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Case91.叶わぬ願い①
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9年前、東京都星彩高等学校。
「天宮さん。今日の放課後遊びに行かない? 部活入ってないよね?」
当時、小夜は15歳の高校1年生であり、既にひと月ほどを中学とは違う環境で迎えていた。彼女はクラスメイトの誘いに内心興味を示しつつ、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「ごめんなさい。今日、塾があるの」
「え、今日も? 毎日のように行ってない? だから成績良いのかもだけど、休みなしってしんどくない?」
「昔はね。今は、慣れちゃったから」
クラスメイトの誘いを断ったのは、1度や2度ではなかった。
驚くほど整った容姿に、大人びた雰囲気。異性も同性も惹きつける小夜は、高校に入った時から毎日のようにクラスメイトに遊びへ誘われていた。時には、どんな暮らしをしているのかなど、いわゆる“お金持ち”である彼女の生活を知りたがることもあった。しかし、彼女は全ての誘いを断り、生活は曖昧な答えを口にし、クラスメイトと深い関わりは持たなかった。
「本当にごめんなさい。高校生になったばかりだから、勉強に遅れないようにしろって、両親が」
言われてもいない言葉を、小夜は澱みなく言うことができた。言い慣れてしまっていた。塾に通っていると、嘘をつくことも。
「そっか~残念。また誘うね。今度空いてる日、教えて」
「ありがとう。じゃあ、また明日」
校門に行くと、いつも通り車が止まっていた。小夜はため息をつきながら車に乗り込む。助手席には、都内の別の高校に通っている専属の執事、黒田忠義がいる。彼は小夜の姿を認めるなり、お帰りなさいませ、と口にした。
「忠義、随分早いのね。高校でも部活動に所属する気はないの? 私は別に構わないのに」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私にはお嬢様のお世話という仕事がございますから」
同じ歳とは思えない丁寧かつ距離のある口調に、小夜は重々しく頷いた。幼馴染みのように育った2人だったが、常に主従関係が纏わりついていた。
「それより、毎日迎えにこないでって言ってるわよね? 偶には1人で帰らせてくれる?」
不満げな小夜の言葉に、運転手は表情を変えず「旦那様のご命令ですから」と答えた。
「・・・・そう。もういいわ、出して」
車が発車しても、高級車を何事かと凝視する生徒や教師、近所の住民の視線は消えなかった。小夜は再びため息をつき、憎々しげな視線で窓の外の景色を追った。
帰宅すると、十数人の使用人が小夜を迎えた。彼女は鬱陶しそうな視線を投げかけながら鞄を預け、自室に戻るなり制服のままベッドに横になる。
ああ、本当につまらない。いつまで、こんな日々を過ごすの? 父に頼み込んで小中高一貫の学校を離れて公立高校に通っているのに、今までと何も変わっていない。どこにいようと、何をしていようと、私は深層の令嬢で、籠の中の鳥だなんて。もう、うんざりだわ。
いっそこのまま眠ってしまおうかと思っていると、扉をノックする音がし、秋平と春菜が顔を出した。
「姉さん」 「お姉様」
小夜はベッドに寝転がったまま視線を動かし、微笑を浮かべた。
「2人とも、ただいま。来てくれるのは嬉しいけど、母上の側にいなくていいの? 数ヶ月後には、あなたたちの弟が生まれるのよ?」
「今は父さんが一緒にいるから。それより、またあの人来てる。」
秋平の言葉に小夜は眉を顰めて上体を起こした。
「そんな言い方をしたらダメよ。一応、父上の弟、私たちの叔父上なんだから」
「でもお姉様! 私、あの人嫌い! 叔母様の方がいい‼︎」
「よしなさい。叔母上が好きなのはわかるけど、あの人は体が弱いから、簡単に外に出ることはできないのよ」
2人を宥めて退出させると、小夜は本棚から参考書を引っ張り出した。もちろん高校のものではなく、次期天宮家当主としてのものである。幼い頃から父親譲りの高い頭脳を持つ彼女は、学校の勉強を家で復習することはなく、代わりに経済や経営などの頭の痛い勉強が待っていた。
また、出産を控える母の綾美に代わり、父や叔父といわゆる社交界のような場に顔を出すことも増えていた。ただ、小夜がその場を楽しいと感じたことはなく、面倒が増えているとしか感じていなかった。
転入生がやって来るーーそのニュースは、瞬く間に学年中に広がった。小夜は噂を追って自分のクラスに来ることを知り、ゴールデンウィークの直後など、随分と変わった時期だと感じる。
「初めまして、月城由花です。父親の仕事の都合で引っ越して来ました。よろしくお願いします」
可憐さと綺麗さの両方を兼ね備えた少女だった。黒いショーカットとほどよく焼けた肌が活発さを表し、スラリと伸びる足は筋肉がついている。背は小夜と同じくらいだが、円らな焦茶の瞳が幼さを残していた。
男子は可愛い女子に湧き立ち、女子は新しい友人に湧き立った。小夜はそんなクラスメイトの姿を横目に見つつ、自分とは正反対の転入生を羨望の眼差しで一瞥した。
「名前、なんて言うんだ?」
「えっ?」
休み時間、由花はクラスメイトとの談笑を終えるなり、読書をしている小夜に突然話しかけた。小夜は混乱しながらも、努めて穏やかな声で答えた。
「天宮小夜よ。よろしくね、月城さん」
「よろしく! ね、下の名前で呼んでもいい? あたしのことも由花って呼んでよ」
あまりに早すぎる距離の詰め方に、小夜は本気で困惑した表情を浮かべた。
「そんなこと言ったって・・・・まだ出会ったばっかりじゃない。急にそんなことできないわ」
「出会ったからこそ仲を深めるんだよ! 小夜って慎重なんだなあ。」
由花は見た目通りのーーいつも笑顔で明るく、活発なーー少女だった。一躍してクラスのムードメーカーとなった彼女は、大人びた笑みを浮かべる物静かな小夜とは、相性が良いとは思えなかった。
しかし、由花は自分と真逆の性格をしている小夜に何度も話しかけ、昼食に誘い、遊びに連れて行こうとした。初めは愛想笑いで躱わしていた小夜だが、毎日誘われるに連れ、少しずつ迷惑そうな表情を浮かべるようになった。だが、由花は気がついていないのか、その上でなのか、気にかけなかった。
「何で避けるんだよ~。あたしは、小夜と仲良くしたいだけなんだけど」
由花の転入から2週間ほどが経過した日の放課後、彼女は帰ろうとする小夜を呼び止めて言った。小夜ははっきりとした物言いに驚きつつ、暗い表情で返す。
「私と仲良くなんて無理よ。教室にいたら分かるでしょ? 私、こういう場所に向いてないの」
「向いてないって何? 小夜は高校生なんだから、高校にいるのは当たり前じゃん」
「そういう意味じゃなくて・・・・もういいわ。迎えが来てるから、また明日ね」
小夜は呆れた表情を浮かべ、車に乗り込んだ。由花は彼女の後ろ姿を見ながら、口をへの字にして不貞腐れていた。
「最近ため息ばかりね。幸せが逃げて行っちゃうわよ?」
「叔母様」
この頃、和彦の妻である叔母、光はまだ生きており、小夜たちが大人の中で唯一信頼していた人物だった。彼女はいつも小夜たちに寄り添い、忙しい両親や夫の代わりに彼女たちの面倒を見てくれていた。生まれつき体が弱いため、一緒に遊ぶことは難しかったが、優しく、穏やかな光は、彼女たちの救いだった。
「転入生が言い寄ってくるーーはおかしいですね。何て言うか・・・・」
「あなたと仲良くなりたいから、たくさん話しかけてくるのね」
光は察しが良く、寡黙な夫や義兄とも上手く付き合える女性だった。
不安な表情を浮かべる姪に対し、光は優しい声をかける。
「だったらちゃんと向き合わないと。その子のこと、嫌いじゃないんでしょ?」
「はい。いい子だとは思います。でも、どうしても・・・・信じきれない」
視線を揺らして俯く小夜を見て、光は微笑を浮かべながら言った。
「・・・・確かに、不安よね。でもね、踏み出してみないとわからないし、変わらないこともあるの。だから、まずは勇気を出して向き合ってみて。大丈夫、あなたの直感は、きっと正しいから」
「うん・・・・ありがとう、叔母様」
翌日、学校に行った小夜は、やはり話しかけてきた由花に、逆に話があると言った。
「どうしたの? 小夜」
嬉しそうでありながらも、どこか心配げな声だった。小夜は本当に素直な性格だと思いつつ、おもむろに口を開く。
「・・・・月城さんは」
「ゆ・い・か!」
由花は念押しのように言った。小夜は迷った末、由花さんは、と声をかける。
「どうして私に話しかけてくれるの?」
「ふえ?」
由花は、なぜそんなことを聞くんだといった顔で首を傾げた。だが、小夜は至って真剣であり、人を疑いながら生きて来た彼女にとって、本当に重要なことだったのだ。
小夜は切実さを帯びた声で続ける。
「お願い、教えて。
私は世間一般とは違う暮らしをしてる。家が裕福で父が社長というだけで、優遇されて、羨ましがられて、人間関係も広いようで狭い。そんな暮らしだったから、嘘に塗れた世界しか知らない。
そんな私に、どうして近づくの? 私は、あなたを危険な目に遭わせてしまうかもしれないのよ」
一息で言い切った後、わずかな沈黙が流れた。そして、それを破るかのように由花は笑った。清涼さを感じさせる、明るい笑いだった。
「どうしても何も、あたしは、小夜と仲良くなりたいから話しかけてるだけだよ。
初めて会った時、すっごく綺麗だって思った。青い瞳が夜空みたいで、光が入ると星空みたいだって思った。本を読んでいても、勉強をしていても、何をしていても目が離せなくて、一緒にいたいって思った。友達になりたいって思った。
もちろん、小夜が本当に迷惑だって言うならやめる。だけど、迷惑じゃないなら、あたしと友達になってほしい」
握手を求めるように伸ばした手は、救いの手のように見えた。そして、その言葉を聞いた小夜は一筋の涙を流し、迷わず由花の手を取った。
「なーに泣いてんだよ?」
「嬉しいの・・・・。そんなことを言ってくれる人が、いるなんて思わなかったから」
由花は握手をした手を引き、小夜を抱きしめた。小夜の方が少し背が高いので、由花は背伸びをしていた。
「大丈夫。あたし、小夜の側にいるから。小夜がどんな世界にいても、絶対に離れないから。だから、もう泣くな!」
「うん、ありがとう・・・・由花」
その日以来、小夜は高校生らしい生活をーークラスメイトと仲睦まじく話し、由花と昼食を共にし、放課後は2人で遊びに出かけるーー送り始めた。迎えを無視して夜遅くに帰り、理由を聞かれてもはぐらかした。
父の怒りは無視をした。それどころか正面から反抗的な言葉を吐き、自由な生活を謳歌した。ーーわずかな自由を。
「天宮さん。今日の放課後遊びに行かない? 部活入ってないよね?」
当時、小夜は15歳の高校1年生であり、既にひと月ほどを中学とは違う環境で迎えていた。彼女はクラスメイトの誘いに内心興味を示しつつ、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「ごめんなさい。今日、塾があるの」
「え、今日も? 毎日のように行ってない? だから成績良いのかもだけど、休みなしってしんどくない?」
「昔はね。今は、慣れちゃったから」
クラスメイトの誘いを断ったのは、1度や2度ではなかった。
驚くほど整った容姿に、大人びた雰囲気。異性も同性も惹きつける小夜は、高校に入った時から毎日のようにクラスメイトに遊びへ誘われていた。時には、どんな暮らしをしているのかなど、いわゆる“お金持ち”である彼女の生活を知りたがることもあった。しかし、彼女は全ての誘いを断り、生活は曖昧な答えを口にし、クラスメイトと深い関わりは持たなかった。
「本当にごめんなさい。高校生になったばかりだから、勉強に遅れないようにしろって、両親が」
言われてもいない言葉を、小夜は澱みなく言うことができた。言い慣れてしまっていた。塾に通っていると、嘘をつくことも。
「そっか~残念。また誘うね。今度空いてる日、教えて」
「ありがとう。じゃあ、また明日」
校門に行くと、いつも通り車が止まっていた。小夜はため息をつきながら車に乗り込む。助手席には、都内の別の高校に通っている専属の執事、黒田忠義がいる。彼は小夜の姿を認めるなり、お帰りなさいませ、と口にした。
「忠義、随分早いのね。高校でも部活動に所属する気はないの? 私は別に構わないのに」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私にはお嬢様のお世話という仕事がございますから」
同じ歳とは思えない丁寧かつ距離のある口調に、小夜は重々しく頷いた。幼馴染みのように育った2人だったが、常に主従関係が纏わりついていた。
「それより、毎日迎えにこないでって言ってるわよね? 偶には1人で帰らせてくれる?」
不満げな小夜の言葉に、運転手は表情を変えず「旦那様のご命令ですから」と答えた。
「・・・・そう。もういいわ、出して」
車が発車しても、高級車を何事かと凝視する生徒や教師、近所の住民の視線は消えなかった。小夜は再びため息をつき、憎々しげな視線で窓の外の景色を追った。
帰宅すると、十数人の使用人が小夜を迎えた。彼女は鬱陶しそうな視線を投げかけながら鞄を預け、自室に戻るなり制服のままベッドに横になる。
ああ、本当につまらない。いつまで、こんな日々を過ごすの? 父に頼み込んで小中高一貫の学校を離れて公立高校に通っているのに、今までと何も変わっていない。どこにいようと、何をしていようと、私は深層の令嬢で、籠の中の鳥だなんて。もう、うんざりだわ。
いっそこのまま眠ってしまおうかと思っていると、扉をノックする音がし、秋平と春菜が顔を出した。
「姉さん」 「お姉様」
小夜はベッドに寝転がったまま視線を動かし、微笑を浮かべた。
「2人とも、ただいま。来てくれるのは嬉しいけど、母上の側にいなくていいの? 数ヶ月後には、あなたたちの弟が生まれるのよ?」
「今は父さんが一緒にいるから。それより、またあの人来てる。」
秋平の言葉に小夜は眉を顰めて上体を起こした。
「そんな言い方をしたらダメよ。一応、父上の弟、私たちの叔父上なんだから」
「でもお姉様! 私、あの人嫌い! 叔母様の方がいい‼︎」
「よしなさい。叔母上が好きなのはわかるけど、あの人は体が弱いから、簡単に外に出ることはできないのよ」
2人を宥めて退出させると、小夜は本棚から参考書を引っ張り出した。もちろん高校のものではなく、次期天宮家当主としてのものである。幼い頃から父親譲りの高い頭脳を持つ彼女は、学校の勉強を家で復習することはなく、代わりに経済や経営などの頭の痛い勉強が待っていた。
また、出産を控える母の綾美に代わり、父や叔父といわゆる社交界のような場に顔を出すことも増えていた。ただ、小夜がその場を楽しいと感じたことはなく、面倒が増えているとしか感じていなかった。
転入生がやって来るーーそのニュースは、瞬く間に学年中に広がった。小夜は噂を追って自分のクラスに来ることを知り、ゴールデンウィークの直後など、随分と変わった時期だと感じる。
「初めまして、月城由花です。父親の仕事の都合で引っ越して来ました。よろしくお願いします」
可憐さと綺麗さの両方を兼ね備えた少女だった。黒いショーカットとほどよく焼けた肌が活発さを表し、スラリと伸びる足は筋肉がついている。背は小夜と同じくらいだが、円らな焦茶の瞳が幼さを残していた。
男子は可愛い女子に湧き立ち、女子は新しい友人に湧き立った。小夜はそんなクラスメイトの姿を横目に見つつ、自分とは正反対の転入生を羨望の眼差しで一瞥した。
「名前、なんて言うんだ?」
「えっ?」
休み時間、由花はクラスメイトとの談笑を終えるなり、読書をしている小夜に突然話しかけた。小夜は混乱しながらも、努めて穏やかな声で答えた。
「天宮小夜よ。よろしくね、月城さん」
「よろしく! ね、下の名前で呼んでもいい? あたしのことも由花って呼んでよ」
あまりに早すぎる距離の詰め方に、小夜は本気で困惑した表情を浮かべた。
「そんなこと言ったって・・・・まだ出会ったばっかりじゃない。急にそんなことできないわ」
「出会ったからこそ仲を深めるんだよ! 小夜って慎重なんだなあ。」
由花は見た目通りのーーいつも笑顔で明るく、活発なーー少女だった。一躍してクラスのムードメーカーとなった彼女は、大人びた笑みを浮かべる物静かな小夜とは、相性が良いとは思えなかった。
しかし、由花は自分と真逆の性格をしている小夜に何度も話しかけ、昼食に誘い、遊びに連れて行こうとした。初めは愛想笑いで躱わしていた小夜だが、毎日誘われるに連れ、少しずつ迷惑そうな表情を浮かべるようになった。だが、由花は気がついていないのか、その上でなのか、気にかけなかった。
「何で避けるんだよ~。あたしは、小夜と仲良くしたいだけなんだけど」
由花の転入から2週間ほどが経過した日の放課後、彼女は帰ろうとする小夜を呼び止めて言った。小夜ははっきりとした物言いに驚きつつ、暗い表情で返す。
「私と仲良くなんて無理よ。教室にいたら分かるでしょ? 私、こういう場所に向いてないの」
「向いてないって何? 小夜は高校生なんだから、高校にいるのは当たり前じゃん」
「そういう意味じゃなくて・・・・もういいわ。迎えが来てるから、また明日ね」
小夜は呆れた表情を浮かべ、車に乗り込んだ。由花は彼女の後ろ姿を見ながら、口をへの字にして不貞腐れていた。
「最近ため息ばかりね。幸せが逃げて行っちゃうわよ?」
「叔母様」
この頃、和彦の妻である叔母、光はまだ生きており、小夜たちが大人の中で唯一信頼していた人物だった。彼女はいつも小夜たちに寄り添い、忙しい両親や夫の代わりに彼女たちの面倒を見てくれていた。生まれつき体が弱いため、一緒に遊ぶことは難しかったが、優しく、穏やかな光は、彼女たちの救いだった。
「転入生が言い寄ってくるーーはおかしいですね。何て言うか・・・・」
「あなたと仲良くなりたいから、たくさん話しかけてくるのね」
光は察しが良く、寡黙な夫や義兄とも上手く付き合える女性だった。
不安な表情を浮かべる姪に対し、光は優しい声をかける。
「だったらちゃんと向き合わないと。その子のこと、嫌いじゃないんでしょ?」
「はい。いい子だとは思います。でも、どうしても・・・・信じきれない」
視線を揺らして俯く小夜を見て、光は微笑を浮かべながら言った。
「・・・・確かに、不安よね。でもね、踏み出してみないとわからないし、変わらないこともあるの。だから、まずは勇気を出して向き合ってみて。大丈夫、あなたの直感は、きっと正しいから」
「うん・・・・ありがとう、叔母様」
翌日、学校に行った小夜は、やはり話しかけてきた由花に、逆に話があると言った。
「どうしたの? 小夜」
嬉しそうでありながらも、どこか心配げな声だった。小夜は本当に素直な性格だと思いつつ、おもむろに口を開く。
「・・・・月城さんは」
「ゆ・い・か!」
由花は念押しのように言った。小夜は迷った末、由花さんは、と声をかける。
「どうして私に話しかけてくれるの?」
「ふえ?」
由花は、なぜそんなことを聞くんだといった顔で首を傾げた。だが、小夜は至って真剣であり、人を疑いながら生きて来た彼女にとって、本当に重要なことだったのだ。
小夜は切実さを帯びた声で続ける。
「お願い、教えて。
私は世間一般とは違う暮らしをしてる。家が裕福で父が社長というだけで、優遇されて、羨ましがられて、人間関係も広いようで狭い。そんな暮らしだったから、嘘に塗れた世界しか知らない。
そんな私に、どうして近づくの? 私は、あなたを危険な目に遭わせてしまうかもしれないのよ」
一息で言い切った後、わずかな沈黙が流れた。そして、それを破るかのように由花は笑った。清涼さを感じさせる、明るい笑いだった。
「どうしても何も、あたしは、小夜と仲良くなりたいから話しかけてるだけだよ。
初めて会った時、すっごく綺麗だって思った。青い瞳が夜空みたいで、光が入ると星空みたいだって思った。本を読んでいても、勉強をしていても、何をしていても目が離せなくて、一緒にいたいって思った。友達になりたいって思った。
もちろん、小夜が本当に迷惑だって言うならやめる。だけど、迷惑じゃないなら、あたしと友達になってほしい」
握手を求めるように伸ばした手は、救いの手のように見えた。そして、その言葉を聞いた小夜は一筋の涙を流し、迷わず由花の手を取った。
「なーに泣いてんだよ?」
「嬉しいの・・・・。そんなことを言ってくれる人が、いるなんて思わなかったから」
由花は握手をした手を引き、小夜を抱きしめた。小夜の方が少し背が高いので、由花は背伸びをしていた。
「大丈夫。あたし、小夜の側にいるから。小夜がどんな世界にいても、絶対に離れないから。だから、もう泣くな!」
「うん、ありがとう・・・・由花」
その日以来、小夜は高校生らしい生活をーークラスメイトと仲睦まじく話し、由花と昼食を共にし、放課後は2人で遊びに出かけるーー送り始めた。迎えを無視して夜遅くに帰り、理由を聞かれてもはぐらかした。
父の怒りは無視をした。それどころか正面から反抗的な言葉を吐き、自由な生活を謳歌した。ーーわずかな自由を。
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