最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第三章 黄昏旅団所属『死神』のラムエルテ

黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ④

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 ラウラが連れて来られたのは、窓のない黒い『部屋』だった。
 黒いローブの男がラウラから手を離す。ラウラは床に倒れるが、すぐに身体を起こしてラムエルテを睨んだ……が、ラムエルテは接近し顔を近づける。
 眼前にいるのに、ラムエルテの顔は『影』になって見えなかった。

「ふむ、恐怖はゼロ。敵意が半分、困惑が半分といったところですか……アナタ、ハンゾウの正体を知っていますね? 知っているからこそ、助けが来ると確信している」
「……その声、その魔力……どこかで」
「む? ほう……『魔水晶の眼』を持つのですね。その眼、我らの組織でも持つ者はいません。実に興味深い……ククク」
「……っ」

 顔を近づけられる。
 すると、周囲の壁から『黒いモヤ』が伸び、ラウラの四肢を拘束した。

「うっ……!?」
「人間はある程度、痛みに抗うことが可能です。身体が防衛反応を起こし、痛みを感じる神経を遮断する……そうなるともう、痛みでは屈服させることはできない」
「……」
「ですが……『快楽』は別です。人間はね、快楽に抗うことはできないんですよ。特に、若い身体だとなおさらだ」
「な、何を……」

 ラムエルテの手には、透明な液体の入った小瓶があった。

「我らの組織に所属する『正義ジャスティス』が作った特別製の媚薬です。これを使うと、犬も猫も魔獣も人間も、メスである限り発情し、壊れ狂う……フフフ、試してみましょうか? ああ、情報を引き出した後は道具として死ぬまで『遊具』となるよう手配しますのでご安心を」
「っ……」
「いい顔だ……おお、恐怖が混ざりましたね。ふふ、乱れる自分を想像してごらんなさい。楽しい、楽しい、快楽に溺れた姿を……」

 ラムエルテが小瓶の蓋を開け、薬品を一滴指に垂らす。

「ああ、ちなみにこの薬……男性には何の効果もないのですよ。ふふ、残念でしたね」
「……」
「さて、問いましょう……ハンゾウの正体は? 名前、学年、性別などわかることをお話ください」
「……」
「ふふ、私に情報を漏らさぬよう、一切の言葉を発しないつもりですね。本当に優秀な子供だ」
「……」
「では───その身体に聞くことにしましょうか」

 ラムエルテは、薬品が付着した指をラウラに向ける。
 ラウラは息を飲み顔を反らすが、『影』が顔を無理やり押さえ、そして口を無理やり空けさせる。

「あ、ぎ……」
「さぁ、この指が口に入るまで時間があります……あなたが知ることをお話ください」
「……っ」

 それでも、ラウラは喋らない。
 眼に涙を貯め、眉を吊り上げ……決して屈しないとラムエルテを睨む。
 ラムエルテは、背中がゾクゾクするのを感じた。
 壊したい。この気丈な娘を徹底的に、とにかくメチャクチャにしたい。
 震える衝動を押さえ、ラムエルテは膝が震えないよう我慢しつつ、人差し指をラウラの口に入れようとして───……。

 ◇◇◇◇◇◇

「お前、本当に馬鹿だな」

 ◇◇◇◇◇◇

 スパン!! と、天井を突き破って現れたシャドウが、ラムエルテの人差し指を『夢幻』で切断した。
 切断された指が床を転がると、黒いモヤとなって消滅する。
 同時に、ラウラを拘束していた影も消え、解放された。
 力の抜けたラウラをルクレが慌てて支え、二人を守るように苦無を両手に持ちヒナタが前に出る。

「おやおやおやおや……これはこれは、実に面白い」

 ラムエルテは切断された指を見る。すると、黒い靄が指の代わりとなり、そのまま黒い指として固定され、何事もなかったように動かした。
 そして、シャドウを見て口元を歪ませる。

「お久しぶりです、ハンゾウ……いえ、二代目ハンゾウ」
「…………」

 シャドウは『夢幻』を構え、ヒナタを見る。

「よくここがわかりましたね。第七訓練場で廃棄された休憩所なんて、新入生はもちろん、在校生ですら知りえないはずですが……ふむ、方法は不明ですが、その娘を何らかの方法で探知したと考えるのが普通でしょうな」
「……思い出した。あなた、司書のゲルニカ先生……ですね?」

 ラウラが思い出したように言うと、ラムエルテはフードを外して素顔を晒す。
 その顔は、シャドウたちの知る司書長……二学年の担任の一人、ゲルニカだった。

「正解です。いやはや、その眼は便利ですな……ですが忠告です。魔力はもともと視認できるような物ではありません。今はともかく、長期にわたり仕様を続けると後遺症が出る恐れがありますよ」
「……っ」
「さて。私の正体を知られたからには、あなたがた四人を逃がすわけにはいきません……まあ、二代目ハンゾウを殺すのは決定事項なので、ハナから逃がすつもりなんてありませんがねぇ」
「……お喋り野郎が」

 シャドウはボソッと言う。
 すると、両足がいきなり『黒い鎖』に絡まれ、動けなくなった。

「ッ!?」
「お忘れですか? この部屋には私の魔法……『影』の魔法式によって作られた『黒霧ダークミスト』で満たされています」

 ゲルニカ……ラムエルテはフードを再び被ると、床にズブズブと吸い込まれて行く。

「光りあるところに闇はあり。日の当たる場所に影はあり……」

 ラムエルテは両手に草刈りで使うような『鎌』を持つ。
 シャドウは印を結び、ヒナタたち近くの壁に手を向けた。

「火遁、『火閃槍の術』!!」

 火の槍が壁を突き破り巨大な穴が開く。
 その意図を察したヒナタが頷き、ルクレとラウラを担いで一気に飛び込んだ。
 穴が黒霧によって修復され、室内はシャドウ、ラムエルテの二人だけになる。

「最優先は俺か……」
『ふふふ。すでにあの子共たちにはマーキングしてあるので……ではでは二代目ハンゾウ、楽しみましょうか』

 室内に響く声。
 シャドウは両足を拘束している鎖を『夢幻』で斬り、高速で印を結ぶ。

「氷遁、『氷足場の術』」

 床一面を厚い氷で覆うが、十秒経たないうちに氷が『黒霧』に浸食され消えた。

「チッ……」
「無駄ですね」

 すると、背後に現れたラムエルテが鎌を振るう。
 シャドウは何とか躱すが、壁や地面から伸びた『鎖』がシャドウの両手両足に絡みつく。
 そして、背後に現れたラムエルテが、動けないシャドウの背中を鎌で抉った。

「ぐっぁ!?」
「ふむ。二代目ハンゾウの血も普通に赤いのですね……味はどうでしょうか」

 ラムエルテが鎌をペロペロ舐め、舌に付いた血を咀嚼するよう口をモゴモゴさせる。

「うーむ……実に濃厚」

 両手が拘束され印が結べない。
 シャドウは手首を反らしてリストブレードを展開。同時に、飛び出した刃が影の鎖を断ち切った。
 片腕が自由になるが、すぐに別な鎖が腕に絡みつく。

(くそ!! こいつの腹の中で戦ってるようなモンだ。まずは脱出しないと!!)
「申し訳ないですが……あなたは逃がしませんので」

 シャドウの考えが読まれたのか、飛んでくる鎖の数が増えていく。
 シャドウは冷静に、痛みを堪えつつ分析した。

(黒い鎖。こいつの魔法式は『影』……こいつ自身、この黒い影の中を移動できる。だが鎖の強度は大したことがないのが救い……さっき火遁で燃やしたけど、熱には弱い)

 火遁なら勝機はある。
 だが、印を結ぶチャンスがない。
 シャドウは背中がズキズキするのを堪え、チャンスを待つ。
 いつの間にか、全身に鎖が絡みつき、身体中に鎌による切り傷が刻まれていた。
 血だらけになり呼吸も荒い。痛みで気を失いそうになるが、シャドウは堪える。
 一つだけ思いついた作戦……その実行のために、今は耐える。

「フフフ……さあ、どうしますか? 手がないなら終わりにしますが」
「……ふん。なめるなよ」

 シャドウは笑った。
 すると、壁の『黒霧』から現れたラムエルテが、シャドウに近づく。
 
「強がっても身体は限界のようで。フフ、その出血では意識も朦朧としているでしょう?」
「…………」
「では、殺す前に……お顔を拝見」

 ラムエルテが手を伸ばし、シャドウのフードを外し、マスクを剥いだ。
 露わになる素顔を見て、ラムエルテが首を傾げる。

「ああ、キミでしたか……覚えていますよ、シャドウくんでしたか。アルマス王国の男爵でしたねぇ」
「…………」
「ふふ、いい目をしている。さてさて、ハンゾウとの繋がりも気になりますが──」

 ◇◇◇◇◇◇

 次の瞬間、シャドウは口に含んでいた『毒霧』をラムエルテの顔に噴射した。

 ◇◇◇◇◇◇

「っづぅ、ァァァァァッ!?」

 ラムエルテの顔が、目が焼けた。
 顔を押さえ、目を押さえ、ラムエルテが悶絶する。
 黒霧が消え、シャドウの拘束も消える。

「はぁ、はぁ……賭けだった」

 シャドウも限界が近かった。
 何とか意識を保つために、普段は敵相手に必要のない会話をする。

「お前ならきっと、殺す前に俺の正体を確かめるため近づくと思ってた。案の定だった……お前に拘束される前に口の中に丸薬を仕込んで、唾液と混ぜて溶かしていた。知ってるか? これは、師匠が作った毒のレシピを、仲間が改良した毒だ。皮膚に付けば皮膚が溶け、目に付けば眼球が焼ける猛毒。俺は事前に解毒剤を飲んでいたから何ともないけどな……」

 シャドウは「ペッ」と口の中に残った毒を吐き出す。
 そして、室内の『黒霧』が不安定になり、消えかけていることに気付いた。

「お前も、もう魔法を維持する余裕がない。今こそ───師匠の願いを叶える時!!」

 シャドウは印を結ぶ。
 十二の形から成る『十二支印』を組み合わせ、九つから成る『九字護法印』を合わせることにより、魔法式の代替となる『忍道二十一印』を結ぶ。
 地水火風光闇雷の七属性だけじゃない。印と属性を組み合わせることで、シャドウはさらにオリジナルの属性を生み出した。
 
「寅、寅、辰、臨、闘───火、火、風、雷」

 シャドウは手をラムエルテに向ける。
 すると、掌に火球が現れ、風の力で増幅され、さらに雷を帯びる。

「嵐遁、『雷火旋風らいかせんぷうの術』!!」
「ッぎぇぁぁァァァァァァ───ッ!?」

 熱を雷を帯びた竜巻が、ラムエルテに直撃。
 身体が燃え、電撃を浴びたラムエルテが吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。そして、壁を突き破り演習場の木々に激突した。
 それでも、ラムエルテは生きていた。
 ボロボロになりつつも、身体を起こし手に『黒霧』を生み出そうとしている。だが、モヤが現れるだけで完全な霧にならなかった。
 そして、シャドウがゆっくりと近づいて来る……リストブレード展開し、ラムエルテの傍まで来た。
 ラムエルテは諦めたのか……靄を消し、ニヤリと笑う。

「ああ……私の負けですね。眼も見えず、身体が動かない。くはは……何ともまあ、つまらない最後です」
「…………」

 シャドウは無言で、ラムエルテの首にブレードを刺す。
 
「コぁ……ぁ」
「……さよなら、先生」
「……ぁ」

 焼けて真っ白になった眼は、しっかりシャドウを見据え……どこか嬉しそうに笑った。
 黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ。
 その最後は暗殺者としてなのか、教師であり司書としてなのか……それは、シャドウにもわからなかった。
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