転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第一章 幼少期の王宮での暮らし

第十六話 紫竜の魔法

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 リヨンネは、本当にレネの恋の成就に協力する気があるようで、先日の酒場の席では、授業が終わった後、どうバンナム卿を捕まえて、レネが告白するかという手順まで二人で額を合わせて話を詰めていた。
 
「大丈夫です。今度の授業の後、私が殿下をお引き止めします。その間、レネ先生がバンナム卿に声を掛けてください」

 リヨンネが早速そのような協力を申し出た。


 そして、その週の最初の魔法の授業が終わったその時、毎度の如く紫竜のルーシェを迎えに現れたアルバート王子に、素早くリヨンネが話しかけた。アルバート王子がルーシェを回収して、すぐに部屋を出て行かれては困るからだ。

「殿下、ちょうど良いところにいらっしゃいましたね。今回、殿下にお見せしたいものがございます」

 そう言って、リヨンネは殿下の手を取り、部屋の隅に連れていく。
 リヨンネが殿下と彼の抱っこする紫竜の前に取り出したのは、竜の背に載せる革製の大きな鞍だった。
 それにはアルバート王子も、紫竜のルーシェも驚いていた。

 そうしてリヨンネが王子と紫竜ルーシェを引き付けている間、リヨンネはチラチラと奥手の王宮魔術師の方に視線をやって促す。
 それにレネは頷き、緊張した面持ちで、王子の護衛騎士バンナムのそばに近寄ったのだ。

 レネは近寄るなり、すぐに頭を下げた。

「バンナム卿、いつぞやは大変お世話になりました。私は以前、王宮で迷子になりかけた時、卿に案内して頂いた者です。御礼を申し上げたいとずっと思っていましたが、なかなかその機会がなくこんなにも遅くなって申し訳ありません」

 茶色の髪の騎士は、レネの言葉に片眉を上げて驚きを見せた。
 
「……………………………ああ、あの時の」

 ようやく思い出したようで、青い目を開いている。
 つまりは、言わなければ思い出すこともなかった存在というわけか。そのことに、またレネは少しばかりショックを受けていたが、気を取り直して言葉を続けた。

「バンナム卿があの時助けて下さったおかげで、私は無事に試験にも合格し、殿下の紫竜の魔術の教師も勤めることが出来ました。何もかも、バンナム卿のお陰です」

 言えた!!

 そう、一息に、今までこの半年間、何度も口にしようと思っていた言葉をようやく口にできたその喜び、達成感に、胸がつまる。
 バンナムはレネの言葉に、目を和ませ、優しい眼差しを向けた。

「いえ、何もかも私のお陰とは、オーバーですね。試験に合格したのも、先生がとても優秀だったからです」

 リヨンネの話だと、バンナム卿は二十四歳。
 思っていたよりも若い。
 そして、護衛を務める騎士らしく、長身の逞しい肢体を軍衣に包み、帯剣している姿は、ため息をつくほど凛々しかった。

(ああ、やっぱり素敵な人だ)

 そう内心思っているところに、笑い声が響いた。

「まだルーシェには大きいよ」

 アルバート王子の声である。
 竜の背中に置く鞍の、最も小さなものを竜騎兵団から借りて持ってきたリヨンネであったが、その最も小さな鞍でさえ、ルーシェの背には大きくてずり落ちてしまう。
 ついにはトンネルのようにルーシェが、鞍の下に潜っては出てくる動作を繰り返して、アルバート王子を大笑いさせていた。

「ハハハハハハ、ちょっとルーシェ」

 大笑いする王子の足に飛びついて、ルーシェは「ピル、ピルルル」と話しかける。
 その紫竜の大きな黒い目を見て、アルバートは答えた。

「うん、面白かった。でも、アレはトンネル代わりにして遊ぶものじゃないんだよ。ゆくゆくはお前の背中に載せることになる」

 紫竜とアルバート王子のやりとりを見て、少しばかりリヨンネは驚いていた。

「殿下、ルーシェの言葉がお分かりになるのですか?」

「なんとなくね。ルーシェは『これは僕専用のトンネルです』と言ったから、おかしくて」

 紫竜を抱き上げ、愛し気にその頭にキスを落とす。

「本当に可愛いんだから」

 竜と主である竜騎兵は、心話で会話を交わすという。言葉でなくとも、心の声で話を交わすものだから、今のアルバートが言う、なんとなしにルーシェの言葉がわかる状態はそれとは違うだろう。
 しかし、朝から晩まで共に過ごしているから、異種族間だとしても、その言いたいことがなんとなく分かってしまう程、心が近くなっているのかもしれない。

 そしてまた、それとは別にリヨンネは少しばかりマズイという気持ちもあった。
 
 竜騎兵団から借りてきた最も小さなこの鞍は、竜騎兵団にいる小さな竜の背に付けられるものである。その鞍が背中からずり落ち、トンネルのようにくぐることができるということは、ルーシェが仲間の子竜達よりも遥かに小さい体であることを示しているのだ。
 王宮にやって来て半年、竜騎兵団にいる同時期に生まれた竜達は、この最も小さな鞍を背に付け、そろそろ騎乗訓練の開始となっている。
 なのに、ルーシェはまだ小さい。
 半年の間、子猫ほどの大きさが、犬ほどの大きさになった程度の成長である。

 いくら、竜の中では小さいと言われる紫竜でも、これはマズイのではないか。
 小さすぎて、騎竜であるのに、背中に竜騎兵を乗せられない状態では、騎竜とは言えないだろう。

 顎に手を当て、リヨンネがそう考え込んでいると、後ろで王宮魔術師レネが、バンナムを酒の席に誘い出すことに成功したようで、「それでは今度の週末に」と弾む声が聞こえた。



 いつものように、アルバート王子はルーシェを抱き上げたまま、居室に戻ろうとする。
 犬ほどの大きさに成長したルーシェは、重くなっていて、「お前もだいぶ大きくなったな。その内、僕はこうして抱き上げられなくなるだろうな」と王子が寂しそうに言うと、ルーシェは「ピル、ピルルルル、ピルピル」と懸命に何かを言っていた。

 リヨンネが内心(後半年、どう紫竜に食べさせて、急激に成長させるか)と真剣に悩んでいる横で、紫竜はこう言っていた。

 「頑張って小さくなるから、抱っこをやめないで」と王子の抱っこ命の紫竜は懸命だったのだ。
 それに、アルバート王子は当然の疑問をぶつけた。

「どうやって小さくなるの?」

 問いかけに、またもルーシェはピルピルと鳴いた。
 その王子と紫竜のやりとりに、リヨンネも気が付いて、耳を傾ける。

「うん、魔法で身体を小さくできるの? 凄いなー、ルーシェは」

 当然、リヨンネは愕然としていた。



 グルリと王子と紫竜の方へ向いたリヨンネの顔は、怖いと思う程真剣な表情を浮かべていた。

「魔法で身体を小さくできる!? 本当に!?」

 そしてリヨンネが、アルバート王子の抱いている紫竜の顔に、その顔をズイと近づけると、紫竜は「ピルル(怖い)」と弱々しく鳴いて、王子の胸にしがみついていた。
 だから王子は少し怒っていた。

「リヨンネ先生、ルーシェを怖がらせないでください。そんな怖い顔をしてどうしたのですか」

「それは失礼した。でも、今、私は聞き捨てならない話を聞きました。ルーシェが、魔法で身体を小さくできると」

「そうです」

「見せてもらうことは出来るでしょうか」

「とりあえず、僕の部屋に行きましょう」

 アルバート王子がルーシェの授業を受けている部屋を出ると、彼らは王子の居室に向かった。
 すぐさま女官がお茶を用意し、一礼して出て行った。
 部屋には、王子、リヨンネ、そして護衛騎士バンナムの三人に紫竜ルーシェだけになる。
 ※王宮魔術師レネは王宮内で与えられている自分の部屋に戻っています。ちなみにバンナムに初めて話しかけられた喜びで頭がいっぱいになり、王子と竜のそのやりとりは耳に入っていませんでした。
 そこで、王子は紫竜に促した。

「じゃあ、ルーシェ、見せてくれる?」

 紫竜は頷き、次の瞬間、生まれたばかりの頃のあの小さな子猫ほどの大きさになった。
 この大きさになると、余計に黒い目が大きく感じられ、子竜特有の可愛らしさが見える。
 紫竜は「ピルル、ピルルルルル」と「凄いでしょう」とでも言うように誇らしげに首を伸ばして声を上げていた。
 リヨンネは言葉を失っていた。

「…………………………………」

 言葉を失って立ち尽くしてしまう。

(魔法?)

(竜が身体を小さくする魔法など、今まで聞いたことがないぞ)


 驚いて呆然としているリヨンネをよそに、王子は喜び、魔法でその姿を小さくしたルーシェを持ち上げ、高い高いをするように上に上げた。
 そしてまた小さな竜の頭に口づけを落とす。

「お前は凄いなー。大きさを変えられる魔法まで使えるのか。さすが、“魔術の王”と呼ばれる紫竜だ!!」

「ピルルルルルルルルルルル」

 褒められて、上機嫌に鳴き声を上げる紫竜。
 それには、リヨンネも彼がなんと言っているのか察することができた。

 「凄いでしょう」だ。

 同じく、驚いて呆気に取られていた護衛騎士バンナムは、少し考え込んだ後、紫竜に声をかけた。

「小さくなれるのなら、大きくもなれるのですか」

 紫竜は一度翼を広げた後、閉じて、それから言った。

「ピルル、ピルルルピルピル、ピルルルル」

 その言葉は複雑で、流石に最初は王子も分かりかねるようだった。
 だが、しばらくルーシェとのやりとりの後、王子は言った。

「大きくなるのは難しいみたいだ。今はできないけれど」

「ピルルル」

「その内、出来るようになるみたい」

 王子の言葉に同意するように紫竜は頷いて、王子の身体にビタンと張り付いた。そして長い舌でペロリと王子の頬を舐めたのだった。
 それには、アルバート王子はまた笑い声を上げ、小さな小さな竜の身体を抱きしめたのだった。
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