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第三章 黄昏旅団所属『死神』のラムエルテ
黄昏旅団所属『魔術師』アドラメレク②
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シャドウが構えを取ると同時に、アドラメレクは両手を強く握る。
すると、アドラメレクの両手が黄色い炎に包まれ、さらに身体と両足の膝部分まで燃えた。
見たことのない炎の色に、シャドウは目を見張る。
「さて、始めようか!!」
「!!」
アドラメレクが突っ込んでくる。
得体の知れない炎。触れるわけにはいかないと、シャドウは手裏剣を投げる。
だが、アドラメレクが手裏剣を手で叩き落とすと、手裏剣が水になった。
「!?」
「『炎変換』!!」
「ッ!!」
手裏剣は鉄製。それが、どういうわけか『水』となった。
人体に触れたらどうなるか。シャドウは考えることをやめ、横っ飛びで回避。
すると───アドラメレクがニヤリと笑う。
「避けていいのか?」
「ッ!?」
アドラメレクが腕を振ると、黄色い炎が腰を抜かしたシェリアに襲い掛かる。
シェリアは「えっ」と状況が理解できていないのか、迫る炎を見ていた。
シャドウは舌打ちしたい気持ちを押さえ、マフラーを伸ばしシェリアを守る。
黄色い炎に触れたマフラーが、鉛のように重くなった。
「なっ……」
炎が触れた部分が、鋼鉄化していた。
シャドウは夢幻を抜きマフラーの一部をカットする。そして、まだ腰を抜かしているシェリアを抱き上げ、女子の方へ運んだ。
「あ、あの」
「ナイト気取りか? なあ!!」
「ッ!!」
アドラメレクが迫ってくる。
シャドウは高速で印を組み、両手を地面に叩き付けた。
「鋼遁、『剣山の術』!!」
すると、アドラメレクのいる地面から『鉄の剣』が一斉に突き出してくる……が、アドラメレクは無視。そもそも、剣が地面を突き破った瞬間、アドラメレクの炎に触れ剣が砂となった。
その現象を見て、シャドウは眉を顰める。
「無駄だぁ!!」
「なら───これでどうだ」
再び印を結び、右手を頭上へ掲げる。
すると、シャドウが破った天窓から風が吹き込み、さらにシャドウが左手を突き出すと、風が無数の刃となってアドラメレクに襲い掛かる。
「風遁、『鎌鼬乱舞の術』!!」
「フン!! ───……っく、ははぁ!!」
アドラメレクは両手を交差することで防御。だが、風の勢いを殺すことができず、そのまま吹き飛ばされて講堂の壁に激突した。
少し距離が開いたので、シャドウが立ち上がる。
すると、シェリアがシャドウの袖を掴んだ。
「あ、あの……ご、ごめんなさい。わ、私のせいで」
「…………」
身体を隠すことも忘れ、震えていた。
シャドウは思った。
(……ムカつくヤツだけど、こいつも女なんだな)
意外と胸が大きい……と、シャドウは首を振った。
すると、ラウラが言う。
「あ、あの!! あなた、何者ですか!? その、味方……ですよね」
「…………」
「ひ、姫様!! お身体を!!」
「あっ……え、えっと」
ラウラはシャドウに興味津々なのか、胸を揺らしながら目を輝かせていた。
思い切り見てしまい、シャドウは少し動揺する。
今更だが、シャドウが振り返るとそこは、裸の女子ばかり……ルクレ、ヒナタも裸で、女子に免疫のないシャドウは鼻血が出そうなくらい動揺しかけた。
が、今は敵が目の前にいるので気合で前を向く。
すると、ラウラが言う。
「あの黄色い炎……鉄が砂になったり、水になったりしましたよね。わたしの予想ですけどあれは恐らく……『錬金術』だと思います」
「……錬金術?」
「はい。非金属を金属に変換する術ですけど、今はそれだけじゃありません。無から有、有から極を生み出す万物の創生方法としての意味があるんです」
意外なことに精通しているラウラ。
えっへんと胸を張ると、大きな胸がぷるんと揺れる。
「あの炎は、触れた物を『変換』しているんだと思います。物理的な物は触れただけで砂や水、鉄や鉛に変えられちゃう……でも、錬金術を攻撃に変換する魔法式なんて、初めて見ました」
「…………」
「さっき、風魔法を使いましたよね? 風は無に分類されますから、あの炎も変換できなかったんだと思います。あの……あくまで予想ですけど」
「……なるほど」
すると、吹っ飛んだアドラメレクがテーブルをなぎ倒し向かって来た。
首をコキコキ鳴らし、面白そうに言う。
「すげぇなあ……俺の魔法式を見ただけで理解したヤツは久しぶりだ。大抵はオレの炎に触れて、四肢や身体が砂や鉄になって泣きわめくモンだが」
「……ふん」
シャドウは両手を組む。
アドラメレクが拳を構えた。
「まあいい。さあ続きと行こうか、ハンゾウ」
「……ハンゾウ、様」
ハンゾウの名を聞き、シェリアがシャドウを見上げ頬を染めていた。
そして、シャドウは女子を守るように前に立ち、印を結ぶ。
「はっ、ナイト気取りが。決めたぜ、女どもは全員、オレの『換』の魔法で人形にしてやる」
「……お前の魔法は見切った。距離を取り、俺に時間を与えた時点でお前の負けだ」
「あぁ?」
シャドウは印を結ぶ。
「火」
シャドウの傍に『火の玉』が浮かぶ。
「水、土、風」
水の玉、風の玉、土の玉が浮かび、クルクルと周囲を回り出す。
「光、闇、雷」
光の玉、闇の玉、雷の玉が浮かび、七つの玉がシャドウの目の前で回転し、まるで図形を描くように空中で静止。すると、自然のエネルギーが交わり、青白く輝く巨大な球体がシャドウの目の前に浮かんだ。
大きさは直径一メートルほど。熱を感じない、静かな光だった。
「な……七属性の、融合」
ルクレが唖然とする。
魔法師だからこそわかる。この世で七つの属性を身に宿し操れる人間は存在しない。
目の前で起きているのは、間違いなく『奇跡』だった。
アドラメレクも、息を飲んでいる。
そしてシャドウは、右手の人差し指、中指を合わせ、アドラメレクに突きつけた。
「お前の錬金術と、俺の忍術……比べてみようじゃないか」
「お、面白れぇ!! 受けて立つぜ!! オレはアドラメレク、今世最強の錬金術師よ!!」
黄色い炎が、これまでにない勢いで燃える。
シャドウはゆっくりと呟いた。
「混遁、『七聖魔破の術』!!」
青白い球体がシャドウの魔力で刺激された瞬間、閃光となり一直線に放たれた。
その勢いは地面を、机や椅子を蒸発させ、アドラメレクを包み込む。
「オレの」
アドラメレクが何か言おうとしたが、光に包まれた瞬間蒸発……閃光が消えるとそこには、何も残らなかった。
◇◇◇◇◇◇
アドラメレクを討伐。
シャドウは息を吐き、後悔した。
(……殺してしまった。よく考えたら、生かしておいて情報吐かせた方がよかったんじゃ)
今更すぎる事実。だが、アドラメレクは骨も残っていない。
プロシュネも地面の底であり、戦闘員は全員死んでいる。
すると、背中にシェリアが飛びついた。
「なっ!?」
「ハンゾウ様!!」
「な……」
シェリアはシャドウに抱き着き、なんとそのまま正面に移動。
裸ということも忘れ、シャドウの胸に顔を埋める。
「ありがとうございます!! 命の恩人です……!! どうか、お顔をお見せいただけませんか?」
「…………」
女だった。
胸の柔らかさ、甘い香り、そしてうるんだ瞳。
全てが『女』であり、シャドウを動揺させる。
「ああ……ハンゾウ様、私、あなた様に恋をしてしまいました……」
「は、離せ」
そして、ラウラ。
「あの、ところで……あなた、誰? 助けてくれたんだよね? この人たち何?」
「…………」
「ひ、姫様!! 何度も言っていますが、お身体を!!」
「あっ」
シェリアもラウラも、身体を隠すことを忘れシャドウに近づいて来る。
胸や足などが見えてしまい、シャドウはそろそろ限界が近い。
生まれて十六年、女の素肌を真正面から見たことなどないのだ。しかも、こんな近くで。
すると、ヒナタがシェリアを引き剥がす。
「な、何を!!」
「……いえ、不用意な接触は危険です。まだ敵か味方かもはっきりしませんので」
「命の恩人、そして私の婚約者よ!!」
「絶対に違うと思いますが……」
チャンス。
シャドウは壁際のテーブルに積んであったテーブルクロスを取り、ポカンとしているルクレに渡す。
すると、ようやく外が騒がしくなり、講堂の扉が破られそうになっていた。
シャドウは小さく言う。
「早く身体隠せ。外に大勢いる、たぶん教師たちだ」
「あっ、う、うん」
「俺はこのまま消える。見たまま話していいから」
「わ、わかった」
ルクレに言うと、シャドウは印を結ぶ。
シャドウが煙に包まれると、その場から姿を消した。
「ああ!! は、ハンゾウ様……」
残念そうなシェリアに、ルクレはシーツを掛けてやった。
◇◇◇◇◇◇
シャドウは講堂から逃げるように移動し、演習場付近まで来た。
そのまま印を結び、土遁で地面に潜ってモグラのように潜航。演習場に無数にある『鋼棺』の真下に移動し、地中から中へ入る。
そして、鋼棺の中で衣装を脱ぎ、呼吸を整えた。
「よし……『解』」
術を解除すると、鋼棺が全て土となって消える。
そして、男子生徒たちが崩れ落ち、ワッと騒がしくなった。
「なんだ今の!!」「おい、敵!!」「あ、あれ?」
「だ、誰もいないぞ」「何が……」「おい先生呼んで来ようぜ!!」
シャドウも、腰を抜かしたフリをする。
そして、指を折られ脂汗を流しているユアンの傍へ行き、背中をさする。
「おい、大丈夫か」
「あ、ああ……それより、早く先生を呼んでこないと」
「何人か呼びに行った。速く医務室に行こう」
「う、うん……」
シャドウはユアンに肩を貸すと、そのまま医務室へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
演習場から離れた位置にある時計塔に、黄昏旅団『死神』のラムエルテはいた。
顎を手でこすり、満足そうな笑みを浮かべている。
「あれが、風魔七忍のハンゾウ……二代目ですか。くくっ、面白い」
全てを見ていた。
アドラメレクも、プロシュネも死んだが……それ以上の収穫があった。
「『魔術師』と『節制』んお二人を失ったのは少し痛いですが、まあいい……新入生の中に二代目ハンゾウがいることは確定した」
ラムエルテの実験は、成功だった。
忍術を使う、新しい風魔七忍のハンゾウ、二代目。
その正体は新入生の男子生徒。
実験は大成功とは行かなかったが、十分だった。
「さてさて、どうしたものか。だが……見えた。あの子供には致命的な弱点がある」
ラムエルテが歩き出すと、ラムエルテの『影』がグネグネと揺れ動いた。
「次は、私自ら出るのも悪くない」
「フフ、あなたが動くの?」
と、いつの間にか時計塔に、一人の女性がいた。
眼鏡を掛け、ボサボサの長い髪、汚れた白衣を着た女性だ。
汚いシャツを着ているがスタイルは抜群。大きな胸がシャツを盛り上げている。
口には煙草を咥え、どことなくつまらなそうに言う。
「アドラメレク。アイツ、あたしの錬金術を盗んだクズ野郎なんだよね。まさかラムエルテ……あんたが匿って弟子にしてたなんて」
「おやおや、それは言いがかりですな。アドラメレクは自身で、錬金術の成果を出した男ですよ」
「はっ……まあ、あいつじゃせいぜい『変換』の基礎くらいしか理解できなかったみたいだしどうでもいいけどね。で、あんた自分で動くのかい?」
「ええ。弟子もいなくなりましたし、彼の暗殺は私が」
「……フン。逆に殺られないようにね」
「ご心配ありがとうございます。『悪魔』」
ラムエルテは、足音なくその場から去り、残された『悪魔』の女は煙草の煙を吐いた。
「ハンゾウか。くひひっ……ラムエルテと遊ぶみたいだし、少しだけ面白くしてやろうかね」
すると、アドラメレクの両手が黄色い炎に包まれ、さらに身体と両足の膝部分まで燃えた。
見たことのない炎の色に、シャドウは目を見張る。
「さて、始めようか!!」
「!!」
アドラメレクが突っ込んでくる。
得体の知れない炎。触れるわけにはいかないと、シャドウは手裏剣を投げる。
だが、アドラメレクが手裏剣を手で叩き落とすと、手裏剣が水になった。
「!?」
「『炎変換』!!」
「ッ!!」
手裏剣は鉄製。それが、どういうわけか『水』となった。
人体に触れたらどうなるか。シャドウは考えることをやめ、横っ飛びで回避。
すると───アドラメレクがニヤリと笑う。
「避けていいのか?」
「ッ!?」
アドラメレクが腕を振ると、黄色い炎が腰を抜かしたシェリアに襲い掛かる。
シェリアは「えっ」と状況が理解できていないのか、迫る炎を見ていた。
シャドウは舌打ちしたい気持ちを押さえ、マフラーを伸ばしシェリアを守る。
黄色い炎に触れたマフラーが、鉛のように重くなった。
「なっ……」
炎が触れた部分が、鋼鉄化していた。
シャドウは夢幻を抜きマフラーの一部をカットする。そして、まだ腰を抜かしているシェリアを抱き上げ、女子の方へ運んだ。
「あ、あの」
「ナイト気取りか? なあ!!」
「ッ!!」
アドラメレクが迫ってくる。
シャドウは高速で印を組み、両手を地面に叩き付けた。
「鋼遁、『剣山の術』!!」
すると、アドラメレクのいる地面から『鉄の剣』が一斉に突き出してくる……が、アドラメレクは無視。そもそも、剣が地面を突き破った瞬間、アドラメレクの炎に触れ剣が砂となった。
その現象を見て、シャドウは眉を顰める。
「無駄だぁ!!」
「なら───これでどうだ」
再び印を結び、右手を頭上へ掲げる。
すると、シャドウが破った天窓から風が吹き込み、さらにシャドウが左手を突き出すと、風が無数の刃となってアドラメレクに襲い掛かる。
「風遁、『鎌鼬乱舞の術』!!」
「フン!! ───……っく、ははぁ!!」
アドラメレクは両手を交差することで防御。だが、風の勢いを殺すことができず、そのまま吹き飛ばされて講堂の壁に激突した。
少し距離が開いたので、シャドウが立ち上がる。
すると、シェリアがシャドウの袖を掴んだ。
「あ、あの……ご、ごめんなさい。わ、私のせいで」
「…………」
身体を隠すことも忘れ、震えていた。
シャドウは思った。
(……ムカつくヤツだけど、こいつも女なんだな)
意外と胸が大きい……と、シャドウは首を振った。
すると、ラウラが言う。
「あ、あの!! あなた、何者ですか!? その、味方……ですよね」
「…………」
「ひ、姫様!! お身体を!!」
「あっ……え、えっと」
ラウラはシャドウに興味津々なのか、胸を揺らしながら目を輝かせていた。
思い切り見てしまい、シャドウは少し動揺する。
今更だが、シャドウが振り返るとそこは、裸の女子ばかり……ルクレ、ヒナタも裸で、女子に免疫のないシャドウは鼻血が出そうなくらい動揺しかけた。
が、今は敵が目の前にいるので気合で前を向く。
すると、ラウラが言う。
「あの黄色い炎……鉄が砂になったり、水になったりしましたよね。わたしの予想ですけどあれは恐らく……『錬金術』だと思います」
「……錬金術?」
「はい。非金属を金属に変換する術ですけど、今はそれだけじゃありません。無から有、有から極を生み出す万物の創生方法としての意味があるんです」
意外なことに精通しているラウラ。
えっへんと胸を張ると、大きな胸がぷるんと揺れる。
「あの炎は、触れた物を『変換』しているんだと思います。物理的な物は触れただけで砂や水、鉄や鉛に変えられちゃう……でも、錬金術を攻撃に変換する魔法式なんて、初めて見ました」
「…………」
「さっき、風魔法を使いましたよね? 風は無に分類されますから、あの炎も変換できなかったんだと思います。あの……あくまで予想ですけど」
「……なるほど」
すると、吹っ飛んだアドラメレクがテーブルをなぎ倒し向かって来た。
首をコキコキ鳴らし、面白そうに言う。
「すげぇなあ……俺の魔法式を見ただけで理解したヤツは久しぶりだ。大抵はオレの炎に触れて、四肢や身体が砂や鉄になって泣きわめくモンだが」
「……ふん」
シャドウは両手を組む。
アドラメレクが拳を構えた。
「まあいい。さあ続きと行こうか、ハンゾウ」
「……ハンゾウ、様」
ハンゾウの名を聞き、シェリアがシャドウを見上げ頬を染めていた。
そして、シャドウは女子を守るように前に立ち、印を結ぶ。
「はっ、ナイト気取りが。決めたぜ、女どもは全員、オレの『換』の魔法で人形にしてやる」
「……お前の魔法は見切った。距離を取り、俺に時間を与えた時点でお前の負けだ」
「あぁ?」
シャドウは印を結ぶ。
「火」
シャドウの傍に『火の玉』が浮かぶ。
「水、土、風」
水の玉、風の玉、土の玉が浮かび、クルクルと周囲を回り出す。
「光、闇、雷」
光の玉、闇の玉、雷の玉が浮かび、七つの玉がシャドウの目の前で回転し、まるで図形を描くように空中で静止。すると、自然のエネルギーが交わり、青白く輝く巨大な球体がシャドウの目の前に浮かんだ。
大きさは直径一メートルほど。熱を感じない、静かな光だった。
「な……七属性の、融合」
ルクレが唖然とする。
魔法師だからこそわかる。この世で七つの属性を身に宿し操れる人間は存在しない。
目の前で起きているのは、間違いなく『奇跡』だった。
アドラメレクも、息を飲んでいる。
そしてシャドウは、右手の人差し指、中指を合わせ、アドラメレクに突きつけた。
「お前の錬金術と、俺の忍術……比べてみようじゃないか」
「お、面白れぇ!! 受けて立つぜ!! オレはアドラメレク、今世最強の錬金術師よ!!」
黄色い炎が、これまでにない勢いで燃える。
シャドウはゆっくりと呟いた。
「混遁、『七聖魔破の術』!!」
青白い球体がシャドウの魔力で刺激された瞬間、閃光となり一直線に放たれた。
その勢いは地面を、机や椅子を蒸発させ、アドラメレクを包み込む。
「オレの」
アドラメレクが何か言おうとしたが、光に包まれた瞬間蒸発……閃光が消えるとそこには、何も残らなかった。
◇◇◇◇◇◇
アドラメレクを討伐。
シャドウは息を吐き、後悔した。
(……殺してしまった。よく考えたら、生かしておいて情報吐かせた方がよかったんじゃ)
今更すぎる事実。だが、アドラメレクは骨も残っていない。
プロシュネも地面の底であり、戦闘員は全員死んでいる。
すると、背中にシェリアが飛びついた。
「なっ!?」
「ハンゾウ様!!」
「な……」
シェリアはシャドウに抱き着き、なんとそのまま正面に移動。
裸ということも忘れ、シャドウの胸に顔を埋める。
「ありがとうございます!! 命の恩人です……!! どうか、お顔をお見せいただけませんか?」
「…………」
女だった。
胸の柔らかさ、甘い香り、そしてうるんだ瞳。
全てが『女』であり、シャドウを動揺させる。
「ああ……ハンゾウ様、私、あなた様に恋をしてしまいました……」
「は、離せ」
そして、ラウラ。
「あの、ところで……あなた、誰? 助けてくれたんだよね? この人たち何?」
「…………」
「ひ、姫様!! 何度も言っていますが、お身体を!!」
「あっ」
シェリアもラウラも、身体を隠すことを忘れシャドウに近づいて来る。
胸や足などが見えてしまい、シャドウはそろそろ限界が近い。
生まれて十六年、女の素肌を真正面から見たことなどないのだ。しかも、こんな近くで。
すると、ヒナタがシェリアを引き剥がす。
「な、何を!!」
「……いえ、不用意な接触は危険です。まだ敵か味方かもはっきりしませんので」
「命の恩人、そして私の婚約者よ!!」
「絶対に違うと思いますが……」
チャンス。
シャドウは壁際のテーブルに積んであったテーブルクロスを取り、ポカンとしているルクレに渡す。
すると、ようやく外が騒がしくなり、講堂の扉が破られそうになっていた。
シャドウは小さく言う。
「早く身体隠せ。外に大勢いる、たぶん教師たちだ」
「あっ、う、うん」
「俺はこのまま消える。見たまま話していいから」
「わ、わかった」
ルクレに言うと、シャドウは印を結ぶ。
シャドウが煙に包まれると、その場から姿を消した。
「ああ!! は、ハンゾウ様……」
残念そうなシェリアに、ルクレはシーツを掛けてやった。
◇◇◇◇◇◇
シャドウは講堂から逃げるように移動し、演習場付近まで来た。
そのまま印を結び、土遁で地面に潜ってモグラのように潜航。演習場に無数にある『鋼棺』の真下に移動し、地中から中へ入る。
そして、鋼棺の中で衣装を脱ぎ、呼吸を整えた。
「よし……『解』」
術を解除すると、鋼棺が全て土となって消える。
そして、男子生徒たちが崩れ落ち、ワッと騒がしくなった。
「なんだ今の!!」「おい、敵!!」「あ、あれ?」
「だ、誰もいないぞ」「何が……」「おい先生呼んで来ようぜ!!」
シャドウも、腰を抜かしたフリをする。
そして、指を折られ脂汗を流しているユアンの傍へ行き、背中をさする。
「おい、大丈夫か」
「あ、ああ……それより、早く先生を呼んでこないと」
「何人か呼びに行った。速く医務室に行こう」
「う、うん……」
シャドウはユアンに肩を貸すと、そのまま医務室へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
演習場から離れた位置にある時計塔に、黄昏旅団『死神』のラムエルテはいた。
顎を手でこすり、満足そうな笑みを浮かべている。
「あれが、風魔七忍のハンゾウ……二代目ですか。くくっ、面白い」
全てを見ていた。
アドラメレクも、プロシュネも死んだが……それ以上の収穫があった。
「『魔術師』と『節制』んお二人を失ったのは少し痛いですが、まあいい……新入生の中に二代目ハンゾウがいることは確定した」
ラムエルテの実験は、成功だった。
忍術を使う、新しい風魔七忍のハンゾウ、二代目。
その正体は新入生の男子生徒。
実験は大成功とは行かなかったが、十分だった。
「さてさて、どうしたものか。だが……見えた。あの子供には致命的な弱点がある」
ラムエルテが歩き出すと、ラムエルテの『影』がグネグネと揺れ動いた。
「次は、私自ら出るのも悪くない」
「フフ、あなたが動くの?」
と、いつの間にか時計塔に、一人の女性がいた。
眼鏡を掛け、ボサボサの長い髪、汚れた白衣を着た女性だ。
汚いシャツを着ているがスタイルは抜群。大きな胸がシャツを盛り上げている。
口には煙草を咥え、どことなくつまらなそうに言う。
「アドラメレク。アイツ、あたしの錬金術を盗んだクズ野郎なんだよね。まさかラムエルテ……あんたが匿って弟子にしてたなんて」
「おやおや、それは言いがかりですな。アドラメレクは自身で、錬金術の成果を出した男ですよ」
「はっ……まあ、あいつじゃせいぜい『変換』の基礎くらいしか理解できなかったみたいだしどうでもいいけどね。で、あんた自分で動くのかい?」
「ええ。弟子もいなくなりましたし、彼の暗殺は私が」
「……フン。逆に殺られないようにね」
「ご心配ありがとうございます。『悪魔』」
ラムエルテは、足音なくその場から去り、残された『悪魔』の女は煙草の煙を吐いた。
「ハンゾウか。くひひっ……ラムエルテと遊ぶみたいだし、少しだけ面白くしてやろうかね」
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