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第128話・バルバトス神父の仕事
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古ぼけた教会の一室に、ライトとシンクは案内された。
椅子とテーブルしかない部屋。テーブルの上には木製のカップがあり、そこからいい香りが漂っている。部屋に不釣り合いな高級紅茶だった。
バルバトス神父は、木製カップを手に取り、香りを堪能する。
「私は紅茶が好きでね……巡礼をしながら、いろいろな土地の紅茶を集めるのが趣味なんだ。神は贅沢を好まぬと言うが、これくらいは許してくれるだろう」
「紅茶はともかく、お茶菓子はケーキですか?」
「ああ。ケーキの材料は突き詰めると麦だろう? 麦はパンにも使われている。神に献上する物の一つに、葡萄酒やパンもある。問題ない」
「っぷ……それ、いいんですか?」
「おや? なにかおかしいかな?」
バルバトス神父は、苦笑しながら紅茶を啜る。
香りを堪能し、舌で味わい、喉に通る完食を楽しみ、反芻する。
なんとも美味しそうに紅茶を飲む姿に、ライトは自分も真似したくなった。
「ん……美味しいです」
「だろう? お嬢さんはどうかな?」
「…………おいしい」
「おい、シンク」
シンクは、どうも調子が悪かった。
この教会に、正確にはバルバトス神父と出会ってから殆ど喋らない。
紅茶をゴクゴク飲み、ケーキをパクパク食べているが、どうもバルバトス神父を警戒しているように見えた。
とりあえず、シンクは放っておいて、バルバトス神父と話をした。
「なるほど、ファーレン王国以外の町や国を回っているんですね」
「うん。ファーレン王国には勇者様がいるからね。人々が祈るだけでも神に願いは届く。勇者という存在があるかぎり、私の存在は必要ない。だから、それ以外の国や集落を回っているんだ」
「へぇ……このフィヨルド王国にはどれくらい滞在の予定で?」
「さぁね……人々の嘆きが聞こえなくなったら、かな?」
巡礼の旅をしながら、その土地の協会に身を寄せ、人々の嘆きや懺悔、相談に乗る仕事をしているバルバトス神父。
冒険者とはまた違う、誰かのためになる仕事をしている。
ライトにはそれが眩しく映った。
バルバトス神父は、シンクの皿が空になったことに気が付く。
「お嬢さん、ケーキのおかわりはどうかな?」
「いる!」
「ははは。待っててくれ」
バルバトス神父は、シンクの皿を持って退室した。
ライトは紅茶を飲む。すると、シンクがクイッと袖を引っ張る。
「ん、どうした?」
「……帰ろう、ライト」
「え? ケーキのおかわり」
「いらない。あの人、やだ……」
「……? どうしたんだよ。珍しい」
「だって……」
シンクが、怯えているように見えた。
S級賞金首であり、大罪神器【嫉妬】を持つシンクが、ライトの袖から手を離さず、上目遣いで言ったのだ。
「あの人、血の匂いする……ボクよりも濃い、殺しの匂い」
◇◇◇◇◇◇
バルバトス神父が戻ってきたが、手にケーキの皿はなかった。
「申し訳ない。仕事の時間になってしまった」
「いや、ありがとうございます。邪魔しちゃ悪いんで、これで失礼します」
「ああ。楽しい時間を過ごせた。ありがとう」
会釈をして、部屋から出る。
裏口がないので礼拝堂から外へ出ようとすると……。
「…………なんだこれ」
「人、いっぱい」
礼拝堂は、人でごった返していた。
祈りを捧げる者、バルバトス神父の名を叫ぶ者、涙を流す者。年代は老人が多く、すがるような目をしていた。なにより、生活が苦しいのか、ボロ切れを着ている者もいた。
「ああ、バルバトス神父……どうか聞いてください!」
「息子を、息子を……」
「どうか、どうか話を!」
礼拝堂の人たちは、なぜかライトとシンクに群がってきた。
ライトはシンクを背に隠し、殺到する人々からシンクを守る。
「まま、待った待った! 俺たちは神父じゃないですって!」
「お願い致します、お願いします!」
「話を聞いて! 助けて!」
「せがれを、せがれを!」
聞く耳持たないとはこのことか。
すると、先程までライトたちのいた部屋から、バルバトス神父が出てきた。
礼服を着て、穏やかな表情を浮かべている。
「みなさん、落ち着いて。話を聞きましょう」
「ああ、バルバトス神父様! 息子が……」
「せがれが連れて行かれた! あのクソ貴族が労働力とか言って!」
「お願いします、お願いします! どうか、どうか!」
殺到する住人たちに掴まれ、引っ張られても、バルバトス神父は穏やかだった。好き勝手言っているので情報がごちゃ混ぜだ。ライトとシンクは壁際に移動して話を聞いていたが、何が何だかわからない。
ゆっくりと手を上げると、人々は静かになる。
「話はわかりました。この町を収める貴族が、労働力の確保のためにあなた方の子供たちを無許可で連れて行ったということですね?」
ライトとシンクは顔を合わせる。だが、二人には今のごちゃ混ぜな情報が理解できなかったので、お互いに首を振った。
「わかりました。私が直接出向き、話を付けてきます。みなさんはここで、神に祈りを捧げながらお待ちください。いいですか、信じるものは救われます。必ず」
すると、人々は……全員がゆっくりと跪き、祈りを捧げ始めた。
バルバトス神父も祈りを捧げる。
ライトとシンクは、動けなかった。
「神のご加護を……」
「「「「「神のご加護を」」」」」
バルバトス神父は、ゆっくり歩きだす。
教会の扉が開き、外からの光が後光のように差した。
ライトとシンクは、バルバトス神父が見えなくなるまで見送っていた。
椅子とテーブルしかない部屋。テーブルの上には木製のカップがあり、そこからいい香りが漂っている。部屋に不釣り合いな高級紅茶だった。
バルバトス神父は、木製カップを手に取り、香りを堪能する。
「私は紅茶が好きでね……巡礼をしながら、いろいろな土地の紅茶を集めるのが趣味なんだ。神は贅沢を好まぬと言うが、これくらいは許してくれるだろう」
「紅茶はともかく、お茶菓子はケーキですか?」
「ああ。ケーキの材料は突き詰めると麦だろう? 麦はパンにも使われている。神に献上する物の一つに、葡萄酒やパンもある。問題ない」
「っぷ……それ、いいんですか?」
「おや? なにかおかしいかな?」
バルバトス神父は、苦笑しながら紅茶を啜る。
香りを堪能し、舌で味わい、喉に通る完食を楽しみ、反芻する。
なんとも美味しそうに紅茶を飲む姿に、ライトは自分も真似したくなった。
「ん……美味しいです」
「だろう? お嬢さんはどうかな?」
「…………おいしい」
「おい、シンク」
シンクは、どうも調子が悪かった。
この教会に、正確にはバルバトス神父と出会ってから殆ど喋らない。
紅茶をゴクゴク飲み、ケーキをパクパク食べているが、どうもバルバトス神父を警戒しているように見えた。
とりあえず、シンクは放っておいて、バルバトス神父と話をした。
「なるほど、ファーレン王国以外の町や国を回っているんですね」
「うん。ファーレン王国には勇者様がいるからね。人々が祈るだけでも神に願いは届く。勇者という存在があるかぎり、私の存在は必要ない。だから、それ以外の国や集落を回っているんだ」
「へぇ……このフィヨルド王国にはどれくらい滞在の予定で?」
「さぁね……人々の嘆きが聞こえなくなったら、かな?」
巡礼の旅をしながら、その土地の協会に身を寄せ、人々の嘆きや懺悔、相談に乗る仕事をしているバルバトス神父。
冒険者とはまた違う、誰かのためになる仕事をしている。
ライトにはそれが眩しく映った。
バルバトス神父は、シンクの皿が空になったことに気が付く。
「お嬢さん、ケーキのおかわりはどうかな?」
「いる!」
「ははは。待っててくれ」
バルバトス神父は、シンクの皿を持って退室した。
ライトは紅茶を飲む。すると、シンクがクイッと袖を引っ張る。
「ん、どうした?」
「……帰ろう、ライト」
「え? ケーキのおかわり」
「いらない。あの人、やだ……」
「……? どうしたんだよ。珍しい」
「だって……」
シンクが、怯えているように見えた。
S級賞金首であり、大罪神器【嫉妬】を持つシンクが、ライトの袖から手を離さず、上目遣いで言ったのだ。
「あの人、血の匂いする……ボクよりも濃い、殺しの匂い」
◇◇◇◇◇◇
バルバトス神父が戻ってきたが、手にケーキの皿はなかった。
「申し訳ない。仕事の時間になってしまった」
「いや、ありがとうございます。邪魔しちゃ悪いんで、これで失礼します」
「ああ。楽しい時間を過ごせた。ありがとう」
会釈をして、部屋から出る。
裏口がないので礼拝堂から外へ出ようとすると……。
「…………なんだこれ」
「人、いっぱい」
礼拝堂は、人でごった返していた。
祈りを捧げる者、バルバトス神父の名を叫ぶ者、涙を流す者。年代は老人が多く、すがるような目をしていた。なにより、生活が苦しいのか、ボロ切れを着ている者もいた。
「ああ、バルバトス神父……どうか聞いてください!」
「息子を、息子を……」
「どうか、どうか話を!」
礼拝堂の人たちは、なぜかライトとシンクに群がってきた。
ライトはシンクを背に隠し、殺到する人々からシンクを守る。
「まま、待った待った! 俺たちは神父じゃないですって!」
「お願い致します、お願いします!」
「話を聞いて! 助けて!」
「せがれを、せがれを!」
聞く耳持たないとはこのことか。
すると、先程までライトたちのいた部屋から、バルバトス神父が出てきた。
礼服を着て、穏やかな表情を浮かべている。
「みなさん、落ち着いて。話を聞きましょう」
「ああ、バルバトス神父様! 息子が……」
「せがれが連れて行かれた! あのクソ貴族が労働力とか言って!」
「お願いします、お願いします! どうか、どうか!」
殺到する住人たちに掴まれ、引っ張られても、バルバトス神父は穏やかだった。好き勝手言っているので情報がごちゃ混ぜだ。ライトとシンクは壁際に移動して話を聞いていたが、何が何だかわからない。
ゆっくりと手を上げると、人々は静かになる。
「話はわかりました。この町を収める貴族が、労働力の確保のためにあなた方の子供たちを無許可で連れて行ったということですね?」
ライトとシンクは顔を合わせる。だが、二人には今のごちゃ混ぜな情報が理解できなかったので、お互いに首を振った。
「わかりました。私が直接出向き、話を付けてきます。みなさんはここで、神に祈りを捧げながらお待ちください。いいですか、信じるものは救われます。必ず」
すると、人々は……全員がゆっくりと跪き、祈りを捧げ始めた。
バルバトス神父も祈りを捧げる。
ライトとシンクは、動けなかった。
「神のご加護を……」
「「「「「神のご加護を」」」」」
バルバトス神父は、ゆっくり歩きだす。
教会の扉が開き、外からの光が後光のように差した。
ライトとシンクは、バルバトス神父が見えなくなるまで見送っていた。
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