【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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後日譚

後日譚182.勇者は強制連行された

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 金田陽太はシグニール大陸にある神聖エンジェリア帝国に召喚された勇者である。
 日本人である事を隠すため、という目的とは関係なく、魔道具で髪の色を金色にしている彼は『剣聖』の加護を授かっていた。
 その加護は熟練度を増せば増すほど近接戦闘にも遠距離戦闘にも対応できるようになっていく加護だ。

『ユート選手、上空から無数の火球をヨータ選手に向けて放つ――が、ヨータ選手はそれよりも早く動いて避けていく!』

 人の頭ほどに圧縮された火球が延々と上空から降り注いだとしても、『身体強化』の魔法によって強化された脚力のみで避け続ける陽太。彼は上空に留まっている黒髪の男性の様子を窺っている様だった。
 火球が会場に着弾すると爆発し、周囲に瓦礫が飛び散るがそれすらも陽太は予想して距離を置き、悠々と避けていた。

「明の劣化版か? …………いや、油断はいけねぇよなぁ」

 同じく転移者である黒川明は『全魔法』の加護を授かっている。それと比べると火魔法しか使ってこない相手は恐るるに足りない相手なのでは? と陽太の中で結論が出かけたが、火魔法に特化した加護であれば明が知らない奥の手があるのかもしれない。それこそ自分のように何かしらの『技』を習得している可能性だってある。
 そう判断した陽太は、穴ぼこだらけになりつつある会場の土台を蹴らずに、空を蹴って駆け回り始めた。
 陽太とは同郷ではない対戦相手の黒髪の男性は間断なく無詠唱で魔法を行使しながら纏っている炎で宙に留まっている。降りてくる気配がないのであれば、遠距離攻撃をするか、自分から近づいて行くしかない。
 相手の得意な戦い方に合わせて真っ向から叩き潰すのも面白そうだったが、陽太が選んだのは近接戦闘だった。
 空を駆け回る陽太に向かって放たれる圧縮された火球は、会場ではなく観客席にも向かい始めた。
 子どもたちの悲鳴が上がるが、それらはすべて観客席の中に配置されていた仮面をつけたエルフたちによって無効化されていく。

『えー、魔法の流れ弾にご注意ください、と言いたいところだが世界樹の番人である者たちにとってはこの程度であれば防げる様子だ! 子どもたちは現役の勇者と勇者の子孫の戦いを刮目して見よ!』

 会場に設置された魔道具から実況兼解説役の男の声がする。
 陽太は耳と目で実際に安全である事を確認すると、さらに周りに全く配慮せずに空を駆け回り始め、徐々に距離を詰めていく。
 ユウトも上空に上昇しながら魔法を放ち続けているのだが、無数の火球に混ぜた追尾する火球は陽太に見切られ、彼が剣を振るうと両断されてしまった。

『空間を切り裂く剣聖の加護を授かりし者の御業を放つヨータ選手! いやぁ、アレは使える者が少ない技なんだけどなぁ、流石現役勇者! これは好条件で雇われるのも時間の問題かぁー!?』
「遊びは終いだ! 『断空斬!』」

 大振りで剣を振った陽太の上空から向かってきていた無数の火球が、剣の軌跡をなぞるように消失した。その隙間に向かって『身体強化』を全力で用いて一気に飛び上がった。目指すは見えない斬撃を避けたユウトだ。
 よ
「それはこっちのセリフだ! 『メルトバーナー』」
「『剛魔斬!』」

 青白い火柱が一気に距離を詰めてきた陽太を包み込むかと思われたその瞬間、陽太は剣を突き出すと、メルトバーナーが掻き消え、驚きの表情を見せたユウトをその勢いのまま陽太はぶった切った。



『えー、流石は今代の勇者ヨータ選手。神々から直接加護を授かった勇者にしか使えないと言われているいかなる魔法も切り裂く剣技を当然の様に習得していました。これはもう引っ張りだこの未来が見えますね~。おっと、VIP席から何やら折りたたまれた紙が飛んできました。えーっとなになに? なんと! VIP席のお二方は突如乱入してきたドライアドたちの対応をしていたせいで全く見ていなかったと情報が届きました。残念!』
「うっそつけ! 観客席を心配そうに見てたの知ってっからな! おいこら、シズト! こっち見ろ~~~」
『はい。勝者であるヨータ選手がエルフたちに控室に運ばれている間にバッサリと両腕を両断されたユート選手の治療が終わりました。いやぁ、加護持ちはタフですけど、やっぱり死者すら蘇らせるのではないかとデマが流れるくらいにはエリクサーの威力は絶大ですねー。即死は流石に止められないそうですが、大会参加者よりも実力が上の者たちが各国から派遣されているので万が一の時は止められるので、死人が出る事はほぼありません! ご安心してご覧ください!』

 実況の声が会場に響く中、勝者である陽太は引き摺られながらVIP席に向けて叫び、敗者であるユウトはただただ黙ってVIP席に向けて頭を下げてから控室へと向かうのだった。
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