とある令嬢の断罪劇

古堂 素央

文字の大きさ
5 / 5

幕切

しおりを挟む
 ロープが弾けたときにはもう、令嬢の首は断頭台の上を跳ねながら転がっていた。
 血しぶきが飛び、聴衆が狂気に満ちた歓声を上げる。
 ここに居合わせた者は皆、歴史の生き証人だ。
 そのひとりである王子もまた、非日常の光景を前に麻痺した精神状態でこの場に立っていた。

 腕の中の聖女がふらりと一歩前に出る。
 いかに気丈な彼女でも衝撃を受けていないはずはない。その思いから王子は慌てて聖女を支えようとした。
 それでも聖女は王子の腕を強引に振り切った。
 聖女はまっすぐ歩いていく。毒々しく広がる血だまりの中へと。

「どこへ行くのだ……! 待て、そっちに行くな!」

 手を伸ばしたまま、王子は追いかけることもできずに固まった。
 聖女はおかまいなしに歩を進める。そして断頭台近くで静かに立ち止まった。
 足元には生首が転がっている。
 断首されて尚、令嬢の口元は至福の笑みを浮かべていた。
 誰もが言葉を失って見守る中、スカートが汚れることも厭わずに聖女は血の海で膝をついた。

「ふふ……これで貴女はもう誰のものにもならないわ……」

 令嬢の頭を、宝物を扱うように聖女は胸に抱きしめた。

「君は……気が触れてしまったのか……?」
「いいえ、王子。わたしはいたって正常です。あ、でもそうでもないかも。生まれる前からとっくに狂っていたのかもしれないし?」

 聖女は可愛らしく小首をかしげた。
 誰もが心を奪われるような無垢な笑顔だ。生首を抱えたままでさえなかったら。
 その生首と見つめ合うかのように聖女はうっとりと呟いた。

「誰よりも愛してる……」

 愛おしそうに令嬢の頭を抱きしめる。

「わたしも今逝くね。何も心配いらないわ。だって来世で結ばれればいいんだもの。だけど逃げたりしたら絶対に許さないんだから」

 言いながら忍ばせてあった短剣を首筋に押し当て、聖女は迷いなく首を搔き切った。
 生首を腕に聖女が地に倒れ伏す。顔半分を血だまりに沈め、聖女から流れ出る血もその海の中へと加わっていく。

 惨状に、残された王子は呆然と呟いた。

「なぜだ……」

 何が起きたのか。
 何があったのか。

「俺は何を間違えたのだ……俺はどこで間違えたのだ……」

 婚約者を貶めて断罪した筈が、断罪されたのは自分だったのか。
 自分はただ、愛する妹と結ばれ幸せになりたかっただけだ。
 生まれ直しても、それすら許されないと言うのか。

 目の前の現実を拒絶して、王子はその場で崩れ落ちた。


 fin



しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

Andy
2025.10.28 Andy

説明文を読んだ時になんて大変な話なんだ、と思い
文字数見てこんなに短くまとめられるの!?と思ったんですが、
読了後完璧に面白くまとめられていて感銘を受けました笑。

戦果を乗り越えてそれぞれ闇をひきずった今世でしたが、
来世があれば幸せになって欲しいランキングという
至極俗で無粋なものを思いついたので発表します。
ダントツ1位妹 2位護衛 3王子

できれば護衛も来世は自分の幸せために生きて欲しい。
面白かったです!

2025.10.28 古堂 素央

説明文通りに短くうまくまとめられていたとのこと、とってもうれしいお言葉です
長編と違って、短編はいかに短くその世界を一包みにまとめ上げられるかだと思っています
幸せになって欲しいランキングもありがとうございます😊
三人の幸せを願えるAndyさんが素敵です
ご感想ありがとうございました✨

解除
lilyan
2025.09.17 lilyan

人の業を美しい流れに乗せてまとめ上げた素敵なお話だと思いました。
感動をありがとうございます。

2025.09.17 古堂 素央

少しでもお心に触れられたのなら、わたしもうれしく思います。
書いた甲斐がありました。
素敵なご感想をありがとうございました。
励みになります✨

解除
长纱
2025.09.11 长纱

自分の気持ちに蓋をしようとしたけど過ち犯し更には許されてしまった当時の状況が、己の為でなく国の為に生き続けた愛する人が死ぬ瞬間に渇望した初めての欲は何があろうと叶えたくなるでしょうね。
国の為に己を犠牲にして親友の過ちも当時の状況踏まえて許し、今世で妹とは血縁ではないし身分と婚約者に民意を何とかすれば手に入れられた幸せの為に我欲で突き進む元王こと王子も
姫は結局幸せではなく初恋を拗らせそこに希望を見出し生き繋ぐしかなかった背景も鬱々しい物語でした。
騎士の気持ちも王の気持ちも姫の気持ちも人間が元来持つ思い込みからくる恋愛感情も含まれてそうですが彼等なりの愛し方が各々譲れず烈しく前世だけでなく今世にまで影響されていて、縁結ばれてしまっているのだろうなと感じました。
来世があってもまた惹かれ合うのは一方通行そうな所や今の所誰も折れなさそうな所で幸せと程遠い3人の歪な関係性に引き込まれました。
話し合うには荒唐無稽過ぎ、始まりの3人の想いが強過ぎるので永遠に囚われてそうな3人の行き着く先は…と考えさせられました。

2025.09.11 古堂 素央

ご感想ありがとうございます!
三者三様の思いを深く読み取っていただけてとってもうれしいです
わたし自身も書きながら、来世で出会った3人はどんな選択をするのだろうとあれこれと考えを巡らせていました
立場や性別、年齢、時代背景によっても変わってくるのでしょうが、きつく絡まった縁を解くには過去世の記憶はない方がいいのかもしれませんね
歪な3人の行きつく先、そして世界の広がりに思いを馳せていただいたこと心より感謝します✨

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

・めぐめぐ・
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。 彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。 婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を―― ※終わりは読者の想像にお任せする形です ※頭からっぽで

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

何がために何をする

F.conoe
ファンタジー
悪役令嬢は断頭台のつゆと消えた。 そして国は守られる。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。