勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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88・非道な真実

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 マリアの第四階梯・『歪羽と百足の大群ウィングス・オブ・センチピード』。新たな力を手に入れたマリアは深い笑みを浮かべ、さっそくその能力を発動させる。

「第四階梯……うふふ」
「なっ……」

 マリアの肩付近から、赤いモヤのようなモノがユラユラと噴き出した。まるで意志を持つかのように動き、モヤが濃くなり羽のように広がっていく。
 背中から4本の『百足鱗』に、肩付近から赤いモヤを噴き出す姿は、あまりにも不気味な姿だった。
 橋の上には、黒装束に黒頭巾を被った衛兵が二十人ほどいる。全員が短い刀……『忍者刀』を抜刀、ライトとマリアを敵とみなす。
 
「油断するな、こいつらけっこう強そうだ」
「ええ……そうですわね」

 日は落ち、周囲は暗くなり始めた。夜になれば、この黒装束と黒頭巾は周囲に溶け込んで見えにくくなる。相手の狙いもそれだろう。つまり、夜戦慣れしているということ。
 ライトは『強化』と『硬化』の祝福弾を装填し、ポケットに入れておいた小石を握る。
 マリアと背中合わせになり、橋の中央に陣取る。
 橋の両側から挟み撃ち。マリアと分担して対処するしかない。

「そっち側は任せる」
「ええ」

 ライトが言うと同時に、『忍者』が飛びかかってきた。

 ◇◇◇◇◇◇

 リンは、厠で手を洗い、ハンカチで傷を拭った。
 幸い、傷は浅く大した怪我ではない。手当てするまでもないだろう。
 このままイエヤスの部屋に戻り、先程の続きを……。

「……っ」

 なぜか、リンの中に「戻ってはまずい」という意見があった。
 自分の中にいる誰かが警告しているような、手の薄皮を切ってから、その警告が強くなったような気がしてならない。
 このままイエヤスに会うのは危険な気がした。

「……どう、しよう」

 このまま、貸し住居に帰ってしまおうか悩む。
 ライトとマリアは怒っているだろうか。連絡もなしにいなくなり、心配しているだろうか。
 イエヤスの部屋に戻る気になれず、なんとなく城の通路を歩く。驚くほど静かなのは、この城を守る『忍者』の気配隠蔽が優れているのか、それとも《ギフト》による能力でも使っているのか、リンにはわからない。
 ふと、一つの部屋からすすり泣く声が聞こえた。

「……?」
「うっうっ……なんで、なんで」
「どうして、どうしてぇぇ……」

 女性の声だった。
 すすり泣く声は一つじゃない。二つか、三つか……どれも深い悲しみに包まれているのは、声だけでわかった。
 気になったリンは、襖を少しだけ開ける。
 そこには、三人ほどの女性が集まり、互いを慰め合うように肩を寄せ合っていた。

「イエヤス様、イエヤス様……こんなに愛しているのに、どうして私たちをお捨てになるの……っうぅ」
「尽くしてきたのに、尽くしてきたのに……身も心も差し出したのに、どうしてぇぇ……」
「いや、いやぁぁ……捨てないでぇぇ……いやぁぁ」

 若い女性たちだった。
 リンよりも少し年上だろうか、まだ二十代前半ほど。着ている着物も高そうで身なりもよい女性だ。
 部屋の中にいるのは女性三人だけじゃない。黒い服を着た男が二人ほど立っていた。

「お前たちは歳を取り過ぎた。イエヤス様の側室には相応しくない。それと、イエヤス様の最後のお言葉だ、『今までありがとう、きみたちはとても素晴らしかったよ』だそうだ」
「いやぁぁ……いやぁぁぁ……おねがい、イエヤス様に会わせてぇ」
「ダメだ。着物は許してやるが、お前たちの持ち物は全て回収する」
「イエヤス様……イエヤス様ぁぁ……」

 リンは、何を言ってるのか理解出来なかった。
 この女性たちは、イエヤスの側室。歳を取り過ぎた? どう見ても二十代ではないか。しかも、とても美しい……。
 そして、黒服の一人がとんでもないことを言った。

「安心しろ。お前たちはすぐに忘れるさ、《記憶改変》をすればな……」

 黒服の一人が、女性の手を掴む。すると、女性がビクッと痙攣を起こし、そのまま気を失ってしまった。同様に、残り二人にも同じ処置を施す。
 黒服の二人目が、ニヤニヤしながら言う。

「おいおい、相変わらずえげつねぇな、お前の《記憶改変》……で、どうしたんだ?」
「これまでと同じだ。イエヤス様の側室ではなく、下町の遊女って記憶を植え付けた。あとは目が覚めれば『側室遊郭』に向かうだろ」
「はははっ、『側室遊郭』とは言ったもんだ。イエヤス様の側室が集まった遊郭で、ヤシャ王国のお偉いさん御用達の店とはな。けっこうな儲けがあるんだろ?」
「まぁな。こいつのおかげで、イエヤス様の散財が許されてるのもある。ほんと、SRギフト様々だぜ。イエヤス様が町を歩くだけで女が寄ってくる」
「あの女好きもいい趣味してるぜ。飽きたらポイだしよ!」

 この二人は、何を言ってるのだろうか。
 側室遊郭? 飽きたらポイ? ヤシャ王国のお偉いさんの御用達?

「……ま、さか」
「…………ん? 誰かいるのか?」
「ッ!!」

 部屋の中から、黒服の一人が言う。
 間違いなくリンのことだ。
 そして、襖が開かれ……。

「…………気のせいか」
「おい、鳴子が鳴った……侵入者だ」
「侵入者だと? わかった、行くぞ」

 黒服の二人は、三人の女性を置いて部屋を出て行った。
 すると、リンが立っていた場所にある『影』から、リンはゆっくりと顔を出す。

「ありがと、マルシア」
『きゅぅん……』

 リンは、一瞬で自分の影に避難していた。
 マルシアは常にリンの影の中にいるので、リンが命じれば『影師アサシン』の能力を使うことができる。

「……イエヤス様、まさかこんな……ひどい」

 側室が二十人いる。でも、歳を取れば捨てられる。
 しかも、記憶を改変し、遊郭に売り飛ばすという非道を行っていた。
 
「……許せない」

 リンは強く拳を握り――――――。



「ここで何をしている、と言いたいが……やれやれ、イエヤスめ、だから反対だったのだ、元とはいえ勇者を嫁にするなどと」



 リンの背後に、ヒデヨシが立っていた。


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