小説探偵

夕凪ヨウ

文字の大きさ
102 / 237

Case97.闇夜のダンスパーティー②

しおりを挟む
 恐怖は感じなかった。ただ、死んでしまった、と思った。
 駆けつけたかったが、体は動かなかった。どれだこの力があれば振り切れるのかと考えたが、そう考えているうちに、浅見は私に声をかけた。
「君を呼んだのは他でもない。君には、10年前の事件を解決してもらう」
 何となく予想していた言葉だった。しかし、次は違った。
「1週間かけて、儂は4人ずつ殺していく。君たちが事件を解決するのが早いか、儂が全員を殺すのが早いか・・・・勝負しようじゃないか」
 いつのまにか歯軋りをしていた私は、すかさず思いの丈を叫んでいた。

 ーカイリ『闇夜のダンスパーティー』第2章ー

            ※

「広いね・・・・。階段の数から察するに、3階建てかな」
「恐らくそうだと思います。かなり大きなお屋敷ですよ。ただ、麻生義彦が本当にここにいるのか怪しいですね」
 玲央は先ほど目にした麻生の姿を思い浮かべ、頷いた。
「ああ。さっきのはホログラムだ。本人が屋敷のどこかにいるのか、それとも全く別の場所にいるのか。現時点では後者が有効かな」
 梅雨が終わり、季節は夏真っ盛りになっていた。窓の外から蝉の声がわずかに聞こえ、冷房の効いていない廊下は屋外と変わらないほど暑い。2人はかなり汗を掻いており、何度もハンカチで顔を拭った。
 汗を掻いている姿すら、なぜか絵になる海里だったが、当然本人に自覚はない。彼は汗を拭きながら口を開いたり
「10年前の犯行現場はダンスホール。そして、10年前の事件の関係者を集めた今も、ダンスをしろと言った。理由はわかりませんが、10年前の事件に関する何かを目的としていることは確かですね」
「そうだね。10年前、麻生は犯人だと確定していなかったのに逃げた。彼が犯人かどうかはともかく、今回の事件と合わせて考えないといけないことは確かだ」
 玲央はため息にも似た息をついた。ふと現れた柱時計を見ると、夜の7時丁度である。2人はまだ捜査をしたい思いがあったが、麻生が口にした具体的な時間がわからないため、仕方なく部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ると、扉の前に黒服の男が2人、部屋の中にメイド服を着た女が2人いた。そして2人を見るなり、黒服のうちの1人が口を開く。
「勝手な動きをなさらないでください。屋敷の地図は後でお渡しします」
「・・・・随分と丁寧なお出迎えだね。君たちのボスは何を考えているのかな?」
 玲央の質問に、黒服のもう1人が平坦な声で答えた。
「我々の知る所ではありません。とにかく、部屋を出るときは我々と共に。部屋の中の掃除は、あの2人にお申し付けください」
「はいはい」
 部屋の中にいたメイドは、手早く部屋の掃除をしていた。2人に気がつくと、一瞬手を止めて会釈をし、小声で「お帰りなさいませ」とつぶやく。そして、それ以上は顔も見ず、すぐに掃除を再開した。
「あなたたちは麻生さんの使用人か何かですか?」
 メイドたちは頷いただけだった。海里は情報を集めるため、しばらくの間、質問を続けることにした。
「彼の目的が何か知っていますか?」
 今度は首を横に振った。何の疑問も抱かず、見知らぬ人間の世話をするなど、海里には全く理解できなかった。
「ここは一体どこですか?」
 メイドたちは答えなかった。どうやら、YesかNoで答えられる質問しか答えないらしい。すると、やりとりを見ていた玲央が、口を開いた。
「10年前に君たちのご主人が殺人容疑をかけられたことは知ってる?」
 今度は頷いた。玲央は眉を顰める。ベッドに座っていた彼は立ち上がり、メイドたちの前に立った。
「俺たちの監視をするように頼まれたね? 首付けているそのチョーカ、盗聴器か何かだろう? 加えて、天井裏の掃除をした際、監視カメラでも設置した? 天井のタイルがわずかにずれている」
 2人は大袈裟に首を横に振った。その反応は、海里は驚きながら「どうしてわかったんですか?」と尋ねる。
 玲央は笑みを浮かべて答えた。
「天井のタイルは部屋に入った時に見えたし、チョーカーは微かに音が聞こえたんだよ。ほら、テレビ画面が砂粒みたいになった時の、あの音。
 それに、口を聞けないわけではないのに声を出さないのは、チョーカーを気にしているからかなと思ったんだよね」
「なるほど・・・・。まあ確かに、こんな所に誘拐されて、部屋に何の監視もないというのも、無理な話ですよね」
「そういうこと。さあ、そろそろ時間になるかもしれないし、着替えようか」
                   

 部屋の柱時計が鳴ったのは、19時半丁度だった。2人は黒服の男たち、メイドたちと共に部屋を出て、先ほどのホールへ向かった。
 ホールに入ると他の人々も揃っており、ドレスコードを着ていた。ただ、彼らは2人よりもこなれているのか、物珍しさを感じない。海里は人々から注目されていることに気が付かぬまま、口を開く。
「改めて見ると、本当に大きいホールですね。そういえば、玲央さんダンスの経験は?」
「無いに等しいかな。江本君は?」
「もちろん無いです。義父ちちたちに同行してパーティーへ行くのは義兄あにの役目だったので」
 2人がそんなことを話していると、再び階段の踊り場に麻生が現れた。やはりホログラムである。
 麻生はホールにいる海里たちを見渡した後、おもむろに口を開く。
「集まって頂き、感謝する。
 お主らの中には、ダンスの経験がない者もいることは知っておる。だが、案ずることはない」
 その言葉と共に、細い糸のようなものが全員の手足に巻き付いた。体が強く引っ張られ、近くにいる男女が適当にペアにされる。
 混乱も冷めやらぬうちに、ホールにいた全員が一斉に踊り始めた。ワルツの音色だけが、やけに美しく聞こえる。海里はダンスをしながら、逆らおうと腕を引いたが、びくともしなかった。
 その様子を見ていた麻生は、愉快そうに笑みを浮かべた。しかし、しばらくして彼は急に笑みを消し、ぽつりぽつりと話を始めた。
「10年前、儂は自分の子供や孫と共にダンスパーティーへ行った・・・・と言っても、主催は儂の義理の息子ーー娘の夫じゃった。」
「おい、てめえ! 何言ってんだ! とっととこれを解け‼︎」
 1人の男が怒鳴ったが、麻生は何も言わなかった。彼は静かに言葉を続ける。
「娘と息子は、幸せそうに踊っておった。孫たちもそれを見て隣で踊り、儂は妻と共にそれを見ておった。本当に幸せな時間じゃった」
 麻生は懐かしむような温かい声でそう述べた。しかしその直後、海里と玲央は彼の目の色が変わるのを見た。
 そして、目の色に呼応するかのように、麻生は低い声を絞り出す。
「じゃが、儂の幸せは唐突に終わった。ダンスをしていた娘と義息子、2人の孫が、急に血を吐いて倒れたのじゃ。儂は車椅子に乗っていることも忘れ、ホールの床を這って4人の元へ行った」
「しかし4人は既に息絶えており、口だけでなく、体のあらゆる穴から出血して亡くなっていた」
 言葉を継いだのは玲央だった。麻生は静かに玲央を見る。
「その凄惨な現場の様子から、“血塗れのダンスホール殺人事件”と名付けられ、捜査が始まった。結果、警察はダンス会場にいた全員を容疑者として捜査をし、君と君の妻・麻生あんさんが最有力容疑者候補とされた」
 麻生はゆっくりと頷いた。否定しないということは、玲央の言葉は正しいのだ。麻生は苦笑しながら言う。
「結論から言って、儂と妻は犯人ではない。あの会場にいた、他の誰かが犯人なのじゃ。それなのにお主ら警察は、疑うこともせず儂らを捕まえようとしおった」
「だから逃げたと?」
 海里は麻生を睨みつけて尋ねた。彼は頷く。
「そのせいで、あなた方は余計に疑いを晴らせなくなったのに、ですか」
「どのみち、容疑者として取り調べを受ければ、手前勝手な自白を強要され、逮捕に踏み切られておったよ。それほど、当時の警察組織は腐りきっておった。お主なら分かるじゃろう? 東堂玲央」
 玲央は何も言わなかった。彼は、静かに麻生を見ているだけだった。
「儂は探偵ではない。資産家として生きていたが、心静かに暮らしたいと思って隠居し、義理の息子に後を任せ、妻との時間を過ごしていた。しかし、家族は何者かに殺され、妻も死んだ。
 だからーー儂が失うものは、もうこの世に存在しないのじゃ!」
 麻生は再び車椅子の手すりを拳で叩いた。全身が震え、いきんでいるのがわかる。同時に、玲央が叫んだ。
「・・・・待て、やめろ!」
「やめはせんよ。これが儂の復讐なのじゃから」
 その言葉と同時に、ホールにいた4人の男女が床に倒れ込んだ。10年前と同じように、体のあらゆる穴から出血して、である。
 悲鳴と動揺の中でもダンスは続いていた。麻生は氷のような視線で遺体を見つめ、続いて海里を見た。
「お主を呼んだのは他でもない。探偵君ーーいや、江本海里君」
 その言葉に海里は眉を動かした。
「私の名前を・・・・」
「下調べは大事じゃからな。
 海里君、お主には、10年前の真相を解いてもらいたい。家族だ誰に殺されたのか、突き止めてもらいたい。そのためにここへ呼んだのじゃ。当然、東堂玲央と協力しての」
 2人は息を飲んだ。その言葉が、、という意思のように感じたからだ。麻生が求めるのは10年前の真相だけであり、それ以外には、本当に何の興味もないのである。
「1週間かけて、儂は4人ずつ殺して行く。このホールには現在、お主らを含めて28人おる。
 残りの全員が死ぬのが早いか、お主らが謎を解くのが早いか・・・・勝負しようじゃないか」
 その言葉を聞いて、海里は顔を歪めた。歯軋りをし、麻生に鋭い視線を向けながら言う。
「・・・・勝負? ふざけないでください。ご家族を殺害された復讐だからと言って、人をしていい理由にはなりません! 全員殺させるなんて事態にはしない。私たちも殺させない。この謎は、必ず私たちが解き明かします!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...