転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第七章 ある護衛騎士の災難

第一話 バンナム卿との戦い(上) ~はじめての戦い

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 友親へ革製の鞄を送って三カ月ほど経った時、友親からの御礼の手紙が届いた。
 やはり、現世のように荷物もすぐに相手の手元には届かない。ましてや遠い西南地域にいる友親の手元に荷物が届くのには時間がかかるのだ。
 それでも友親から「無事に届いた。なんだか、懐かしいような形の鞄で嬉しかった。どうもありがとう」という返事が届いた時は嬉しかった。彼には分かったのだ。あの鞄の形が、過去、彼が学生であった時に使っていた鞄と同じ形をしていることに。
 だからきっと、友親はその革製の鞄を大切にしてくれるだろう。

 友親に、また会っていろいろと話を聞きたいと伝えた手紙に対して、彼も是非会って話をしたいと返事の手紙にはあった。そして年が明けたら、再び北方地方へ足を運ぶ。その時には、可能ならば竜騎兵団へも見学に行きたいとあった。
 彼は、竜に転生した雪也がどんな仕事をしているのか、興味があるのだ。
 そういえば、友親には自分が大きくなり、王子を背に乗せて飛ぶ姿を見せたことがなかった。だから以前友親からもらった手紙には“ちっこい竜”と小ばかにするような文言が載っていた。こうなったら、友親の前で立派な凛々しい竜になった姿を見せて、彼を背中に乗せて空へと飛んで見せてやらなければならないと考えていた。

 また友親に、今度会った時には背中に乗せてやると手紙を書く。
 彼はきっと「ちっこい竜の癖に無茶はするな」と言いそうな気がしていた。



 そして、季節は秋が過ぎて冬になろうとしていた。
 雪がちらほらと灰色の空から降ってくる時期になって、王国の第七王子アルバートの護衛騎士を務めるバンナムが、ついに紫竜ルーシェに対してこう言った。

「そろそろ、貴方がきちんと殿下をお守りすることが出来るか、試験をさせて頂きましょう」

「ピルルルルル!!(やってやるぜ!!)」

 王子の膝の上で、とうとう向けられたバンナムの言葉に、ときの声のような鳴き声を上げたルーシェだった。しかし、王子は「ピルル、ピルルルル(相手がバンナム卿といえどもやってやる)」「ピルピルルルル(俺はやるときはやるんだ)」とやたら好戦的になっている小さな竜を両手で押さえながら言った。

「まだ、ルーシェには早いのじゃないか」

 近衛騎士団でも一、二を争うほどの腕前だと言われるバンナムである(正確にはバンナムは近衛騎士団に入団していないが、マルグリッド妃に引き抜かれた時に、近衛達と腕比べをして、相手を下していた。彼と拮抗する腕前は、近衛騎士団長くらいではないかと噂されていた)。
 アルバート王子には、ルーシェがコテンパンにやられて、地面に大の字になって伸びている姿しか思い浮かばなかった。
 怪我でもしたら大変だと、小さな竜を心配そうに見ているアルバート王子。

 しかし、バンナムは言った。

「ルーシェの魔法の腕前は相当です。レネも感心しておりました」

「ピルルピルル!!(そうだそうだ!!)」

「だからそろそろ、何も考えていない魔法の攻撃だけではだめだと言うことも教えてやらないといけません」

「ピルルピルル!!(俺はやるときはやるぜ!!)」

 二人の会話が噛み合っていないような気がするのは気のせいだろうか。
 アルバート王子は小さな竜の姿をとっているルーシェの頭を撫でる。
 ルーシェは興奮したように、「フーフー」と息を吐いて、大きな黒い目をギラギラと輝かせていた。
 すっかり“俺はやってやるぜ”モードに入り、あまり他人の言葉は耳に入っていない様子だった。




 そして、いつぞやのエイベル副騎兵団長と木刀でバンナムが手合わせをしたあの、野外訓練場にある円形の試合場にやって来た。
 その日も空からちらほらと白い雪が降っていた。

 アルバート王子の護衛騎士バンナムと、小さな竜の試合の話を耳にした竜騎兵達が、またもや建物の窓から鈴なりになって見下ろし、円形の試合場も見学の竜騎兵達が輪になって見守っている。
 寒さにかじかむ手を擦り合わせ、白い息を吐きながら、今か今かと試合が始まるのを待つ。

 バンナムは木刀を手にしていた。
 ちなみにルーシェは成竜の姿をとらず、猫のように小さな竜の姿のままである。理由は、王子のそばにいるのはその小さな竜の姿のままの方が多かったからだ。だから、護衛に就く時もその小さな竜の姿のままで戦うことを想定しておいた方が良かった。
 バンナムは右手に木刀を下げていた。
 左手には、何やら細かな刺繍の施された、甲から手首の下までを覆うプロテクターのようなものを付けている。見たこともないそれに、内心ルーシェは首を傾げていた。

(なんだろうアレ)

 試合開始の合図は、審判を務めるエイベル副騎兵団長がしてくれる。
 最初、試合の審判をリヨンネに頼んだのだが、彼は「もしルーシェが倒されるなんてことになったら、見てられない」とその依頼を固辞していた。彼は小さな竜がコテンパンにやられてしまう姿など見たくなかったのだ。

(俺は負けないのに!! コテンパンにやられるのはバンナム卿の方だ!!)

 心中で口から炎を吐き出し、ルーシェは荒ぶるようにそう思っていた。

(バンナム卿が怪我しないように、手加減してやらないとな!!)

 すっかり勝つ気満々のルーシェはそんな慢心まで覚えていたくらいである。
 当然、それがいけなかった。




「勝者、バンナム卿!!」

 エイベル副騎兵団長の声が朗々と響き渡り、「わー」「さすがバンナム卿!!」「すごい」と歓声が、竜騎兵達の間から湧き上がる。
 ルーシェは円形の試合場でうつぶせになって、ぺったりと大の字になって地面に張り付くように倒れていた。

(え、何、何、何!?)

 自分の身に何が起こったのか理解できない。
 ルーシェは地面にキスしているような状態で、しばらく身動きの一つも取れずにいた。
 エイベル副騎兵団長が「はじめ」と言って、片手を挙げた瞬間、ルーシェは風魔法でバンナム卿を強く押して倒し、それから土魔法で優しく叩いてやろうとしたのだ(バンナム卿に怪我させるとレネ先生が悲しむからな!! とどこか上から目線でそう思っていた)。

 なのに。

 風魔法でバンナムを押そうとしたのに、風魔法が掻き消され、そして気が付いたらバンナムはルーシェの背後にいて、思い切り、木刀が後頭部に落とされて蹴り倒された(容赦のないバンナムに、アルバート王子は怒った声を上げていた。しかし、バンナムは竜の身体が非常に頑強で、弓矢も通さないほどの強さであることを知っていたため、木刀で思い切りルーシェの頭を叩いても大丈夫なことも知っていた)。

 ルーシェはうつぶせの大の字になって地面に張り付いている。
 慌ててアルバート王子とリヨンネが駆け寄ってきた。
 そしてレネも少し憤慨したようにこう声を上げている。

「バンナム、やりすぎです!! ルーシェが可哀想じゃないですか」

 そう言われても、バンナムは平然としていて、未だ呆然としているルーシェにこう言った。

「私が手に付けていたのは、使い捨ての魔法けの呪が掛けられた防具です。一度しか使えませんが、雷撃や風撃を避けることができます」

 見れば、バンナムの手の甲を覆っていたプロテクターのようなものは、何故か破れたように傷ついている。使い捨てという言葉通り、一度使えば破れてしまうものなのだろう。

「レネが作ってくれたものだから、守りの効果は抜群です」

(え、これってさりげなくノロケられているの!?)

 なんとなく憤慨する思いで、ルーシェはそんなことを思う。
 同じことをアルバート王子もリヨンネもそう思ったようで、どこか生温かな視線をバンナムに向ける。そのことに気が付いたバンナムは一度咳払いをした後にこう言った。

「殿下の竜が、魔力の豊富な紫竜であることは知られています。当然こうした魔法除けの魔道具を暗殺者達は使うでしょう。ルーシェ、貴方は様々な攻撃のパターンを想定して、様々な武器や防具が存在することを知った上で、殿下を守らなければなりません。何も知らずして、ただやみくもに魔法を振るって殿下を守ろうとすると」

 一度、バンナムは言葉を区切った後にこう言った。

「守り切れません」

 悔しくて悔しくてルーシェは黒い目を潤ませた。
 言われたことは当然のことだった。
 魔法だけでただ漫然と戦おうとしていた。
 ルーシェの頭の中で考えていた単純な作戦も、バンナムは当然読んでいたのだろう。
 魔法の最初の一撃を避けて、そしてルーシェの後ろに回りこんで斬ればいい。
 バンナムの手にあった木剣が、竜の身体を斬ることのできる鋼の剣に、更に魔法で強化の呪をかけたものであったなら、ルーシェの身体は今頃、真っ二つであったはずだ。
 自分が勝てると甘く考えていたことが、悔しくて仕方がない。

「ルー、バンナム卿が私を守り続けてくれることはこれから先も変わらない。お前は私の竜だ。護衛の騎士ではないのだから、そんなに気負わなくてもいい」

「ピルピルルピルルルル!!!!(嫌だ、嫌だ、俺は強くなるんだ!!!!)」

 慰めるように優しく抱き上げ、撫でてくれる王子に小さな紫竜は言った。

「ピルピルピルルルルルルルルルルルル!!!!(王子を守れるくらいに絶対に強くなるんだ!!!!)」

「その意気ですよ、ルーシェ」

 どことなく、バンナムは感心したようにルーシェを見つめて言った。

「そうして、誰かを守りたいと強く願う気持ちがある限り、貴方はこれからも強くなれます」

 紫竜の言葉は、バンナムには通じないはずなのに、バンナムはルーシェの鳴き声を理解したかのようにそう言っていた。
 そしてレネにまた「やりすぎです」と注意されながら、バンナムはその場を後にする。
 二人の背中を、ルーシェはじっと見つめ、それから唸るように言った。

「ピルルルルルルゥ!!(絶対に今度は勝つ!!)」

 唸り続ける小さな竜を抱っこしたアルバート王子は、どうしたものかというように、ため息をついていた。
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