンの次にフェニアが好きだった。
きっと、アルフェンとフェニアが仲違いするのを望んでいない。
だから……アルフェンは決めた。
「わかった。もうわかったよ……フェニア」
「え……?」
「俺は、お前を許すよ……お前さえよければ、S級に入ってくれ」
「……いい、の?」
「ああ。サフィーも同性のお前がいれば、少しは楽になるだろ」
「……アルフェン」
フェニアは、ぽろぽろと涙を流した。
そして……アルフェンの胸に抱きつき、顔を埋めたのである。
「ごめんね……ごめんね……いっぱい辛いときに傍にいなくて……あたし、アルフェンがすごく辛いの知ってたのに……」
「もういいよ。それと……俺も、お前に八つ当たりみたいな態度取ってた。悪かった」
「うぅん……いいの」
フェニアは、泣いた。
アルフェンは、フェニアをそっと撫でた。
こうして、二人は和解した。
同時に、S級召喚士に四人目───フェニアが加わった。
◇◇◇◇◇◇
買い物を終え、大荷物を抱えて寮に戻ったアルフェン。そしてフェニア。
フェニアは、ちょっとだけ寂しそうにアルフェンの右手を撫でた。
「モグ……もう会えないのかぁ」
「……まぁな。でも、モグの心は俺の心に生きている」
「うん。そうだね……」
フェニアは、モグと仲がよかった。
アルフェンとモグが喧嘩したとき、モグは必ずフェニアの胸に飛び込んで甘えていたことを思い出す。そして、フェニアがモグを連れてアルフェンのところを訪ねるのも当たり前になっていた。
でも、モグはもういない。愛くるしいモグラにもう会えない。
アルフェンは、話題を変えた。
「お前のことはガーネット先生に報告しておく。あと、寮はどうする? S級寮はB級寮みたいに設備は揃ってないし、自分のことは自分でやらなきゃだけど……」
「当然、引っ越すわよ。あたしの部屋はある?」
「空き部屋なら山ほどあるよ」
「うし! じゃあ荷物取ってこよっと!」
フェニアはリグヴェータ家に仕える執事の家系だ。一通りの家事はこなせる。それに、アルフェンは何度もフェニアに世話になった。
寮に入ると、読書をしていたサフィーが顔を輝かせた。
「アルフェン! おかえりなさい……? あ、あなたはたしか……?」
「そういえば……あ、あなた……アイオライト公爵家の!? 入学式の後に倒れられて、静養中のはずでは!?」
「あ、いえ……私、S級なんです。アルフェンと一緒」
「……アルフェン、どういうこと?」
「あー……なんというか、ガーネット先生に頼まれて」
「む。アルフェン、確かにおばあ様のこともありますが、S級に入ったのは私の意志ですよ!」
「う、うん。わるかった」
「……むむむ」
なぜかフェニアは不機嫌だった。
なんとなく居心地が悪く、アルフェンは談話室内を見回す。
「ウィルは?」
「さぁ? お出かけになってまだお帰りではありませんけど」
「そ、そっか。フェニア、荷物取りに行くんだろ? あ、部屋どうする? そうだ、サフィー、女同士だしさ、空き部屋にフェニアを案内してやってくれよ」
「わかりました。っと……その前に」
フェニアはスカートの裾をつまみ、優雅に一礼した。
「S級召喚士。サフィア・アイオライトです。よろしくお願いします」
「あ……えっと、フェニアです! リグヴェータ家に仕える執事の家系で……えっと、アルフェンとは幼馴染です。よろしくお願いします!」
「幼馴染、ですか。ふふ、いいなぁ……っと、フェニアとお呼びしても?」
「は、はい。サフィア様」
「サフィーで構いませんわ。その……私、同い年の女の子とお話ししたことないので……よろしければ、お友達になってくださらない?」
「そ、そんな。公爵家の方みたいなお方が、私みたいな平民と……」
「ここでは貴族の地位なんて関係ないです。私とあなた、フェニアとサフィーの関係でお付き合いしていただけませんか? 私、お友達とお茶とかお買い物とかしてみたかったの!」
「…………」
「それと、敬語もなしで……だ、駄目ですか?」
サフィーはモジモジとフェニアを見る。
フェニアは、アルフェンを見た……アルフェンは頷く……そして、深呼吸。
「わかった。じゃあサフィーって呼ぶわね。サフィー、さっそくお部屋に案内して。それと、喉乾いたしお茶でも飲みましょ!」
「は、はい! ではこっちです! お部屋、私のお部屋の隣でいいですか?」
「大歓迎!」
アルフェンを残し、フェニアとサフィーは女子寮へ。
その後姿を見送りながら、右手を見た。
「仲良くやれそうだ。モグ……フェニアと仲直りしてよかったよ」
右手は何も語らない。でも───アルフェンは満足そうに微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
B級寮。
男子寮と女子寮に分かれているのはもちろん、購買は城下町のメインストリート並にたくさんの有名商店が並び、食堂だけで二十店舗以上の有名料理店が店を構えている。
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フェニアは、女子寮の自室で荷物をまとめていた。
服、下着、本、お菓子、友達に勧められて始めた化粧品、アクセサリー。
アクセサリーボックスの中から、安っぽい緑色の石がはめ込まれたヘアピンを取り出す。
「アルフェン……」
幼馴染のアルフェン。
このヘアピンは、アルフェンからもらった物で、フェニアの宝物だった。
一度は崩れかけた信頼関係が、モグのおかげで改善した。
そして、想う。
「……あの約束も、復活したのかな」
アルフェンは言った。
フェニアと結婚する……と。もしかしたら、その約束も。
でも、サフィーを見て少し不安になった。
アルフェンの傍に、あんなに優しくてかわいい子がいる。それに……サフィーは公爵家。男爵とはいえアルフェンの家も貴族だ。執事の家に生まれた平民のフェニアとは身分が違う。
もし、あの二人が……そう考えると、フェニアの胸が痛む。
「……負けないし!」
フェニアはカバンに荷物を詰め込み、窓を開けた。
そして、指パッチンすると、窓の外でエメラルドグリーンの風が渦巻き、フェニアの召喚獣『グリフォン』が現れたのである。
「グリフォン。悪いけどこれ、アルフェンのいるS級寮まで運んで。あたしもすぐに行くからさ!」
『キュォォーン!』
グリフォンはカバンを軽々と咥え、S級寮に向かって飛んでいった。
フェニアは、世話になった部屋に軽く頭を下げて寮を出た。
寮を出ると……まるで、待ち構えていたかのように、数名の男女がいた。
「どういうつもりだよ……まさか、B級を裏切るのか!!」
「グリッツ……」
「フェニア、きみはまさか、あのF級のところに行くのか!? あんな劣悪な環境で何を学ぶ!! B級だぞ? きみはこの学園で約束された地位を捨てようとしてるんだぞ!!」
「いらないし。ってか、B級ってだけで偉いわけじゃないでしょ。それに、あたしはアルフェンに誘われたのよ。S級にね」
「ふざけんな! そんなわけのわからない等級、リリーシャ様がすぐに潰す!! きみの居場所はもうないんだぞ!! それでも」
「それでも、あたしはアルフェンのところに行く。もう……目を反らさないって決めたから」
「馬鹿な……」
フェニアは、力強い足取りで歩きだす。
もう迷いはない。フェニアは、アルフェンと共に歩く。
だから、こんな場所で止まるわけにいかない。
「じゃあね、いろいろありがとう」
「っく……フェニア、ボクは!!」
「あ、それとグリッツ。前から思ってたけど、馴れ馴れしく女の子の肩とか腰に触れない方がいいわよ。はっきり言って気持ち悪いわ」
「えっ」
グリッツは硬直───フェニアは何の迷いもなく横切った。
こうして、フェニアは完全にB級から抜け出した。
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※小説家になろうにて掲載中
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
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――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
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――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
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