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第44話 いざ舞踏会へ!
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翌朝、朝食が終わると、さっそくセバスチャンが私にダンスを教えてくれた。
「よろしくお願いします。セバスチャン先生」
勢いよく頭を下げる私に、セバスチャンはフフ、と優しく笑って
「先生って言われるのは、お久しぶりです。なんだかこそばゆいですね」
と言う。
「以前にも、レイファス様にお教えしたのですよ。彼も私のことを先生と呼んでいましたから」
だから、すぐにセバスチャンにお願いするって言ってくれたんだ。
きっと良い先生なんだろうな……
「では、時間もありませんから、始めましょうか」
「はい!」
それから私は姿勢から直され、立ち居振る舞いを叩き込まれ、ひたすら踊った。
始まる前はあんなに穏やかで優しい先生だと思ったのに、なかなかににこやかにスパルタだった。
「ミツキ様、背中が丸いですよ。あなたは熊ですか」
う……確かに。
「おや、その歩き方はなんです。こそ泥かネズミにしか見えませんよ」
ひえぇぇぇ……。
「こりゃヒドイ。カエルのようなガニ股ですね」
は、恥ずかしい……。
「これはこれは、お相手の足を蹴っ飛ばして、骨折させるおつもりですか」
い、いいえ……っ
ああ……セバスチャン。
穏やかな口調で、なかなか言ってくれる。でも、本当のことだから仕方ない。
昼食の時間も過ぎた頃、ようやくレッスンが終わった。セバスチャンはまだまだ余裕の微笑みで、ちっとも疲れていないのに対して、私はもう身体もメンタルもへとへとになっていた。
でも、なんとかこの短時間で私は踊れるようになったのだから、やっぱり良い先生には違いない。
「よく頑張りましたね、ミツキ様。あなた様は、ちっとも私に文句も言わず、怒らないで、よくついてこられました。さすがです」
「だって、本当に言われても仕方ないから」
「レイファス様が認められる方だけのことはあります」
「え?」
「大丈夫ですよ。あとは胸張って堂々としていらっしゃい」
「セバス」
なんか、セバスチャンにそんなふうに言われたら泣いちゃいそうだ。
「フフ……レイファス様が初めて舞踏会へ行った日のことを思い出しました。ミツキ様、初めての舞踏会、楽しんでいってらっしゃいませ」
そして、セバスチャンのレッスンのあと、私は昼食も手短に済ませて、今夜開かれる舞踏会へ行く準備に取り掛かった。
「わあぁ~!ミツキ様、お綺麗です!」
準備を済ませた私の隣で、メアリが両手を握りしめて歓喜の声を上げる。
大きな鏡に映る自分の姿を見る。
……これが、私?
綺麗にお化粧をしてもらい、髪も緩く結い上げてもらった。アレク様から贈られた空色のドレスはふんわりとしていて柔らかい雰囲気で、結い上げた黒髪とよく合っている。髪にもドレスと同じ空色の髪飾りを付けて貰っている。
鏡に映る自分も私を見つめている。まつ毛も綺麗にマスカラで上げられて、頬紅を付けて、口紅も普段はあまり使わない真紅色だ。
首飾りはマリアンヌが貸してくれた。ダイヤが散りばめられてキラキラと輝いている。これでも、なるべく派手すぎない小ぶりのものにしてもらった。
それでも普段の私とはぜんぜん違う自分の姿に、まるで童話に出てくるお姫様みたいだって、つい嬉しく思ってしまう。
ちょっと見せたかったな、レイに……。
なんて、そんなことを思ってしまった。
彼は、もちろん騎士の仕事で、今夜の舞踏会は警備があって参加は出来ない。今夜は北の魔法使いの一派が現れるかも知れないのだから、忙しくしているのだろう。今朝も朝食の前に城へと出掛けてしまった。
城で少しくらい会えると嬉しいな……
「ミツキ様、馬車の準備が出来たか聞いてきますね」
メアリが馬車の様子を見に、部屋を出て行った。
しばらくして、トントントン……と、部屋の扉をノックする音がした。
「はい、どうぞ」
メアリが呼びに来たのだと思い、椅子から私は立ち上がり扉のほうを振り返る。
そこに立っていたのは、レイだった。
驚いて思わず動きが止まる私と同じように、彼もまた驚いた顔をして私を見ている。
「……レイ?」
彼は急いで来たのか、いつもより銀の髪が乱れていた。コバルトブルーの瞳を少し細めると、ふっと笑って言った。
「綺麗だ」
……え?
…………心の準備が出来てなかったから、もう一度言ってほしい!
そうお願いすると、彼は笑って「いやだ」と言った。なんて、塩なの……
彼は私の傍まで来ると、軍服の胸ポケットから何かを取り出した。
差し出した手のひらの上にはあったのは、ダイヤに囲まれたブルーサファイヤに月の形をしたクリスタルがキラキラと揺れる耳飾りだった。
可愛くて、でも派手すぎず私の好きな感じのものだ。
「きれい……」
思わず、彼の手の中を覗き込む。
「ピアス?」
そう言って見上げると、意外と彼との距離が近かった。
「ああ。本当は、もっと時間をかけてちゃんと用意したかったんだけど」
そう言って、レイはそっと優しく私の耳に付けてくれた。
彼の長い指が耳たぶに触れていると思うと、心臓が煩いくらいにドキドキして、彼に聞こえてしまうんじゃないかって、緊張と恥ずかしさで息が止まりそうだった。実際、呼吸を忘れていたように思う。
「セバスが、ダンス上手になったって言っていた」
「先生が良かったんだよ」
「なかなか辛口だろ?」
「あー、アハハ……だね」
そして、何気に言う。
「レイにも見て欲しかったな、ダンスレッスンの成果」
そう言ったあとで、レイがちょっと驚いた顔をしたので、厚かましかったかと恥ずかしくなった。
でもそのあと、レイがふわっと笑った。
「じゃあ、俺と踊ってくれる?」
そう言って、彼は優雅に胸に手を当て、ダンスに誘うようにお辞儀をした。
彼の差し出す手のひら自分の手をそっとのせると、優しく引かれてそのまま腰を抱き寄せられる。
私、レイと踊ってる……これって、夢かな。
夢みたいで、信じられなくて、レイの綺麗な蒼い瞳から視線が外せない。
「セバスの言ったとおりだ。半日でこれだけ踊れたら上出来だよ」
「そ、そうかな」
そんなこと言われたら、恥ずかしくて照れる。
「きっとレイのリードが優しいから」
恥ずかしくなって、私は俯いてボソっと正直に思ったことを言った。
「あー、もう」
彼はそう言ったと思うと、踊るのを止めて私をぎゅっと抱きしめた。
っ!?
何が起こったのか、理解するのにすぐに出来なかった。
え?ちょっと待って?私、いまっ、抱きしめられてる!?
え、ええーーーーっ!?
ちょっと、よく分からないんですけど。
レイは私を抱きしめたまま、顔をうずめるように耳元で言う。
「初めてのダンスは、俺が良かったのに」
不貞腐れたような言い方と声音。
そう言えば、彼は私より年下だったんだ。なんか可愛いって思ってしまう。
「えっと……今、踊ったのではダメ?」
さらに、彼はぎゅぅって抱きしめる腕に力を入れてきた。
「ほんとは俺がエスコートしたかった」
「う、うん……」
「次は、絶対、俺がするからっ」
そう言うと、彼は私の身体を開放して、じゃあ仕事に戻るよ、と言って部屋を出ていった。
何!?最後のあの拗ねたような言葉は……?
ほんとにレイだったのかな……
なんか、すっごくかわいすぎるんですけど!!
あとに一人残された私は、鏡に映るもう一人の私をぼんやりと見つめる。
頬が紅く見えるのは、きっと頬紅のせいではないよね。
そのあと、今度こそ本当にメアリが迎えに来た。
馬車に一人で乗り込むけれど、耳元でピアスが揺れるたび、レイが一緒にいてくれるような気がして、寂しくはなかった。
さあ、いざ舞踏会へ!!
「よろしくお願いします。セバスチャン先生」
勢いよく頭を下げる私に、セバスチャンはフフ、と優しく笑って
「先生って言われるのは、お久しぶりです。なんだかこそばゆいですね」
と言う。
「以前にも、レイファス様にお教えしたのですよ。彼も私のことを先生と呼んでいましたから」
だから、すぐにセバスチャンにお願いするって言ってくれたんだ。
きっと良い先生なんだろうな……
「では、時間もありませんから、始めましょうか」
「はい!」
それから私は姿勢から直され、立ち居振る舞いを叩き込まれ、ひたすら踊った。
始まる前はあんなに穏やかで優しい先生だと思ったのに、なかなかににこやかにスパルタだった。
「ミツキ様、背中が丸いですよ。あなたは熊ですか」
う……確かに。
「おや、その歩き方はなんです。こそ泥かネズミにしか見えませんよ」
ひえぇぇぇ……。
「こりゃヒドイ。カエルのようなガニ股ですね」
は、恥ずかしい……。
「これはこれは、お相手の足を蹴っ飛ばして、骨折させるおつもりですか」
い、いいえ……っ
ああ……セバスチャン。
穏やかな口調で、なかなか言ってくれる。でも、本当のことだから仕方ない。
昼食の時間も過ぎた頃、ようやくレッスンが終わった。セバスチャンはまだまだ余裕の微笑みで、ちっとも疲れていないのに対して、私はもう身体もメンタルもへとへとになっていた。
でも、なんとかこの短時間で私は踊れるようになったのだから、やっぱり良い先生には違いない。
「よく頑張りましたね、ミツキ様。あなた様は、ちっとも私に文句も言わず、怒らないで、よくついてこられました。さすがです」
「だって、本当に言われても仕方ないから」
「レイファス様が認められる方だけのことはあります」
「え?」
「大丈夫ですよ。あとは胸張って堂々としていらっしゃい」
「セバス」
なんか、セバスチャンにそんなふうに言われたら泣いちゃいそうだ。
「フフ……レイファス様が初めて舞踏会へ行った日のことを思い出しました。ミツキ様、初めての舞踏会、楽しんでいってらっしゃいませ」
そして、セバスチャンのレッスンのあと、私は昼食も手短に済ませて、今夜開かれる舞踏会へ行く準備に取り掛かった。
「わあぁ~!ミツキ様、お綺麗です!」
準備を済ませた私の隣で、メアリが両手を握りしめて歓喜の声を上げる。
大きな鏡に映る自分の姿を見る。
……これが、私?
綺麗にお化粧をしてもらい、髪も緩く結い上げてもらった。アレク様から贈られた空色のドレスはふんわりとしていて柔らかい雰囲気で、結い上げた黒髪とよく合っている。髪にもドレスと同じ空色の髪飾りを付けて貰っている。
鏡に映る自分も私を見つめている。まつ毛も綺麗にマスカラで上げられて、頬紅を付けて、口紅も普段はあまり使わない真紅色だ。
首飾りはマリアンヌが貸してくれた。ダイヤが散りばめられてキラキラと輝いている。これでも、なるべく派手すぎない小ぶりのものにしてもらった。
それでも普段の私とはぜんぜん違う自分の姿に、まるで童話に出てくるお姫様みたいだって、つい嬉しく思ってしまう。
ちょっと見せたかったな、レイに……。
なんて、そんなことを思ってしまった。
彼は、もちろん騎士の仕事で、今夜の舞踏会は警備があって参加は出来ない。今夜は北の魔法使いの一派が現れるかも知れないのだから、忙しくしているのだろう。今朝も朝食の前に城へと出掛けてしまった。
城で少しくらい会えると嬉しいな……
「ミツキ様、馬車の準備が出来たか聞いてきますね」
メアリが馬車の様子を見に、部屋を出て行った。
しばらくして、トントントン……と、部屋の扉をノックする音がした。
「はい、どうぞ」
メアリが呼びに来たのだと思い、椅子から私は立ち上がり扉のほうを振り返る。
そこに立っていたのは、レイだった。
驚いて思わず動きが止まる私と同じように、彼もまた驚いた顔をして私を見ている。
「……レイ?」
彼は急いで来たのか、いつもより銀の髪が乱れていた。コバルトブルーの瞳を少し細めると、ふっと笑って言った。
「綺麗だ」
……え?
…………心の準備が出来てなかったから、もう一度言ってほしい!
そうお願いすると、彼は笑って「いやだ」と言った。なんて、塩なの……
彼は私の傍まで来ると、軍服の胸ポケットから何かを取り出した。
差し出した手のひらの上にはあったのは、ダイヤに囲まれたブルーサファイヤに月の形をしたクリスタルがキラキラと揺れる耳飾りだった。
可愛くて、でも派手すぎず私の好きな感じのものだ。
「きれい……」
思わず、彼の手の中を覗き込む。
「ピアス?」
そう言って見上げると、意外と彼との距離が近かった。
「ああ。本当は、もっと時間をかけてちゃんと用意したかったんだけど」
そう言って、レイはそっと優しく私の耳に付けてくれた。
彼の長い指が耳たぶに触れていると思うと、心臓が煩いくらいにドキドキして、彼に聞こえてしまうんじゃないかって、緊張と恥ずかしさで息が止まりそうだった。実際、呼吸を忘れていたように思う。
「セバスが、ダンス上手になったって言っていた」
「先生が良かったんだよ」
「なかなか辛口だろ?」
「あー、アハハ……だね」
そして、何気に言う。
「レイにも見て欲しかったな、ダンスレッスンの成果」
そう言ったあとで、レイがちょっと驚いた顔をしたので、厚かましかったかと恥ずかしくなった。
でもそのあと、レイがふわっと笑った。
「じゃあ、俺と踊ってくれる?」
そう言って、彼は優雅に胸に手を当て、ダンスに誘うようにお辞儀をした。
彼の差し出す手のひら自分の手をそっとのせると、優しく引かれてそのまま腰を抱き寄せられる。
私、レイと踊ってる……これって、夢かな。
夢みたいで、信じられなくて、レイの綺麗な蒼い瞳から視線が外せない。
「セバスの言ったとおりだ。半日でこれだけ踊れたら上出来だよ」
「そ、そうかな」
そんなこと言われたら、恥ずかしくて照れる。
「きっとレイのリードが優しいから」
恥ずかしくなって、私は俯いてボソっと正直に思ったことを言った。
「あー、もう」
彼はそう言ったと思うと、踊るのを止めて私をぎゅっと抱きしめた。
っ!?
何が起こったのか、理解するのにすぐに出来なかった。
え?ちょっと待って?私、いまっ、抱きしめられてる!?
え、ええーーーーっ!?
ちょっと、よく分からないんですけど。
レイは私を抱きしめたまま、顔をうずめるように耳元で言う。
「初めてのダンスは、俺が良かったのに」
不貞腐れたような言い方と声音。
そう言えば、彼は私より年下だったんだ。なんか可愛いって思ってしまう。
「えっと……今、踊ったのではダメ?」
さらに、彼はぎゅぅって抱きしめる腕に力を入れてきた。
「ほんとは俺がエスコートしたかった」
「う、うん……」
「次は、絶対、俺がするからっ」
そう言うと、彼は私の身体を開放して、じゃあ仕事に戻るよ、と言って部屋を出ていった。
何!?最後のあの拗ねたような言葉は……?
ほんとにレイだったのかな……
なんか、すっごくかわいすぎるんですけど!!
あとに一人残された私は、鏡に映るもう一人の私をぼんやりと見つめる。
頬が紅く見えるのは、きっと頬紅のせいではないよね。
そのあと、今度こそ本当にメアリが迎えに来た。
馬車に一人で乗り込むけれど、耳元でピアスが揺れるたび、レイが一緒にいてくれるような気がして、寂しくはなかった。
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