転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第六章 黒竜、王都へ行く

第十七話 二番目の兄王子

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 パフェット革細工店本店は、東店通りの中でも規模の大きな大店おおだなであったから、護衛の騎士達を含めた大勢の人間達が一度に店内へ入ることが出来た。もし小さな店なら、護衛数人で店内はいっぱいになったはずだと、そんな取り留めもないことを思いながら、ルーシェは急いで、アルバート王子とバンナムの二人の男達の足の間に隠れるように身を潜めた。

 店内へ入って来たのは、騎士達に警護された貴人であった。
 黄金色の髪に碧い目は、チエリ宝飾店前で見た三番目の王子ハウルと同じ色合いである。ただハウルが、肌も荒れてなんとなく崩れた様子があったのに対して、この二番目のアンリ王子にはどこか優し気な柔らかい雰囲気が漂っている。見た目もすごくいいので、きっとモテるだろうなと、王子の足の間からそのアンリ王子達を観察しているルーシェである。

 そしてアンリ王子も驚いたようにアルバート王子を見た。

「アルバートか」

 滅多に会うことのない七番目の弟王子である。
 アンリはアルバート王子を見て、微笑んだ。

「随分と久しぶりだね。この店には買い物に来たのかい」

「はい、兄上」

 アンリ王子は、アルバートの後ろで片膝をついて頭を下げる護衛騎士バンナムに、立つように命じた。

「ここは王宮ではない。堅苦しくなくて結構だ」

「有難うございます」

 それから、アンリ王子は片眉を上げて、バンナムとアルバート王子の間に隠れるようにいる水色のフードを被った小さな子供の姿に気が付いた。

「……お前の子かい?」

 昨日からずっと、兄王子達にはそう思われている。
 アルバート王子は十七歳。三歳位の姿のルーシェのような子供がいても、年齢的に少し早くはあるが、可能である。
 ただ、竜騎兵団は男だけの所帯であるからして、やはり子供の存在は不思議に思われる。

「私が世話している子です」

 自分のことを話されていると知ったルーシェは、なおも小さな身体を王子の後ろに隠そうとしていた。
 この子供姿のルーシェが、紫竜の人化した姿であると知られたくなかった。王族達にルーシェに興味を抱いて欲しくない。
 王子もルーシェも、そしてバンナムも、頭の中には、王宮から戻ってくることのなかった五百年前の紫竜の娘の話がずっと残っている。
 だからこそ、皆、表情には出さなかったが警戒しきりであった。

 紹介されることもなく、ずっと身を縮こませているその小さな子供の様子に何か察したのか、アンリ王子はそれ以上何も問いかけることなく、「ではまた」と言って、店の者達に奥の部屋へと案内されていった。
 アンリ王子の姿が消えると、明らかに、アルバート王子もルーシェも、ホッとしていた。
 アンリ王子は芸術に明るい、聡明な王子だと聞いていた。
 三番目の王子ハウルのような無体を人々に強いることもなく、常識をわきまえ、人々には大切にされている王子である。
 
 パフェット革細工店は“王室御用達”を看板に掲げる店である。
 当然、王家の者達と会う可能性はあるだろう。だが、それでも昨日に続けて今日も会うことになるとは思いもしなかった。

「早く、手続きをして帰ろう」

 ルーシェにせがまれるように言われ、アルバート王子も頷いて、トモチカに贈る鞄に、名を刻んでもらう手続きを進めたのだった。



 二階にある、上客達を通す専用の部屋の中で、アンリ王子は、妻の弟の来年六歳になるコリンの為の鞄を選びに来ていた。コリンは来年から王都にある学園に通うことになっている。その学園に通う際の鞄を購入したいのだ。コリンは妻によく似た金色の巻き毛の美しい少年であった。アンリはコリンを溺愛していた。妻のアビゲイルのことも気に入っていたが、ハッキリ言えばコリンの方こそアンリは気に入っていた。
 口には出さないが、アビゲイルはそのことに気が付いている。だが、妻は何も言わず、黙ってアンリが弟を連れ出すことを許していた。
 頻繁にアンリはコリンを連れて王都へ繰り出し、コリンの望むものを何でも買い与えていた。コリンも自分の我儘を何でも許してくれるアンリのことが好きだった。多少、抱き締められたり、キスされたりすることも我慢できる。ただ、アンリが自分の裸の絵を描きたいと言った時には、コリンは困ってしまった。姉に相談すると、姉はひどく怖い顔をした後、「それはダメと言いなさい」と断るように言った。
 だから、コリンはアンリが絵を描かせてくれと言うたびに、それを断っていた。だが、最近になってアンリは執拗に言ってくるのだ。

「コリンが可愛いうちに、絵にその姿を描いて残しておきたい。そうすれば、君の美しくて可愛い姿は永遠に絵の中に残されるのだよ」と。

 姉アビゲイルから、アンリとは二人きりには決してならないように言われた。
 彼女は実家にも連絡して、コリンがアンリと出かけるときには、それとなくコリンのそばに実家の使用人もついてくるように手配していた。彼女なりに、かわいい弟の身に何か不測の事態が起きないよう警戒していたのだ。


 アンリがテーブルの上に並べられた幾つかの鞄を、真剣な表情で選んでいる時、コリンはふと先ほど会ったアンリ王子の弟の、アルバート王子のことを思っていた。
 王宮にいる他のアンリの兄弟王子達とは全く雰囲気の違う王子だった。日々訓練に明け暮れた結果の鍛えられ、引き締まった体躯をしていた。髪は黒く、目は鳶色だった。ただ顔立ちはどこか優美で、それが王家の者だと言われればなんとなしに頷けてしまう。王家の者達は美貌を誇る者達が多かった。義兄であるアンリ王子もそうだし、その上のリチャード王子もそうだ。
 そしてアルバート王子の足の間に隠れるようにいた小さな子供。

 コリンは自分よりも小さな子供に会ったことはあまりなかった。姉のアビゲイルはコリンよりも十五歳も年上である。コリンには兄もいたが、兄もまた二十歳以上年齢が離れていた。コリンは両親に遅くにできた子だったのだ。
 だからなんとなしに好奇心があった。

「下のお店を見てみたい」

 そう言って、護衛の騎士を一人連れて、彼は店の一階に降りていった。
 まだアンリ王子の弟のアルバート王子はいて、店のカウンターで注文をしている様子だった。その足元に水色のフードを被った小さな子供がいたので、コリンは近寄った。
 礼儀正しく、コリンは水色のフードの子供に話しかける。

「君、名前はなんていうの?」

 水色のフードの子供は振り返って、それから少し考え込む様子を見せた後にこう言った。

「ルーだよ。君は?」

「コリンだ。コリン=アシュベリーだよ」

「ふーん。アンリ王子殿下の……子供?」

 それにコリンは笑い声を上げた。

「違うよ。僕は親戚かなー」

 親戚だというと、王族かと身構えるルーシェ。
 コリンは、明るく人懐っこい子供だった。初対面のルーシェにも気軽に話しかけている。

「ちっちゃいのに、ちゃんとお話しできるんだ」

 三歳児くらいにしか見えない子供のルーシェは、コリンよりもずっと身長も低く小柄だった。
 それなのにちゃんとルーシェが、自分と会話できることに少しばかり感動しているような様子だった。

「うん。……これ、食べる?」

 ルーシェは紙袋に入ったお菓子の一つをコリンに渡してやる。

「くれるの?」

「うん」

 そして二人は、店の隅にあるソファーに座って、ぺちゃくちゃと話し始めた。
 ルーシェも、話す相手が子供であったので、例え相手が王族関係者だとしても(まぁ、一緒にいても問題がなかろう)と考えてのことだった。
 コリンも子供故にお菓子が大好きで、お礼代わりに王都で美味しいと評判の店のことを教えてくれる。
 そうしながらも「こうした紙袋に入ったお菓子をもらったのは初めてだ!!」と大層喜んでいたので、路上で買い求めたこんな庶民向けのお菓子を、そのまま渡して良かったのだろうかと少しばかりルーシェは思った。

 アルバート王子がカウンターでの手続きを終えてそばまでやって来る。

「行こうか、ルー」

「うん」

 ルーシェが、差し出されたアルバート王子の手を握ろうと伸ばした時、ふいにコリンがルーシェの被ったフードを軽く引っ張った。
 仲良く話していた相手の顔を見ておきたい。ふとそう思ったコリンの咄嗟の行動だった。

 ルーシェの頭から水色のフードがパサリと落ちた。そしてその下の顔を見た瞬間、コリンは雷に撃たれたかのように、立ち尽くした。
 サラリと揺れる魔法で黒く染めた髪に、大きな黒目がちの瞳、そして白く透き通るような滑らかな肌に、柔らかそうな桜色の唇、すっと通った鼻梁の、整った、整い過ぎた顔立ちに、コリンは口を大きく開けたまま見惚れてしまった。今まで見たこともない美しい子供だった。いや、これは人なのだろうか。人とは思えないほどの綺麗な、だった。

 慌ててバンナムが、ルーシェの面が露わになっていることに気が付いて、その水色のフードを引き上げて頭に被せる。
 呆然としているコリンに、ルーシェは「バイバイ」と手を振って店から出ていった。
 店を出てしばらくして、アルバート王子が抱き上げたルーシェに言った。

「気を付けないと、ルー」

「うん」

 魂を奪われたかのように、コリンは未だにルーシェが出ていった店の出入口の方角をじっと見つめている。
 ルーシェの顔を見たのは、コリンだけのようで、そばにいた護衛の騎士も気が付いていないことが幸いだった(すぐさまバンナムが水色のフードを被せたのも良かった)。

「さぁ、帰ろう」

 アルバート王子にそう言われ、ルーシェの心は早くも竜騎兵団の拠点へ帰った後のことで一杯になった。早く帰りたかった。
 そして早く、あの山間にある、王子との巣に帰りたい。
 巣の中で、大好きな王子とゆっくりと過ごしたかったのだ。

「うん、帰ろう」

 ルーシェは王子の首にぎゅっと両手を回して抱きついたのだった。
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