18 / 57
第18話 壁ドンされました
しおりを挟む
執務室を逃げるようにして去った後、私はすぐに仕事部屋に戻る気分になれなかった。
誰かに会っても、いつもの私でいられる自信がなくて、庭に面した回廊をトボトボと歩いていた。
すっかりあたりは夜闇に包まれて、人影はまったくなかった。
私を隠してくれるから、ちょうどいい。
私、どうすればいいんだろう……
私もこんなところ、来たくて来たんじゃない。
聖女様の代わりなんて、無理だし、来たくなかった。
このまま2週間、ここにいるのは辛いな……
泣いてしまいそうだ……
すると、いつの間にかレイが後を追いかけてきて、見つかった。
どうしたらよいのか分からなくて、私は足早に行こうとしたけれど、すぐに追いつかれてしまった。
「オイッ、待てよ」
声とともに強く腕を掴まれて、私は足を止めた。
少し彼の息が荒いのは、私のこと探して、走って追いかけてきたのだろうか。
「な、なんでしょうか」
思わず、声が固くなってしまった。
彼の目を見ることができない。
私は彼から視線を反らしたまま、身体を彼のほうへ向けた。
「………………」
「あの、用がないなら離してくれませんか」
「そんな顔してるのに……」
「?」
「一人で行かせられるわけないだろう」
「っ!?」
ダメ、もうこれ以上、自分が情けなくて、悲しくて泣いてしまいそう。限界。
「もう、放っておいてください!」
私は上擦った声で叫ぶと、彼の腕を振り解こうとした。
でも。
ダンッ―
私の行く手を遮るように、彼はもう片方の手を、私の目の前の壁についた。
私は壁を背に、彼の腕と壁に閉じ込められてしまった。
壁ドンだ―
こんなシリアスの場面で、そんな言葉が出てくる自分が、なんとも悲しい。
耐性のない私は、いきなりの壁ドンとイケメンの至近距離に、もう何が何やらわけが分からなくなってしまった。
「敬語はなし、て言った」
至近距離を気にするふうでもなく、レイはいきなりそんなことを言ってきた。
「はい?」
そう言えば、出会った初めての夜、馬車の中でそんなこと言ってた……。
「もっと俺を頼れ」
「っ、…………」
「そんな顔してるのに、あんたはなんで、いつも笑うんだよ」
「え……」
「辛いなら、無理して笑うなよ」
「なん、で、……そんなこと、言うの?頼れ、だなんて」
「…俺にも責任がある」
彼の紺青色の瞳が透き通って見えて、綺麗だった。
「……そんなことっ、できるわけないじゃない!」
つい感情が溢れて、言葉と一緒に涙が一筋こぼれ落ちた。
「レイに言ったって、あなたに頼ったって、聖女様じゃない私がここに来てしまったことは変わらない!私なんかが聖女様の代わりに、なれるわけもないのに!私は帰ることの出来る時まで、ただ、ここで待つしかない。みんな困っているのに、私なんか何も出来ないのに、でも来てしまった。私がここにいる事実は、どうすることも出来ないでしょう!?」
レイは何も言わなかった。ただ、悲しそうに私の顔を見つめた。
私、ほんと最低だ。これじゃ、ただの八つ当たりよね。
彼は、私のことを気にしてくれて、助けてくれようとしたのに……。
俯くと涙が溢れたけど、もういい。
言ってしまった言葉は、取り消せない。
「……手を、どけてよ」
そう言って、レイの腕をそっと押しのけると、私はその場に彼を残し、走り去った。
誰かに会っても、いつもの私でいられる自信がなくて、庭に面した回廊をトボトボと歩いていた。
すっかりあたりは夜闇に包まれて、人影はまったくなかった。
私を隠してくれるから、ちょうどいい。
私、どうすればいいんだろう……
私もこんなところ、来たくて来たんじゃない。
聖女様の代わりなんて、無理だし、来たくなかった。
このまま2週間、ここにいるのは辛いな……
泣いてしまいそうだ……
すると、いつの間にかレイが後を追いかけてきて、見つかった。
どうしたらよいのか分からなくて、私は足早に行こうとしたけれど、すぐに追いつかれてしまった。
「オイッ、待てよ」
声とともに強く腕を掴まれて、私は足を止めた。
少し彼の息が荒いのは、私のこと探して、走って追いかけてきたのだろうか。
「な、なんでしょうか」
思わず、声が固くなってしまった。
彼の目を見ることができない。
私は彼から視線を反らしたまま、身体を彼のほうへ向けた。
「………………」
「あの、用がないなら離してくれませんか」
「そんな顔してるのに……」
「?」
「一人で行かせられるわけないだろう」
「っ!?」
ダメ、もうこれ以上、自分が情けなくて、悲しくて泣いてしまいそう。限界。
「もう、放っておいてください!」
私は上擦った声で叫ぶと、彼の腕を振り解こうとした。
でも。
ダンッ―
私の行く手を遮るように、彼はもう片方の手を、私の目の前の壁についた。
私は壁を背に、彼の腕と壁に閉じ込められてしまった。
壁ドンだ―
こんなシリアスの場面で、そんな言葉が出てくる自分が、なんとも悲しい。
耐性のない私は、いきなりの壁ドンとイケメンの至近距離に、もう何が何やらわけが分からなくなってしまった。
「敬語はなし、て言った」
至近距離を気にするふうでもなく、レイはいきなりそんなことを言ってきた。
「はい?」
そう言えば、出会った初めての夜、馬車の中でそんなこと言ってた……。
「もっと俺を頼れ」
「っ、…………」
「そんな顔してるのに、あんたはなんで、いつも笑うんだよ」
「え……」
「辛いなら、無理して笑うなよ」
「なん、で、……そんなこと、言うの?頼れ、だなんて」
「…俺にも責任がある」
彼の紺青色の瞳が透き通って見えて、綺麗だった。
「……そんなことっ、できるわけないじゃない!」
つい感情が溢れて、言葉と一緒に涙が一筋こぼれ落ちた。
「レイに言ったって、あなたに頼ったって、聖女様じゃない私がここに来てしまったことは変わらない!私なんかが聖女様の代わりに、なれるわけもないのに!私は帰ることの出来る時まで、ただ、ここで待つしかない。みんな困っているのに、私なんか何も出来ないのに、でも来てしまった。私がここにいる事実は、どうすることも出来ないでしょう!?」
レイは何も言わなかった。ただ、悲しそうに私の顔を見つめた。
私、ほんと最低だ。これじゃ、ただの八つ当たりよね。
彼は、私のことを気にしてくれて、助けてくれようとしたのに……。
俯くと涙が溢れたけど、もういい。
言ってしまった言葉は、取り消せない。
「……手を、どけてよ」
そう言って、レイの腕をそっと押しのけると、私はその場に彼を残し、走り去った。
45
あなたにおすすめの小説
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。
それでもフランソアは
“僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ”
というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。
そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。
聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。
父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。
聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる