転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第一章 幼少期の王宮での暮らし

第八話 竜騎兵団からのお土産

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 騎兵団長ウラノスとの面会を終えて、王宮へ戻ったアルバート王子とルーシェ、そして護衛騎士バンナム。
 護衛騎士バンナムは、弟の操る竜の背から下りた時、固い地面の感触を何度も踏んで確かめて感動していた。

「ああ、生きて帰って来られてよかったです」

 それをジト目で見上げる紫竜ルーシェ。少しばかりオーバーだと護衛騎士バンナムの台詞に思っているのだ。
 確かに、竜が驚くほど高い場所まで飛ぶことに、ルーシェも驚いた。
 上空は風が冷たいから、アルバート王子の胸元の布袋から顔を出さない方がいいと言われていたけれど、好奇心から時々、ルーシェは布袋から顔を覗かせて、チラリチラリと外を眺めていた。
 刺すように冷たい空気の中、眼下には緑の森が広がり、細い川がうねうねと続いているのが見えた。
 森の木々は小さく、飛ぶ鳥達も小さかった。
 
(飛行機の中から見た、光景のようだ)

 前世の記憶が蘇る。
 旅行で沖縄に行った時も、飛行機から眼下を見れば、玩具みたいに町も小さく見えた。
 そして眼前の世界の広さに驚いたものだ。
 沖縄の島に到着する前に見たあの海の碧さ。ただの碧ではない。様々な色の混じった、美しい碧の色合いだった。

(この世界にもきっとたくさんの美しい場所があるに違いない。もし竜として飛んでいけるのなら)

 いつかその美しい場所に、この王子を背に乗せ、共に飛んでいきたいものだった。


 アルバート王子とルーシェは、女官らにすぐさま王子の私室に案内され、温かなお茶を差し出された。
 竜を下りた後は、冷えた身体を温める必要があることは知られているようで、「お疲れをとるように」と焼き菓子まで用意されている。
 アルバート王子の膝の上でルーシェは、丸いボウルのような茶器を、なんとか両手で持ってお茶を飲んでいた。
 その丸いボウルのような茶器は、アルバート王子とルーシェがいろいろと研究した結果、「これだ」と決めたルーシェ専用の茶器であった。
 人間の持つ茶器は、小さくて滑りやすくルーシェの手では持てなかったのだ。
 いっそ、茶器をテーブルの上に置いて、犬のように頭の方を器に近づけて飲めばよいと言うアルバートに対して、ルーシェは「ピルルル、ピルルルル!!」とひどく怒って鳴いて、地面をバシバシとその尻尾で激しく叩いて不満を表した。
 ルーシェの前世、高校生男子沢谷雪也の記憶から言わせれば、それは犬食いである。とても無作法であった。
 フォークやナイフを持つことは出来ない。手にくくりつければ持つことも出来るかも知れないが、なかなか厳しそうだ。
 なら、せめて茶器くらいは持てるようになりたい。
 
 そうしたルーシェの願いを叶えてやろうと、アルバート王子はテーブルの上に大小さまざまな食器を並べ、ルーシェに一つずつ持たせた。
 結果、この目の前の白くて丸い、表面に凹凸のあるいかにも手作りの陶器製のボウルが、お眼鏡に叶ったのだ。
 ルーシェはアルバート王子の膝の上で、そっと陶器のボウルを持ち上げ(そっと触れないと、小さくても竜である。バリンと陶器の器を割ってしまうのだ)、少しばかり長い首の方を近づけてボウルから舌でお茶を舐めとった。熱すぎるお茶だと、舌を火傷するので、よく分かっている女官は、ルーシェのために若干ぬるいお茶を淹れてくれた。

 それを見て、アルバート王子の後ろに立つ、護衛騎士のバンナムは、内心(変な竜だ)と思い、ルーシェのことを眺めていた。
 主であるアルバート王子の真似をしてお茶を飲みたがるのかと、最初は思っていた。
 それは、幼児が大人の真似をしたがることにも似て、なんとも微笑ましいと侍従や女官らは温かく見ているようだが、どうも、そうではないようにバンナムには思えた。
 アルバート王子の真似をして、お茶を飲みたがっているわけではない。

 自分がそうやって飲みたいから、そうしているのだ。

 人と同じように、茶器を使ってお茶を飲みたい。
 人と同じように、人の食べるものを食べたい(相変わらず生肉は駄目だと主張する子竜)。

 そう願っているから、しているようだ。
 本当におかしな子竜だ。
 
 そうバンナムが思っている中、アルバート王子は、竜騎兵団からのお土産として持たされた袋を開けた。
 袋の中には、綺麗に洗われた、真っ白い牛の頭の骨が入っていた。

 アルバート王子はとりあえず、それをテーブルの上に置く。
 すでにルーシェはそれを見て怯え、アルバート王子の胸に必死にしがみついている様子だった。

 袋の中に入っていた手紙によれば、「竜騎兵団の小竜達は、この牛の骨を噛み砕く遊びが大好きです。歯が成長する時に、かゆみがあるらしく、そのためにも砕く必要があるようです。真新しい牛の骨を用意しました。是非ルーシェに遊ばせてやってください」とあった。

 ルーシェは手紙を読み上げたアルバート王子の顔をじっと見上げた後、テーブルの上の牛の頭の骨を見て、ふるふると頭を振っていた。
 それがなんとも人間臭く、バンナムはまた(変な子竜だ)と内心呟くのだった。



 しばらくして、王子達が竜騎兵団から帰ってきたことを知ったリヨンネが部屋に現れた。
 リヨンネは、王子の部屋の隅で転がっている真っ白い牛の頭の骨を見た後、アルバート王子の膝の上で、甘えてピルピルルと鳴いている紫竜ルーシェを見る。

「この頭の骨は、ルーシェの歯にいいんですよ。時々噛むようにした方がいいです」

「でも、ルーシェが嫌がるんだ」

 テーブルの上にドンと置かれた牛の頭の骨を見て、ルーシェは怯え、次いで「どっかへやれ」とテーブルの向こうに押しやっていた。最後には部屋の隅にまで牛の頭の骨は追いやられてしまったのだ。
 だが、リヨンネはため息混じりで言葉を続けた。

「ルーシェ、私の言葉が分かるのなら、きちんと話を聞いて下さいね」

 リヨンネは、ソファに座るアルバート王子のそばに跪き、王子の膝の上で遊ぶルーシェと視線を合わせた後、優しく言った。

「貴方は竜です。紫竜とはいえ、鋭い歯を持つ。その歯は、獣を斬り裂き、嚙み砕くためのものです。人間と同じようなものばかり食べていれば、その歯はきちんと成長しないでしょう。噛み砕く力も弱くなる。そして身体も、紫竜は他の竜よりは小さいと言いますが、それよりももっと小さくなって、きちんと成長できない可能性があります」

 ルーシェの黒い目が開かれた。

「生肉が嫌いなら、焼いた肉でもいいでしょう。でも、それを腹いっぱい食べて下さい。野菜がお好きなようですが、それもいいでしょう。ですが、肉はたくさん食べるようにして下さい。竜騎兵団の子竜達は、腹がパンパンに膨れるまで肉を食べるのが普通です。貴方もそうしなければ、きちんと成長できません。飛ぶことも出来なくなるやも知れません」
 
「…………………」

 ルーシェがショックを受けたように目を見開いたままの様子を見て、アルバート王子が言った。

「ルーシェ、お前は嫌かも知れないけど、お前が病気になったり弱ったりするのは嫌だ。先生の言うように、肉をもっと食べるようにするんだ」

 ルーシェはこくりと頷いた。それを見て、アルバート王子は慰めるように子竜の身体を撫でた。

「ちゃんと焼いた肉を用意する」

「そうです。でも、殿下が食べやすいように切り分けて差し上げるのは駄目ですよ。歯で嚙み切るようにしないといけません」

 それには弱々しく、ルーシェは頷いた。
 そしてリヨンネが、部屋の隅で転がっていた牛の頭の骨を再びテーブルの上に運んでくると、ルーシェは仕方なしの様子で牛の頭の骨の端に噛みつき、憤懣を表すように鋭い牙を突き立てた。
 骨はバリンと割れた。
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