せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月

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第7章

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逃げ出したくて、行きたくなくて。見たくない現実を再確認しなくて済むように、と願うのに現実はそんなに甘くない。

早く帰って休めと言われた翌日からは、通常通りの日常が続く。自分がいなくても問題なく進むのだろうと自虐的なことを考えなくもないが、パーティまで一ヶ月を切った時期だけに目の回るような忙しさだ。

「飲み物には隣国特産のシードルと蜂蜜酒も忘れずに用意して欲しい。それと、まだ飲酒が出来ない下級生向けにアップルタイザーも」

「学園長の挨拶は宴の最後にしてはどうでしょう。最初はクライブ殿下の挨拶の後、陛下の挨拶もありますから。挨拶ばかりが多いと場が白けます」

「この機会に時期執行部にももう少し運営に参加させる。良い機会だ。任せられそうな仕事をピックアップしてくれ」

「式次第の訂正はいつが締め切りでしょうか。それまでに最終確認を」

「装花の手配は確認してあるか?」

仕事に忙殺されるとどうしても気分も空気も荒みがちなのに一緒に仕事をこなしてきた時間と信頼がそれを補ってくれるのか、言葉が端的になっても生徒会室の空気は殺伐とはしない。疲れた頃合いを見計らってお茶を入れれば、皆で一緒に休憩も取る。

それはきっと仕事場としては理想的なものなのに、私には少しだけ辛い。今もお茶菓子に出されたクッキーを齧り、聞こえないように小さく息を吐いた。


「今日はお友達にもらったクッキーを持ってきたの。最近、街で流行りのお店のものだそうよ。学園うちの女生徒にも人気なのですって」

「ほう。エルフリーデは意外とミーハーだったのだな。だが、確かに美味いな」

「でしょう?ミーハーな女子は意外と情報が早くて正確なのよ」

「くくっ。正確さはどうかな」

最近の殿下は楽しそうだ。忙しいはずなのに苛立つこともない。元々が優秀な人だし、生徒会の仕事など大して負担になっていないのだろうけど、それでも。

「でも殿下が甘いものを摘まれるのは珍しいわ」

「それもそうだな」

きっと口にしなかっただけで『エルフリーデが持ってきてくれたから』なんて言葉が続いちゃうのだろう。なんて僻み根性MAXな感想を私が脳内に浮かべてしまうくらいには楽しそうだ。

大体、名前を呼び捨てで呼んだのなんてこれまで聞いたことなかったのに。

零れそうになった言葉を飲み込もうとお茶を一口含むと、代わりにお茶の渋みと一緒に自分の醜さが広がってしまった。

これまでクライブ殿下が女性の名前を呼び捨てで呼んでいたのは自分リディアだけだったから、いつの間にか勘違いしてしまった。だって私は彼の部下だから。だから呼び捨てだっただけなのに。他の令嬢にはきちんと敬称をつけて呼んでいたから。先輩のことも『エルフリーデ嬢』って呼んでたのに。
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