最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第三章 黄昏旅団所属『死神』のラムエルテ

黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ③

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 シャドウはシェリアと一緒に廊下に出ると、思った以上に騒がしかった。
 寮は基本的に、男子寮、女子寮と別れ、寮の真ん中に共同スペースとしての建物がある。
 共同スペースには食堂や売店があり、男女の交流場ともなっていた。
 だが、今は男子寮、女子寮関係なく人がいる。女子寮は男子禁制なのだが、そんなことは関係なく人が行き来しているようだ。
 
「酷いな……」
「混乱状態ですわね」

 窓ガラスが割れ、椅子がひっくり返され、壁に穴まで開いていた。
 どうやら生徒が脱出を試みようと魔法を使ったのだろう。だが脱出どころか軽いボヤ騒ぎにもなり、所々で喧嘩も起きているようだった。
 そんな時だった。

「皆さん、私の話を聞いてください!!」

 凛と響く声。
 不思議と生徒たちは、その声の主……ラウラへ視線を向けた。
 喧嘩が止まり、魔法の発動が中断され、吸い込まれるようにラウラに視線が集まる。
 声には、逆らえない力があった。

(カリスマってヤツか……)

 シャドウがそう思うと、ラウラが息を吸う。

「皆さん、落ち着いてください!! これより私、アルマス王国第一王女ラウラが、この場の指揮を執ります。皆さん、私の指示に従って動くようお願いします!!」

 それは命令だった。
 だが、貴族たちも『王女』という肩書に何も言えないのか静かになる。
 しかし……場を乱す馬鹿は存在する。

「王女だから何だ!! お前が『ハンゾウ』である可能性もあるだろうが!!」
「そ、そうだ!! ハンゾウを出せ!!」
「そいつを差し出せばここから出れるんだろうが!!」

 再び火が付いたのか、周りが騒がしくなる。
 だが、ラウラは叫んだ。

「落ち着いてください!! そして、考えてください……このように理不尽な魔法で私たちを拘束する狼藉者が、ハンゾウを引き渡したとして、私たちを素直に開放するでしょうか?」

 その言葉に、周囲がシンと静まり返った。
 シャドウは内心で同意する。

(その通りだ。黄昏旅団はそんな甘くないと思う)
 
 シェリアの演説は続く。

「今、私たちができることは……ここから脱出するために考えること。そのためには一人一人の力が必要ということです。大丈夫です!! 私たちは魔法師。まだ未熟ですけど、これだけの人数が集まれば、一人前以上の魔法師にだってなれますから!!」

 ラウラの力強い演説に、次第に生徒たちは落ち着き、力強い目に変わっていく。

「そうだ……オレたちなら」「へへ、やってやる」
「ね、この黒いのどう思う?」「触るのはダメ。考えよう」
「ラウラさん、どうすればいい?」「よし、やるぞ」

 一人一人が、考え、行動し、仲間を信頼し始める。
 シャドウは改めて思った。

(アルマス王国第一王女ラウラ……こいつ、いろんな意味でヤバいな。って……待てよ? この状況、恐らくラムエルテも見ている……)

 シャドウはハッとなり、ラウラを見た。
 そして───次の瞬間だった。

『面白い。そして……アナタは危険ですねぇ』
「えっ」
「───姫様!!」

 ラウラの背後に、黒いフードを被った暗殺者が現れた。
 そして、ソニアが剣を一瞬で抜刀する。だが、ラムエルテが指先に魔力を集中させ、指先だけで剣を抑える。
 いきなり現れた何者かに、女子の一人が叫んだ。

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 ある生徒は杖を抜き、従者は主を守り、ある生徒はラムエルテに挑もうとする。
 ラムエルテは口元だけが見えた。そして、その口が笑みに歪む。

「『影牢ダビュデ』」

 指を向けただけで、生徒たちの『影』がグネグネ動く。
 そして、影が動くと自分の身体も同じように動き、腕や足があり得ない方向に曲がり、ベキベキゴキと辺りから骨の折れる音が聞こえた。
 響き渡る絶叫。そんな中ソニアは、両腕を折られながらもラウラに向かう。

「ああ、素晴らしい忠義だ」
「ソニア、だめ!!」
「姫様ァァァァァァ!!」
「ククク……では、首を一捻り」

 ラムエルテがソニアに指先を向けた瞬間だった。

「ひょ、『氷結の術』!!」

 ラムエルテの腕が凍り付いた。
 
「───む?」

 凍った腕。
 魔法が飛んできた方を見ると、そこにいたのは二人のアサシン。
 一人はラムエルテが見覚えのあるアサシンの少女。
 もう一人は見覚えのない少女だった。
 青を基調としたアサシン服。フードを被りマスクをしているため顔が見えない。だが、身体付きや構えがド素人以下……ただアサシン衣装を着ただけの一般人にしか見えない。
 だが、『氷』属性の魔法は侮れなかった。まだ未熟だが、ラムエルテの腕が凍り付き、バキンと音を立てて砕け散ったのだ。

「……三人目ですか。新生『風魔七忍』は、面白い人材がいる」
「きゃっ!?」
「フフフ、この娘は貰っておきましょうか。では」

 シャドウは動けない。
 今、怪しい動きをすれば『ハンゾウ』だと疑われる。
 だが……ラウラは、シャドウを見ていた。

(絶対に、言わないから)
「───ぁ」

 その瞳が語っていた。
 これからラウラを待つのは拷問だ。でも……彼女は絶対にシャドウを、ハンゾウのことを言わないだろう。
 ほんの少しだけラウラは微笑み、ラムエルテと一緒に影に消えた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ラウラが攫われ、『影』の力で負傷した生徒たちが泣き喚き、逃げようとする生徒たちで一気に混乱する。
 場を収めたラウラがもういない。
 だが……ラウラとは別の声が、一喝した。

「静かになさい!! 負傷者を運んで応急手当をしますわよ!! 騒いでる連中は手伝いなさい!!」

 シェリアだった。
 シェリアはラウラとは違う『喝』で場を収め、中心となった。
 すでにシャドウを見てはいない。負傷者のために動き回り、手当ての心得のある従者たちに命令して手当てをさせ、逃げようとする生徒たちを捕まえて労働させていた。
 そしてシャドウは静かにその場から離れる。
 部屋に戻ると、ヒナタとルクレがいた。

「シャドウ様。勝手な判断で飛び出したこと、謝罪します」
「ご、ごめん……わたし、魔法使っちゃって」
「気にすんな。それとルクレ、その服……」
「う、うん。ヒナタちゃんが作ってくれたアサシン衣装。魔法使うなら顔を隠せって……」
「似合ってる」
「ふえ!? あ、あう……あ、ありがと」

 シャドウは制服を脱ぎ、その場でアサシン衣装に着替え始めた。
 ヒナタは気にしていないが、ルクレは顔を赤くしてそっぽ向く。
 そして、着替えを終え、リストブレードを出し入れして動作確認をし、ヒナタに聞く。

「それで、何かわかったか?」
「大した情報はありませんが……ラウラ様の位置は把握できます。先ほど、ラウラ様がこの部屋に入った時、ハンゾウ様お手製の忍薬を首筋に垂らしました。私の魔力を帯びた薬ですので、私にだけ追跡できます。現在、女子寮に向かって移動中です」
「よし……ヒナタ、奴を追う。ルクレ……お前も行けるか?」
「い、行く。わたしだって、仲間だし!!」

 三人のアサシンが揃い、ラムエルテを倒すために動き出す。
 そんな時だった。

「風魔七忍、か……今のアナタたちを見たら、ハンゾウはどう思うかしら」
「ッ!?」
 
 ヒナタが苦無を抜いて構えると、部屋の隅に女が立っていた。
 シャドウはヒナタを手で制して言う。

「……マドカさん」
「久しぶりね、シャドウ」

 マドカ。
 ハンゾウの弟子であり、シャドウの姉弟子。
 黄昏旅団所属『女教皇』のマドカが、シャドウの部屋にいた。
 いつの間にかそこにいた。シャドウやヒナタですら存在を察知できなかったが、シャドウは不思議と警戒していない。

「ラムエルテと戦うのね」
「はい……」
「なら、一つだけアドバイス。ラムエルテの魔法式は『影』……影の中では無敵よ」
「……なるほど」
「え、え……む、無敵って、どうやって戦うの?」
「今言っただろ。『影の中では無敵』ってことだ。逆を言えば、影から引きずり出せば勝機はある」

 マドカはクスっと微笑み、小さく頷く。

「マドカさん。なんで俺たちに助言を?」
「……別に、大した理由じゃないわ。私は……ラムエルテが大嫌いなだけ」
「…………」

 それだけ言い、マドカは部屋を出ようとドアに近づく。

「もう一つだけ……黄昏旅団はどこにでもいる。ラムエルテだけに捉われないことね」

 そう言って、マドカは部屋を出た。
 追っても無駄なことは確実だろう。
 シャドウはドアを見つめた後、二人に言う。

「よし。これからラムエルテを倒しに行くぞ」

 新生『風魔七忍』の戦いが、ついに始まろうとしていた。
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