聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜

文字の大きさ
42 / 57

第42話 舞踏会なんて、眩しすぎて無理です

しおりを挟む
私は、アレクシス様……、アレク様の執務室で机の向こうに座る彼を前にして固まっていた。

「え?いま、なんて言いました?」
「だから舞踏会を開くと」
「その次です!」
「お前も出るといい」
「いや、無理です」
「は?」
「こっちが、は?ですよ」
前のめりに言う私に、空色の目を丸くしているアレク様。その隣で、ルーセルが肩を揺らして笑っている。

「大体、私踊れないですし、お姫様でもないのに場違いですよ、そんなきらびやかな場所、眩しすぎてです」
「なぜだ?言っている意味がよくわからん」
アレク様は怪訝そうに眉間に皺を寄せている。
「ふつう女はパーティーやドレスと言ったら、好きなのではないのか?」
「それはパリピや陽キャな女子ですよ。オタクはそうでもありません」
「オタク?……てなんだ?」
「………………」

オタクとは?生まれて以来、きらびやかな世界しか知らない王子様に、どう説明したらいいのだろう。
それは私のことです!……というのも、説明には難しそうだ。

「あ!では、メイドとして給仕をさせてください!」
「それはダメだ」
アレク様はきっぱりと否定する。
「はい?言っている意味がよくわかりません」
「…あはは、アレクが振られている」
「ルーセルは煩いぞ」
隣で身体を曲げて、さらに笑っているルーセルをアレクが睨む。
今日も私はレイとともに城に出勤してメイドの仕事をしていたところ、アレク様の執務室に呼ばれて何かと思えば、舞踏会に出ろなんて、とんでもないことを彼は言ってきた。

私もルーセルを無視して、アレク様に言う。
「アレク様が舞踏会を開かれる意味はわかりました。前国王様が病で退位された今、国王不在の王室が、不安定であることを隠さなければならない。今なお王室は変わらず強固たるもので、その存在は揺るがないものであるということを、国の内外及び臣下にも示す必要がある。さらに、王の後継者がアレク様であり、病でせっているという噂を払拭ふっしょくする目的がある。ということですよね」
「まあ、そうだ」

アレク様には、先日のアンジェリカ姫の他に、何人か兄弟がいて、アレク様が王となることをよく思わない王子やその一派が存在する。いわゆる派閥にわかれた後継者争いで、今の王室には不穏な空気が漂っている。
北の魔法使いが目覚めたところに、王室が後継者争いなんかで内輪揉めして、揺れている場合じゃないのだけど。
ほんとは一致団結してほしいところだ。

まして、アレク様は呪いで陽にあたることが出来ない。だから、日中の明るい中での業務が出来ないし、他人に姿を見せることが難しい。あまり人前に姿を見せない第一王子は病で臥せっているという噂が、流れてしまっているのだ。
確かに、陽の下に出ることの出来ない国王では業務を行うことは難しいし、国王になるのは厳しいと思う。だけど、アレク様を中心にルーセル、レイがこの国のこと、この世界の人たちのことをすごく大切に考えていることは、よく分かる。
それに、ルーセルやレイだけでなく、タリアンさんやエリザ、他にも城勤めをする人の中には、アレク様のことを慕っている人が多いってことが、この数日間だけど、私にもわかった。

性格はときどき?クソ王子様なんだけど。

「舞踏会を開かれる理由は理解しますけど、それで私が出るというのは、関係ないですよね?」
「いや、ある。お前はもう一つの世界からの客人だ」
「はい?」
「せっかくだから、美味いものでも食べていけ」
美味しいもの……?
うーん、レイの家でも美味しいものは、いっぱい食べさせてもらってるのだけどなぁ。
思わず、アレク様の意図がわからなくて、きょとんとしてしまう。

そんな私に、ルーセルがにこやかに言う。
「ミツキ。アレクはね、パーティーにご招待して、キミに美味しいものをご馳走したいんだよ」
そして、バチンと音がしそうなウインクをした。
いやいや、ウインクされても?
「ほら、アレクはキミを連れて夜の居酒屋には行けても、昼間の可愛いカフェや人気のレストランには行けないでしょ?だから舞踏会でご馳走したいなんて、ほんと我が儘だよね~」
「おい!そこまで言ってない!」
アレク様が思わず立ち上がって抗議する。

「まあ、ミツキ」
アレク様はコホンと咳払いをして、にやりと笑った。あ、嫌な予感……
「これは、だ」
「え!?」
「お前、タダ飯は申し訳ないので、仕事したいと言っていたな。給料はずむぞ?」
「そんなぁ!」

え、ええーーーっ!
そんな、ズルイです。
こんなところで、聖女召喚を邪魔した代償がくるなんてっ

何も言えなくなってしまった私に、勝ち誇るかのような表情かおでアレク様は嬉しそうに言った。
「決まったな」

心底楽しそうなアレク様に、脱力と敗北感を感じてしまう。
使う側と使われる側……
勝ち組と負け組……
俺様とコミュ障……
次期国王様とメイド……
スパダリと腐女子……

いろんな言葉が頭の中をぐるぐる回るけれど、高みで笑うアレク様と地でひれ伏す私の図は残念ながら消えることはなく、どう考えてもその図をひっくり返すことは出来ないのだろう。

舞踏会中はルーセルが一緒に居てくれるっていうし、私は壁に張り付いてご馳走だけ食べていればいいよね。
ほんと舞踏会なんてキラキラしい想像しかない。
オタク女子にはその場に存在すると考えただけでも、ハードルが高すぎるんだけど……

考えただけで、つい溜息が出てしまいそうになるけど、考えても仕方がない。
私はこちらの世界にいる間、楽しむんだって決めたのだし。
それに考えてみたら、舞踏会なんて私達の世界に戻ったらご縁のないもの。これは、今後私が趣味の創作したりネット小説書いたりするのに、いい経験ネタになる!

そう考えると、単純だけど私のテンションも少し上がった。

舞踏会用のドレスもアレク様が用意してくれるらしい。
私には、舞踏会なんてどうしてよいのかわからないし、アレク様に言われるがまま、おまかせすることにした。
まあ、ドレスだけど、今回の舞踏会という業務のためのということでいいよね。
……なぁんて、軽く考えていた私は、あとで反省することになる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

処理中です...