小説探偵

夕凪ヨウ

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Case214.オークションの罠③

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「江本。」
「東堂さん、玲央さん!」
「小夜?どうして君がこんなところに?」
「後で話すわ。それよりこれはーーーー」

 4人は遺体を見て顔を顰めた。ロープは首にきつく巻かれており、吉川線があった。絞殺の証拠である。

「一瞬自殺かと思ったけど、吉川線があるなら他殺だね。床に転がっている杖にN.I.のイニシャルが彫ってあるから被害者の物だろう。足を悪くしていたのかな。」
「いいえ、そんなはずありません。先日、真衣とここで開かれた個展で三木・・乃木さんに会いましたが、杖なんて持っていなかった。ご自分の足で、しっかり歩かれていましたよ?」
「数日で足を悪くするなんて普通じゃあり得ないと思うが。あの杖、かなり古いぞ?昔から所有していた物じゃないのか?」
「そうだとしても、なぜ急に?」
「今のところは分からないね。鑑識に回そう。」

 倉庫の入り口付近では、オークションに来た客がざわついていた。身なりの良い女性が、玲央に尋ねる。

「刑事さん。私たち、いつ返してもらえるのかしら?」
「・・・被害者が亡くなってから、30分も経っていません。何者かが外から出入りした痕跡はありませんから、この会場にいる全員が容疑者になります。私たちが良いと言うまで、この建物からは出ないでください。」

 一斉に不満の声が上がった。

「ふざけるな!そんなことできるわけないだろう!午後から会議があるんだ!」
「私だって仕事がある‼︎警察の一存でそんな勝手が許されるのか⁉︎」
「申し訳ありません。しかし、殺人を犯した犯罪者を野放しにはできません。現場の検分が終わり次第、事情聴取を行うので、別室でお待ちください。」
「馬鹿を言え!1人死んだくらいで仕事の邪魔をされるなんてたまったものじゃない!」

 海里はムッとし、言い返そうとした。すると、彼より早く小夜が口を開く。

「政府の重役や財閥の長たる方々が、揃いも揃って見苦しいことを仰らないで。本当に何もしていないのなら、早く帰れることぐらいお分かりになるでしょう?そうでなくとも、亡くなった方の前で命を低く見るなんて、それこそ馬鹿げた話です。」
「何だと⁉︎」
「怒りたいのはこちらの方です。早くお戻りになってはいかが?庶民の遺体なんて見苦しくて、見ていられないんでしょうからね。」

 客たちが去っていくと、小夜は溜息をついた。

「これだから権力者は嫌いなのよ。人の命なんて、そこら辺に落ちている塵くらいにしか思ってない。」
「そのようだね。さて、捜査を始めるけど君はどうする?小夜。」
「乗りかかった船よ。手助けくらいはするわ。何せ、江本さんが暴走しそうだもの。」
「同感。じゃあ、始めようか。」
                    
         ※   

「アリバイや被害者の死亡時刻を調べた結果、残ったのはこの5名の方々ですね。」
「それにしても・・この顔ぶれは何だ?三好財閥会長・三好幸和、赤崎財閥副会長・入間京子、財務大臣秘書官・能坂和久、次期文部大臣候補者・小日向夏菜、元官房長官・君崎信二郎・・・。全員政界・財政界のトップクラスだ。」

 海里も驚いていた。小夜は少し考え、口を開く。

「このオークションは普通じゃないのよ。わざわざ私に招待状が届いた時から気になっていたの。ねえ玲央、少し調べてくれない?何かおかしいわ。年がら年中予定が詰まっているような人間が、普通の絵画オークションに来るなんてあり得ない。」
「ああ、そのことなんだけど。一課の刑事が、気になる話を持って来てさ。」

 玲央は撫子から聞いた話を海里と小夜に話した。2人は驚く。

「あくまで可能性ですが、普通のオークションの裏で、乃木さんの絵が無断で売買されているということですか?」
「そういうこと。もしかしたらこのオークションも・・・かな。小夜の言う通り、国の重役がここまで揃うのは流石に怪しい。」

 その時、海里は何かを思い出したかのようにハッとした。彼は急に踵を返し、5人の容疑者がいる、オークション会場へ向かった。

「すみません。どなたか入札用の紙を見せてください。確かめたいことがあります。」

 その瞬間、5人の顔が強張った。海里は目を細める。

「見せられない理由でもおありですか?」
「他人に見せれるわけがなかろう。」

 そう言ったのは、元官房長官の君崎信二郎だった。海里は分かっています、と言う。

「捜査のためにご協力ください。皆さんの疑いを晴らすためでもあります。」
「そう言って見せるとお思い?貴方は警察でもないでしょう。」
「確かに彼は我々が認めた個人的な協力者にすぎない。しかし、その頭脳は信頼に値します。」

 龍はハッキリとそう言い、赤崎財閥の副社長・入間京子の前に立った。

「彼がダメなら警察として協力を要請します。見せてくれますね?」

 入間はたじろぎ、嫌そうに紙を渡した。海里は龍からそれを受け取ると、紙の側面を見つめる。

「やっぱり・・・!スタッフさん、カッターか何かありませんか?」
「ありますけど、何にお使いに?」
「紙を切ります。小夜さんの入札用の紙を見た時から違和感を覚えていましたが間違いない。これは、薄い紙を2枚重ねている。入札用の紙の裏に、もう1枚別の紙が付けられてるんです。金額を書き込む場所だけ穴が開けられ、結果的に裏の紙に金額を書き込んでいることになる。」

 海里はカッターナイフを受け取り、紙の側面を切り裂いた。

「これを見てください。」

 海里が見せた裏の紙には乃木家良が描いた風景画の写真がいくつもあった。彼の言葉通り、金額は家良の絵に付けられている。

「別の絵画オークションをやっているふりをして、乃木さんの絵画を売買していた証拠です。小夜さんの紙も貸して頂けませんか?」

 同じように切り裂くと、裏の紙が現れた。

「やはりそうですか。あなたたちが小夜さんに招待状を送ったのは、彼女にも罪を着せるためだったのですね。もし気に入った絵画があれば、彼女は入札する。そして全てが終わった後に種明かしをして、共犯だと脅して天宮家の財産を奪うつもりだったのでしょう?財閥や政界のトップの方々が、随分と汚いやり方をなさいますね。」

 海里は淡々と述べた。5人は言葉を詰まらせる。

「スタッフは共犯じゃないわね。このオークションの主催者が仕組んだのかしら。」
「恐らく。皆さんならどなたかご存知では?」
「生憎、知らないよ。」
「知らない?あなたたちは主催者の正体も分からないオークションに参加されたんですか?自分たちの金や地位を狙っているなどはお考えにならなかったと?」
「三木良家の絵は、手に入れる価値があるのさ。天才と言われた、男の絵をな。」

 三好幸和は眼鏡を拭きながらそう言った。海里は入間と小夜の入札用の紙に書かれた絵画を見つめ、首を傾げる。

「よく分かりませんね。確かに素晴らしい絵ですが、なぜか感動できない。」
「絵画に疎いだけでは?」

 能坂和久が鼻を鳴らした。海里は少し考え、絵を見つめる。

「江本さんに同意するわ。私も絵画に疎いけど、素晴らしい絵に感動くらいはするもの。そこにある風景画は、特別だと思えない。写真だからとかじゃなくて・・・そう、画家の思いが感じられないのよ。素晴らしい絵を描きたいっていう、画家にあるはずの思いが。」
「そもそも変じゃないか?線も歪で、塗り方も雑だ。そういう画風だと言われれば違うが。」
「でも他の絵画は綺麗だよ。その紙に書いてある絵だけが、おかしい。」
「これは・・・調べる必要がありそうですね。」
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