転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第九話 黒竜との面会

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 青竜エルハルトも、自分が属する群れの長などに黒竜シェーラへの手土産について聞いてくれることになった。
 とりあえず、リヨンネが考えている手土産は酒だった。
 竜は酒が好きだ。そして光モノが大好きだ。多くの竜がその寝床に煌びやかな宝石やギラギラと輝く金銀を貯め込んでいる。
 雌の竜ならば、必ず好きであろう光モノも捨て難いが、エルハルトも好きな酒の方がすぐ手に入れやすい。
 それに酒はたくさんあって困るものではないだろうと、エルハルトからの回答が来る前に、リヨンネは自分の実家のバンクール商会に手紙を出して、旨いと評判の酒を一通り送ってもらうようにした。

 そしてエルハルトから伝えられた、青竜の長からの回答はこうだった。

「黒竜は、かわいいもの、綺麗なものに目がない。酒も好きだ」

 リヨンネは「かわいいもの、綺麗なものに目がなくて、酒が好きな、呪うのが十八番オハコの黒竜」という追加情報になんとも言えない表情をしていた。
 追加で、リヨンネは実家のバンクール商会に「かわいくて綺麗なものも一通り送ってくれ」と手紙で催促したのだった。その曖昧すぎる指示の手紙を受け取った長男ジャクセンは、ため息をつきながらも末弟のために色々と骨を折ってくれた。


 そしてやって来た、土竜タリムと黒竜シェーラとの面会の日。
 ウラノス騎兵団長は、副騎兵団長と共に土竜タリムに会いに行くと話し、黒竜シェーラについては「リヨンネ先生に任せる」と会合を投げてきた。
 「騎兵団長は楽な方へ逃げている!! 酷い、酷すぎる」とリヨンネは文句を言ったが、ウラノス騎兵団長はよほど黒竜シェーラに会いたくないのか、首を縦に振ることはなかった。
 そもそも、学舎の観察地の建物再建のための事前の根回しである。本来ならウラノス騎兵団長が土竜タリムに渡りを付ける必要は無かった(学舎側でやれと全部投げることも可)。だからあまり文句を言うと、土竜タリムの事前の根回しもやってくれなくなるかも知れないと思ったリヨンネは、泣きつくのを途中で諦めた。

 だが、代わりにリヨンネは青竜エルハルトに泣きついていた。

「一緒について来て欲しい!! エルハルト、貴方しか助けてくれる人はいないんだ!!」

 そうすがりつくように言われ、青竜エルハルトも「わかった、わかった」と言って、黒竜シェーラの元にはリヨンネ、エルハルト、そしてついていくと言い張ったキース少年が赴くことになったのだった。なお、土竜タリムにはウラノス騎兵団長と赤褐色竜ウンベルト、エイベル副騎兵団長と青竜ロザンナが向かった。


 事前に面会の申し込みの文を出していた(いったいどこ宛に手紙を出せば、土竜や黒竜に話を持っていくことが出来るのか、リヨンネは知りたがったが、騎兵団長ウラノスは教えてくれなかった)。
 約束の場所に現れた黒竜は、黒い鱗もツヤツヤと輝く大きな竜であった(もし、紫竜ルーシェがいれば「大型観光バス三台くらいだな」とその大きさを計っただろう)。その目は金色で、リヨンネはその見た事もない色合いの黒い竜に目を奪われていた。

(あああ、この大森林地帯に来て良かった!! まさか“古竜”を目にする日が来るなんて思いもよらなかった。もしかして、私にとって雪崩が起きたことは幸いだったかもしれない!!)

 そう、雪崩で観察地の建物が押し流されたからこそ、建物再建の話が出た。そして“古竜”への事前の根回しが必要になった。
 雪崩が発生しなければ、“古竜”に会うことは出来なかったのだ。

 そんな罰当たりなことを考えているリヨンネ。リヨンネの横でキースは不安いっぱいの表情で、リヨンネの手をぎゅっと握った。
 さすがにこんな真っ黒な大きな竜を目にしたキースは、怖れを覚えていた。
 キースに手を握られ、黒竜に見惚れていたリヨンネは意識を取り戻した(正気に返った)。

 リヨンネは恭しく一礼した。

「お初お目に掛かります。私は学舎のリヨンネ=バンクールと申します。この度は面会の申し込みを快く受け入れて下さり有難うございます」

 それに、黒竜は「ふん」と鼻で笑った。
 黒竜シェーラは、竜の姿のまま人語で話し始めた。

「人間達も少しは賢くなったようですね。きちんと私にも話を持ってくるとは上々です」

 今までリヨンネが会った竜は、竜の姿のまま人語を話すものは一頭もいなかったので、シェーラが黒竜の姿のままペラペラと女の声で喋り出すことに驚いていた。
 黒竜シェーラは、驚いたように自分を見ているリヨンネとその横の小さな子供と青竜エルハルトを金色の目で見つめた。

「それで、話とは観察地の建物の再建ということだったわね」

 リヨンネは黒竜との面会の申し込みの際に、面会の目的も手紙に書いておいた。

「はい。下の村から大工など必要な技術を持つ人間を運び、二、三か月ほどかけて工事をしなければなりません。建設場所を選定し、その後、冬が来る前に工事を終えたいと思っています」

「そうね。雪が降ると工事は出来なくなるわね。それまでに工事を完了させたいというのは分かるわ」

 今のところ、黒竜シェーラはへそ曲がりの魔女だと騎兵団長から言われていたが、極めて穏当に対応してくれている。会った瞬間に「建物再建などとんでもない」と、喚き散らされたらどうしようとも思っていたのだ。
 
「それで、どの辺りで工事をする予定なのかしら」

 リヨンネは地図を黒竜の前に広げた。
 念のために地図を持参しておいて良かった。

「以前の建物が立っていた場所は雪崩の直撃を受けましたので、そこは避けて、雪崩が来ないような場所を選びたいと思っています」

「ふん」

 また黒竜は鼻で笑った。

「人間は大変ね。雪崩が来たら飛んで逃げることも出来ないのだもの。雪崩が来たら、雪に埋もれて死ぬしかないのだわ」

「そうなんです!! 雪に埋もれて死にたくないので、場所の選定に困っています」

 リヨンネの回答に黒竜は「フフッ」と声に出して笑った。

「貴方は面白い人間ね。そうね、じゃあ特別に教えてあげるわ」

 黒竜は魔法で、どこからともなく筆を取り出し、その筆が空中にふよふよと浮かびながら、地図上に丸を幾つかつけた。

「この印をつけたあたりは、雪崩が過去通ったことのない場所だと思うわ」

「有難うございます!!!!」

 すかさずリヨンネは大きな声で礼を言った。
 すごく助かる。調査に行くとしても、事前に情報があるなしでは大きく違うのだ。
 その大きなリヨンネの声の礼に、黒竜シェーラは一瞬びっくりしていたが、すぐに「ふん」とまた言っていた。
 シェーラのその「ふん」は癖のようだ。

「ふん。こんなもの、たいしたことないのだもの。礼を言われるほどではないわ」

「いえいえ、有難いです。本当に助かります」

 実際には礼をきちんと言わないと、臍を曲げるタイプだとリヨンネは黒竜シェーラを見ていた。
 仮にも生家が大きな商会であるリヨンネは、それなりに相手を見て、如才なく応対するすべを身に付けていた。
 もみ手をしろと言われたら、プライドもなくもみ手を一生懸命する。そんなところがリヨンネにはあった。

 もしかして、ウラノス騎兵団長が黒竜シェーラを嫌がるところはこういうところにあるのかも知れない。
 何かで黒竜シェーラがへそを曲げ、そしてウラノス騎兵団長はプライドもあってすぐにそれに対応できなかった。
 そして互いにいけすかない奴だと思ったまま、時が過ぎてしまったのかも知れない。

「おかげで、場所の選定もスムーズに進みそうです。これから調査して場所を決めさせて頂きます」

「ふん、それは良かったわね」

 下手に出続けているリヨンネは、シェーラとの相性も良さそうだった。

(これは呪いが十八番とか聞いていたけれど、恐れる必要はないだろう。うまくやれば、情報もくれるいい“古竜”じゃないか)

 このまま無事に面会も終わりそうだった。
 リヨンネは、青竜に合図を送った。

 青竜はずいと、背中に背負って運んできた大きな木箱をシェーラの方に押した。
 リヨンネは、やり手の商売人のような微笑みを浮かべながら言った。手も知らずに揉み手をしているような有様だった。

「こちらはお近づきのしるしに、是非お納め頂きたいと思います」

「ふん、そこまでいうのなら、受け取ってあげてもいいわよ」

 そう黒竜シェーラはチロリと金色の目で木箱を見つめ、手土産は無事に受け取られたのだった。



 その帰り道、青竜エルハルトはリヨンネのことを少し見直したように見ていた。
 今、リヨンネとキースの二人はエルハルトの背中に乗っていた。エルハルトが竜騎兵団の拠点まで二人を乗せて送ってくれるのだ。

「うまくやったな。黒竜とあんなに上手くお前が話せるとは思ってもみなかったぞ」

「皆、癖があるとか言ってましたが、黒竜は全然問題ないでしょう」

 まったく普通に対応して、まったく問題なく面会も終え、五体満足無事に帰された。
 あれほどウラノス騎兵団長が嫌がるのが不思議なくらいだった。

「お前は口が上手いのだ。少しでもシェーラを不機嫌にさせると、シェーラは呪いを平気で掛けるんだぞ」

「……そんな呪いを掛けるような恐ろしい竜には見えませんでした」

 そう。「ふん」と言ってどこか強気でいる黒竜シェーラは、彼女を怒らせない限りはいい竜なのだ。
 だが、彼女を少しでも怒らせたら、呪いをかけられる。エルハルトはそのことを知っていたから、シェーラと会うことが嫌だった。面会すれば、怒らせないように気を遣わなければならないし、気難しいと言われるシェーラは、何が彼女の地雷であるか分からないからだ。

「以前、シェーラのお気に入りの場所を荒らした竜がいて、そいつは問答無用で、トカゲにされた」

「…………」

「そしてシェーラの悪口を言いふらしている竜もまた、トカゲに変えられていたな」

「トカゲに変える呪い?」

 そんな呪い聞いたことがない。

「……じゃあ、私もトカゲにされる可能性があったというわけなんですか?」

 今更ながら、黒竜シェーラの呪いの恐ろしさを感じ、リヨンネはゾクリと身を震わせた。

「いや、竜はトカゲにするということで、人間のお前にはまた別の呪いを掛けるんじゃないかな?」

 そんなこだわりなど聞きたくない。
 
 そしてふと思ったのだ。
 今もなお、ウラノス騎兵団長は黒竜シェーラをあれほど強く嫌っている。
 それはもしかしたら、黒竜シェーラに、ウラノス騎兵団長は何か呪いを掛けられているのではないかと。

 しばらく青竜エルハルトの背中で、リヨンネは考え込んでいたが、その呪いの内容が分からなかった。
 そもそもウラノス騎兵団長は、最強の赤褐色竜ウンベルトを従えているのだ。そう簡単に古竜といえども黒竜の呪いを受けるはずもない。それに呪いが掛けられているなら、ウラノス騎兵団長が今も平然と業務についたままのはずもない。

(きっと相性が悪いということだな。世の中にはどうしてもウマの合わない奴もいるものだから)

 どんなに分かり合おうとしても、分かり合うことができない。
 仇敵のように嫌い合う。そういう関係もある。
 騎兵団長と黒竜はそういう関係なのかも知れないな、とリヨンネは何となしに考えていた。
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