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第三章 黄昏旅団所属『死神』のラムエルテ
黄昏旅団所属『節制』プロシュネ②
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シャドウは見た。
プロシュネの指に魔力が集中し、魔力が『爪』のように伸びていくのを。
プロシュネは両手の五指を器用に動かしながら言う。
「あなたが倒した『力』のパワーズですが……組織内でも最弱でしてね。そもそも『力』というのは《力》しか持たない憐れな者という意味でして……替えの利く者の称号なんですよ」
「…………」
シャドウは『夢幻』を逆手に持ち様子を見る。
プロシュネは、パワーズと違い無駄な肉がないが、全身余すことなく鍛え抜かれている。
放つ殺気も一流……間違いなく、パワーズ以上の武闘派だ。
「分析は完了しましたか? では、私の魔法式『爪』の力を見せてあげましょうか!!」
「───!!」
プロシュネが地面を蹴る。
魔力による身体強化。その練度は一等魔法師を凌駕する。
だが、ハンゾウと地獄のような体術訓練を行ってきたシャドウも負けない。
(こいつに時間を取られるわけにはいかない……!!)
シャドウも魔力で身体を強化し、プロシュネと真っ向勝負。
射程内に入ると同時に夢幻を振るが、なんとプロシュネは左の人差し指と親指で夢幻を掴んでしまう。
「遅い」
「ッ!!」
そして、右の五指を爪のような魔力でシャドウを引き裂こうとした……が、シャドウは夢幻から手を放しバックステップ。印を結び、苦無を投げた。
「火遁、『灼熱苦無の術』!!」
投げた苦無が真っ赤に燃える。
プロシュネは夢幻を投げ捨て、左手の人差し指で苦無をデコピン。なんと、苦無が砕け散った。
「……指」
「ふふ、驚いたでしょう? パワーズのような馬鹿とは違います。無駄に魔力を注ぎ込んで全身を強化するより、指先だけに魔力を集中すれば……こんな簡単に、人を壊せる」
「…………」
「この『爪』の魔法式は、わが師が作り出した属性です。知っていますか? 『黄昏旅団』は皆、独自に開発した魔法式を持っています。それぞれの魔法に相応しい魔法をね……」
「…………」
シャドウは印を結び、人差し指と中指を合わせ、プロシュネに突きつけた。
「おやおや、会話を楽しむつもりがないので? ああ~……それとも、女子が気になりますか? 報告では、あなたの仲間がいるんでしたっけ? フフ……『魔術師』は若い子の悲鳴が何よりも好きでねぇ」
「風遁、『鎌鼬の術』!!」
不可視の風が刃となりプロシュネに襲い掛かるが、プロシュネは両手を振るうだけで風を掻き消した。
「ははは!! 焦りが透けて見えるようだ!! さぁさぁ、まだまだ楽しみ───」
ズドン!! と、プロシュネの背中に『夢幻』が刺さり、心臓を貫いていた。
「───っ、か……な、に?」
「風遁は囮。お前が時間稼ぎをしているのがすぐわかったから、焦るフリして隙を伺った。俺の印、風遁と磁遁の二段構えって気付かなかっただろ」
「が、っは!? ぐぁ……この、ガキ!!」
「返せ。お前の血で汚していい剣じゃない」
シャドウが指をクイッと動かすと、磁力によって操作された夢幻が抜け落ち、そのままシャドウの元へ飛んで戻ってくる。
シャドウは布で刃を丁寧に拭き、鞘に納めた。
プロシュネは、胸から流れる血を魔力で抑えつけて止血しているが、出血が多いのか真っ青。
シャドウは印を結び、プロシュネに向ける。
「師が言ってた。戦闘は読み合い、そして卑怯を尽くした方が勝つ。正々堂々なんて言葉はガキのお遊びか、マンガやアニメの世界だけだ……ってな」
マンガ、アニメが何かわからないシャドウは、とりあえず聞いたことを話す。
プロシュネは鬼のような形相で、シャドウに爪を向けて突っ込んできた。
「ガキがぁぁぁぁぁぁ!!」
「泥遁、『泥沼の術』」
プロシュネの足元が泥沼となり、プロシュネの身体が沈んでいく。
「ぐ、ぁぁ!! クソ、クソクソ!! 師、師よ!! 時間を稼ぎました!! どうか、どうか救いの手を!!」
叫ぶプロシュネ……だが、救いはない。
シャドウは追加の印を結び、右手を地面に叩き付けた。
「鋼遁、『鉄柱棍の術』!!」
地面から鉄だけを抜き取り、プロシュネの頭上で固めて巨大な『柱』となる。そして、その柱がシャドウの誘導により、プロシュネの真上に落ちてプロシュネを潰した。
泥沼がプロシュネを、そして鉄の柱がプロシュネを圧し潰す。
鉄の柱が完全に沈むと同時に、シャドウは再び地面を叩く。すると、泥が完全な土の地面となった。
プロシュネは死亡。その亡骸は地面の奥深くまで沈み、もう誰にも回収はできない。
(行かないと)
もうプロシュネのことなど頭にないシャドウは、鋼棺をチラッと見る。
(数は八十ある。仮に一年の中に俺がいると仮定しても、すぐにはたどりつけないはず……とにかく今は、ヒナタのところへ!!)
シャドウは魔力を漲らせ、その場から一瞬で消え去った。
◇◇◇◇◇◇
一方、女子は。
特に何かされることもなく、ただ脱がされたまま、第三講堂にいた。
全員、羞恥で座り込んでいる。そんな様子を見ているアドラメレクはニヤニヤしたまま、一人の少女を指差した。
「そこのお前」
「……え」
「お前だよ、お前……立て」
女子の一人が、アドラメレクの部下によって立たせられる。
そして、そのまま無理やり前に連れてこられた。
「い、いや……」
「嫌? そうか、嫌かぁ~……じゃあ帰りたいか?」
「か、かえりたい、です」
「そうかそうか。じゃあ腕だ」
「……え?」
「腕をここで斬り落とせ。そうしたら……この中の十人を、無傷で返してやる」
「……え」
凍り付いたような声で、少女は愕然とした。
「おや、腕は嫌か?」
「う、うぅ……」
少女は首を振る。
するとアドラメレクは、ニコニコしながら少女の頭を撫でる。
「じゃあこうしよう。お前は無傷で帰す。その代わり……この中の二十人の腕、足を一本ずつ切断し、死ぬ寸前まで痛めつけて、お前と一緒に帰してやろう。それならいいだろ?」
「い、い、い……」
「どっちがいい? さあ、選べ」
選べるはずがなかった。
どちらを選んでも、少女には地獄。
アドラメレクの、これまでにない優しい笑顔が輝いて見えた。
他の少女たちも、ガタガタ震えて声も出せない……だが。
「待って!!」
凛とした声が響いた。
その声の主は……ラウラだった。
ラウラは立ち上がり、胸を隠していた腕の一本を水平にする。
「わ、わたしが……う、腕、あげます!! だ、だから」
「姫様!! いけません!!」
慌てて、ソニアが立ち上がりラウラを押さえる。だが、ラウラは引かない。
「離しなさい、ソニア」
「ひ、姫様……」
王族としての声が、ソニアを抑えつける。
そして、ラウラは腕を下ろし、凛とした声で言う。
「私はアルマス王国第一王女ラウラ。狼藉者……お前の望み通り、この腕をくれてやる。その代わり、約束は守りなさい」
「ほぉ~……大したモンだ。その胆力、ガキとは思えないね」
裸を隠そうとせず、堂々と裸身を晒し、ただ真っすぐアドラメレクを睨みつける。
これを見たヒナタは思った。
(……ただの箱入りではなかったようですね)
「ひ、ヒナタちゃん……ど、どうしよう」
「まだ何もしてはいけません。声も出してはいけません」
「は、はい」
すると、歯を食いしばったソフィアも立ち、堂々と身体を晒して髪を掻き上げた。
「ハーフィンクス家次女のソフィアよ!! 私も腕を差し出すわ!!」
「え、ソフィアちゃん?」
「ふん!! 王女様、恰好付けるなら震えないでもらえるかしら?」
許せなかった。
確かに、ラウラは王女である。でも……ソフィアだって『ハーフィンクス家』なのだ。
一年一組女子で、誰よりも目立ち、誰よりも輝く……それが、ソフィアの目指すもの。
だから、たとえ腕を失おうとも、引くわけにはいかなかった。
(……あちらも、ただの目立ちたがり屋ではなかったみたいですね)
「……シェリアさん、すごい」
ルクレは、感心したようにソフィアを見ていた。
すると、アドラメレクがパチパチと手を叩き、今まで喋っていた女子をシッシと追い払う。
そして、ソフィアを見て指をクイクイさせ呼んだ。
ソフィアは震えつつも、前に出る。
「気に入ったよ。お前」
「それは、どうも」
「腕、もらっていいか?」
「お、お好きに……」
ガタガタ震えつつも、ソフィアは腕を出す。
アドラメレクがぺろりと舌なめずりをすると……なんと、ソフィアの身体を抱き寄せ、その腕を思い切り舐めた。
「ひっ!?」
「お前、優秀だ。腕を落とすのは惜しい……ククク、落とすのはやめだ、オレが食ってやるよ」
「え……」
「食うのさ!! 知ってるか? ヒトの肉ってのはかなり脂っぽくてなあ……でも、若い女の腕は別よ。オレは生で、骨を砕きながら肉を咀嚼するのが大好きなんだ!! あぁぁ……お前はいい」
「……ッ」
ソフィアは恐怖した。
食われる……文字通り、齧られ、食いちぎられ、咀嚼され、呑み込まれる。
恐怖が限界までせり上がってきた。
アドラメレクが大きく口を開ける……その歯が、まるで牙のように見えた。
「い、いや……」
「お前はもう決意した!! そうだ、その決意を無駄にするな!! 恐怖は肉を硬くする!!」
「ッ!!」
「さあ……食事の時間だ」
アドラメレクの大きな口が、ソフィアの右腕に食らいつこうとした。
◇◇◇◇◇◇
───次の瞬間、講堂の天窓が破壊され、何かが落ちてきた。
◇◇◇◇◇◇
「───あん!?」
「きゃっ!?」
布がシェリアの腕に巻き付き、一気に引き寄せられた。
天井から落ちてきた何かがシェリアを掴み、着地する。
シェリアは目を閉じていたが……ゆっくり目を開ける。
そこにいたのは、口をマスクで隠し、フードを被った何者かだった。
シェリアの腕に絡みついているのは、マフラーだ。魔力を流すことで自在に伸び縮みする特別製。
その何者かは、シェリアをチラリと見て言った。
「……見直した」
それだけ言い、黒い何者か───シャドウはシェリアを離した。
そして、一度だけ女子の方を見る。
裸にされ、衣類が燃やされている。いかに強い魔力を持つ女子でもまだ十六歳。裸身を晒してまで戦う精神はないだろう……ヒナタを除いて。
ヒナタは、ルクレの口を押さえシャドウを見ていた。
頷きもしない、声を出しもしない。その目は『お任せします』と語っていた……ルクレの口を押えているのは『シャドウくん!』と叫ばせないため。
そして、ラウラ。
「……え、だれ?」
裸身を隠すことも忘れ、シャドウを凝視していた。
シャドウは動揺しないよう、視線を戻す。
「おうおうおう、食事の邪魔ぁしてくれたなぁ?」
「……『魔術師』か」
「そうよ。ああ、プロシュネは死んだか……ははは、思ったより早かったなぁ」
シャドウはリストブレードを展開、右の中指と人差し指を立てる。
「さて、オレも本気でやるか……なあ、風魔七忍のアサシンよ」
「…………」
シャドウは何も言わず、アドラメレクに向かって走り出した。
プロシュネの指に魔力が集中し、魔力が『爪』のように伸びていくのを。
プロシュネは両手の五指を器用に動かしながら言う。
「あなたが倒した『力』のパワーズですが……組織内でも最弱でしてね。そもそも『力』というのは《力》しか持たない憐れな者という意味でして……替えの利く者の称号なんですよ」
「…………」
シャドウは『夢幻』を逆手に持ち様子を見る。
プロシュネは、パワーズと違い無駄な肉がないが、全身余すことなく鍛え抜かれている。
放つ殺気も一流……間違いなく、パワーズ以上の武闘派だ。
「分析は完了しましたか? では、私の魔法式『爪』の力を見せてあげましょうか!!」
「───!!」
プロシュネが地面を蹴る。
魔力による身体強化。その練度は一等魔法師を凌駕する。
だが、ハンゾウと地獄のような体術訓練を行ってきたシャドウも負けない。
(こいつに時間を取られるわけにはいかない……!!)
シャドウも魔力で身体を強化し、プロシュネと真っ向勝負。
射程内に入ると同時に夢幻を振るが、なんとプロシュネは左の人差し指と親指で夢幻を掴んでしまう。
「遅い」
「ッ!!」
そして、右の五指を爪のような魔力でシャドウを引き裂こうとした……が、シャドウは夢幻から手を放しバックステップ。印を結び、苦無を投げた。
「火遁、『灼熱苦無の術』!!」
投げた苦無が真っ赤に燃える。
プロシュネは夢幻を投げ捨て、左手の人差し指で苦無をデコピン。なんと、苦無が砕け散った。
「……指」
「ふふ、驚いたでしょう? パワーズのような馬鹿とは違います。無駄に魔力を注ぎ込んで全身を強化するより、指先だけに魔力を集中すれば……こんな簡単に、人を壊せる」
「…………」
「この『爪』の魔法式は、わが師が作り出した属性です。知っていますか? 『黄昏旅団』は皆、独自に開発した魔法式を持っています。それぞれの魔法に相応しい魔法をね……」
「…………」
シャドウは印を結び、人差し指と中指を合わせ、プロシュネに突きつけた。
「おやおや、会話を楽しむつもりがないので? ああ~……それとも、女子が気になりますか? 報告では、あなたの仲間がいるんでしたっけ? フフ……『魔術師』は若い子の悲鳴が何よりも好きでねぇ」
「風遁、『鎌鼬の術』!!」
不可視の風が刃となりプロシュネに襲い掛かるが、プロシュネは両手を振るうだけで風を掻き消した。
「ははは!! 焦りが透けて見えるようだ!! さぁさぁ、まだまだ楽しみ───」
ズドン!! と、プロシュネの背中に『夢幻』が刺さり、心臓を貫いていた。
「───っ、か……な、に?」
「風遁は囮。お前が時間稼ぎをしているのがすぐわかったから、焦るフリして隙を伺った。俺の印、風遁と磁遁の二段構えって気付かなかっただろ」
「が、っは!? ぐぁ……この、ガキ!!」
「返せ。お前の血で汚していい剣じゃない」
シャドウが指をクイッと動かすと、磁力によって操作された夢幻が抜け落ち、そのままシャドウの元へ飛んで戻ってくる。
シャドウは布で刃を丁寧に拭き、鞘に納めた。
プロシュネは、胸から流れる血を魔力で抑えつけて止血しているが、出血が多いのか真っ青。
シャドウは印を結び、プロシュネに向ける。
「師が言ってた。戦闘は読み合い、そして卑怯を尽くした方が勝つ。正々堂々なんて言葉はガキのお遊びか、マンガやアニメの世界だけだ……ってな」
マンガ、アニメが何かわからないシャドウは、とりあえず聞いたことを話す。
プロシュネは鬼のような形相で、シャドウに爪を向けて突っ込んできた。
「ガキがぁぁぁぁぁぁ!!」
「泥遁、『泥沼の術』」
プロシュネの足元が泥沼となり、プロシュネの身体が沈んでいく。
「ぐ、ぁぁ!! クソ、クソクソ!! 師、師よ!! 時間を稼ぎました!! どうか、どうか救いの手を!!」
叫ぶプロシュネ……だが、救いはない。
シャドウは追加の印を結び、右手を地面に叩き付けた。
「鋼遁、『鉄柱棍の術』!!」
地面から鉄だけを抜き取り、プロシュネの頭上で固めて巨大な『柱』となる。そして、その柱がシャドウの誘導により、プロシュネの真上に落ちてプロシュネを潰した。
泥沼がプロシュネを、そして鉄の柱がプロシュネを圧し潰す。
鉄の柱が完全に沈むと同時に、シャドウは再び地面を叩く。すると、泥が完全な土の地面となった。
プロシュネは死亡。その亡骸は地面の奥深くまで沈み、もう誰にも回収はできない。
(行かないと)
もうプロシュネのことなど頭にないシャドウは、鋼棺をチラッと見る。
(数は八十ある。仮に一年の中に俺がいると仮定しても、すぐにはたどりつけないはず……とにかく今は、ヒナタのところへ!!)
シャドウは魔力を漲らせ、その場から一瞬で消え去った。
◇◇◇◇◇◇
一方、女子は。
特に何かされることもなく、ただ脱がされたまま、第三講堂にいた。
全員、羞恥で座り込んでいる。そんな様子を見ているアドラメレクはニヤニヤしたまま、一人の少女を指差した。
「そこのお前」
「……え」
「お前だよ、お前……立て」
女子の一人が、アドラメレクの部下によって立たせられる。
そして、そのまま無理やり前に連れてこられた。
「い、いや……」
「嫌? そうか、嫌かぁ~……じゃあ帰りたいか?」
「か、かえりたい、です」
「そうかそうか。じゃあ腕だ」
「……え?」
「腕をここで斬り落とせ。そうしたら……この中の十人を、無傷で返してやる」
「……え」
凍り付いたような声で、少女は愕然とした。
「おや、腕は嫌か?」
「う、うぅ……」
少女は首を振る。
するとアドラメレクは、ニコニコしながら少女の頭を撫でる。
「じゃあこうしよう。お前は無傷で帰す。その代わり……この中の二十人の腕、足を一本ずつ切断し、死ぬ寸前まで痛めつけて、お前と一緒に帰してやろう。それならいいだろ?」
「い、い、い……」
「どっちがいい? さあ、選べ」
選べるはずがなかった。
どちらを選んでも、少女には地獄。
アドラメレクの、これまでにない優しい笑顔が輝いて見えた。
他の少女たちも、ガタガタ震えて声も出せない……だが。
「待って!!」
凛とした声が響いた。
その声の主は……ラウラだった。
ラウラは立ち上がり、胸を隠していた腕の一本を水平にする。
「わ、わたしが……う、腕、あげます!! だ、だから」
「姫様!! いけません!!」
慌てて、ソニアが立ち上がりラウラを押さえる。だが、ラウラは引かない。
「離しなさい、ソニア」
「ひ、姫様……」
王族としての声が、ソニアを抑えつける。
そして、ラウラは腕を下ろし、凛とした声で言う。
「私はアルマス王国第一王女ラウラ。狼藉者……お前の望み通り、この腕をくれてやる。その代わり、約束は守りなさい」
「ほぉ~……大したモンだ。その胆力、ガキとは思えないね」
裸を隠そうとせず、堂々と裸身を晒し、ただ真っすぐアドラメレクを睨みつける。
これを見たヒナタは思った。
(……ただの箱入りではなかったようですね)
「ひ、ヒナタちゃん……ど、どうしよう」
「まだ何もしてはいけません。声も出してはいけません」
「は、はい」
すると、歯を食いしばったソフィアも立ち、堂々と身体を晒して髪を掻き上げた。
「ハーフィンクス家次女のソフィアよ!! 私も腕を差し出すわ!!」
「え、ソフィアちゃん?」
「ふん!! 王女様、恰好付けるなら震えないでもらえるかしら?」
許せなかった。
確かに、ラウラは王女である。でも……ソフィアだって『ハーフィンクス家』なのだ。
一年一組女子で、誰よりも目立ち、誰よりも輝く……それが、ソフィアの目指すもの。
だから、たとえ腕を失おうとも、引くわけにはいかなかった。
(……あちらも、ただの目立ちたがり屋ではなかったみたいですね)
「……シェリアさん、すごい」
ルクレは、感心したようにソフィアを見ていた。
すると、アドラメレクがパチパチと手を叩き、今まで喋っていた女子をシッシと追い払う。
そして、ソフィアを見て指をクイクイさせ呼んだ。
ソフィアは震えつつも、前に出る。
「気に入ったよ。お前」
「それは、どうも」
「腕、もらっていいか?」
「お、お好きに……」
ガタガタ震えつつも、ソフィアは腕を出す。
アドラメレクがぺろりと舌なめずりをすると……なんと、ソフィアの身体を抱き寄せ、その腕を思い切り舐めた。
「ひっ!?」
「お前、優秀だ。腕を落とすのは惜しい……ククク、落とすのはやめだ、オレが食ってやるよ」
「え……」
「食うのさ!! 知ってるか? ヒトの肉ってのはかなり脂っぽくてなあ……でも、若い女の腕は別よ。オレは生で、骨を砕きながら肉を咀嚼するのが大好きなんだ!! あぁぁ……お前はいい」
「……ッ」
ソフィアは恐怖した。
食われる……文字通り、齧られ、食いちぎられ、咀嚼され、呑み込まれる。
恐怖が限界までせり上がってきた。
アドラメレクが大きく口を開ける……その歯が、まるで牙のように見えた。
「い、いや……」
「お前はもう決意した!! そうだ、その決意を無駄にするな!! 恐怖は肉を硬くする!!」
「ッ!!」
「さあ……食事の時間だ」
アドラメレクの大きな口が、ソフィアの右腕に食らいつこうとした。
◇◇◇◇◇◇
───次の瞬間、講堂の天窓が破壊され、何かが落ちてきた。
◇◇◇◇◇◇
「───あん!?」
「きゃっ!?」
布がシェリアの腕に巻き付き、一気に引き寄せられた。
天井から落ちてきた何かがシェリアを掴み、着地する。
シェリアは目を閉じていたが……ゆっくり目を開ける。
そこにいたのは、口をマスクで隠し、フードを被った何者かだった。
シェリアの腕に絡みついているのは、マフラーだ。魔力を流すことで自在に伸び縮みする特別製。
その何者かは、シェリアをチラリと見て言った。
「……見直した」
それだけ言い、黒い何者か───シャドウはシェリアを離した。
そして、一度だけ女子の方を見る。
裸にされ、衣類が燃やされている。いかに強い魔力を持つ女子でもまだ十六歳。裸身を晒してまで戦う精神はないだろう……ヒナタを除いて。
ヒナタは、ルクレの口を押さえシャドウを見ていた。
頷きもしない、声を出しもしない。その目は『お任せします』と語っていた……ルクレの口を押えているのは『シャドウくん!』と叫ばせないため。
そして、ラウラ。
「……え、だれ?」
裸身を隠すことも忘れ、シャドウを凝視していた。
シャドウは動揺しないよう、視線を戻す。
「おうおうおう、食事の邪魔ぁしてくれたなぁ?」
「……『魔術師』か」
「そうよ。ああ、プロシュネは死んだか……ははは、思ったより早かったなぁ」
シャドウはリストブレードを展開、右の中指と人差し指を立てる。
「さて、オレも本気でやるか……なあ、風魔七忍のアサシンよ」
「…………」
シャドウは何も言わず、アドラメレクに向かって走り出した。
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