転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第八章 黄金竜の卵

第五話 孵化(中)

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 王宮下の地下遺跡の調査を終え、地下遺跡は封印されることになった。
 作業二週間の間、基本、地震などで崩壊した箇所の修復・補強が、作業のメインに据えられ、残念なことに遺跡調査は後回しにされがちになってしまった。ただそれでも、一号遺跡と二号遺跡の全容を図面に書き起こせたことは大きい。さらに壁や柱などの意匠も紙に書き写せたことで、二千年前当時の地下王宮の華やかな様子もうかがい知れた。
 人の為に造られたにしては大きすぎる浴場や竜の女王がいたと言われる部屋。そして子供達の部屋。地下一階にある二号遺跡は、貴人たちのために造られた部屋が幾つもあり、そこにも子供部屋が幾つかあった。リヨンネの話だと、竜は山のほら穴で暮らすという。部屋が地下に置かれたのは、その竜の生態のせいだろうか。でも、いずれも採光のための大きな窓があった。まるで最初は地上にあった宮殿が、無理やり地下に置かれたかのような様子だった。
 
 ユーリスはそこでふと思った。

(あれほど窓がたくさんある王宮だ。最初は地上に造られた。それを後から地下に置いた)

 最初は地上に造られた王宮であったからこそ、あれほど窓の数も多い。
 そして無理やり地下に置いたせいで、幾つかの窓があった部分は崩壊して、土砂が流れ込んでしまっている。

(いやいや、こんな広大な王宮を、地上から地下に下ろすなんて、そんなことが出来るはずがない)

 では、何故、光を採るための窓がこんなにもたくさんあるのか。
 最初は地上に置かれていたからだ。

 でも、何らかの理由で、王宮を地下へ下ろした。
 その後、封印をした。
 光の通らない、地下へ王宮の何かを置くために。
 
(地下に置かれた王宮はそのまま封印され、その上に新たな王宮が築かれて、現在の姿になっている。そして地下の王宮は、王族達の“禁所”として誰も足を踏み入れることを許さなかった)

 それは何故なのか、ユーリスには分からなかった。
 
 再び王宮のぶ厚い鉄扉が、キィィィと音を立てながら、近衛騎士数人がかりで閉ざされていく。
 その鉄扉にかんぬきが下ろされていく。これも数人がかりでようやくやっと下ろせるという大変なものであった。更に封印するようにまじないの書かれた白い紙が貼られた。
 ぶ厚い鉄扉に閉め切られたそこを、学者達はどこか名残惜し気に見つめていた。
 再びこの扉が開かれる日は来るのだろうか。
 また国王の夢見の枕元に、始祖の王が立たない限り、きっとこの禁じられた場所が開かれることはないだろうと思われた。
 地下一階へ続く狭い階段を上がったところにまた扉があり、そこを開いて出たところで、待ち構えるように金髪碧眼の王子サイラスが立っており、彼はユーリスを見つけて笑顔で言った。

「やぁ、ユーリス。久しぶりだね。やっと君に会えたよ」

 サイラス王子が地下へ来るたびに、遺跡の奥へと逃げ込んでいたユーリスであったが、遺跡の全ての出入口であるこの場所で待ち構えられては逃げられない。
 最後の最後で捕まってしまった。
 ユーリスは苦笑いをして、答えた。

「殿下、大変ご無沙汰しております」

 そして、侍従達に促されるようにユーリスはサイラス王子と連れ立って、サイラス王子の宮の方へと歩いて行ったのだった。

「ご結婚されたと聞いております。おめでとうございます」

 ユーリスと同年のサイラス王子は二十一歳。学園を卒業と同時に、サイラス王子は婚約者と結婚している。
 ただその話は、ユーリスは遠い異国で耳にした話で、サイラス王子の挙式の様子も婚約者の顔も知らない。全く興味がなかったため、事実として捉えていただけだ。

「ありがとう。君は、アレドリアに渡ったのだよね」

「はい」

 ユーリスがアレドリア王国に渡った後の、アレドリアでの大学での単位も、王立学園での単位に加えてもらい、強引に卒業を認めてもらった。それは父ジャクセンの手腕によるものだった。

「優秀な君がいなくなって、嘆いている先生方も多かったよ」

「そうですか」

 ユーリスは笑顔で応対していたが、サイラスに内心、どの口でそんなことが言えるのだと思っていた。そもそもユーリスがこの王国を離れなければならなくなった原因はこのサイラス王子にもあった。サイラス王子とその上の兄ハウル王子が、ユーリスに乱暴しようとした。だから、王子達から逃れるためにも、少年であったユーリスは国を離れなければならなかった。
 未遂だから、アレは何もなかったこととして、扱おうとしているのか。
 
 やがて、ユーリスを伴ってサイラスは、王宮内の温室へ足を運んだ。
 自身の宮には彼の妃がいるため、ユーリスを連れ込むには外聞が悪いと考えたのか。
 天井の硝子窓からさんさんと陽の光が差し込み、白い床のタイルを眩しいほど輝かせている。周囲には花が咲き乱れ、春の初めというのに、緑も鮮やかな草花が多い。
 丸テーブルに椅子が用意され、その椅子にユーリスは案内されて座った。対面にサイラス王子が座る。

「何か飲むかい」

「いいえ、何も結構です」

 招かれ、勧められておきながら、何も口にしないのは非礼だと分かっていたが、ユーリスはこの目の前の王子から供されるものは一切口にしないつもりだった。少年だった頃、サイラス王子にクスリを盛られて酷い目に遭わされたことがあったからだ。もちろん未遂である。

 サイラス王子は困った顔で笑って言う。

「もう、ああいうことはしないさ。私も大人になった」

 少年であったから、そうしたことは許されると思っているのか。

「そうですか。それはよろしかったことです」

「あの時は兄のハウルに、私は逆らうことが許されない立場だった。分かるだろう」

 王宮の王妃付きの侍女に、王が手を付けて生まれたサイラス王子。第二妃ボーナの息子であるハウル王子とは立場が違う。ハウルがサイラスに命じれば、サイラスは逆らえないという。だが、ユーリスは果たしてそれだけではないだろうと考えていた。サイラスの母は王妃メロウサの可愛がっていた侍女であり、サイラスは第一王子や第二王子に近い存在であったから、第一王子や第二王子に言い付ければ、ハウル王子と同調しないで済んだはずだった。
 彼がハウル王子に同調したのは、少年だった彼もまた、そうしたことをやってみたいと考えていたからだ。あの獣じみたハウル王子と同じく、少年だったサイラス王子も内心は乱暴狼藉の好きな外れ王子の一員だった。言い訳で繕おうとしてもその本性は隠せないし、だまされない。

 ユーリスが無言であることに、サイラスは困った顔でため息をついていた。

「兄ハウルは、体調を崩して離宮で静養している」

 もう永久に、離宮から出てこないで結構だった。
 きっと同じことを願っている者達は多いだろう。
 あれは王家の恥部、屑だ。あのハウル王子に泣かされた者達は山のようにいるに違いない。

「だから、私も兄に慮って行動する必要はもうないのだ、ユーリス」

 その言葉に、初めてユーリスはサイラス王子に目を遣った。
 この目の前の王子は何を言っているのだと。

「シルヴェスターはいない。ハウル兄上ももういない。分かるだろう、ユーリス」

 熱心なその碧い目に見つめられ、ユーリスはようやくこの目の前の王子が、自分を口説こうとしていることに気が付いたのだった。

 それと共に、胸元の卵の中から、カチカチと鋭い歯を合わせて、威嚇する小さな音が聞こえていた。
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