1,050 / 1,375
後日譚
後日譚238.事なかれ主義者は識別させたい
しおりを挟む
翌日、エルフたちの正装である真っ白な布地に金色の刺繍が施された服に袖を通して外に出ると、レモンちゃんに加えて数人ドライアドがくっついた。いつもの事なので特に気にせず、転移陣のある所へと移動すると、皆揃っていた。
冒険者姉妹であるラオさんとルウさんはお揃いの防具を身に着けていて、ドーラさんはいつもの全身鎧を着ていた。
レヴィさんは動きやすさを重視しているからかオーバーオールを着ているけれど、それでいいんだろうか? メイド服を着たセシリアさんが諦めたのか、それとも何も思わなくなったのか、レヴィさんの近くで静かに控えていた。
今までは仕事があるからとタルガリア大陸には行く様子がなかったランチェッタさんも今回はついてくる気満々の様子である。専属侍女であるディアーヌさんに加えて、近衛兵の方々がドライアドたちにじろじろ見られながら待機していた。
うん、ガレオールの近衛兵たちはレヴィさんと一緒に畑仕事してないから警戒されるよね。
自分たちもああだったな、なんて事を思っているのか優しい眼差しを彼らに向けているのはレヴィさんに扱き使われている近衛兵たちである。今日は農具ではなく武具をちゃんと手に持っていた。
「ったく、どんだけ準備に時間がかかってんだよ。ほら、さっさと行くぞ」
「なんで陽太が仕切ってんのさ」
声が聞こえた方に視線を向けると、ランチェッタさんの大きく開いた胸元をちらちらと見ている金髪の青年がいた。金田陽太である。その近くには彼と一緒に冒険者として研鑽を積んでいる真っ最中の黒川明と茶木姫花がいた。
「活躍できそうな場所が欲しいって言うから声をかけてあげたけど、態度次第じゃ置いてくからね? そうなりたくないなら、くれぐれも二人の手綱はしっかりと握っておいてね?」
「分かってます」
しっかりと頷いて返事をしたのは明だ。もう酒が飲める年齢になっているのに顔立ちは僕以上に幼く、中性的である。黒い髪に黒い瞳だから舐められる事はほとんどないらしいけど、それでも揶揄われる事はあるらしく苦労している様だった
そんな彼がまた新しい土地に同行したい、って言ってきたのには驚いたなぁ。
政情が不安定だから活躍の場はあるだろうけど、向こうの勇者と何事もないといいんだけど……。
そんな事を思いながら僕たちはタルガリア大陸へと転移した。
転移先では既にマナブさんたちが待っていた。陽太はレイカさんとココロさんに気付くとそちらを見始める。……こいつ、その内捕まるんじゃないかな。
「オールダムへようこそ。マナブです。よろしくお願いします」
「明です。こちらこそよろしくお願いします」
マナブさんと明が握手をしている。傍目から見ていてもやっぱり明の方が年下に見えるんだよなぁ。
明たちを誘った事は事前にマナブさんたちには共有されている。『勇者』と呼ばれるような加護を授かったのがマナブさんたち側には二人しかいないからか、快く受け入れてくれた。
どこに派遣されてどのような事をするか、細かい所の打ち合わせは当事者同士がするだろう、という事で僕は明たちと別れて行動する事となった。転移陣までは引っ付いていたドライアドたちが案内できるようなのでお願いした。
新しく作られた拠点に繋がる転移陣は、『訓練場』と呼ばれている大きな建物の中にあった。
ファマリアにある『円形闘技場』と同じような作りのそこには常に兵士が配置されていて、厳重な警備体制が敷かれていた。警備をしているのは刺青が目立つ兵士さんたちだ。現地の人たちで、全身に刺青がある人もいた。それが呪いの後遺症を隠すためなのか、それとも呪われていないけど呪われている人を目立たせないために刺青を入れているのかは分からない。
彼らに止められる事もなく、僕の体に引っ付いたまま髪の毛で方向を指し示してくれるドライアドの案内に従って進んでいると闘技場の舞台に出た。警戒をしている兵士は少数で、その他の兵士たちは鍛錬をしている様だった。
「まずはどこから行くのですわ?」
「とりあえずジュリエッタさんの所かな。……そういえば、ランチェッタさんは別行動しなくていいの?」
コーヒーの存在を知った彼女はそれが目的で今回ついて来ているはずだった。てっきり陽太たちと一緒にマナブさんと話をするためにあの場に残ると思ったんだけど、彼女はディアーヌさんと話をしながらついて来ていた。彼女たちのさらに後ろには褐色肌の近衛兵と、肌が白い近衛兵が隊列を組んでいる。
「あの場に残ったらまたじろじろ見られるから嫌よ」
「なるほど。……なんかごめんね」
「シズトが謝る事じゃないわ。……こっちの勇者もハーレムを作りたいって言ってた人がいるみたいだけど、やっぱり勇者は複数の女性を娶りたがるのかしら?」
「いやぁ…………どうなんだろうね。明は一人でいいって言ってるし、人によるんじゃないかな? それより、転移陣が三つあるけど、ジュリエッタさんがいるのはどの転移陣かな?」
「ジュリエッタって誰?」
「誰だろーね」
「分かんないねー」
「れも~?」
「ジュリウス、分かる?」
「はい、報告に含まれていました」
今後、ドライアドたちに認識して欲しい人には目印を個別で渡した方が良いかもしれない。
そんな事を思いながら、レヴィさんについて来た近衛兵たちが先に向こう側に転移するのを見送るのだった。
冒険者姉妹であるラオさんとルウさんはお揃いの防具を身に着けていて、ドーラさんはいつもの全身鎧を着ていた。
レヴィさんは動きやすさを重視しているからかオーバーオールを着ているけれど、それでいいんだろうか? メイド服を着たセシリアさんが諦めたのか、それとも何も思わなくなったのか、レヴィさんの近くで静かに控えていた。
今までは仕事があるからとタルガリア大陸には行く様子がなかったランチェッタさんも今回はついてくる気満々の様子である。専属侍女であるディアーヌさんに加えて、近衛兵の方々がドライアドたちにじろじろ見られながら待機していた。
うん、ガレオールの近衛兵たちはレヴィさんと一緒に畑仕事してないから警戒されるよね。
自分たちもああだったな、なんて事を思っているのか優しい眼差しを彼らに向けているのはレヴィさんに扱き使われている近衛兵たちである。今日は農具ではなく武具をちゃんと手に持っていた。
「ったく、どんだけ準備に時間がかかってんだよ。ほら、さっさと行くぞ」
「なんで陽太が仕切ってんのさ」
声が聞こえた方に視線を向けると、ランチェッタさんの大きく開いた胸元をちらちらと見ている金髪の青年がいた。金田陽太である。その近くには彼と一緒に冒険者として研鑽を積んでいる真っ最中の黒川明と茶木姫花がいた。
「活躍できそうな場所が欲しいって言うから声をかけてあげたけど、態度次第じゃ置いてくからね? そうなりたくないなら、くれぐれも二人の手綱はしっかりと握っておいてね?」
「分かってます」
しっかりと頷いて返事をしたのは明だ。もう酒が飲める年齢になっているのに顔立ちは僕以上に幼く、中性的である。黒い髪に黒い瞳だから舐められる事はほとんどないらしいけど、それでも揶揄われる事はあるらしく苦労している様だった
そんな彼がまた新しい土地に同行したい、って言ってきたのには驚いたなぁ。
政情が不安定だから活躍の場はあるだろうけど、向こうの勇者と何事もないといいんだけど……。
そんな事を思いながら僕たちはタルガリア大陸へと転移した。
転移先では既にマナブさんたちが待っていた。陽太はレイカさんとココロさんに気付くとそちらを見始める。……こいつ、その内捕まるんじゃないかな。
「オールダムへようこそ。マナブです。よろしくお願いします」
「明です。こちらこそよろしくお願いします」
マナブさんと明が握手をしている。傍目から見ていてもやっぱり明の方が年下に見えるんだよなぁ。
明たちを誘った事は事前にマナブさんたちには共有されている。『勇者』と呼ばれるような加護を授かったのがマナブさんたち側には二人しかいないからか、快く受け入れてくれた。
どこに派遣されてどのような事をするか、細かい所の打ち合わせは当事者同士がするだろう、という事で僕は明たちと別れて行動する事となった。転移陣までは引っ付いていたドライアドたちが案内できるようなのでお願いした。
新しく作られた拠点に繋がる転移陣は、『訓練場』と呼ばれている大きな建物の中にあった。
ファマリアにある『円形闘技場』と同じような作りのそこには常に兵士が配置されていて、厳重な警備体制が敷かれていた。警備をしているのは刺青が目立つ兵士さんたちだ。現地の人たちで、全身に刺青がある人もいた。それが呪いの後遺症を隠すためなのか、それとも呪われていないけど呪われている人を目立たせないために刺青を入れているのかは分からない。
彼らに止められる事もなく、僕の体に引っ付いたまま髪の毛で方向を指し示してくれるドライアドの案内に従って進んでいると闘技場の舞台に出た。警戒をしている兵士は少数で、その他の兵士たちは鍛錬をしている様だった。
「まずはどこから行くのですわ?」
「とりあえずジュリエッタさんの所かな。……そういえば、ランチェッタさんは別行動しなくていいの?」
コーヒーの存在を知った彼女はそれが目的で今回ついて来ているはずだった。てっきり陽太たちと一緒にマナブさんと話をするためにあの場に残ると思ったんだけど、彼女はディアーヌさんと話をしながらついて来ていた。彼女たちのさらに後ろには褐色肌の近衛兵と、肌が白い近衛兵が隊列を組んでいる。
「あの場に残ったらまたじろじろ見られるから嫌よ」
「なるほど。……なんかごめんね」
「シズトが謝る事じゃないわ。……こっちの勇者もハーレムを作りたいって言ってた人がいるみたいだけど、やっぱり勇者は複数の女性を娶りたがるのかしら?」
「いやぁ…………どうなんだろうね。明は一人でいいって言ってるし、人によるんじゃないかな? それより、転移陣が三つあるけど、ジュリエッタさんがいるのはどの転移陣かな?」
「ジュリエッタって誰?」
「誰だろーね」
「分かんないねー」
「れも~?」
「ジュリウス、分かる?」
「はい、報告に含まれていました」
今後、ドライアドたちに認識して欲しい人には目印を個別で渡した方が良いかもしれない。
そんな事を思いながら、レヴィさんについて来た近衛兵たちが先に向こう側に転移するのを見送るのだった。
33
あなたにおすすめの小説
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる