小説探偵

夕凪ヨウ

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Case185.追求①

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「仕事が終わったばかりなのに呼び出してごめんね。」
「いえ。何でしょうか?」

 武虎は3人に椅子を進めた。礼を言いながら3人が座ると、武虎は言った。

「さっき、鑑識課の西園寺君から興味深い報告があったんだ。」
「ほう。現在追っているテロリストのことでも分かりましたかな?」
「残念ながら、違うよ。」

 武虎は笑って資料を机に投げた。そこには、アサヒたち鑑識課が印刷した、茂木と根岸のメールのやり取りが記されてあった。

「どういうこと?根岸君。君、殺人犯と繋がっていたの?」
「まさか。根岸なんて名前、いくらでもいますよ。なぜ私だと?」
「捜査一課の動きが事細かに記されている。こんなこと、内部の人間にしか分からない。それも、長年捜査一課を見てきた人間しか、ね。」

 敢えて遠回しな口調で話すのは、根岸本人の口から真実を語ってもらうためだと龍と玲央は理解していた。

「今回捜査中に起きた爆発で、捜査一課はもちろん、江本君・天宮君の両名が怪我をしてもおかしくなかった。場合によっては、命すら落としていただろう。君は、そんなに彼らが邪魔なのかな?」
「・・・・ええ、邪魔ですよ。」

 龍と玲央が立ち上がろうとしたのを、武虎は視線で制した。2人は拳を握りしめる。

「警察の前に出て、謎を解く彼らが気に入らない?」
「それもありますが、天宮小夜の場合、犯罪者でしょう。」
「彼女はそう語ったけど、明確な証拠はないよ。証拠がないのに逮捕しろと?」
「テロリストの件にしても、天宮家全体の件に関しても、疑うべき立場にいるはずです。本当にあの女が何も関わってないと言い切れますか?」
「だから犯罪者と通じたと?筋の通らない話だ。」

 武虎は一切引かなかった。根岸は続ける。

「江本海里に関しても同じです。あの男はただの小説家。必要以上に関わらせるべきではない。」
「俺の判断じゃないよ。玲央たちとの信頼関係のもと、行われていることだ。」

 武虎の言葉に根岸は苛つきながら叫んだ。

「そうであっても!警察が一般人に捜査の手伝いをしてもらうなど恥ずかしいとお思いにならないのですか⁉︎」
「・・・・別に?」

 淡白な武虎の返事に、根岸は目を見開いた。武虎は胡散臭い笑みを浮かべる。

「俺は使える物は何でも使うよ?警察の不利になる物であっても、法に触れさえしなければ事件解決及び犯人確保のために構わないと思っている。」
「ばっ・・馬鹿なことを!警視庁の長たるあなたが、そのようなことを言っているから・・・‼︎」
「本音はそっちか。」

 声を上げたのは龍だった。根岸はハッとし舌打ちをする。

「“警視総監が要らぬ力を借りるから、警視長や部下を失った”。“だから早々にあの2人を始末するべきだ”・・・。そのためなら、悪の力だって構わないから借りた・・・か?」
「黙れ!」
「怒鳴るなら自覚はあるんだろ?どうするの?父さん。」
「どうもこうもないよ。浩史の時も、美希子や凪に申し訳ないと思いながら裏切り者として裁いたからね。例外はない。どんな理由があれ、警察官でありながら犯罪者と密通するなんて許されないさ。」

 武虎は1度言葉を止め、真顔で言った。

「長年のお勤めご苦労様。根岸信真警視監、君はクビだ。今日から君は警視監じゃない。ただの犯罪者に成り下がった。」
「お・・お待ちください。私は、警視総監の・・警察のためを思って・・・!」
「だったら他に方法があったはずだ。一般人を殺した後に平和な世界などあるものか。」

 飛び出そうとした根岸を2人が抑えた。

「連行して。後は取調室で君たちがーーーー・・・」

 その時だった。根岸のスマートフォンが鳴ったのだ。すると、根岸はハッとし、通話ボタンを押す。

「もしもし⁉︎お前か⁉︎」
『何だ?その口の聞き方は。こちらは厚意でお前を雇ってやったんだ。にも関わらず、くだらないデータを残して・・・。鑑識には気をつけろと言ったはず。』
「う、うるさい‼︎見つかるなんて思わないだろっ!」
『喚くな。今、そちらに向かっている。泣き言は後にしろ。』

 電話越しの声を聞き、龍と玲央は顔色を変えた。

「その電話の相手・・・まさか!」

 龍が何か言おうとしたのと同時に、部屋の扉が開いた。龍と玲央はそこに立つ人物を見て愕然とし、根岸はほくそ笑んでいた。

「何で君がここにいるんだ⁉︎西園寺茂‼︎」
「なぜ?仲間の無実を晴らしにきただけだが?」
「無実・・・⁉︎」

 武虎は冷たい視線で茂を見た。顔には笑みが浮かんでいるが、目に光はない。

「・・・・まさか君がこんな所に来るとはね。自首でもしに来てくれたのかい?」
「冗談を言う暇があるなら警備の強化でもしたらどうだ?第一、私が犯罪を犯した証拠はないし、テロリストの存在自体表沙汰になっていないだろうが。」

(その通りだ。彼らのいるテロ組織が、一体どれほどのものなのか、俺たちは知らない。父さんもあらゆる手を使って調べているが、天宮家がかつて関わっていたせいか、ろくな情報は引き出せていない。
つまり世間的に見れば、西園寺茂はただの“科学者”!証拠もなく逮捕という父さんが最も嫌うことをするわけがない。)

「無実がどうかとか言ったけど、まさか根岸君のこと?証拠は出揃っているのに、馬鹿馬鹿しい。」
「それはこちらを見てから言ってもらおうか。」

 そう言うと、茂は武虎の机に紙の束を投げた。彼は呆れながら紙束を手に取る。

「一体何だって言うんだ。捏造した資料なんて・・・。」

 その時、武虎の表情が固まった。わずかに目が見開かれ、手も震えている。息子である2人すら目にしない、信じられない光景だった。

「親父?」
「・・・こ、の資料・・どうやって・・・?これは、警察が管理していて、目に触れることなんてできないはずだ。」
「警察に管理される前なら、十分見れるさ。しかもそれが人の携帯の中とあっては、他の資料に紛れるより見つけやすいというもの。」

 その瞬間、玲央と龍も意味を理解した。この男が・・・西園寺茂が手に入れることが必要で、誰かのスマートフォンに入れられた、貴重な資料。警察で厳重管理がなされ、一部の人間にしか見ることが許されない、悪の資料。

「天宮君のスマートフォンをハッキングしたのか。」
「さあ?方法はそちらで想像してくれ。問題なのは、天宮小夜の携帯から、東堂玲央の元へこの極秘資料が送られているということ。」
「えっ?」

 玲央は驚いて自分のスマートフォンを弄った。メールを開くと、そこには確かに以前小夜が玲央たちに見せた、テロリストたちの資料が添付されていた。しかも、

「内部編成・・・?何だこれ・・こんなの、知らない・・・。」
「知らないからこそ、天宮小夜が知らせて来たのだろう?極秘資料を一般人が盗み、1人の警察官が横領する。テロリストの仲間とも疑われるだろうし・・・立派な犯罪行為だな?」
「ふざけるな!この資料が証拠になるわけないだろ!天宮に聞けば、こんなメールを送っていないことなんてすぐに分かる‼︎」
「・・・・そうだな。あの女に“聞ける”なら、だが。」

 玲央の顔色が変わった。彼は茂の胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。

「小夜に何をした?今どこにいるんだ!」
「“一般人”の私が知るわけないだろう?」

 その言葉に玲央は信じられないという顔をして怒鳴った。

「なっ・・!君のどこが・・・・‼︎」
「随分焦るじゃないか。東堂玲央。そんなにあの女が大切か?多くの余罪を公にして逮捕した、犯罪者たちの娘のことが。」
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