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第七章
ウィリアム&ヘンリー②
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ウィルが全てを失う少し前───。
ある日。ウィルは妹のサラと一緒に、牧場で羊の毛を刈っていた。
大きくでっぷりした羊だ。毛を刈ろうとすると暴れるのだが、ウィルの家の羊はとても大人しい。
その原因は、サラにあった。
「メーメーちゃん。今日もありがとね」
『メァ~』
サラの召喚獣。相棒型の『メーメー』の能力だ。
見た目は普通の羊だが、体毛がピンクなのが特徴だ。大きさも普通の羊と同じくらいで、能力は『羊たちと会話することができる』という、羊飼いにとっては夢のような能力だ。
ウィルはサラに言う。
「なぁ、毛刈りってどんくらい時間かかる?」
「三日くらい」
「そんなにかよ!?」
「しょうがないじゃん。おじいちゃんおばあちゃんはもう歳だし、お母さんは家の仕事もあるし。お父さんは狩りと『護衛』のお仕事だし、手伝えるのお兄ちゃんしかいないんだもん」
「マジかよ……オレも親父と一緒に狩りしてぇのに」
「わがまま言わないの! はやく毛刈りハサミ!」
「へいへい」
サラはメーメーに命じ、羊たちを大人しくさせる。
ウィルは器用に羊の毛を刈っていく。
しばし、静かな時間が流れ───サラが言った。
「お兄ちゃん」
「んー?」
「お兄ちゃん、お父さんのお仕事……跡、継ぐの?」
「当然だろ。狩人、んで『用心棒』……うちらの村、元は狩人や用心棒が集まってできた村って知ってんだろ? 廃業した家もけっこうあるけど、未だに用心棒家業の家は多い」
「……村の人、みんな言ってる。お兄ちゃんは百年に一人の『天才』だって」
「天才?」
「うん。射撃の天才だって」
サラは、狩った毛を集めてリヤカーの中へ。
この毛を洗い、干す。けっこうな力仕事だが、祖父と祖母がやると言って聞かなかった。まだまだ現役というところを孫に見せたいらしい。
ウィルはメーメーの頭をポンポン叩きながら言う。
「射撃の天才ねぇ……オレ、親父と射撃勝負したけど負けっぱなしだぜ?」
「お父さんは『最強』って言われてる。『召喚獣ペイルライダーに乗ったクリントは死神のようだ』って」
「ふーん」
クリントというのは、ウィルとサラの父の名だ。
ウィルは父を誇らしく思っていたが、サラは違っていた。
「普通でいいのに……お父さんもお兄ちゃんも、危険なことしないで牧場で働けばいいのに」
「は、そんなのつまんねぇだろ。まぁ羊は嫌いじゃねぇけど、銃のが好きだね」
「むー……お兄ちゃんのバカ」
「なんとでも言えっての」
すると、上空かた一羽の鷹が舞い降りた。
正確には、鷹ではなくウィルの召喚獣『ヘンリー』だ。ウィルは毎朝ウィルを外で散歩させている。
ヘンリーは羊小屋の窓から入り、ウィルの肩へ止まる。
「おかえりヘンリー、今日の空はどうだった?」
『クルルル……』
「そうかい。空は広く、自由だったか……はぁ、いいなぁ。オレも空を飛んでみたいぜ」
「ヘンリー、飛行型だったらよかったのにね」
『クゥ』
ウィルはヘンリーを撫でる。すると、ヘンリーはメーメーの頭の上に止まった。
『メァ~メァ~』
「あはは。仲良しだね!」
「ま、ガキのころから一緒だしな」
『クゥルルル』
ウィルとサラは笑い合い、狩った羽毛を祖父と祖母に届けに向かった。
ウィルたちの村は、今日も平和だった。
◇◇◇◇◇◇
ヴァナヘイム王国。
アースガルズ王国から遠く離れた小国で、緑豊かな国だ。
ヴァナヘイム王国から離れた小さな村が壊滅寸前になっていることなど、まだ誰も知らない。
小さな村で生き残っているのは、まだ若い少年だった。
「…………あ、ぁ」
少年は、血だらけだった。
抱いているのは、母親。
傍に転がっているのは、幼い弟。そして剣を持ったまま引き裂かれた父親だ。
村内の家屋は全て倒壊し、生き残っている人間は少年以外誰もいない。
なぜ誰もいないのか。
理由は簡単。少年は『生かされた』のだ。
少年の目の前に、妖艶な美女がいた。
「あなた、いいわぁ~♪……わたし好み♪」
大きな鎌を抱くように立ち、身体をくねらせる女性だ。
褐色の肌。大きなツノ。長い白髪は波打ち、興奮しているのがわかる。
「ねぇボウヤ。私が憎い?……ねぇ?」
「……ッ」
「そう!! その眼、その眼がいいのぉ!! んんん~~~っ!! たまんないわぁ……はぁ、はぁ~~~……っくぅ!!」
女───『色欲』の魔人フロレンティアは、なぜかビクビク痙攣していた。
少年は、目の前の女が狂っているとわかった。
ふつふつと沸き上がる怒り、流れる涙。すべてがフロレンティアを刺激する。
「ねぇ、ボウヤ……生かしてあげる。生きて力を付けて、私に会いにおいで♪」
「っ……っっぐ」
「強く逞しくなってね? いい男になったら……食べてあげる♪」
「殺し、て……やる!!」
「うん!!!!!! 殺しに来てぇぇぇぇぇぇっんん♪」
フロレンティアはゾクゾクと興奮する。
少年の恨み、憎しみ、怒りが究極の甘味であった。
フロレンティアはふわりと浮き上がり、そのまま村を後にした。
「殺してやるぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
少年の叫びが聞こえ、恍惚の表情を浮かべたまま。
◇◇◇◇◇◇
フロレンティアは、なぜか股間を押さえていた。
「あぁ~たまんないわぁ……まだちょっと食べ足りない」
ハァハァと息を荒げながら、舌なめずりをする。
「もう一つくらい、いいかな……あんまり滅ぼしすぎると、ベルゼブブがうるさいのよねぇ」
だが、もう止まらない。
フロレンティアは、この近くにある村を滅ぼすことに決めた。
身体の火照りを治めるための、生贄として。
「ふふ、次の村には……どんな子がいるのかしらん♪」
ある日。ウィルは妹のサラと一緒に、牧場で羊の毛を刈っていた。
大きくでっぷりした羊だ。毛を刈ろうとすると暴れるのだが、ウィルの家の羊はとても大人しい。
その原因は、サラにあった。
「メーメーちゃん。今日もありがとね」
『メァ~』
サラの召喚獣。相棒型の『メーメー』の能力だ。
見た目は普通の羊だが、体毛がピンクなのが特徴だ。大きさも普通の羊と同じくらいで、能力は『羊たちと会話することができる』という、羊飼いにとっては夢のような能力だ。
ウィルはサラに言う。
「なぁ、毛刈りってどんくらい時間かかる?」
「三日くらい」
「そんなにかよ!?」
「しょうがないじゃん。おじいちゃんおばあちゃんはもう歳だし、お母さんは家の仕事もあるし。お父さんは狩りと『護衛』のお仕事だし、手伝えるのお兄ちゃんしかいないんだもん」
「マジかよ……オレも親父と一緒に狩りしてぇのに」
「わがまま言わないの! はやく毛刈りハサミ!」
「へいへい」
サラはメーメーに命じ、羊たちを大人しくさせる。
ウィルは器用に羊の毛を刈っていく。
しばし、静かな時間が流れ───サラが言った。
「お兄ちゃん」
「んー?」
「お兄ちゃん、お父さんのお仕事……跡、継ぐの?」
「当然だろ。狩人、んで『用心棒』……うちらの村、元は狩人や用心棒が集まってできた村って知ってんだろ? 廃業した家もけっこうあるけど、未だに用心棒家業の家は多い」
「……村の人、みんな言ってる。お兄ちゃんは百年に一人の『天才』だって」
「天才?」
「うん。射撃の天才だって」
サラは、狩った毛を集めてリヤカーの中へ。
この毛を洗い、干す。けっこうな力仕事だが、祖父と祖母がやると言って聞かなかった。まだまだ現役というところを孫に見せたいらしい。
ウィルはメーメーの頭をポンポン叩きながら言う。
「射撃の天才ねぇ……オレ、親父と射撃勝負したけど負けっぱなしだぜ?」
「お父さんは『最強』って言われてる。『召喚獣ペイルライダーに乗ったクリントは死神のようだ』って」
「ふーん」
クリントというのは、ウィルとサラの父の名だ。
ウィルは父を誇らしく思っていたが、サラは違っていた。
「普通でいいのに……お父さんもお兄ちゃんも、危険なことしないで牧場で働けばいいのに」
「は、そんなのつまんねぇだろ。まぁ羊は嫌いじゃねぇけど、銃のが好きだね」
「むー……お兄ちゃんのバカ」
「なんとでも言えっての」
すると、上空かた一羽の鷹が舞い降りた。
正確には、鷹ではなくウィルの召喚獣『ヘンリー』だ。ウィルは毎朝ウィルを外で散歩させている。
ヘンリーは羊小屋の窓から入り、ウィルの肩へ止まる。
「おかえりヘンリー、今日の空はどうだった?」
『クルルル……』
「そうかい。空は広く、自由だったか……はぁ、いいなぁ。オレも空を飛んでみたいぜ」
「ヘンリー、飛行型だったらよかったのにね」
『クゥ』
ウィルはヘンリーを撫でる。すると、ヘンリーはメーメーの頭の上に止まった。
『メァ~メァ~』
「あはは。仲良しだね!」
「ま、ガキのころから一緒だしな」
『クゥルルル』
ウィルとサラは笑い合い、狩った羽毛を祖父と祖母に届けに向かった。
ウィルたちの村は、今日も平和だった。
◇◇◇◇◇◇
ヴァナヘイム王国。
アースガルズ王国から遠く離れた小国で、緑豊かな国だ。
ヴァナヘイム王国から離れた小さな村が壊滅寸前になっていることなど、まだ誰も知らない。
小さな村で生き残っているのは、まだ若い少年だった。
「…………あ、ぁ」
少年は、血だらけだった。
抱いているのは、母親。
傍に転がっているのは、幼い弟。そして剣を持ったまま引き裂かれた父親だ。
村内の家屋は全て倒壊し、生き残っている人間は少年以外誰もいない。
なぜ誰もいないのか。
理由は簡単。少年は『生かされた』のだ。
少年の目の前に、妖艶な美女がいた。
「あなた、いいわぁ~♪……わたし好み♪」
大きな鎌を抱くように立ち、身体をくねらせる女性だ。
褐色の肌。大きなツノ。長い白髪は波打ち、興奮しているのがわかる。
「ねぇボウヤ。私が憎い?……ねぇ?」
「……ッ」
「そう!! その眼、その眼がいいのぉ!! んんん~~~っ!! たまんないわぁ……はぁ、はぁ~~~……っくぅ!!」
女───『色欲』の魔人フロレンティアは、なぜかビクビク痙攣していた。
少年は、目の前の女が狂っているとわかった。
ふつふつと沸き上がる怒り、流れる涙。すべてがフロレンティアを刺激する。
「ねぇ、ボウヤ……生かしてあげる。生きて力を付けて、私に会いにおいで♪」
「っ……っっぐ」
「強く逞しくなってね? いい男になったら……食べてあげる♪」
「殺し、て……やる!!」
「うん!!!!!! 殺しに来てぇぇぇぇぇぇっんん♪」
フロレンティアはゾクゾクと興奮する。
少年の恨み、憎しみ、怒りが究極の甘味であった。
フロレンティアはふわりと浮き上がり、そのまま村を後にした。
「殺してやるぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
少年の叫びが聞こえ、恍惚の表情を浮かべたまま。
◇◇◇◇◇◇
フロレンティアは、なぜか股間を押さえていた。
「あぁ~たまんないわぁ……まだちょっと食べ足りない」
ハァハァと息を荒げながら、舌なめずりをする。
「もう一つくらい、いいかな……あんまり滅ぼしすぎると、ベルゼブブがうるさいのよねぇ」
だが、もう止まらない。
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