聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

文字の大きさ
13 / 57

第13話 秘密のお茶会

しおりを挟む
天気もよく、気持ちの良い庭園でのお茶会には、マリアンヌさんと私しかいなかった。
白いカップに入った紅茶を、お互い口に運ぶ。
あ、薔薇ばらの香り。美味しい~。

マリアンヌさんは白いカップを、手にしたソーサーに置き、先に話し始めたのは、彼女のほうからだった。

「ねえ、ミツキ。私とレイは家族だけど、血は繋がっていないの」
唐突に、彼女が言った。

「え?」

マリアンヌさんが何を思ってかはわからないけれど、カップをテーブルにゆっくりと戻した彼女は、伏し目がちに話しを続けた。

「レイはね、私の亡くなった夫と別の女性との間に生まれた子なの」
「っ!?」
「私と夫は家同士の結婚で、私が幼い頃にすでに決まっていたの。でも、夫は決して結ばれてはいけない女性ひとと出会ってしまった。そして、私との結婚が正式に決まって、その女性も実家を出て、夫の前から姿を消してしまったの。だけど、そのときには、お腹の中にレイがいてね。夫は知らなかったんだけど」

「そんな……」
マリアンヌさんは寂しそうな笑みを、少しだけ口元に浮かべていた。

「そのあと、夫と私が結婚して、しばらく経っても子供が出来なかった。あ、でも誤解しないで。私達は年が離れていたけれど、夫婦として仲も良かったと思うわ。夫は、私にとても優しくしてくれていたし、少なくとも私は夫をとても愛していたの。あるとき、夫がレイとその女性を町で見つけたの。でもね、レイのお母様は、そのときには病に侵されていてね、死が近いことがわかってしまった。私達には子供がいなかったから、レイを引き取ることにしたの。彼が、9歳の時だったわ」

なぜ彼女が、私にこんな話をするのかわからなかったけど、私はレイのことをちゃんと知りたいと思った。

「レイのお母様は、グラディアス家の姫君だったの。この国でランドルフ家とグラディアス家は王家の次に力を二分するほどの大貴族で、この両家が婚姻関係を結べば王家の脅威きょういともなるし、当時は両家の仲もとくに悪かったから、そんな2つの家が結びつくなんてことはあり得なかった。だから、二人の恋は秘密だったの」

まるでロミオとジュリエット……

「でもね、お母様が隠したかったのには、もう一つ理由があるの。この国で有力な貴族には、それぞれ特化した能力があることを知ってるかしら」
「……いいえ」
「ランドルフ家は草木の緑や大地の加護を受けるように、風に関係する力も持っていて、その力が強いものが当主に選ばれる。大抵は直系の者が多いのだけれど。それは先程も話したわね」

「はい。……じゃあ、もしかしてレイのお母様も……」
「ええ、そう。彼女もまた直系の姫で、グラディアス家の強い力を持っていたんだと思うわ。それぞれ違う特殊能力を強く持った者同士の子供って、どうなるかしら」

考えたら怖い。幼い子どもなら、なおさらだ。
マリアンヌさんは私の考えを肯定するように、こくりと頷いた。

レイのお母さんは、レイを守りたかったんだ。

「利用しようとする者、脅威に感じる者、それぞれだと思うわ」
「レイの力は……」
「それはわからない。本人が、ほとんど力を使おうとしないから」

きっと、レイも知られないように、隠しているんだ。

「レイのお母様が誰なのかは、ごく一部の者しか知らないの。今は、私と筆頭執事のセバスチャンだけ。グラディアス家にも、薄々気づいてる者もいるのでしょうけど、今は彼がランドルフ家の当主だから、確信もないことで、周りも下手に何も出来ないんだと思うわ」

マリアンヌさんは、なんてことのない茶飲み話をするように、何でもない顔をしながら、紅茶の入ったカップに口をつける。

「あの……マリアンヌさん。どうして、そんな大切な話を私に?」
「ん?貴方あなたは聞いても他言たごんしないでしょう?」
マリアンヌさんは小首をかしげて、にっこりと笑った。

か、可愛いだけに、怖い……
わかってるわよね、と念を押されたようだ。

「まあ、そうですね。この国に知り合いもいませんし」
内心、たじたじになってしまう。

「レイがね……」
「?」
「家族以外の他人ひとを屋敷に連れて来たの、初めてなの」
「そう、なんですか?」
「ええ。貴方のことが放っておけなかったのでしょうね」

え?……そ、そうなのかな?
そんなふうに言われちゃったら、嬉しく思っちゃうかも?

「彼が9歳のときに、初めて出会ったあの日から、レイは私にとって大切な弟なの。今もそれは変わらない」

弟?

昨夜のハグをして挨拶をする二人の光景が、脳裏のうりよみがえる。

姉と弟?
そんなふうには見えなかったけど。
もしかして、レイはそうは思っていないのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。

「レイは、私たち家族や家の者たちを守るために、当主として頑張ってくれてる。それは、彼の血から逃れられないことなんだけれど。でもね、私は彼にも、レイを生きてほしいの」

「彼の、時間?」
「ええ」
マリアンヌさんは小さく溜息をついて、手元のカップに入った紅茶に視線を落とした。

「きっと、レイはこの家と私たち家族を守ろうと、それだけで今はここにいる。キースが、家督を継げる年齢になったら、当主はキースに譲るつもりで、それまでは自分が守るって思ってるんだと思うの。でもね、ミツキ。私は、レイにも自分のことを大切にして、これからを生きて欲しいって思ってる」

彼女が本当に彼のことを心配していることが伝わってくる。人がどう生きようと自由だと言うかも知れない。けれど、彼女の気持ちもよく分かる。

「レイには、このことは……」
「ええ、何度か。でも彼は、わかった、大丈夫だ、ってそればかりで、ただ笑うだけ。私が言ってもダメなの」

それは、彼女のことも、レイがだから……

「難しいですね」
「でもね、ミツキなら彼を変えられるかも知れない」
「ええ!?そんなの無理ですよ」

「ええ、もちろん、無理にとは言わない。ただ、あなたと一緒に過ごすことで、何かが変わるかも知れないって、そう思ったの。ミツキとレイ、少し似ているところがあるから」
「え……そうですかぁ」

あ、露骨にトーンダウンしちゃったかな。マリアンヌさんがクスクス笑う。
私、あんな仏頂面してるかな。つい両手で頬を触ってしまう。
「ふふっ、私と出会った頃のあの子にね」

そのあとも私とマリアンヌさんは、二人だけの秘密のお茶会をしばらく楽しんだ。

午後からは、勉強も終わったアリシアとキースに誘われて、3人で庭で遊んだ。
久しぶりに子供たちと全力で遊んだから、くたくたになった頃、仕事から戻ってきたレイの姿が見えた。

気づかなかったのだけど、彼は離れたところから、私たちが遊ぶ姿を、少しの間見ていたようだった。

「わあい、お帰りなさぁい!」

駆け寄る子供たちに合わせて、私も子供のようにレイに向かって
「おかえりなさい!」
て、つい元気に、満面の笑みで言ってしまった。
レイは少し驚いたようだったけど、そこはさらりと流してくれた。

「子ども達と遊んでくれてたのか」
「あ、ううん。私が遊んでもらったの。この国のいろんな遊びを教えてもらって楽しかったわ」
「そうか、それは良かっ……た、っ、」

て、最後まで言い終わらないうちに、彼はすっと後ろを向き、何やら手で口元を隠してる。

え?笑ってる?
なんで???

と、不思議に思ってたら、ふと自分の胸元が目に入って、ぎょっとした。
子供たちと全力で遊んだお陰で、もともと大きめだった胸元が更に緩んでしまって、むなしくドレスと胸元の間に空間が出来ていた。

「明日、仕立て屋を呼ぼう」
ほんのり耳を赤くして、レイが言った。後ろを向いたままの彼の肩が揺れている。

ちょっと、今、胸元見て笑ったでしょ!?
絶対、そうですよねっ!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

処理中です...