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第九章 春の訪れ
第十二話 挙式準備(上)
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それから、挙式までの準備で非常に慌ただしく日々は流れていった。
アルバート王子とバンナム、そして挙式の手伝いをすることになったレネやリヨンネ、キースは全力で準備を進めていた。ちなみにアルバート王子とバンナムは、招待客のリスト(そう大した人数はいない)を手に、バルトロメオ辺境伯の奥方や執事と相談したり、式の手順などについても細かく打ち合わせしていた。食事や引き出物といった細々としたものに関しても、人化したルーシェも含めて三人でバルトロメオ辺境伯の奥方や執事達と連日頭を突き合わせて相談していた。
前世は十五歳の高校生であったルーシェは、当然のことながら、今までの人生の中で結婚式を挙げた経験はない。
今回の準備作業は全て初めてのことばかりで、(結婚って大変だ……)と心の中では準備にゲンナリとしながらも思っていた。大好きなアルバート王子と結婚するから、まだ我慢して色々と面倒なこともやっていられるけれど、これで好きじゃない相手と式を挙げるなんてことになったら、やってられないだろう。
リヨンネは、ルーシェのため、式の衣装や引き出物などを実家のバンクール商会を通じて取り寄せていた。レネとエイベル副騎兵団長の二人は、式典や食事会における伴侶のあるべき姿や心構え、実際のやるべき当日の役割について話していた。
「式典の時も食事会の時も、ルーシェはあまり喋らない方がいいですね」
レネはそう言う。
「そうですね。病弱という設定ですから、それなら余計、喋らない方が良いです」
エイベル副騎兵団長も同意する。
その言葉に、ヴェールを深く頭に被っているルーシェ(人化済)は頷いていた。
今、ウラノス騎兵団長の団長室で、結婚式のリハーサル中なのだ。
なんと、式典の時も食事会の時も、ルーシェはその頭にヴェールを被っていても良いと言われている。これは楽だと思った。こっそりヴェールの中で食事も取れるのではないかと密かに期待している(前回の王宮での顔見せの食事会の時はほとんど満足に食事を取ることが許されず、辛い思いをしたルーシェだった。※パクパクと食べようとするとアルバート王子に足で軽く蹴られた)。
「結婚式の時も食事会の時も、ルーシェとアルバート王子殿下は注目の的になります。誰よりも視線を集める存在です。貴方は、殿下の伴侶となり、王族の一員になりました」
王家の者達からちょっかいを受けないようにするために辺境伯の養子に入り、王子と婚姻を結ぶことになったのに、王子と婚姻することでその王族の一員になるということは、なんとも皮肉であった。
「王族の一員らしく、気品ある態度が求められます。背筋はピンと伸ばして下さい」
「……ハイ」
「ヨロヨロしない!!」
エイベル副騎兵団長が結構スパルタなので、ルーシェは泣きたかった。何故かエイベル副騎兵団長が、その手に細身の鞭を持っているのが怖い。そしてそれが彼によく似合っているのが更に怖かった。
さすが竜騎兵団でナンバーツーの立場にある麗しい副騎兵団長。大体、彼の夫があのウラノス騎兵団長なのだ。
ふいに思った。もしかして、家庭ではウラノス騎兵団長の亭主関白ではなく、意外とエイベル副騎兵団長が上位で彼を尻に敷いているのではないかと。大体、鞭なんてどこから持って来ているのだ。
そんなことを思って一瞬ボーとしていたのが悪かったのか、またエイベル副騎兵団長の厳しく叱責する声が飛んだ。
「違います。ルーシェ、ちゃんと私の話を聞いて下さい。次は神殿の神官様のお言葉になります。貴方はその後、一礼して祝福を受けてそれからアルバート王子殿下と誓いの言葉を交わすのです」
「あんちょこを手に書いてもいいでしょうか!!」
矢継ぎ早に式の進行を言われて少しパニくっているルーシェがそう言うと、エイベル副騎兵団長は美しい薄紫色の瞳で睨んできた。
「これくらい暗記しなければなりません。誓いの言葉も、これから暗記ですよ」
(ヒーーーーーーーーーッ)
助けを求めるように、涙目でルーシェはレネを見つめる。レネは困ったような顔でこう言った。
「ルー、もう日がないのですから、全部暗記するくらいの気持ちで行きましょう」
王宮魔術師というエリートであったレネは、当然暗記が得意であった。レネの言葉は全く慰めにならず、ルーシェを絶望させた。
「あ……暗記なの?」
日がなアルバート王子の小さくて可愛い紫竜として、食べて寝て、王子と睦み合い、飛ぶだけの仕事をしているルーシェに、今さら暗記作業など出来ない。というかやりたくない。前世の学生時代も暗記科目は苦手だった。ルーシェの両眼が虚ろになっていく。
「式の出席者も暗記しなければなりませんね。ご挨拶にくる方とお名前が一致しなければ恥をかいてしまいます」
「そうですね。随分と出席者を絞っているからこそ、完璧に覚えないといけないと思います」
エイベル副騎兵団長とレネが揃ってそう言ってくる。
「ふ……ふぇ、ふぇ、ふええええええぇぇぇぇん」
次の瞬間、ヴェールを被っていた人型のルーシェは、一瞬で小さな紫色の竜に変わり、彼はパタパタパタと翼をはためかせて、凄い勢いで窓の外に飛び出していってしまった。
「ルーシェ!!」
「ルー!!」
慌ててエイベル副騎兵団長も、レネも窓から身を乗り出して、飛んで行く小さな竜の背中を見つめる。
「ピルピルピルルルルルゥゥゥ(暗記なんて無理無理無理ー)」
小さな竜は泣きながらそう言っていた。
それからルーシェは、アルバート王子を見つけて、彼はその胸にしがみついて泣いていたのだった。
「ピルピルゥピルピルゥピルルルルル(暗記することが一杯で、大変すぎるんだよ、王子)」
王子は困った顔をしながら、エイベル副騎兵団長とレネがルーシェを迎えに来るまで、ずっと小さな竜の背中を撫でていたのだった。
アルバート王子とバンナム、そして挙式の手伝いをすることになったレネやリヨンネ、キースは全力で準備を進めていた。ちなみにアルバート王子とバンナムは、招待客のリスト(そう大した人数はいない)を手に、バルトロメオ辺境伯の奥方や執事と相談したり、式の手順などについても細かく打ち合わせしていた。食事や引き出物といった細々としたものに関しても、人化したルーシェも含めて三人でバルトロメオ辺境伯の奥方や執事達と連日頭を突き合わせて相談していた。
前世は十五歳の高校生であったルーシェは、当然のことながら、今までの人生の中で結婚式を挙げた経験はない。
今回の準備作業は全て初めてのことばかりで、(結婚って大変だ……)と心の中では準備にゲンナリとしながらも思っていた。大好きなアルバート王子と結婚するから、まだ我慢して色々と面倒なこともやっていられるけれど、これで好きじゃない相手と式を挙げるなんてことになったら、やってられないだろう。
リヨンネは、ルーシェのため、式の衣装や引き出物などを実家のバンクール商会を通じて取り寄せていた。レネとエイベル副騎兵団長の二人は、式典や食事会における伴侶のあるべき姿や心構え、実際のやるべき当日の役割について話していた。
「式典の時も食事会の時も、ルーシェはあまり喋らない方がいいですね」
レネはそう言う。
「そうですね。病弱という設定ですから、それなら余計、喋らない方が良いです」
エイベル副騎兵団長も同意する。
その言葉に、ヴェールを深く頭に被っているルーシェ(人化済)は頷いていた。
今、ウラノス騎兵団長の団長室で、結婚式のリハーサル中なのだ。
なんと、式典の時も食事会の時も、ルーシェはその頭にヴェールを被っていても良いと言われている。これは楽だと思った。こっそりヴェールの中で食事も取れるのではないかと密かに期待している(前回の王宮での顔見せの食事会の時はほとんど満足に食事を取ることが許されず、辛い思いをしたルーシェだった。※パクパクと食べようとするとアルバート王子に足で軽く蹴られた)。
「結婚式の時も食事会の時も、ルーシェとアルバート王子殿下は注目の的になります。誰よりも視線を集める存在です。貴方は、殿下の伴侶となり、王族の一員になりました」
王家の者達からちょっかいを受けないようにするために辺境伯の養子に入り、王子と婚姻を結ぶことになったのに、王子と婚姻することでその王族の一員になるということは、なんとも皮肉であった。
「王族の一員らしく、気品ある態度が求められます。背筋はピンと伸ばして下さい」
「……ハイ」
「ヨロヨロしない!!」
エイベル副騎兵団長が結構スパルタなので、ルーシェは泣きたかった。何故かエイベル副騎兵団長が、その手に細身の鞭を持っているのが怖い。そしてそれが彼によく似合っているのが更に怖かった。
さすが竜騎兵団でナンバーツーの立場にある麗しい副騎兵団長。大体、彼の夫があのウラノス騎兵団長なのだ。
ふいに思った。もしかして、家庭ではウラノス騎兵団長の亭主関白ではなく、意外とエイベル副騎兵団長が上位で彼を尻に敷いているのではないかと。大体、鞭なんてどこから持って来ているのだ。
そんなことを思って一瞬ボーとしていたのが悪かったのか、またエイベル副騎兵団長の厳しく叱責する声が飛んだ。
「違います。ルーシェ、ちゃんと私の話を聞いて下さい。次は神殿の神官様のお言葉になります。貴方はその後、一礼して祝福を受けてそれからアルバート王子殿下と誓いの言葉を交わすのです」
「あんちょこを手に書いてもいいでしょうか!!」
矢継ぎ早に式の進行を言われて少しパニくっているルーシェがそう言うと、エイベル副騎兵団長は美しい薄紫色の瞳で睨んできた。
「これくらい暗記しなければなりません。誓いの言葉も、これから暗記ですよ」
(ヒーーーーーーーーーッ)
助けを求めるように、涙目でルーシェはレネを見つめる。レネは困ったような顔でこう言った。
「ルー、もう日がないのですから、全部暗記するくらいの気持ちで行きましょう」
王宮魔術師というエリートであったレネは、当然暗記が得意であった。レネの言葉は全く慰めにならず、ルーシェを絶望させた。
「あ……暗記なの?」
日がなアルバート王子の小さくて可愛い紫竜として、食べて寝て、王子と睦み合い、飛ぶだけの仕事をしているルーシェに、今さら暗記作業など出来ない。というかやりたくない。前世の学生時代も暗記科目は苦手だった。ルーシェの両眼が虚ろになっていく。
「式の出席者も暗記しなければなりませんね。ご挨拶にくる方とお名前が一致しなければ恥をかいてしまいます」
「そうですね。随分と出席者を絞っているからこそ、完璧に覚えないといけないと思います」
エイベル副騎兵団長とレネが揃ってそう言ってくる。
「ふ……ふぇ、ふぇ、ふええええええぇぇぇぇん」
次の瞬間、ヴェールを被っていた人型のルーシェは、一瞬で小さな紫色の竜に変わり、彼はパタパタパタと翼をはためかせて、凄い勢いで窓の外に飛び出していってしまった。
「ルーシェ!!」
「ルー!!」
慌ててエイベル副騎兵団長も、レネも窓から身を乗り出して、飛んで行く小さな竜の背中を見つめる。
「ピルピルピルルルルルゥゥゥ(暗記なんて無理無理無理ー)」
小さな竜は泣きながらそう言っていた。
それからルーシェは、アルバート王子を見つけて、彼はその胸にしがみついて泣いていたのだった。
「ピルピルゥピルピルゥピルルルルル(暗記することが一杯で、大変すぎるんだよ、王子)」
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