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1.陰陽師
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「ねぇ、陰陽師さん。あたし達の将来について占ってちょうだい」
若い女性客が所々汚れた白い狩衣を着た青年に威圧的に言った。
「畏まりました」
蓮は机の上に置いてある白い紙に天地盤を書き出した。
目にも止まらぬスピードで文字を書き足していく。
今、蓮が行っているのは六壬神課。時刻を基に天文と干支術を組み合わせて占う。
一見地味な占いだが、蓮は一番得意であった。
蓮は出来上がった天地盤をじっと見つめる。
蓮の短い黒髪が風も無いのにふわりと靡いた。
蓮の全ての物事を見通すかのような青い瞳が閉じられる。
「貴女の彼氏様には他に好きな方がいらっしゃるようです。二ヶ月後には別れるでしょう」
蓮は何の感情もこめずに女性客に伝えた。
「なんですって!」
「占いは以上です。代金をお納めください」
蓮はにこやかに微笑み、女性客に代金を請求した。
女性客は顔を真っ赤にして蓮の態度に逆上した。
「もう一度占ってちょうだい!」
「駄目です。何度占っても同じです」
蓮がきっぱりと言った。
「私の彼氏が他の女なんかと浮気するわけないでしょう! 私を愛しているのに!」
「そう思うなら、占いなんてしなければ良いのでは?」
蓮は面倒くさそうに冷たく言い放った。
「このインチキ陰陽師!」
女性客が蓮に殴りかかってきた。
蓮がひょいと避けた瞬間に穴の開いた烏帽子が蓮の頭から落ちる。
「おっと、貴女のようなお美しいお嬢さんが暴力なんて似合いませんよ」
金髪の青年が女性客の腕を掴んだ。
「あら、勇者様。ご機嫌ようですわ」
女性客は金髪の青年を見て、ぽうと頬を赤らめた。
「占いなんですから良い結果だけ信じれば良いと思いますよ。美しいお嬢さん」
金髪の青年はニコリと女性客に微笑んだ。
美青年の微笑みはなんという破壊力なのだろう。
女性客は先ほどとは違う意味で真っ赤になった。
「はい! そうですわね! 勇者様、よろしければ後であたしと二人でお茶しませんか?」
「良いですね。楽しみにしています」
女性客は上機嫌で代金を支払い、帰って行った。
「……商売の邪魔しないでください。リアム様」
蓮は碧い瞳でリアム様と呼んだ金髪の青年を睨みつける。
「お前、もう少し言い方考えろよ。俺が止めなきゃ殴られていたぞ」
リアムと呼ばれた金髪の青年は眉をひそめて言った。
「ふん!」
蓮は大きなお世話だと言わんばかりの態度で乱暴に烏帽子を直した。
「そんなに乱暴に扱うと、また破れて穴が空くぞ」
「ふん!」
このいけ好かないリアムという男は蓮の幼馴染である。
金髪にエメラルドグリーンの瞳という派手な容姿もいけ好かない。
誰にでも優しいというその性格もいけ好かないし、やたらと蓮に構ってくるのもいけ好かない。
しかも、いつの間にか村の勇者になっているし。
剣の腕が立つリアムはいつの間にか周囲から勇者として祭り上げられていた。
ふん……運のない奴。
この村の連中は勇者なんてどうでも良いのに。
このレイナ村は魔王城に一番近い小さな村である。
一応アスニア王国の一部であるが、完全に見捨てられている。
領主もずっと不在だし。
強い魔物も頻繁に村の中に入ってくる。
勇者はそれを命懸けで倒す役目を負わされている。
勇者なんて名ばかりで人身御供(ひとみごくう)と変わらないじゃないか。
蓮はそう思っているし、リアムに言ったこともあるがリアム本人はそう思っていないようだ。
勇者は勇者だよ、蓮。
大切な人を守るためなら、魔物なんて怖くない。
そう明るく笑って、リアムは勇者の役割を必死に果たしている。
村に魔物が出れば、一人で黙々と退治しに行く。
誰もリアムの手助けをする者はいない。
蓮も含めて。
でも、リアムは文句も言わず、村人を憎まず皆に優しい。
蓮はそのリアムの偽善的な態度が気に入らなかった。
皆、お前を利用しているだけだぞ。
お前が命を掛けてまで守らなきゃいけない人間なんてこの村にいないのに。
本当に馬鹿馬鹿しい。
蓮は机にドンと足を載せた。
「蓮。その態度は悪すぎるぞ」
リアムは蓮のふてぶてしい態度に注意した。
そういえばリアムは昔から優等生だった。
子どもの頃から蓮の粗野な態度をいちいち指摘してくる鬱陶しい奴だった。
「ふん。リアム様に邪魔されなければ、幸福のツボをあの女に売り付けられたのに」
蓮は憎々しげにリアムを睨み付けた。
こいつ本当に余計なことをしてくれた。
村人がリアムを利用するなら、人の良いリアムの代わりに性悪な蓮が村人を利用しようと思っただけなのに。
「蓮はそんなこと絶対しない くせに」
リアムが訝しげに首を傾げながら言った。
「リアム様の目には僕はそんな善人に映っているんですか? とんだ節穴ですね」
蓮は小さな赤いツボをリアムの目の前に置いた。
少し不格好だが、なかなか味があるような気がする。
「なんだこれ?!」
リアムは目を見開き、興味津々で赤いツボを観察し始めた。
「ふふん。今後は良いカモになりそうな客にはこの幸福のツボを売りつけようと思いまして」
蓮はリアムの様子に上機嫌になり、得意気に宣言した。
「蓮の手作りか? 結構器用なんだな。よく出来てる。本当に幸せになれそうだ」
リアムは指先で優しく赤いツボを撫でた。
「そうであろう。そうであろう。さあ、商売の邪魔ですからさっさとお帰りください」
蓮はシッシッとリアムを追い払おうとした。
「いくら?」
リアムが懐からゴソゴソ財布を取り出した。
「なぜ勇者様がお求めになるのです? インチキ品だって分かっているでしょう?」
蓮の目は呆れて半眼になった。
こいつは何を考えているんだ。
ちゃんと種明かししたのに、もしかして本当に信じているのだろうか。
本気でこいつの頭の中が心配になってきた。
「幸せになりたいからだよ、蓮」
リアムは女性達を虜にするような甘い笑みを浮かべた。
若い女性客が所々汚れた白い狩衣を着た青年に威圧的に言った。
「畏まりました」
蓮は机の上に置いてある白い紙に天地盤を書き出した。
目にも止まらぬスピードで文字を書き足していく。
今、蓮が行っているのは六壬神課。時刻を基に天文と干支術を組み合わせて占う。
一見地味な占いだが、蓮は一番得意であった。
蓮は出来上がった天地盤をじっと見つめる。
蓮の短い黒髪が風も無いのにふわりと靡いた。
蓮の全ての物事を見通すかのような青い瞳が閉じられる。
「貴女の彼氏様には他に好きな方がいらっしゃるようです。二ヶ月後には別れるでしょう」
蓮は何の感情もこめずに女性客に伝えた。
「なんですって!」
「占いは以上です。代金をお納めください」
蓮はにこやかに微笑み、女性客に代金を請求した。
女性客は顔を真っ赤にして蓮の態度に逆上した。
「もう一度占ってちょうだい!」
「駄目です。何度占っても同じです」
蓮がきっぱりと言った。
「私の彼氏が他の女なんかと浮気するわけないでしょう! 私を愛しているのに!」
「そう思うなら、占いなんてしなければ良いのでは?」
蓮は面倒くさそうに冷たく言い放った。
「このインチキ陰陽師!」
女性客が蓮に殴りかかってきた。
蓮がひょいと避けた瞬間に穴の開いた烏帽子が蓮の頭から落ちる。
「おっと、貴女のようなお美しいお嬢さんが暴力なんて似合いませんよ」
金髪の青年が女性客の腕を掴んだ。
「あら、勇者様。ご機嫌ようですわ」
女性客は金髪の青年を見て、ぽうと頬を赤らめた。
「占いなんですから良い結果だけ信じれば良いと思いますよ。美しいお嬢さん」
金髪の青年はニコリと女性客に微笑んだ。
美青年の微笑みはなんという破壊力なのだろう。
女性客は先ほどとは違う意味で真っ赤になった。
「はい! そうですわね! 勇者様、よろしければ後であたしと二人でお茶しませんか?」
「良いですね。楽しみにしています」
女性客は上機嫌で代金を支払い、帰って行った。
「……商売の邪魔しないでください。リアム様」
蓮は碧い瞳でリアム様と呼んだ金髪の青年を睨みつける。
「お前、もう少し言い方考えろよ。俺が止めなきゃ殴られていたぞ」
リアムと呼ばれた金髪の青年は眉をひそめて言った。
「ふん!」
蓮は大きなお世話だと言わんばかりの態度で乱暴に烏帽子を直した。
「そんなに乱暴に扱うと、また破れて穴が空くぞ」
「ふん!」
このいけ好かないリアムという男は蓮の幼馴染である。
金髪にエメラルドグリーンの瞳という派手な容姿もいけ好かない。
誰にでも優しいというその性格もいけ好かないし、やたらと蓮に構ってくるのもいけ好かない。
しかも、いつの間にか村の勇者になっているし。
剣の腕が立つリアムはいつの間にか周囲から勇者として祭り上げられていた。
ふん……運のない奴。
この村の連中は勇者なんてどうでも良いのに。
このレイナ村は魔王城に一番近い小さな村である。
一応アスニア王国の一部であるが、完全に見捨てられている。
領主もずっと不在だし。
強い魔物も頻繁に村の中に入ってくる。
勇者はそれを命懸けで倒す役目を負わされている。
勇者なんて名ばかりで人身御供(ひとみごくう)と変わらないじゃないか。
蓮はそう思っているし、リアムに言ったこともあるがリアム本人はそう思っていないようだ。
勇者は勇者だよ、蓮。
大切な人を守るためなら、魔物なんて怖くない。
そう明るく笑って、リアムは勇者の役割を必死に果たしている。
村に魔物が出れば、一人で黙々と退治しに行く。
誰もリアムの手助けをする者はいない。
蓮も含めて。
でも、リアムは文句も言わず、村人を憎まず皆に優しい。
蓮はそのリアムの偽善的な態度が気に入らなかった。
皆、お前を利用しているだけだぞ。
お前が命を掛けてまで守らなきゃいけない人間なんてこの村にいないのに。
本当に馬鹿馬鹿しい。
蓮は机にドンと足を載せた。
「蓮。その態度は悪すぎるぞ」
リアムは蓮のふてぶてしい態度に注意した。
そういえばリアムは昔から優等生だった。
子どもの頃から蓮の粗野な態度をいちいち指摘してくる鬱陶しい奴だった。
「ふん。リアム様に邪魔されなければ、幸福のツボをあの女に売り付けられたのに」
蓮は憎々しげにリアムを睨み付けた。
こいつ本当に余計なことをしてくれた。
村人がリアムを利用するなら、人の良いリアムの代わりに性悪な蓮が村人を利用しようと思っただけなのに。
「蓮はそんなこと絶対しない くせに」
リアムが訝しげに首を傾げながら言った。
「リアム様の目には僕はそんな善人に映っているんですか? とんだ節穴ですね」
蓮は小さな赤いツボをリアムの目の前に置いた。
少し不格好だが、なかなか味があるような気がする。
「なんだこれ?!」
リアムは目を見開き、興味津々で赤いツボを観察し始めた。
「ふふん。今後は良いカモになりそうな客にはこの幸福のツボを売りつけようと思いまして」
蓮はリアムの様子に上機嫌になり、得意気に宣言した。
「蓮の手作りか? 結構器用なんだな。よく出来てる。本当に幸せになれそうだ」
リアムは指先で優しく赤いツボを撫でた。
「そうであろう。そうであろう。さあ、商売の邪魔ですからさっさとお帰りください」
蓮はシッシッとリアムを追い払おうとした。
「いくら?」
リアムが懐からゴソゴソ財布を取り出した。
「なぜ勇者様がお求めになるのです? インチキ品だって分かっているでしょう?」
蓮の目は呆れて半眼になった。
こいつは何を考えているんだ。
ちゃんと種明かししたのに、もしかして本当に信じているのだろうか。
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