小説探偵

夕凪ヨウ

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Case47.教授の遺した暗号①

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 その声を聞いた瞬間、記憶の波が押し寄せた。まさかと思って声を上げると、声の主が振り返る。
 闇に溶けるような長い黒髪。夜空のように暗く、深海のように神秘さを感じさせる真っ青な瞳。雪のように白い肌。魅了されずにはいられないほど美しい顔立ちーー。
 彼女を形作る全てのものが、懐かしいと同時に真新しく感じられた。

    ーカイリ『教授の遺した暗号』第1章ー

            ※

「殺人事件ですか?」
 退院した数日後、海里は龍からの電話を取るなり、そう尋ねた。
 龍は相変わらずの海里に思わず苦笑いを浮かべ、言葉を続ける。
『ああ。数年前にできた、水嶋大学が事件現場だ。名前を聞いたことは?』
「ありますし、場所も分かりますよ。すぐ向かいますので、少しお待ちください」

            ※

 水嶋大学の正門に到着すると、赤色灯をつけたパトカーが数台止まっていた。海里は野次馬を避けてパトカーの側に移動し、他の刑事より頭一つ身長が高い龍を見つける。
「こんにちは。今日も寒いですね」
 海里も龍も厚手のコートを羽織っていた。東京なので雪は降っていないが、寒気が収まるのは先である。龍は白い息を吐きながら頷いた。
「まったくだ。今日は降ってないが雪もよく降るし、気温も低くなる一方。クリスマスも近・・・・」
 龍はそこで言葉を止めた。海里も何も言わず、揃って大学の正門を潜った。
「ねえ、あれ誰・・・?」
「パトカー止まってるし、警察じゃない?」
「え? 何で警察がうちの大学に来るの?」
 生徒たちは事件を知らないようだった。不思議に思いながら構内を進むと、大きな校舎の前で1人の男が2人を出迎えた。
「ようこそいらしてくださいました。学長の水嶋智彦みずしまともひこです。ああ、生徒たちは事件を知りませんので、どうかご内密に」
「内密と言われても難しいです。大学に傷を負って欲しいわけではありませんが、どのような結果であれ、世間の目には触れることは避けられません。皆さんの負担にならないよう、事件後も出来る限りのことはさせて頂きますが・・・・」
「そんな・・・」
 龍は申し訳なさを含みつつ、どこか呆れの混じった声音だった。海里は龍の言葉に内心で納得しつつ、水嶋に尋ねる。
「現場はどこですか? 案内をお願いしても?」
「あ・・・ああ・・すみません。私はこれから仕事がありまして、別の方に案内を頼んでいます。まだ日が浅い方ですが、構内は把握しておりますので問題ありません」
「分かりました。その方はどちらに?」
「別室にいます。ご案内しますので、着いて来てください」
 2人は、そう言った水嶋学長の後を歩いた。目の前にある大きな校舎に入り、長い廊下を進む。
 構内はとても広く、新しいからか、目立った汚れも少なかった。講義を受けている生徒たちもおり、本当に何も話していないのだと理解した。龍は尋ねる。
「歩きながらの質問で申し訳ありませんが・・・・被害者が亡くなられたのは、いつ頃ですか?」
「恐らく・・・昨日の夜かと。今朝、私が1番早く大学に来まして、校舎の鍵を開け、軽い掃除を兼ねて見回りをしていたところ、遺体を見つけたんです。初めは人形か、そうでなくとも見間違いかと思ったのですが・・・・」
「本物だったんですね」
 先を言い淀む水嶋に対して、龍は何ともないような声を上げた。水嶋は真っ青な顔で頷く。
「はい・・・」
 絞り出すような声だった。無理もない。民間人が遺体を見慣れていることなどあり得ない。たった1度、または一瞬目にしただけでも、トラウマになり、健康を害することがあるのだ。
 無惨に殺害された遺体が原因で、現場を去った警察官を見て来た龍は、トラウマにならない海里の方がどうかしていると改めて感じた。
「捜査は自由にしてください。しかし、生徒たちは何も知らない。絶対に話を漏らさないよう、お願いしますよ。教授たちにも、不用意に話をしないでください」
「・・・・善処します」
 龍は絶対的な肯定も否定もしなかった。水嶋は顔を曇らせたが、反論が見つからないのか、口を噤んだ。


 長い廊下を経て、講義室に辿り着いた。広い講義室で、数十人は授業が受けられそうだった。縦横に移動する黒板と、多くの座席があり、机と床は白、椅子は茶とシンプルな色合いをしている。左右には大きな窓があり、都会の景色を映し出すとと共に、換気と称して開いている隙間から風の音が聞こえた。
 水嶋は視線を教卓に移した。教卓の前には、窓の外を見つめる1人の女性が立っている。体も視線も斜めなので、はっきりと顔が見えなかった。
「泉龍寺さん、お連れしましたよ」
「泉龍寺・・・⁉︎」
 2人は声を揃えて驚いた。珍しい名字なので、そう多くはないだろう。2人の頭を、猛暑日に起こった事件がよぎる。
 泉龍寺と呼ばれた女性は水嶋たちに気がつき、返事をした。
「わざわざありがとうございます、水嶋学長」
「その声・・・まさか・・・‼︎」
 海里が息を呑むと、女性はゆっくりと振り向いた。
 長い黒髪に、夜空のように暗く、深海のような神秘さを感じさせる真っ青な瞳。雪のように白い肌。1度見たら忘れるはずのない、美しい顔立ち。
 そう、彼女はーー
「天宮小夜さん⁉︎」
「今は、泉龍寺小夜ですよ」
 小夜は美しい笑みを浮かべた。2人は唖然としている。彼女はゆっくりと階段を登り、2人の前に立った。
「またよろしくお願いします。江本さん、東堂さん」
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