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第二章 竜騎兵団の見習い
第十一話 魔術師からの竜に効果的な魔法の提案と久しぶりの再会
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魔術師レネは、先日王子と紫竜から頼まれた宿題について考えていた。そう、紫竜に言い寄って来る竜達に大きくダメージを与えるような強い魔法とは一体どういうものが考えられるかという宿題であった。
竜は、この世界の生態系で頂点に立つ生き物である。
竜は人間よりも魔力に富み、魔法に優れ、魔法で攻撃された時の耐性も強い、魔法生物だ。
そしてその体は物理的にも非常に頑丈である。普通の剣で竜を倒そうとしても歯が立たない。
弓矢に至っては、射てもその矢がポキポキと折れてしまう状況で、腕の良い弓師が眼球や開いた口の中を目掛けて射るしかない。それか魔法で矢の強さを増して射貫くしかない。
実際、この王国が他国から恐れられる強国であり続けるのも、竜騎兵団を擁していることが大きい。
一頭の竜の強さは千人の歩兵に勝るのだ。
そんな、この星最強の生き物である竜に対して効果的なダメージを与える魔法は何であろうか。
レネは考えこんでいた。
紫竜ルーシェは、成長したその姿があまりにも魅力的で、多くの竜に“背中に乗られそうになる”状態だという。
それを物理的に阻止すればいい。
そして、考え抜いた末に魔術師レネが提案した魔法は土魔法だった。
「土魔法ですか?」
アルバート王子はそれを聞いて驚いていた。
レネは頷く。
「はい。この竜騎兵団にいる竜達は、飛竜ということで多くが風魔法を操ります。一部の飛竜達は火や水を操るようですが、土魔法を操る竜はいません。土魔法は土竜が使う魔法で、土竜は飛竜ではなく、洞窟や地底に棲む巨大な竜です」
「それを、ルーシェは使うというのか?」
「はい。以前調べた時、紫竜が五属性を持っていることが分かっています」
「そうなのか、ルーシェ」
驚いて膝の上の紫竜の顔を覗き込むと、そのことがよく分かっていない紫竜も小さく「ピルル?(そうだっけ?)」と首を傾げている。
以前教えただろうと、紫竜の耳元で言いたいところであったが、レネは我慢した。
「火、水、風、土、光の五属性を持っています」
本当なら、あと一つの闇属性という属性があるが、光属性を持った段階で重ねて闇属性を持つことは出来ないと言われているので、ルーシェの闇属性の有無については調べていなかった。
「そうなのか。さすがルーシェ。凄いな!!」
そう言って、アルバート王子が小さな竜を高い高いと抱き上げると、紫竜も「ピルルピルルル」と喜んで声を上げている。
レネがゴホンと咳をつくと、慌てて王子は膝の上に紫竜を戻した。
「失礼しました、先生」
「いえ。話を続けますね。つまり、この竜騎兵団にいる竜達は一頭も土魔法が使えません。それが紫竜の最大のメリットになります。紫竜は背中に乗ろうとする竜を土魔法で土壁を作って遮り、更にはそれで物理的に吹っ飛ばせばいいのです。もしくは急所を土壁で突いても効果的だと思います」
過激なレネの提案に、王子の後ろに控えている護衛騎士バンナムの顔色も少し悪くなっていた。
襲い掛かって来る竜の股間を、土壁が強打することを思うと、凄まじい痛みがあるだろうと思う。
「そんなことしたら、襲ってきた竜は死んでしまいませんか」
一応バンナムが、おそるおそるそう言うと、紫竜は「ピルルルピルピル!!!!」と怒ったように言い返していた。
王子が通訳したところ「俺を襲うような奴らは全員死ね!!!!」という過激な台詞だった。
そして紫竜ルーシェは言った。
「ピルルピルピルピルルルル!!(俺は土壁を金剛石のような硬さまで鍛えてやる!!)」
そうすれば、弓矢や剣を跳ね返すという竜でさえも、その金剛石並の硬さの土壁にはお手上げだろう。
ルーシェは、魔法で土壁の強度を増加させる方法を知っていた。
そして魔力は、毎日増量させている魔素を使えばそれは潤沢にあるのだ(相変わらず毎日魔素を袋に詰めるノルマを達成していた)。
負ける気は全くしなかった。
以前、レネはあまり他の竜達が使わないような魔法を使うことで、紫竜が目立つことは避けた方が良いと助言していた。しかし今回のコレに関して言えば、紫竜の身の安全という切羽詰まったものがある上、紫竜が多彩な属性を持つことは文献にも記載されていたため、土魔法の行使はやむを得ないだろうと思っていた。土魔法は、竜騎兵団にいる他の竜達への威嚇材料として使い、出来れば、実地で他の竜に試すことは避けられたらとレネは考えていた。一方のルーシェは襲い掛かってくる竜を殺る気満々であったが。
そして後日、騎兵団長ウラノスの元へ、ご報告という形で王子の護衛騎士バンナム卿から話が上げられてきた。
紫竜が自分を襲う竜がいれば、容赦なくその急所を土魔法の土壁で貫くというものだった。
それを聞いた騎兵団長と副騎兵団長はなんとも言えぬ表情になり、騎兵団長ウラノスは「竜達にもよく周知させておく。命惜しくば紫竜の背中には決して乗らぬように伝えよう」と言った。
そして小さな紫竜が王子に抱き上げられてやって来ると、ますます二年目の子竜達は怯え後ずさるようになったのだった。
やがて、季節は本格的な春になった。
雪解けした土の間から、緑鮮やかな芽がそこかしこで頭をもたげている。
まだまだ寒さが厳しく、吐く息も白かったが、どことなく日差しも柔らかく感じる。
冬の間は厚い雪に覆われる大地であったが、山の下の村の辺りはもう緑が薄く広がり始めていることが見える。幼竜の姿をとっているルーシェも、春の訪れを感じるのか嬉しそうに王子の周りを飛んで、歌うように鳴いていた。
見習い一年生の竜騎兵達も、生まれたばかりの子竜への餌やりがだいぶ落ち着いたようで、王子がこの竜騎兵団へやって来て一か月が経つこの頃、王子はようやくまともに他の見習い一年生達と交流を持つようになっていた。まだまだ子竜達は小さく、赤ちゃんのような動作をしていたが、一か月間、見習い達が必死に餌を口に入れていたおかげか、見違えるように大きくなっている。今では一頭一頭がスクーターくらいの大きさであった。
そしてルーシェも見習い一年目の子竜の大きさに合わせて、自分の姿も少しだけ魔法で大きく成長させた。
生まれたばかりの子猫サイズから、他の竜達の大きさに合わせて姿を魔法で変える様子を見て、見習い一年生の竜騎兵達は驚いていた。
「本当に、大きくなれるのですね」
「すごいです」
手放しの賞賛に、ルーシェは照れている様子だった。
他の子竜達と軽く鼻を合わせたりして挨拶をしているが、その中でもルーシェの賢さは突出していた。
人の話を理解し、王子にしか意味は分からぬ状態ではあったが、鳴いて返事をする。聞き分けよく椅子にも座ることが出来る。だいたい黙って話を聞くことが出来るなんて信じられない思いだった(一年目の子竜達はいつも走り回り、ピルピル大声で叫んでいた。じっとしていることなどない)。
つくづく、一年目の見習い達は感心した様子で言っていた。
「殿下の紫竜は本当に賢いんですね」
「本当に人間のように聞き分けが良くて羨ましいです」
「うちの子も大きくなったら殿下の紫竜のようになれるのでしょうか」
「人間のように聞き分けがよくて」という見習いの言葉に、思わずルーシェは「だって俺は元は人間だったもの」と口走りそうになったが、それは黙っていた。
卵を割って出てきた時から、自分の中には沢谷雪也という高校生の意識があったのだ。
だから、聞き分けがいいのも、椅子に黙って座っていられるのも、お菓子を好んで食べるのも当然だった。だって、元は人間だったのだから。
竜の中において、自分は異質な存在なのだ。それは分かっている。
そしてそれゆえの孤独も感じていた。
自分は珍しい紫竜で、賢い紫竜、綺麗な紫竜。
仲間であるはずの竜達の間でも違い過ぎる。
だけど、自分は王子の竜だ。
ルーシェはぎゅっと王子の腕にしがみついた。
その想いを分かっているのかいないのか、王子もまたルーシェを見つめ、抱き締めてくれたのだった。
(たとえ他の竜と違っていても、おかしいと思われても、俺をいつも大事にしてくれる、俺を大好きだと言ってくれる王子がいる限り大丈夫)
王子がいる限り、俺の世界は変わらない。
そこに、どこか遠くから声が聞こえた。
建物の外の、竜の離着陸場の方から声が聞こえる。
何だろうと顔を向ける見習い達の前で、窓の外で大きく手を振るのは。
王子と護衛騎士バンナムは呟いた。
「リヨンネ先生?」
そう、ひょろりとした青年のリヨンネが手を大きく振りながら歩いて来る。背中には膨れ上がった大きな荷物を背負っている。
それを認めて、ルーシェは王子の手から飛び立つ。窓から飛び出してまっしぐらにリヨンネの元へと飛んで行く。
嬉しそうにリヨンネは両手を広げて紫竜を受け止めようとしたが、その時の紫竜は他の子竜達のサイズに合わせて、スクーターサイズになっていたものだから、直前でリヨンネは慌てていた。
「待った待った、私が潰れちゃうだろう!!」
「ピルピルピルル!!」
紫竜が構わず、軽くリヨンネにぶつかるようにすると、リヨンネは地面に倒れた。だけどリヨンネは怒るでもなく笑い、目を細めて紫竜を抱きしめた。
「ああ、君が元気そうで安心したよ」
「ピルルルル」
建物の階段を慌てて下りて、追いついて来たアルバート王子とバンナム卿が声をかける。
「先生、お久しぶりです」
「お元気そうで、嬉しいとルーシェは言っていますよ」
そう言った王子の言葉に、リヨンネも言った。
「私も君達に会えて嬉しいよ。是非この一か月の間にあった出来事をたくさん話してくれるかい」
「ピルピルピルルル」
紫竜は勿論だと言っていた。そしてリヨンネの胸に頭を擦りつける。
「ルーは先生にも甘えるんですね」
「それはそうだよ。殿下と一緒に赤ちゃんの頃から遊んであげていたからね。私も紫竜に会えなくて寂しかったよ」
そう、とても寂しかった。
早く早く、この北方の竜騎兵団という僻地に行きたいと願うほどに。
リヨンネは優しく紫竜の頭を撫でていた。
「しばらくの間は、こちらにいられるのでしょうか」
バンナムの問いかけに、リヨンネは荷物を背中に背負い直して答えた。
「ここからさらに北方にある野生竜の観察拠点へ行く予定だ。竜騎兵団の寮にしばらく厄介になって準備を進める。もう少し雪が解けないと行けないな。雪崩があると嫌だからね」
「そうですか。大変ですね」
バンナムはリヨンネの大きな荷物を手に持ち、彼が泊まるという寮に運ぶと言った。
どこへ宿泊するのかと尋ねたところ、リヨンネは青竜寮に泊まることになっていると答えたのだった。
竜は、この世界の生態系で頂点に立つ生き物である。
竜は人間よりも魔力に富み、魔法に優れ、魔法で攻撃された時の耐性も強い、魔法生物だ。
そしてその体は物理的にも非常に頑丈である。普通の剣で竜を倒そうとしても歯が立たない。
弓矢に至っては、射てもその矢がポキポキと折れてしまう状況で、腕の良い弓師が眼球や開いた口の中を目掛けて射るしかない。それか魔法で矢の強さを増して射貫くしかない。
実際、この王国が他国から恐れられる強国であり続けるのも、竜騎兵団を擁していることが大きい。
一頭の竜の強さは千人の歩兵に勝るのだ。
そんな、この星最強の生き物である竜に対して効果的なダメージを与える魔法は何であろうか。
レネは考えこんでいた。
紫竜ルーシェは、成長したその姿があまりにも魅力的で、多くの竜に“背中に乗られそうになる”状態だという。
それを物理的に阻止すればいい。
そして、考え抜いた末に魔術師レネが提案した魔法は土魔法だった。
「土魔法ですか?」
アルバート王子はそれを聞いて驚いていた。
レネは頷く。
「はい。この竜騎兵団にいる竜達は、飛竜ということで多くが風魔法を操ります。一部の飛竜達は火や水を操るようですが、土魔法を操る竜はいません。土魔法は土竜が使う魔法で、土竜は飛竜ではなく、洞窟や地底に棲む巨大な竜です」
「それを、ルーシェは使うというのか?」
「はい。以前調べた時、紫竜が五属性を持っていることが分かっています」
「そうなのか、ルーシェ」
驚いて膝の上の紫竜の顔を覗き込むと、そのことがよく分かっていない紫竜も小さく「ピルル?(そうだっけ?)」と首を傾げている。
以前教えただろうと、紫竜の耳元で言いたいところであったが、レネは我慢した。
「火、水、風、土、光の五属性を持っています」
本当なら、あと一つの闇属性という属性があるが、光属性を持った段階で重ねて闇属性を持つことは出来ないと言われているので、ルーシェの闇属性の有無については調べていなかった。
「そうなのか。さすがルーシェ。凄いな!!」
そう言って、アルバート王子が小さな竜を高い高いと抱き上げると、紫竜も「ピルルピルルル」と喜んで声を上げている。
レネがゴホンと咳をつくと、慌てて王子は膝の上に紫竜を戻した。
「失礼しました、先生」
「いえ。話を続けますね。つまり、この竜騎兵団にいる竜達は一頭も土魔法が使えません。それが紫竜の最大のメリットになります。紫竜は背中に乗ろうとする竜を土魔法で土壁を作って遮り、更にはそれで物理的に吹っ飛ばせばいいのです。もしくは急所を土壁で突いても効果的だと思います」
過激なレネの提案に、王子の後ろに控えている護衛騎士バンナムの顔色も少し悪くなっていた。
襲い掛かって来る竜の股間を、土壁が強打することを思うと、凄まじい痛みがあるだろうと思う。
「そんなことしたら、襲ってきた竜は死んでしまいませんか」
一応バンナムが、おそるおそるそう言うと、紫竜は「ピルルルピルピル!!!!」と怒ったように言い返していた。
王子が通訳したところ「俺を襲うような奴らは全員死ね!!!!」という過激な台詞だった。
そして紫竜ルーシェは言った。
「ピルルピルピルピルルルル!!(俺は土壁を金剛石のような硬さまで鍛えてやる!!)」
そうすれば、弓矢や剣を跳ね返すという竜でさえも、その金剛石並の硬さの土壁にはお手上げだろう。
ルーシェは、魔法で土壁の強度を増加させる方法を知っていた。
そして魔力は、毎日増量させている魔素を使えばそれは潤沢にあるのだ(相変わらず毎日魔素を袋に詰めるノルマを達成していた)。
負ける気は全くしなかった。
以前、レネはあまり他の竜達が使わないような魔法を使うことで、紫竜が目立つことは避けた方が良いと助言していた。しかし今回のコレに関して言えば、紫竜の身の安全という切羽詰まったものがある上、紫竜が多彩な属性を持つことは文献にも記載されていたため、土魔法の行使はやむを得ないだろうと思っていた。土魔法は、竜騎兵団にいる他の竜達への威嚇材料として使い、出来れば、実地で他の竜に試すことは避けられたらとレネは考えていた。一方のルーシェは襲い掛かってくる竜を殺る気満々であったが。
そして後日、騎兵団長ウラノスの元へ、ご報告という形で王子の護衛騎士バンナム卿から話が上げられてきた。
紫竜が自分を襲う竜がいれば、容赦なくその急所を土魔法の土壁で貫くというものだった。
それを聞いた騎兵団長と副騎兵団長はなんとも言えぬ表情になり、騎兵団長ウラノスは「竜達にもよく周知させておく。命惜しくば紫竜の背中には決して乗らぬように伝えよう」と言った。
そして小さな紫竜が王子に抱き上げられてやって来ると、ますます二年目の子竜達は怯え後ずさるようになったのだった。
やがて、季節は本格的な春になった。
雪解けした土の間から、緑鮮やかな芽がそこかしこで頭をもたげている。
まだまだ寒さが厳しく、吐く息も白かったが、どことなく日差しも柔らかく感じる。
冬の間は厚い雪に覆われる大地であったが、山の下の村の辺りはもう緑が薄く広がり始めていることが見える。幼竜の姿をとっているルーシェも、春の訪れを感じるのか嬉しそうに王子の周りを飛んで、歌うように鳴いていた。
見習い一年生の竜騎兵達も、生まれたばかりの子竜への餌やりがだいぶ落ち着いたようで、王子がこの竜騎兵団へやって来て一か月が経つこの頃、王子はようやくまともに他の見習い一年生達と交流を持つようになっていた。まだまだ子竜達は小さく、赤ちゃんのような動作をしていたが、一か月間、見習い達が必死に餌を口に入れていたおかげか、見違えるように大きくなっている。今では一頭一頭がスクーターくらいの大きさであった。
そしてルーシェも見習い一年目の子竜の大きさに合わせて、自分の姿も少しだけ魔法で大きく成長させた。
生まれたばかりの子猫サイズから、他の竜達の大きさに合わせて姿を魔法で変える様子を見て、見習い一年生の竜騎兵達は驚いていた。
「本当に、大きくなれるのですね」
「すごいです」
手放しの賞賛に、ルーシェは照れている様子だった。
他の子竜達と軽く鼻を合わせたりして挨拶をしているが、その中でもルーシェの賢さは突出していた。
人の話を理解し、王子にしか意味は分からぬ状態ではあったが、鳴いて返事をする。聞き分けよく椅子にも座ることが出来る。だいたい黙って話を聞くことが出来るなんて信じられない思いだった(一年目の子竜達はいつも走り回り、ピルピル大声で叫んでいた。じっとしていることなどない)。
つくづく、一年目の見習い達は感心した様子で言っていた。
「殿下の紫竜は本当に賢いんですね」
「本当に人間のように聞き分けが良くて羨ましいです」
「うちの子も大きくなったら殿下の紫竜のようになれるのでしょうか」
「人間のように聞き分けがよくて」という見習いの言葉に、思わずルーシェは「だって俺は元は人間だったもの」と口走りそうになったが、それは黙っていた。
卵を割って出てきた時から、自分の中には沢谷雪也という高校生の意識があったのだ。
だから、聞き分けがいいのも、椅子に黙って座っていられるのも、お菓子を好んで食べるのも当然だった。だって、元は人間だったのだから。
竜の中において、自分は異質な存在なのだ。それは分かっている。
そしてそれゆえの孤独も感じていた。
自分は珍しい紫竜で、賢い紫竜、綺麗な紫竜。
仲間であるはずの竜達の間でも違い過ぎる。
だけど、自分は王子の竜だ。
ルーシェはぎゅっと王子の腕にしがみついた。
その想いを分かっているのかいないのか、王子もまたルーシェを見つめ、抱き締めてくれたのだった。
(たとえ他の竜と違っていても、おかしいと思われても、俺をいつも大事にしてくれる、俺を大好きだと言ってくれる王子がいる限り大丈夫)
王子がいる限り、俺の世界は変わらない。
そこに、どこか遠くから声が聞こえた。
建物の外の、竜の離着陸場の方から声が聞こえる。
何だろうと顔を向ける見習い達の前で、窓の外で大きく手を振るのは。
王子と護衛騎士バンナムは呟いた。
「リヨンネ先生?」
そう、ひょろりとした青年のリヨンネが手を大きく振りながら歩いて来る。背中には膨れ上がった大きな荷物を背負っている。
それを認めて、ルーシェは王子の手から飛び立つ。窓から飛び出してまっしぐらにリヨンネの元へと飛んで行く。
嬉しそうにリヨンネは両手を広げて紫竜を受け止めようとしたが、その時の紫竜は他の子竜達のサイズに合わせて、スクーターサイズになっていたものだから、直前でリヨンネは慌てていた。
「待った待った、私が潰れちゃうだろう!!」
「ピルピルピルル!!」
紫竜が構わず、軽くリヨンネにぶつかるようにすると、リヨンネは地面に倒れた。だけどリヨンネは怒るでもなく笑い、目を細めて紫竜を抱きしめた。
「ああ、君が元気そうで安心したよ」
「ピルルルル」
建物の階段を慌てて下りて、追いついて来たアルバート王子とバンナム卿が声をかける。
「先生、お久しぶりです」
「お元気そうで、嬉しいとルーシェは言っていますよ」
そう言った王子の言葉に、リヨンネも言った。
「私も君達に会えて嬉しいよ。是非この一か月の間にあった出来事をたくさん話してくれるかい」
「ピルピルピルルル」
紫竜は勿論だと言っていた。そしてリヨンネの胸に頭を擦りつける。
「ルーは先生にも甘えるんですね」
「それはそうだよ。殿下と一緒に赤ちゃんの頃から遊んであげていたからね。私も紫竜に会えなくて寂しかったよ」
そう、とても寂しかった。
早く早く、この北方の竜騎兵団という僻地に行きたいと願うほどに。
リヨンネは優しく紫竜の頭を撫でていた。
「しばらくの間は、こちらにいられるのでしょうか」
バンナムの問いかけに、リヨンネは荷物を背中に背負い直して答えた。
「ここからさらに北方にある野生竜の観察拠点へ行く予定だ。竜騎兵団の寮にしばらく厄介になって準備を進める。もう少し雪が解けないと行けないな。雪崩があると嫌だからね」
「そうですか。大変ですね」
バンナムはリヨンネの大きな荷物を手に持ち、彼が泊まるという寮に運ぶと言った。
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