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第六章 黒竜、王都へ行く
第十六話 パフェット革細工店
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道を歩いているうちに、ほとんどの店が開いていった。
王都の中央広場の東側には職人街が広がり、職人街の隣には職人達の作った商品を並べる店がずらりと軒を連ねている。そこが王都の東店通りと呼ばれるところだった。
アルバート王子らは、王都の街を歩くのは初めてというルーシェを連れていることもあって、ゆっくりと川沿いの道を歩きながら、途中で美味しそうなお菓子などを買い求めながらブラブラと歩いていた。相変わらずお菓子が好物のルーシェは、アルバート王子に抱っこされながらも「アレを買って」「コレも買って」とおねだりしていたが、さすがにルーシェの腕が、菓子の入った紙袋で一杯になり始めると、首を横に振るようになっていた。
するとルーシェはプーと頬を膨らませて怒っていた。
「虫歯にはならないようにするから」
「ダメだ」
ルーシェには極めて甘い王子といえども、際限なくルーシェの求めに応えることはない。
「バンナム卿が持ってくれないかな……」
買った菓子の袋をバンナム卿が持ってくれないかと甘い考えをするルーシェであるが、王子の警護に差しさわりがあると、バンナムは静かに首を横に振っていた。
「俺が王子を魔法で守るから」
ルーシェは少しずつ、王子の身を守る訓練をしていた。
金剛石級の硬度を持つ六角柱を立てられるルーシェである。それを利用すれば、いかなる攻撃も王子には当てられないようにすることができるだろう。バンナムの指導の元、ルーシェは王子の身を守る訓練を重ねていて、もし、バンナムから警護のお墨付きが出れば、バンナムは今の王子の部屋から出ていき、王子が部屋にいる間の警護は、ルーシェに任せてくれると言うのだ。
「そんな甘いことを言ってはなりません」
そうバンナムに言われると、空色のフードの下でプーとまたルーシェはほっぺを膨らませていた。
その様子に、抱き上げている王子は笑っていた。
「そんな顔になってしまうぞ、ルー」
「だって、お菓子を買ってくれないじゃないか」
「可愛いお前が虫歯で痛がる様子を見たくない」
「毎日王子が歯を磨いてくれるから、虫歯にはならない」
「太るぞ」
「大丈夫だから」
延々とそうした言い合いをしているのを、バンナムは小さく笑いながら見守っている。
そうこうしている間に、東店通りに到着した。
実は、この東店通りに行くことについては、ジャクセンの妻ルイーズに相談した時に、勧められたことだった。
御礼の品の贈り先の人物が、以前贈った革製品の小物をとても喜んでいたと聞くと、この東店通りの革細工職人の作品を見ると良いと勧められたのだ。北方地方の革製品も有名であったが、王都の革細工は、革の表面に細かな彫刻などの細工を施し、綺麗な裏地なども縫い付けられ、より付加価値を高められたものだった。革製品を気に入ってもらえたのなら、王都の革細工もきっと気に入ると言われた。
革製品の店もまた、何軒か続きで並んでいる店があると言われ、その一角を目指して歩いていく。
ルイーズは東店通りの革細工の店ならば“パフェットの店”が一番のお薦めだと言っていた。
パフェット一族は代々革細工を扱い、この東店通りにも一族の店が幾つか並んでいる。その中には本家の営む本店があるらしい。そしてその本店は、これまたチエリ宝飾店と同じく王室御用達の看板を掲げている。
実際、立派な金縁額の店看板を掲げた“パフェット革細工店本店”の建物を見つけた時、またしても王子の腕の中で「ふぇぇぇぇ」とルーシェは驚いた声を上げていた。
まず店看板がでかい。今の自分の背丈よりも遥かに大きな看板で、古い。創業五十三年と書いてあるのは、この王国が出来て五十三年目に出来たということだろうと思うが、そうなると千九百年以上革製品の店をやっているということだろうか。もはや想像も出来ない古さだ。
店の従業員が、王子達が店内へ入ろうとしていることに気が付くと、すかさず扉を開けてくれた。
中には革製品がいっぱいで、革特有の匂いが鼻についた。
王子はルーシェを床に下ろした。
「トモチカ殿には何を贈るか、考えているのか」
「鞄を贈ろうと思っている」
手触りの良い、使い勝手の良さそうな鞄ならきっと友親も喜ぶだろう。
ルーシェはトテトテと歩いて、相変わらずお菓子の入った袋を手に抱えたまま、鞄が山のように並べられているコーナーに向かった。
手に持つタイプの大きな鞄から、背中に背負うタイプまで色々とある。
ルーシェは、肩から斜めに下げる袋のタイプの鞄に目を留めた。
鞄の中を見ると、綺麗な緑色の中袋が付けられており、その中袋は取り外しも出来るようになっていた。そして鞄には名前も刻むことが出来るという。
明るい色合いの肌色の鞄だけど、使っているうちに落ち着いた色合いに変わっていくという。
「これがいい。王子、俺、これが気に入ったよ」
「そうだな。トモチカ殿にはちょうど良いサイズだ」
小柄なトモチカに大きいサイズの革製の鞄は重くて扱いづらいだろう。
「ではこれを頂こうか」
そう王子が店員に頼んで、鞄には名前を刻んでもらうことも依頼しようとした時、入口の扉が大きく開かれて、数名の騎士達が誰かを先導するように入って来た。
そしてその騎士達に守られるように一人の若者が、子供を連れて店の中へと入って来たのだ。
その方向に視線をやって、アルバート王子は驚いて立ち尽くし、そして彼の存在に気が付いたバンナムはすぐさまその場で片膝をついて頭を下げる。
「アンリ兄上」
子供の手を引いて現れた金髪碧眼の、スラリとした容姿の若者は、二番目の兄王子アンリであった。
王都の中央広場の東側には職人街が広がり、職人街の隣には職人達の作った商品を並べる店がずらりと軒を連ねている。そこが王都の東店通りと呼ばれるところだった。
アルバート王子らは、王都の街を歩くのは初めてというルーシェを連れていることもあって、ゆっくりと川沿いの道を歩きながら、途中で美味しそうなお菓子などを買い求めながらブラブラと歩いていた。相変わらずお菓子が好物のルーシェは、アルバート王子に抱っこされながらも「アレを買って」「コレも買って」とおねだりしていたが、さすがにルーシェの腕が、菓子の入った紙袋で一杯になり始めると、首を横に振るようになっていた。
するとルーシェはプーと頬を膨らませて怒っていた。
「虫歯にはならないようにするから」
「ダメだ」
ルーシェには極めて甘い王子といえども、際限なくルーシェの求めに応えることはない。
「バンナム卿が持ってくれないかな……」
買った菓子の袋をバンナム卿が持ってくれないかと甘い考えをするルーシェであるが、王子の警護に差しさわりがあると、バンナムは静かに首を横に振っていた。
「俺が王子を魔法で守るから」
ルーシェは少しずつ、王子の身を守る訓練をしていた。
金剛石級の硬度を持つ六角柱を立てられるルーシェである。それを利用すれば、いかなる攻撃も王子には当てられないようにすることができるだろう。バンナムの指導の元、ルーシェは王子の身を守る訓練を重ねていて、もし、バンナムから警護のお墨付きが出れば、バンナムは今の王子の部屋から出ていき、王子が部屋にいる間の警護は、ルーシェに任せてくれると言うのだ。
「そんな甘いことを言ってはなりません」
そうバンナムに言われると、空色のフードの下でプーとまたルーシェはほっぺを膨らませていた。
その様子に、抱き上げている王子は笑っていた。
「そんな顔になってしまうぞ、ルー」
「だって、お菓子を買ってくれないじゃないか」
「可愛いお前が虫歯で痛がる様子を見たくない」
「毎日王子が歯を磨いてくれるから、虫歯にはならない」
「太るぞ」
「大丈夫だから」
延々とそうした言い合いをしているのを、バンナムは小さく笑いながら見守っている。
そうこうしている間に、東店通りに到着した。
実は、この東店通りに行くことについては、ジャクセンの妻ルイーズに相談した時に、勧められたことだった。
御礼の品の贈り先の人物が、以前贈った革製品の小物をとても喜んでいたと聞くと、この東店通りの革細工職人の作品を見ると良いと勧められたのだ。北方地方の革製品も有名であったが、王都の革細工は、革の表面に細かな彫刻などの細工を施し、綺麗な裏地なども縫い付けられ、より付加価値を高められたものだった。革製品を気に入ってもらえたのなら、王都の革細工もきっと気に入ると言われた。
革製品の店もまた、何軒か続きで並んでいる店があると言われ、その一角を目指して歩いていく。
ルイーズは東店通りの革細工の店ならば“パフェットの店”が一番のお薦めだと言っていた。
パフェット一族は代々革細工を扱い、この東店通りにも一族の店が幾つか並んでいる。その中には本家の営む本店があるらしい。そしてその本店は、これまたチエリ宝飾店と同じく王室御用達の看板を掲げている。
実際、立派な金縁額の店看板を掲げた“パフェット革細工店本店”の建物を見つけた時、またしても王子の腕の中で「ふぇぇぇぇ」とルーシェは驚いた声を上げていた。
まず店看板がでかい。今の自分の背丈よりも遥かに大きな看板で、古い。創業五十三年と書いてあるのは、この王国が出来て五十三年目に出来たということだろうと思うが、そうなると千九百年以上革製品の店をやっているということだろうか。もはや想像も出来ない古さだ。
店の従業員が、王子達が店内へ入ろうとしていることに気が付くと、すかさず扉を開けてくれた。
中には革製品がいっぱいで、革特有の匂いが鼻についた。
王子はルーシェを床に下ろした。
「トモチカ殿には何を贈るか、考えているのか」
「鞄を贈ろうと思っている」
手触りの良い、使い勝手の良さそうな鞄ならきっと友親も喜ぶだろう。
ルーシェはトテトテと歩いて、相変わらずお菓子の入った袋を手に抱えたまま、鞄が山のように並べられているコーナーに向かった。
手に持つタイプの大きな鞄から、背中に背負うタイプまで色々とある。
ルーシェは、肩から斜めに下げる袋のタイプの鞄に目を留めた。
鞄の中を見ると、綺麗な緑色の中袋が付けられており、その中袋は取り外しも出来るようになっていた。そして鞄には名前も刻むことが出来るという。
明るい色合いの肌色の鞄だけど、使っているうちに落ち着いた色合いに変わっていくという。
「これがいい。王子、俺、これが気に入ったよ」
「そうだな。トモチカ殿にはちょうど良いサイズだ」
小柄なトモチカに大きいサイズの革製の鞄は重くて扱いづらいだろう。
「ではこれを頂こうか」
そう王子が店員に頼んで、鞄には名前を刻んでもらうことも依頼しようとした時、入口の扉が大きく開かれて、数名の騎士達が誰かを先導するように入って来た。
そしてその騎士達に守られるように一人の若者が、子供を連れて店の中へと入って来たのだ。
その方向に視線をやって、アルバート王子は驚いて立ち尽くし、そして彼の存在に気が付いたバンナムはすぐさまその場で片膝をついて頭を下げる。
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