勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

文字の大きさ
127 / 214

第128話・バルバトス神父の仕事

しおりを挟む
 古ぼけた教会の一室に、ライトとシンクは案内された。
 椅子とテーブルしかない部屋。テーブルの上には木製のカップがあり、そこからいい香りが漂っている。部屋に不釣り合いな高級紅茶だった。
 バルバトス神父は、木製カップを手に取り、香りを堪能する。

「私は紅茶が好きでね……巡礼をしながら、いろいろな土地の紅茶を集めるのが趣味なんだ。神は贅沢を好まぬと言うが、これくらいは許してくれるだろう」
「紅茶はともかく、お茶菓子はケーキですか?」
「ああ。ケーキの材料は突き詰めると麦だろう? 麦はパンにも使われている。神に献上する物の一つに、葡萄酒やパンもある。問題ない」
「っぷ……それ、いいんですか?」
「おや? なにかおかしいかな?」

 バルバトス神父は、苦笑しながら紅茶を啜る。
 香りを堪能し、舌で味わい、喉に通る完食を楽しみ、反芻する。
 なんとも美味しそうに紅茶を飲む姿に、ライトは自分も真似したくなった。

「ん……美味しいです」
「だろう? お嬢さんはどうかな?」
「…………おいしい」
「おい、シンク」

 シンクは、どうも調子が悪かった。
 この教会に、正確にはバルバトス神父と出会ってから殆ど喋らない。
 紅茶をゴクゴク飲み、ケーキをパクパク食べているが、どうもバルバトス神父を警戒しているように見えた。
 とりあえず、シンクは放っておいて、バルバトス神父と話をした。
 
「なるほど、ファーレン王国以外の町や国を回っているんですね」
「うん。ファーレン王国には勇者様がいるからね。人々が祈るだけでも神に願いは届く。勇者という存在があるかぎり、私の存在は必要ない。だから、それ以外の国や集落を回っているんだ」
「へぇ……このフィヨルド王国にはどれくらい滞在の予定で?」
「さぁね……人々の嘆きが聞こえなくなったら、かな?」

 巡礼の旅をしながら、その土地の協会に身を寄せ、人々の嘆きや懺悔、相談に乗る仕事をしているバルバトス神父。
 冒険者とはまた違う、誰かのためになる仕事をしている。
 ライトにはそれが眩しく映った。
 バルバトス神父は、シンクの皿が空になったことに気が付く。

「お嬢さん、ケーキのおかわりはどうかな?」
「いる!」
「ははは。待っててくれ」

 バルバトス神父は、シンクの皿を持って退室した。
 ライトは紅茶を飲む。すると、シンクがクイッと袖を引っ張る。

「ん、どうした?」
「……帰ろう、ライト」
「え? ケーキのおかわり」
「いらない。あの人、やだ……」
「……? どうしたんだよ。珍しい」
「だって……」

 シンクが、怯えているように見えた。
 S級賞金首であり、大罪神器【嫉妬】を持つシンクが、ライトの袖から手を離さず、上目遣いで言ったのだ。

「あの人、血の匂いする……ボクよりも濃い、殺しの匂い」

 ◇◇◇◇◇◇

 バルバトス神父が戻ってきたが、手にケーキの皿はなかった。
 
「申し訳ない。仕事の時間になってしまった」
「いや、ありがとうございます。邪魔しちゃ悪いんで、これで失礼します」
「ああ。楽しい時間を過ごせた。ありがとう」

 会釈をして、部屋から出る。
 裏口がないので礼拝堂から外へ出ようとすると……。

「…………なんだこれ」
「人、いっぱい」

 礼拝堂は、人でごった返していた。
 祈りを捧げる者、バルバトス神父の名を叫ぶ者、涙を流す者。年代は老人が多く、すがるような目をしていた。なにより、生活が苦しいのか、ボロ切れを着ている者もいた。

「ああ、バルバトス神父……どうか聞いてください!」
「息子を、息子を……」
「どうか、どうか話を!」

 礼拝堂の人たちは、なぜかライトとシンクに群がってきた。
 ライトはシンクを背に隠し、殺到する人々からシンクを守る。

「まま、待った待った! 俺たちは神父じゃないですって!」
「お願い致します、お願いします!」
「話を聞いて! 助けて!」
「せがれを、せがれを!」

 聞く耳持たないとはこのことか。
 すると、先程までライトたちのいた部屋から、バルバトス神父が出てきた。
 礼服を着て、穏やかな表情を浮かべている。

「みなさん、落ち着いて。話を聞きましょう」
「ああ、バルバトス神父様! 息子が……」
「せがれが連れて行かれた! あのクソ貴族が労働力とか言って!」
「お願いします、お願いします! どうか、どうか!」

 殺到する住人たちに掴まれ、引っ張られても、バルバトス神父は穏やかだった。好き勝手言っているので情報がごちゃ混ぜだ。ライトとシンクは壁際に移動して話を聞いていたが、何が何だかわからない。
 ゆっくりと手を上げると、人々は静かになる。

「話はわかりました。この町を収める貴族が、労働力の確保のためにあなた方の子供たちを無許可で連れて行ったということですね?」

 ライトとシンクは顔を合わせる。だが、二人には今のごちゃ混ぜな情報が理解できなかったので、お互いに首を振った。

「わかりました。私が直接出向き、話を付けてきます。みなさんはここで、神に祈りを捧げながらお待ちください。いいですか、信じるものは救われます。必ず」

 すると、人々は……全員がゆっくりと跪き、祈りを捧げ始めた。
 バルバトス神父も祈りを捧げる。
 ライトとシンクは、動けなかった。

「神のご加護を……」
「「「「「神のご加護を」」」」」

 バルバトス神父は、ゆっくり歩きだす。
 教会の扉が開き、外からの光が後光のように差した。
 
 ライトとシンクは、バルバトス神父が見えなくなるまで見送っていた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...