転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第五話 同調と撤退命令

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 緑竜の尻尾で叩きつけられ、雪の中に埋もれていた紫竜を、迎えにやって来た竜騎兵が抱き上げて助けてくれた。紫竜の体中についている雪を払ってくれる。

「大丈夫か」

「ピルピルル」

 返事をする様子に、安心した様子で竜騎兵は紫竜の頭を撫でる。
 そして野生竜と戦っているエイベル副騎兵団長とその竜を見上げた。
 エイベル副騎兵団長の跨るロザンナは青竜系の飛竜で、持っている魔法属性は風である。飛竜は風魔法を持つことが多いが、ロザンナは風魔法を強力に使うことで有名であった。
 体格は相手の野生の緑竜が圧倒しているが、ロザンナは風魔法で無理やり緑竜を抑え込んでいる。

(すごいや)

 立ち上がり、襲い掛かろうとしてもロザンナの魔法の力で、雪の中に落とされた緑竜は手向かうことが出来ない。

「撤退か」
「急いだ方がいいだろう」

 それを見て、紫竜の周囲にいる竜騎兵達はそう言っていたが、落胆の声が漏れたのは、空の向こうから野生の竜達が次々と飛んで現れたからだ。

「糞、囲まれる」
「逃げられないぞ」

 そうした中、紫竜のそばに竜のロザンナが降り立ったかと思うと、彼女は背中に乗っていたエイベル副騎兵団長を降ろした。
 なんだなんだと思っているところで、エイベル副騎兵団長は部下達に「体を守れ」と言い、周りの竜騎兵達は顔色を変えて「お止めください」と止めていた。

 そのやりとりがよく分からない。
 ルーシェが首を傾げている前で、空へと再び飛び立つロザンナを見上げ、エイベル副騎兵団長は立った姿のまま、彼の竜ロザンナと同調したのだった。

 瞬間、ロザンナの大きな目の色合いが変わった。
 エイベル副騎兵団長のあの薄紫色の美しい色合いに染まる。

「!!!!」

 ルーシェは驚いて、エイベル副騎兵団長を見上げる。
 副騎兵団長は、立ち尽くした姿のまま、微動だにしていなかった。まるで魔法にかけられ、瞬間石の人形に変えられたと言われても信じてしまうだろう有様だった。

「ピルピルルピルピルル」

 何が起きているのだと、ルーシェが周囲の竜騎兵達に尋ねるが、竜騎兵達は答えず、彼はエイベル副騎兵団長の周囲を固め、空を一頭舞い上がったエイベル副騎兵団長のロザンナを心配そうに見つめていた。

 ロザンナの竜の口から、魔法の呪文が紡がれ始めた。

(アレ、竜は無詠唱で魔法を使うんじゃないの)

 そうルーシェは習っていたし、事実、自分も無詠唱で魔法を使う。
 魔法を唱えるための声帯も違うと思っていた。
 でも、ロザンナの鋭い牙が並ぶ口からは魔法の呪文の言葉が途絶えることなく流れていた。
 高位魔法を使う者特有の、圧が流れ始める。

 竜騎兵達は「エイベル副騎兵団長は、ヤル気だ」「容赦ないぞ」と言って、竜騎兵達の周囲を、竜騎兵団の竜達に固めさせる。

 そして次の瞬間、ロザンナの口から、白く渦巻く何かが吐き出された。
 それが空中を走り抜け、対峙していた緑竜の一頭に音を立ててぶつかったかと思うと、その緑竜の体が更に遠方に弾き飛ばされて落ちていったのだ。
 おそらく意識を失ったのだろう。ぶつけられた竜は力を失って落ちて、雪飛沫を上げて雪の中に埋もれたままだ。

 緑竜達はそのロザンナという小柄の青竜の口から出された空気の塊に、仲間の一人があっさりと倒されたことに驚いていた。
 そして一連の攻撃を眺めていた紫竜も黒い目を大きく見開いている。

 ロザンナの口から吐き出されたアレは、空気を圧縮して固めたもののようだった。
 それを鉄砲の弾のように口から勢いよく吐き出して、竜の体に衝撃を与えていた。
 ロザンナは次々に口からその空気の塊を、砲撃するように吐き出し、それをぶつけられた竜が、空中から墜落していく。

 その光景を見た相手の緑竜達が何頭も声を合わせて咆哮する。
 響き渡る竜の声に、森の木々の間から、洞穴の岩場から、多くの緑色の竜が頭を覗かせる。

「……マズイ」
「仲間を呼んでいるぞ」

 竜騎兵達が顔色を無くしている中、ルーシェを雪に叩きつけたあの大きな緑竜がなおもロザンナに魔法の力で抑えつけられながらも、大きく声を張り上げていた。

 それは、「戦え」と叫ぶ声だった。



 野生の緑色の竜達が、次々に空に舞い上がって、敵意を込めてこちらを睨みつけてくる。その数は三十頭を越えていた。

(テリトリーを侵したから、俺達に怒っているの?)

 ルーシェは竜騎兵の腕の中で、野生の竜達が集っていく様子を暗澹たる思いで眺めていた。

(俺が幼竜の姿であったとしても、テリトリーを侵したから、野生の竜達は攻撃してきたの?)

 その結果、ルーシェを迎えに来た竜騎兵達が攻撃されようとしている。
 魔法で攻撃した副騎兵団長のロザンナをも多くの緑竜達が取り囲もうとしている。

(俺が、俺が騎兵団長の帰りを待つことなく勝手に一人で、来ちゃったから)

 だからこんな大事になろうとしている。

(もしかしたら、俺……)

 ここで、野生竜に殺されてしまうかも知れない。
 その事実に初めて思い至った。

(そうしたら、王子にはもう会えなくなっちゃう)

 別れ際、王子からは「戻って来るんだ」と言われたのに、勝手に行った。
 何度も何度も名を呼ばれたのに、無視して行っちゃった。

 アレが王子との最後の別れになるなんて、絶対に嫌だった。

(こうなったら、俺もエイベル副騎兵団長に加勢して、あの緑色の竜達をやっつけてしまうしかない)

 竜達は脳筋だと、エイベル副騎兵団長からは聞いていたが、負けず劣らず、エイベル副騎兵団長もその竜ロザンナも、そして紫竜ルーシェでさえも、自分達の行動が脳筋であることに気が付いていなかった。
 そして野生の緑竜達と話し合うこともせず、ただちに衝突し、血の雨が降るかと思われた次の瞬間、視界が黒い影に覆われた。

(あれ、太陽の光が隠れた?)

 ルーシェは空を見上げる。
 そしてソレの姿を認めた時、ルーシェはあんぐりと口を開けていた。






 そこにいたのは、頭上の太陽の光を遮るほど巨体の、赤褐色の竜だった。
 バサバサと赤褐色竜の巨大な翼がはためく度に、地上の木々が大きく揺れて、バサササと音を立てて枝に積もっていた雪が落ちていく。また何か所かで雪崩が発生している様子が見えた。

 今までルーシェが見てきた竜の最大の大きさは、今回自分に襲い掛かってきた野生の緑竜で、それは大型観光バス二台くらいの大きさであった(ルーシェ比)。だが今、目の前に空を覆い尽くさんばかりの様子で現れたその赤褐色の竜は、そう、小学校の建物くらいの大きさがあった。今までは車の大きさで竜の大きさは測れていたが、赤褐色竜の大きさは車の大きさではもはや測れないスケールだった。

「……ピルルル(凄い)」

 野生の緑竜の群れは、突然現れたその巨大竜の存在に、彼らもまた呆気に取られていた。
 巨大竜は、威嚇するように咆哮した。
 ビリビリビリと空気が震え、ルーシェは顔をしかめる。
 
「雪崩が起きているぞ」

 巨大竜の咆哮で、そこかしこでまた雪崩が起きている。

(ああああああああああ、こんな追加で雪崩が起きたらリヨンネ先生が!!!!)

 今も雪崩に埋まっているはずのリヨンネ先生が、更に雪に埋まって死んでしまう。
 そう思っているルーシェの前に、他の竜騎兵の竜に跨ってウラノス騎兵団長が現れた。
 自分の赤褐色の巨大竜ウンベルトに、野生竜達の相手は任せ、とりあえず彼は竜騎兵達と紫竜の安全を確認しようとしたのだ。
 すぐさま周囲に立つ竜騎兵達が直立して敬礼をする中、正装姿のウラノス騎兵団長は眉を寄せている。
 彼は、辺境伯との定例の会合の最中、報告を受け、急ぎそのまま帰還した。軍装ではあるが、それは正装のそれである。
 ウラノス騎兵団長は、日頃、呼び出すことのない巨竜ウンベルトを呼び出し、事態の収拾に入ることにした。

 あれくらいの緑竜なら、ウンベルトだけで相手が出来る。
 実際、騎兵団長の並外れたウンベルトの巨体を見ただけで、空から反転して逃げ出す緑竜達が続出していた。その咆哮だけで空気が震え、無数の雪崩を起こす巨大な竜である。
 とても普通の竜なら、戦いの相手は務まらない。

「撤退するぞ。古竜が出てくると面倒になる」

「分かりました」

 ウラノス騎兵団長は、紫竜ルーシェを竜騎兵から受け取った。
 まるで猫の子のように受け渡しされるその状況の中、ウラノス騎兵団長はルーシェに言った。

「王子殿下がお前を心配している。分かったな」

「………………ピルルゥ(……ごめんなさい)」

 ルーシェはウラノス騎兵団長の腕の中で小さく小さくなっていた。ひどく皆に迷惑を掛けたことが分かっている。止められていたのに、竜騎兵団から飛び出した結果がこれだった。
 それからウラノス騎兵団長は、エイベル副騎兵団長が微動だにしない、立ち尽くしたままの状態に気が付いた。意識はまだ竜ロザンナの元へ飛んでいるらしい。

「同調状態か。何故止めなかった」

「お止め致しました」

「言うことを聞かなかったのは、エイベルの方か」

 ウラノス騎兵団長は深々とため息をついた。

「ここにカーティス隊長はいないのか」

「おりません。カーティス隊長は副騎兵団長から、拠点でアルバート王子殿下を見張るように命じられておりました」

 飛び出した紫竜を追って、アルバート王子までもがこの野生竜のテリトリーにやって来る可能性があった。その可能性は潰しておかなければならない。

「適切な措置だな」
 
 だがそのせいで、カーティス隊長はここにいない。
 ウラノス騎兵団長は、エイベル副騎兵団長のそばまで近寄り、何度かその名を呼びかけ、肩に手をやって揺すったりしたが、意識が戻ってくる様子は見えなかった。

「飛んでるな」

 何か強いショックを与えなければ、戻っては来られまい。
 感情が揺すぶられ、固着状態にある同調が解けるくらいの大きなショックを与えなければならない。

 ウラノス騎兵団長は深々とため息をついた後、「許せ」と短く言い、彼は突然、エイベル副騎兵団長に覆いかぶさるように口付けたのだった。

 その時ウラノス騎兵団長の腕の中にいた紫竜は、自分を抱きかかえながら口付けているウラノス騎兵団長を、黒い目がこぼれんばかりに見開いて見上げていた。

(………………え?)

 なんで、騎兵団長が副騎兵団長にキスしてるの?
 理解できないんだけど。

 彫像のように凍りついていたエイベル副騎兵団長は、目を大きく見開いた。
 その様子を見て、すぐさまウラノス騎兵団長は唇を離した。

「驚かせるためだ。十分、驚いたようだな」

 エイベル副騎兵団長は、唇に手を当て、どこか呆然とした様子に見える。やがて状況を理解した彼のその白皙の美貌がみるみる紅く染め上がる。
 ウラノス騎兵団長は「帰るぞ」と言い、即時の撤退を命じた。
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