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第七章 ある護衛騎士の災難
第二十話 激烈なる恋の呪い(上)
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翌日の夕方近く、一匹の小さな黒い竜が空を飛び、王国の王宮のそばまでやって来ていた。
空には夜の帳がゆっくりと拡げられ、星々も瞬き始めている頃合いだった。
パタパタと空を飛ぶ小さな竜は、艶やかな黒い鱗を持ち、その両眼は鳶色をしていた。
黒竜シェーラの、幼竜化した姿であった。
初めてシェーラの幼竜化した姿を見た時、幼い子供姿のルーシェは大きな瞳を更に大きく見開いてびっくりしていた。
「シェーラもちっちゃくなれるんだ!!」
黒竜シェーラは「当然よ!!」と小さな姿でありながらも、偉そうに胸を張っていた。
彼女のそばに立つ青竜エルハルトが「千年も生きているからな……」と相変わらずそう言って、最早シェーラにお約束のように睨まれている。
普通の竜なら、紫竜がするような魔法を使うことはできない(自身の成長を操ることなどできない)。やはり腐っても古竜の一角、黒竜ということだろう。
わざわざ幼竜の姿になったのは、こっそり王宮まで行くには大きな成竜の姿では人目についてしまうからだ。
「しゅごいしゅごい!!」
ルーシェは小さな竜の姿をとった黒竜シェーラを抱き上げてぎゅーと抱き締める。
その様子にリヨンネはどこかうっとりとしていた。
「ルーシェが、小さな竜を抱っこするなんて。なんて尊いんだ!!」
そのリヨンネの肩を掴んでグラグラとキースが揺すって言っている。
「リヨンネ先生、そんなことを言っている場合じゃないでしょう!!」
それから、ルーシェはいつものように紫色の成竜の姿に変わると、すぐさまその背にアルバート王子が跨り、小さな竜の姿に変わった黒竜シェーラもアルバート王子の前に跨って座っている。
彼らはすぐに北方地方の山間の観察地の離着陸場から飛び立ち、王都目指してまっしぐらに飛んで行ったのだった。
アンリ王子に“激烈なる恋の呪い”をかけるため。
なんとなしに予感があったのか、アルバート王子は翌日も休暇を申請した上で、この観察地の拠点に足を運んでいた。だから、「アンリ王子殿下が竜騎兵団の拠点へ視察に来られる前に、さっさと魔法を掛けてしまいましょう」というリヨンネの言葉にもすぐに頷き、実行に移すことができた。
竜騎兵団一の速さを誇る紫竜ルーシェの背に跨り、最大限の速さで王都を目指す。そしてシェーラの魔法を掛けたらまたとんぼ返りするのだ。そうすれば休暇中に事を終えることができる。
少しだけ、アルバート王子の中には、兄アンリ王子の感情を操ることに対して罪悪感もあった。しかし、本来の妻であるアビゲイル妃に恋をさせれば問題ない。むしろ、夫婦仲が深まるのならいいことだと、どこか単純な黒竜シェーラは言っていた。
そして放たれた矢のように空をただひたすら真っ直ぐに飛んできたルーシェは、王都の森に到着した。そしてアルバート王子が黒竜シェーラと“同調”するのを見守る。滅多にないことだが、“同調”から戻れなくなる竜騎兵もいるという話のため、心配そうに見守る中、小さな竜シェーラの双眸が開いた。そこにはアルバート王子と同じ鳶色の瞳があった。
どういう仕組みなのか分からないが、必ず“同調”すると、“同調”した者の瞳の色合いが現れる。日頃金色のシェーラの瞳が、今やアルバート王子と同じ鳶色になっているのがその証であった。
ルーシェは森の中で、人形にように力を無くしたアルバート王子の体を守る。そして小さな黒い竜が空へと勢いよく飛び立ち、飛んで行くのを見上げていた。
そして冒頭のシーンに至る。王宮付近まで小さな竜の姿をとった黒竜シェーラは飛んで行った。
黒竜シェーラは夜が近づくにつれ、その姿は闇の中に溶けるように見えにくくなっていた。彼女の中の思考は今、シェーラが主となって占めていた。アルバート王子は彼女の中で大人しく、彼女の行動を眺めているような状態である。
ただ、アルバート王子が心の中で、指示をしていた。
(アンリ王子の宮は、あちらです)
王宮の上を飛ぶ小さな竜は、アルバート王子の言葉に従って飛んで行く。
そして王宮の茂みの一つに降り立つ。そしてガサガサと茂みから茂みの中を移動していく。
(もうすぐなのかしら)
シェーラの問いかけに、アルバート王子が同意した。
王族の一員たるアルバート王子は、当然兄王子の住む宮の位置も把握しており、的確に指示することができた。
やがてシェーラは、アンリ王子の宮に到着し、彼のいるであろう部屋の窓の近くまで近寄ることができた。
(どうやって呪いを掛けるんですか)
アルバート王子の問いかけに、シェーラは答える。
(私の視界に入ればいいのよ。一目でも姿が見えれば、呪いがかけられるわ)
つまり、シェーラは相手を見ない限りは呪いをかけることができないのだ。以前、ウラノス騎兵団長にも呪いをかけたことがあるという話だが、その時も、ウラノス騎兵団長を見て呪いをかけたのだろう(どうにかこっそりと見て呪ったのか?)。同じことが竜達に対してトカゲにする呪いをかけたことにも言えるはずだ。竜達を見ることで、呪いをかける。
誰に対しても呪いがかけられるわけではない。そうした制約があるのだ。
そして黒竜シェーラは、なんとアンリ王子の部屋の窓の下でパタパタと飛んで、窓の下から頭だけぴょこんと出して、強引に居室の中を覗き込んだのだ。
(!!)
そのシェーラの行動に驚くアルバート王子。慌ててシェーラを制止しようとしたが間に合わない。
当然のように部屋の中にいた護衛騎士達が窓の外の異変に気が付いて、不審なモノを捕らえようと部屋の外へ飛び出して来ようとする。
だが、すでにアンリ王子を見ていたシェーラは、即座に呪いを放ったのだった。
王国の七番目の王子であるアルバート王子と同調しているシェーラは、“黄金竜の加護”をくぐり抜け、呪いをアンリ王子にかけることが出来た。
アンリ王子の護衛騎士達が駆け付けるよりも先に、目的を達したシェーラはさっさと空へと飛び立っていた。護衛騎士達がその場に辿り着いた時には、そこには何もおらず、もぬけの殻であった。同時に、室内ではアンリ王子が突然倒れ込み、騒動となっていたのだった。
空には夜の帳がゆっくりと拡げられ、星々も瞬き始めている頃合いだった。
パタパタと空を飛ぶ小さな竜は、艶やかな黒い鱗を持ち、その両眼は鳶色をしていた。
黒竜シェーラの、幼竜化した姿であった。
初めてシェーラの幼竜化した姿を見た時、幼い子供姿のルーシェは大きな瞳を更に大きく見開いてびっくりしていた。
「シェーラもちっちゃくなれるんだ!!」
黒竜シェーラは「当然よ!!」と小さな姿でありながらも、偉そうに胸を張っていた。
彼女のそばに立つ青竜エルハルトが「千年も生きているからな……」と相変わらずそう言って、最早シェーラにお約束のように睨まれている。
普通の竜なら、紫竜がするような魔法を使うことはできない(自身の成長を操ることなどできない)。やはり腐っても古竜の一角、黒竜ということだろう。
わざわざ幼竜の姿になったのは、こっそり王宮まで行くには大きな成竜の姿では人目についてしまうからだ。
「しゅごいしゅごい!!」
ルーシェは小さな竜の姿をとった黒竜シェーラを抱き上げてぎゅーと抱き締める。
その様子にリヨンネはどこかうっとりとしていた。
「ルーシェが、小さな竜を抱っこするなんて。なんて尊いんだ!!」
そのリヨンネの肩を掴んでグラグラとキースが揺すって言っている。
「リヨンネ先生、そんなことを言っている場合じゃないでしょう!!」
それから、ルーシェはいつものように紫色の成竜の姿に変わると、すぐさまその背にアルバート王子が跨り、小さな竜の姿に変わった黒竜シェーラもアルバート王子の前に跨って座っている。
彼らはすぐに北方地方の山間の観察地の離着陸場から飛び立ち、王都目指してまっしぐらに飛んで行ったのだった。
アンリ王子に“激烈なる恋の呪い”をかけるため。
なんとなしに予感があったのか、アルバート王子は翌日も休暇を申請した上で、この観察地の拠点に足を運んでいた。だから、「アンリ王子殿下が竜騎兵団の拠点へ視察に来られる前に、さっさと魔法を掛けてしまいましょう」というリヨンネの言葉にもすぐに頷き、実行に移すことができた。
竜騎兵団一の速さを誇る紫竜ルーシェの背に跨り、最大限の速さで王都を目指す。そしてシェーラの魔法を掛けたらまたとんぼ返りするのだ。そうすれば休暇中に事を終えることができる。
少しだけ、アルバート王子の中には、兄アンリ王子の感情を操ることに対して罪悪感もあった。しかし、本来の妻であるアビゲイル妃に恋をさせれば問題ない。むしろ、夫婦仲が深まるのならいいことだと、どこか単純な黒竜シェーラは言っていた。
そして放たれた矢のように空をただひたすら真っ直ぐに飛んできたルーシェは、王都の森に到着した。そしてアルバート王子が黒竜シェーラと“同調”するのを見守る。滅多にないことだが、“同調”から戻れなくなる竜騎兵もいるという話のため、心配そうに見守る中、小さな竜シェーラの双眸が開いた。そこにはアルバート王子と同じ鳶色の瞳があった。
どういう仕組みなのか分からないが、必ず“同調”すると、“同調”した者の瞳の色合いが現れる。日頃金色のシェーラの瞳が、今やアルバート王子と同じ鳶色になっているのがその証であった。
ルーシェは森の中で、人形にように力を無くしたアルバート王子の体を守る。そして小さな黒い竜が空へと勢いよく飛び立ち、飛んで行くのを見上げていた。
そして冒頭のシーンに至る。王宮付近まで小さな竜の姿をとった黒竜シェーラは飛んで行った。
黒竜シェーラは夜が近づくにつれ、その姿は闇の中に溶けるように見えにくくなっていた。彼女の中の思考は今、シェーラが主となって占めていた。アルバート王子は彼女の中で大人しく、彼女の行動を眺めているような状態である。
ただ、アルバート王子が心の中で、指示をしていた。
(アンリ王子の宮は、あちらです)
王宮の上を飛ぶ小さな竜は、アルバート王子の言葉に従って飛んで行く。
そして王宮の茂みの一つに降り立つ。そしてガサガサと茂みから茂みの中を移動していく。
(もうすぐなのかしら)
シェーラの問いかけに、アルバート王子が同意した。
王族の一員たるアルバート王子は、当然兄王子の住む宮の位置も把握しており、的確に指示することができた。
やがてシェーラは、アンリ王子の宮に到着し、彼のいるであろう部屋の窓の近くまで近寄ることができた。
(どうやって呪いを掛けるんですか)
アルバート王子の問いかけに、シェーラは答える。
(私の視界に入ればいいのよ。一目でも姿が見えれば、呪いがかけられるわ)
つまり、シェーラは相手を見ない限りは呪いをかけることができないのだ。以前、ウラノス騎兵団長にも呪いをかけたことがあるという話だが、その時も、ウラノス騎兵団長を見て呪いをかけたのだろう(どうにかこっそりと見て呪ったのか?)。同じことが竜達に対してトカゲにする呪いをかけたことにも言えるはずだ。竜達を見ることで、呪いをかける。
誰に対しても呪いがかけられるわけではない。そうした制約があるのだ。
そして黒竜シェーラは、なんとアンリ王子の部屋の窓の下でパタパタと飛んで、窓の下から頭だけぴょこんと出して、強引に居室の中を覗き込んだのだ。
(!!)
そのシェーラの行動に驚くアルバート王子。慌ててシェーラを制止しようとしたが間に合わない。
当然のように部屋の中にいた護衛騎士達が窓の外の異変に気が付いて、不審なモノを捕らえようと部屋の外へ飛び出して来ようとする。
だが、すでにアンリ王子を見ていたシェーラは、即座に呪いを放ったのだった。
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