最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第一章 シャドウ

師との出会い

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「……ぅ」
「お、眼ぇ覚めたか。ボウズ」
「……え?」

 シャドウが身体を起こすと、毛布が掛けられていた。
 そして、身体には包帯が巻いてあり、壁にはボロボロになった上着が掛けてある。
 周囲を見渡すと、洞窟内だとわかった。

「ここは……」
「オイラのアジトの一つだ。傷、どうだい?」
「傷……っ、いてて」
「派手に裂けてたからな。縫って快遁の術である程度治したが、まあ無理すんな」
「…………」

 シャドウの前にいるのは、老人だった。
 白い髪を適当に結い、ボロボロの着物、手には煙管を持ち、カラカラとした笑顔を浮かべている。
 火の傍にいるのか、鍋が煮えており、老人はそれをかき混ぜていた。

「あ、あの……あなたは?」
「オイラはハンゾウ。服部半蔵……まあ、こっちの世界の人間にはわからんか」
「ハンゾウ、さん。こっちの、世界?」
「ま、異世界人ってヤツだ。五十年前に事故でこっちの世界に転移しちまってな。いろいろあって、今はこの『闇の森』で暮らしている」
「や、闇の森だって!?」
「お前さん、運が良かったな。あそこでオイラが通りかからなかったら、魔獣の餌になってたぞ」
「……そこまでして、ぼくを」
「あん? なんだ、事情あり……だよなあ。こんなガキが一人、この森に踏み込むわけねぇしな」

 ハンゾウは、鍋をかき混ぜ、お玉で器に掬い、シャドウに出す。

「食え。うまいぞ」
「…………」
「ほれ!! ガキが遠慮すんな!!」
「あ、は、はい……」

 器を受け取り、飲む。
 野菜をドロドロになるまで溶かしたスープだ。味付けはシンプルな塩のみで、スプーンが必要ないくらいスルスルと飲める……何より、優しい味がした。

「うめぇだろ?」
「…………はい」

 シャドウは、涙を流していた。
 人のやさしさに、初めて触れたような気がした。
 それから、スープをおかわりし、お腹がいっぱいになり……ハンゾウは言う。

「お前さん、ここで何してたんだ? まあ、話したくねぇなら聞かんが……話せばスッキリすることもあるだろうぜ」
「…………くだらない話です」

 シャドウは話した。
 見ず知らずの老人に。不思議なくらい、話しやすかった。
 話を聞き終わると、ハンゾウはウンウン頷いた。

「クソだな」
「……え」
「お前、その家族をどうしたい?」
「どう、って……」
「殺したいとか、ふざけるなとか、いろいろあるだろ?」
「……別に。なんかもう、どうでもいい」
「冷めてるねぇ……それにしても、因果なもんだ。ハーフィンクス家とは」
「え?」
「まあいい。それに、興味深い話も聞けた」

 すると、ハンゾウはシャドウに顔を近づける。
 そして、人差し指でシャドウの額に触れると、ニヤリと笑った。

「すっげぇな、お前……マジでとんでもない魔力を秘めてやがる。一般的な魔法師千人、いや……二千、三千……ダメだ、オイラでも測れねぇ」
「あ、あの……でも僕、ダメなんです。魔術回路が生まれつき存在しないから、魔力があるだけで、魔法も使えない……」
「……っぷ、ははは!! だーっはっはっは!!」

 ハンゾウは、いきなり笑い出した。
 いきなりのことに驚くシャドウ。そして、シャドウの額を小突く。

「いてっ!?」
「魔力回路がない、だから魔法が使えない。その診断をした大馬鹿は死んだほうがいいな」
「え、あ、あの」
「シャドウ、だったな。くく……『シャドウ』とは、いい名前じゃねぇか」
「は、はあ」
「お前、これからどうする?」
「……え?」

 ハンゾウは煙草に火を着け、煙管をスパスパ吸う。

「オイラなら、お前に魔法を……いや、魔法以上の力を与えることができる。オイラが日本の知識を利用して、この世界の魔力を使うことで開発した……『忍術にんじゅつ』をな」
「ニン、じゅつ……?」
「ああ。忍び……こっちの世界では《アサシン》と呼ばれている技だ。まあ、忍術を使うことができるのはオイラだけで、アサシン連中は魔法を使うがな」
「……僕は」
「このまま行くってんなら、森の出口まで送ってやる。まあ、あまりおススメしねぇ」
「……僕が死んでないとわかれば、追手が来るから……ですね」
「おう、頭ぁ回るようだ。いいねお前、アサシン向きだ。自分をハメて追放した家族に対しても冷淡で、この状況においても冷静に考えを持てる……才能あるぜ」
「…………」

 シャドウは俯く。
 家族に対し、何も思っていないわけではない。
 姉セレーナ、妹シェリアに恨みはある。だが、言ったところでどうしようもないから、言わないだけ。

「で、どうする?」
「……ハンゾウさんに習えば、魔法……いや、ニンジュツを覚えられるんですか?」
「ああ。ただし、お前にやってもらうことがある」
「……僕に?」
「そうだ。お前が忍術を納め、オイラを納得させられるだけの実力を手に入れてからでいい。オイラの人生で、為さなきゃならねぇ使命を、お前に頼みたい」
「……なんで、僕に」
「その辺はおいおいな。で……どうする。力があれば、お前はこの世界でも生きていけるぜ」

 シャドウは少しだけ考えた。
 でも、すぐに顔を上げた。

「わかりました。僕、ハンゾウさんに師事します」
「かたっ苦しいねぇ……ようし決まり。これよりシャドウ、お前さんはオイラの弟子だ。お前さんに、オイラの《忍術》を叩きこむ!!」
「わかりました」
「ちっがう。はい、だ。はい!!」
「はい」
「……冷静沈着というか、無愛想というか。あとその《僕》ってのもやめろ。俺だ、俺」
「俺……わかった。師匠」
「お、いいね。素直なのは嫌いじゃねぇ……じゃあ今日は寝ろ。明日から本気出すぞ」
「はい」

 この日、シャドウは……初めて『熟睡』することができた。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ハンゾウお手製の野菜スープを食べ、洞窟の外に出た。

「ここは『闇の森』……まあ、この辺りで一番の危険地域だ。王国騎士の一個師団が、入って半日で全滅するくらいの危険地帯だな」
「……そんなところに、俺を放置したのか」
「ハーフィンクス家はクズだねぇ。さてシャドウ、まずはお前の状態について説明する」

 ハンゾウは、シャドウのおでこに指をあてた。

「まず、お前に魔術回路がない……そりゃ見立て違いだ。お前には立派な魔術回路がある」
「え? でも、魔力を流すこともできないし、魔法も……」
「はい問題。なんで魔術回路があるのに、ないなんて判断した?」
「それは……魔力が流れないから?」
「正解」

 魔力は、濃度が高いと視認することができる。
 もちろん、熟練した貴族の魔法使いだけだが。
 魔力の流れも、熟練者なら見ることもできる。
 ハンゾウは、シャドウの額に指をくっつけたまま言う。

「魔力が流れないのは、お前の魔術回路が・・・・・・・・詰まってるからだ・・・・・・・・
「……はい?」

 意味が、わからなかった。
 魔術回路が詰まる。そんな話、聞いたことがない。
 
「魔力ってのは本来、水みたいにサラサラしてる。でも、お前の魔力はとにかく濃い。もうドロッドロに濃い……こんな濃度の魔力を体内にとどめておけば、普通は死ぬぞ」
「え」
「だがお前は、それに適応している。はっきり言う……お前は異常だ」
「い、異常……って」
「話が逸れた。で、お前の魔術回路がドロッドロの魔力で詰まってる。もうギッチギチに……だからアホな魔力鑑定人は、お前に魔術回路がないと勘違いしたんだ」
「じゃあ、どうすれば」
「詰まりを解消する。で、オイラの魔力でお前の魔術回路を刺激して、もう詰まらないように拡張する」
「そんなことできるの!?」
「できる。だが……覚悟しろ。地獄の苦しみだぞ。恐らく、三日三晩、お前は苦しむ」
「…………」
「覚悟はいいか?」
「はい」

 シャドウは、あっさり頷いた。
 これには、ハンゾウも驚いた。

(……家庭環境のせいかもな。物事に動じない性格なのか、いろんなモンに無気力というか、無感情というか……この歳で可哀想なモンだぜ)
「師匠?」
「ああ……よし、始めるぞ」

 ハンゾウは両手をせわしなく動かす。指を曲げたり、組み合わせたりする。
 何をしているのかシャドウには理解できない。
 そして、ハンゾウは五指をシャドウの心臓に当てて、抉るように捻った。

「破ッ!!」
「っ!!」

 ドクン───…………と、シャドウの心臓が高鳴った。

「うぶっ、っふ……?」

 シャドウは吐血。同時に、全身に別の血を入れたような不快感、激痛が走る。

「ぁ、っぁ……っぁ、っがぁぁぁぁぁぁ!!」
「耐えろ!! どんな怪我をしても後で直してやる。お前の体内に詰まっている魔力を、無理やり外に押し出す!!」

 目、耳、口、鼻、身体の穴という穴から血が噴き出した。
 地面をのたうち回り、首を、顔をかきむしる。
 気を失うことすらできない。

「耐えろ、シャドウ!! 耐えろ!!」

 この日から三日三晩……シャドウは地獄の苦しみを味わうことになる。
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