最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第三章 黄昏旅団所属『死神』のラムエルテ

アイスブルーの瞳

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 入学二日目は、簡単な座学と魔法の確認だけで終わった。
 シャドウはしつこく昼食に誘うラウラから逃げた。教室内でかなりしつこかったので、ヒナタを身代わりにして何とか逃げることができたのだ。
 ラウラは『むー……まあいいです。ヒナタちゃんにいろいろ聞いちゃいますから!』と、なぜかシャドウをすっぱり諦め、ソニアと三人で昼食へ……なぜかユアンがチラチラ見ていたが、護衛の少女とどこかに消えた。
 そして現在、シャドウは一人で『地下ショッピングモール』を歩いている。

「身代わりの術……ヒナタには悪いことしたかな」

 適当に昼食を食べた後は、再び学園の調査へ向かう。
 新入生となった数日は、学業の準備やらで授業は半日で終わる。この機会を逃すわけにはいかない。
 ショッピングモールにあるパン屋で適当に買い物をしようとした時だった。

「ね~ね~、ここ払っておいてよ。もち、全員分ね~」
「あ、あの……私、あんまりお金なくて」
「はぁ~? 貴族のクセにお金ないの? あんた、ブリトラ侯爵家でしょ? あぁ~……そっか、名ばかり、お情けの落ちこぼれだし、仕方ないよねぇ」
「……ぅ」

 またシェリアか……と、思ったら違った。
 別クラスの新入生が、ルクレツィアに絡んでいた。
 男子がパン屋のパンを買い占め、すでに齧っている。そして、リーダーの少女がルクレツィアに支払いを強要しているようだ。
 パン屋は老婆が経営しており、何も言えない。ルクレツィアもオドオドしているだけ。
 シャドウは手を出そうか悩んだが……目立つのはよろしくないと、建物の陰に隠れる。

「おばちゃ~ん、この子からお金貰ってね。ば~い」
「あ……」

 結局、ルクレツィアは何も言い返せず、粗暴な連中も行ってしまう。
 目立つのはよろしくない。でも……何だかシャドウはむかついた。
 粗暴な連中は、地上に出るための階段に向かっているのを確認、印を結ぶ。

「凍遁、『氷結地の術』」

 地面を振れると、地中を魔力が通り、階段付近で一気に凝結。
 リーダーの女子が階段に足を乗せた瞬間、思いっきりズッこけた。

「あいっだぁ!?」

 すてーん!! と、後頭部をモロに強打。
 しかも、足を思い切り上げるような感じで転んだので、スカートが豪快にめくれて下着が見えていた。取り巻きたちがそれを見て「おお~!!」と喜び、顔を赤くした女子はスカートを押さえ、取り巻きたちにキレ散らかしながら階段を駆けて行った。

「……ざまーみろ」

 シャドウはフンと鼻を鳴らし、ルクレツィアを見る。
 ルクレツィアは、何度も頭を下げていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……お金、本当になくて」
「そうは言ってもねぇ……無銭飲食になるから、あんたのこと学園兵士に通報するしかないんだよ。新入生だよね?」
「お、お願いします!! それだけは……実家に知られたら」
「だったら、お金を払っておくれ」
「……」

 ルクレツィアは俯き、黙り込んでしまう。
 おばあさんも、生活が掛かっているので引けない。
 シャドウはため息を吐き、パン屋に足を運び……財布からお金を出し、少し多めに支払った。

「これで勘弁してやって。ずっと見てたなら、この子が悪くないってのはわかるでしょ。まあ、商売人にそんなの関係ないとは思うけど」
「そうだね。お嬢さん、これに懲りたら、あんな連中の言いなりになるんじゃないよ」
「あ、お金……あ、はい」
「じゃ」

 シャドウは早々に立ち去ろうとしたが。

「……あ、あの」

 ルクレツィアがそっと、シャドウの裾を手で掴んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 そのままパン屋の前で話すわけにはいかなかったので、シャドウとルクレツィアはショッピングモールから出て、男子寮と女子寮の中間にあるベンチに座った。

「あの……ありがとうございました。その、同じクラス……ですよね」
「ああ、気にしないで」

 近くで見て気付いた。
 ルクレツィアの魔力は濃い。同じ濃さを持つシャドウだから気付いた。
 そもそも、魔力の『濃度』なんて測ることは不可能。そういう魔法もないし、魔法道具もない。
 濃さはあるが、魔力量は並み……忍術を使えるほどのレベルではない。
 だが、シャドウは感じていた。

「あの……わたし、ルクレツィアです。その、ブリトラ侯爵家の……」
「知ってる。えっと……お金は気にしなくていいよ。その……侯爵家なら、お金くらい……支度金とかで実家からもらえないの?」
「……うん。わたし、落ちこぼれだから」
「…………」

 似ているのは、魔力だけじゃない。
 境遇───かつてハーフィンクス家で冷遇されていたシャドウと重なった。
 
「……あのさ」

 なぜだろうか。
 自分と重なったのか……シャドウは言う。

「俺も、元はハーフィンクス家の人間だった。でも……落ちこぼれで追放されて、運よくクサナギ男爵家に拾ってもらった」
「……うん。知ってる。ハーフィンクス家には、天才姉妹がいるって。でも……あなたのこと、知らない。なかったことになってる」
「……きみはさ、家を出たいとか思ったこと、ある?」
「あるよ」

 即答だった。
 シャドウは初めて、ルクレツィアの横顔を見た。
 薄水色のくせっ毛は長く、腰まで伸びている。
 前髪を伸ばして顔を隠しているのに、眼鏡を掛けている。
 顔はまだよく見えない……でも、声でわかった。

「卒業したら自由にしていいって、お父様が言ったの。わたし……黄金世代とかいう、『虹色の魔法師アルコバレーノ』の娘だから、って……一人だけ入学式でいないのは、家の恥だって」
「…………」
「成績最下位でも、いることに意味があるんだって。わたし……魔法式も刻んでいない、基礎魔法くらいしか使えないのに」
「……え」

 魔法式を、刻んでいない。
 その言葉にシャドウは驚いた。

「ま、魔法式を刻んでいない!? じゃあ、どの属性に適しているかとかは」
「……ないの。地水火風光闇のどの属性にも、適応できなかったの」
「……マジか」
「無属性は可能性があるけど、ブリトラ侯爵家の人間が無属性は恥だって。三年間、魔法式なしで、成績最下位でもいいからそのままで、って」
「……恥の意味がわからん」

 どういう基準なのか、シャドウには理解できない。
 ルクレツィアは、口元だけ薄く微笑んでいた。

「わたし……学園を卒業したら、平民になるの。どんな仕事でもいい。お金を稼いで、自分の家を買って……小さくても、わたしだけの家が、居場所がほしいの」
「…………」

 それは───居場所のないシャドウが見た、かつての夢。
 アルマス王国でやり直そうと思った。でも……ハーフィンクス家が許さなかった。
 森に置き去りにされ、こうして生きている。
 
「…………」

 地水火風光闇の魔法式に適応しない。
 でも、無属性なら可能性があった。
 そして、シャドウは思い出す……ハンゾウが残したモノの中に、興味深いモノがあったことを。
 シャドウも、ヒナタも必要ないモノ。
 ハンゾウは、役に立たない道具なども大量に所有しており、クサナギ男爵家の地下に大量に保管してある。そのうち、使えそうなモノはいくつか持ってきた。

「…………」

 シャドウの心が叫んでいる。
 やめろ、意味がない、目立つ、メリットは? デメリットが多い。
 でも……喉まで声が出そうになっていた。

「あの、わたし……同じクラスでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

 ルクレツィアは、少しだけ前髪をずらして笑った。
 綺麗なアイスブルーの瞳。その目はどこか、寂しそうだった。

「───……あの、さ」

 意味がない。やめろ。なぜだ。どうして。

「……魔法、使いたいか?」

 やめろ、目的を忘れるな、お荷物だ。

「……何とか、できる、かも」
「……え?」

 『黄昏旅団』を、ハンゾウの最後の願いを。
 意味がないのだ。ルクレツィアに手を差し伸べる、意味が。

「……あの、さ。その」
「……?」
「……魔法式、あるんだ。たぶん……お前に、合う」
「え……?」

 ハンゾウが残したモノは、屋敷や現金、様々な物資。
 その中に、魔法に関するモノも大量にあった。
 例えば杖、例えば魔法道具、例えばテンプレート、例えば……魔法式。
 ハンゾウは、オリジナルの魔法式やテンプレートも数多く作っていた。忍術を開発するための実験んお副産物とヒナタに語ったらしい。

「ま、魔法式?」
「……ああ」

 言ってしまった。
 もし、ルクレツィアが『黄昏旅団』に捕まって拷問され、『シャドウは得体の知れない魔法式を持っている』なんて吐けば疑われる。
 そのリスクを、犯してしまった。

「……話、聞くか?」
「…………」

 ルクレツィアは迷い……口元をキュっと結び、小さく頭を下げた。

「お、お願いします……聞いてみたいです」

 こうして、シャドウは全く意味のない、ルクレツィアを危険に巻き込むことを選択するのだった。
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