【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第7章 世界樹を育てつつ生きていこう

幕間の物語48.不運な隊長は取り残される

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 世界樹ファマリーのすぐ近くに、異世界転移者の仮設住居が作られた。
 突貫工事でそれを作った大工たちはその後、公衆浴場を作った。その後にやっと兵舎の建設に取り掛かろうとしていた。
 だがしかし、それは数日後には止められてしまった。
 フェンリルが聖域の中を守る事が決まり、世界樹ファマリー周辺に軍を展開する必要がなくなってしまったからだ。

「と、いう訳でエルフとの国境付近の守りを固める者たちと、ドランに戻る者たちの他に、聖域の外側の建物の管理と世界樹ファマリーの監視をする隊をくじで決めようと思う。あたりを引いた者の隊をここの警備として残すから心して引くように」

 ドラン軍を任されているアルヴィンがそう言った時に、天を仰いだ者がいた。その隣にいた女性は手で顔を覆っている。
 周囲にいた隊長たちはそんな二人の様子を見て、苦笑を浮かべていた。

「ラック隊長。絶対に、当たらないでくださいね」
「お前それ勇者様たちの世界ではフラグって言うんだぞ」
「隊長の不運を私のせいにしないでいただけます?」

 ぼそぼそと小声でやり取りしていたラックと、カレンは気を取り直して話を続けていたアルヴィンを見る。
 アルヴィンは最近急激に生えてきた黒い髪を撫でながら、真っすぐにラックを見ていた。

「主な業務は周囲に出てくるアンデッドの討伐だが、強力な魔物が出てしまった場合は聖域に逃げ込め。フェンリルに話を通してあるらしいから、入った瞬間食われる事はないはずだ。何か質問はあるか?」
「アルヴィン団長、よろしいでしょうか」
「なんだ、ラック」
「どうして私を見て業務について話したのでしょうか」
「なぜだろうな。ところでラックよ。前回は最後にくじを引いたわけだが、今回はどうしたい? 特別に好きなタイミングで引く事を許すぞ」
「……残り物には福がなかったので、一番最初に引かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「構わんぞ。そこの箱の中に紙が入っている。好きなものを一枚だけ取って中身を確認しろ」
「……もう一つよろしいでしょうか、アルヴィン団長」
「なんだ? さっさと引け、ラック」
「私の代わりにカレンが引いてもよろしいでしょうか?」
「ちょ、ちょっと隊長、何言って――」
「構わんぞ。何でもいいからとっとと引いてくれ」

 カレンが小さな声でラックに抗議をしたが、誰もそれに耳を貸さず、アルヴィンも聞こえていなかったのかあっさり許可を出してしまった。
 そうなってしまったらもう引くしかない。
 カレンは覚悟を決めてくじを引いた結果、他の者たちはくじを引く必要がなくなったため、会議は予定よりも早く終わった。



 聖域の外側に作られた建物は、レンガ造りで民家の様な雰囲気だった。
 本格的に作り始める前に、職人集団が共同生活をしていた場所だからだ。今後、世界樹の周囲に街を作っていく時にも活躍する予定のその場所に、ラック隊の面々が分かれて生活をし始めた。
 くじを引いた数日後にはラック隊以外の者たちは、世界樹ファマリー周辺から去り、それぞれの持ち場に戻ってしまっている。

「ほんと、ラック隊長のせいでこんなとこで居残りとかマジ勘弁してほしいよなぁ。ドランに戻ったら愛しのリリアナちゃんの所に行って、癒してもらう予定だったのによ」
「お前、また金使い過ぎで給料日前に倒れるんじゃねぇぞ。……異世界転移者様が作ってくれた魔道具のおかげで、アンデッド共はこの建物の周囲に近づく事もできねぇからまだましだけどなー」
「アンデッドがいつ襲ってくるか分からない状態で寝てらんねぇよなぁ」
「うるさいぞ、お前ら」

 民家の中で駄弁っていた三人の元に、ラック隊長が姿を現した。
 いつもの揃いの防具ではなく、寝間着姿の彼は寝癖がついた黄色の短髪を手で押さえている。
 眠たそうに大きく欠伸をすると、髪と同色の頼りなさそうに垂れ下がった瞳が潤む。

「今回くじを引いたのは俺じゃなくて、カレン副長だ。文句があるならカレン副長に行ってくるように」
「カレン副長、めっちゃ機嫌が悪いからパスで」
「右に同じく」
「向かいに同じく」
「だったら黙って職務に励め」
「今日は非番じゃないっすか」
「って言ってもここじゃ何もする事ねぇけどなぁ」
「愛しのリリアナちゃんを想って発散しとくか」
「そういう事は夜にやれ。まだ日は高いし、畑作業の手伝いでもしてくるか? あの小さいのが言うには、頑張ったらその分、異世界転移者様の仲間が欲しい物を買ってきてくれるそうだぞ」
「ちょっと食材の調達をしてもらうか」
「女の子連れてきてもらうとかってできねぇかなー」
「どっちも捨てがたいなぁ」

 部下たちが好き勝手に欲しい物をあげていく。
 そんな彼らを放っておいて、味気ない糧食を流し込み、二階の自室に戻ると着替えを済ませる。そして階段を下り、まだ欲しい物が何か話し合いをしている部下たちを放っておいて外に出た。
 向かう先は聖域。頭に花を咲かせた小さな子どものような見た目のドライアドたちが集まって作業をしている所だ。

「確かにこんなとこに置いてけぼりは不運だけど、魔道具師とのつながりを作れるかもしれないから悪くねぇよな。ちょっとでも心証をよくしておいて、魔道具の依頼をしやすくしておくか」
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