184 / 711
第十章 亡国の姫君
第十一話 元婚約者との面会
しおりを挟む
アルバート王子は、竜騎兵団の拠点へ帰還する準備を進めた。
リヨンネの元へ預けた妹のマリアンヌのことが気になったのだ。ザナルカンドから連れ帰ってから、そのままにしている。様子を見に行かなければならないと思っていた。着の身着のまま城から連れ出した。ろくな荷物がなかった彼女は、リヨンネやよく気が付くキースがそばにいるとしてもおそらく不便しているだろうと思った。
ウラノス騎兵団長は未だ、王や第一王子達への説得に当たっていたが、それがうまくいっている様子はなかった。彼はアルバート王子が竜騎兵団へ帰還したい旨を聞くと、「それがいい」と疲れた表情で頷いていた。
バルトロメオ辺境伯共々、王達への説得に疲れているようだった。
帰還の許しを得たアルバート王子が、母妃から預かったたくさんのマリアンヌ宛の荷物をまとめているところで、来客の知らせを受けた。
一体誰だろうと、アルバート王子が荷支度を手伝うバンナムと顔を見合わせていると、取り次ぎした侍従がこう伝えた。
「ヴィシュー侯爵家レイモンド様です」
それは、マリアンヌのかつての婚約者の令息であった。
二年前、マリアンヌとの婚約を解消させられたレイモンド。
彼は最後まで、マリアンヌとの婚約解消を拒否していた。しかし王命には逆らえず、父侯爵の説得を受け、泣く泣くマリアンヌの手を離した。幼い頃、将来の結婚を約束し合ったレイモンドとマリアンヌは、相愛であった。その二人の仲を裂いて為したザナルカンドの王子との結婚が、このような形で破綻することになろうとは、当時のアルバートは元より、誰も想像していなかったことだった。
二年前、十五歳の少年であったレイモンドは、改めて対面した時には背も伸び、十七歳の若者になっていた。
「会って頂きありがとうございます。殿下」
部屋の隅にたくさんの荷物がまとめて置かれている様子をチラリと見て、レイモンドは言った。
「まるでお引越しのような荷物ですね」
母であるマルグリッド妃は、マリアンヌが北方で匿われていることを知ってから、彼女の為の荷物を猛然と揃えだしていた。服は勿論のこと、家具までも用意しようとしていたので、必死にアルバートはそれを止めなければならなかった(小柄な竜のルーシェもたくさんの木箱は運べないと困った様子だった。マルグリッドは「では、送ります」と途中から方針を変えて、送ることを前提に荷物を揃えだしていた)。
「…………そうですね」
内心、アルバートはギクリとしていた。
たくさんの荷物を用意したり、それを運ぶからといって、そこにマリアンヌの存在が嗅ぎつかれることはないと思っている。
レイモンドはアルバート王子の対面の椅子に座った。彼にお茶を用意した侍従が一礼して退室した後、口を開いた。
「マリアンヌ姫はご無事でしょうか」
その言葉に、アルバート王子は動揺する感情を急ぎ飲み込んだ。
静かに問い返す。
「何を仰っているのでしょうか」
「先に申し上げます。私は殿下の味方です。マリアンヌ姫がご無事なら、それでいいと思っています。殿下が、この王宮に到着してからすぐに人目を避けて飛び立ち、そのまましばらくの間、王宮へ戻って来なかったことを知っております」
どこから情報が漏れたのだと、内心アルバート王子は思っていた。
母妃周辺の女官や侍女であろうか。口の固い者を選んでいるという話であったが。
「それから、マルグリッド妃が若い女性向けのドレスや服を随分と急いで用意させている話を聞きました」
内心、アルバート王子はため息をついていた。
(…………母上)
そんなところから足がつくとは思ってもみなかった。
「繰り返しますが、私は殿下の味方です。この情報を得てからも一切他言しておりません。今後も誓って他言は致しません」
赤毛の貴公子は、アルバート王子の鳶色の瞳を見据えて言った。
「姫は、ご無事なのでしょうか」
その真っ直ぐな視線と声に、王子は答えた。
「ああ、無事だ」
アルバート王子の言葉に、みるからに赤毛の若者はホッとした表情をしていた。
「良かった。ご無事なのですね」
『お兄様、お願い致します。どうか、私とレイモンドの為にも、ザナルカンド王国へ婿入りなさって下さい』
二年前、妹のマリアンヌはこの若者との恋を成就させるために懸命だった。
同じように真っ直ぐな瞳で兄王子を見つめてそう言ったのだ。
でも結局その恋は実ることはなく、二人は引き裂かれた。
レイモンドは、両親達から新たな婚約者を迎えるように言われていたが、彼は決して首を振らなかったという。ずっと、彼は幼い頃からの、彼の姫君のことを想っていた。
「怪我の一つもしていない」
「そうですか。殿下、本当に有難うございます。もし、叶うことなら」
レイモンドは胸元からそっと一通の手紙を取り出して、アルバート王子の前のテーブルの上に置いた。
「手紙を彼女に渡して頂きたい」
リヨンネの元へ預けた妹のマリアンヌのことが気になったのだ。ザナルカンドから連れ帰ってから、そのままにしている。様子を見に行かなければならないと思っていた。着の身着のまま城から連れ出した。ろくな荷物がなかった彼女は、リヨンネやよく気が付くキースがそばにいるとしてもおそらく不便しているだろうと思った。
ウラノス騎兵団長は未だ、王や第一王子達への説得に当たっていたが、それがうまくいっている様子はなかった。彼はアルバート王子が竜騎兵団へ帰還したい旨を聞くと、「それがいい」と疲れた表情で頷いていた。
バルトロメオ辺境伯共々、王達への説得に疲れているようだった。
帰還の許しを得たアルバート王子が、母妃から預かったたくさんのマリアンヌ宛の荷物をまとめているところで、来客の知らせを受けた。
一体誰だろうと、アルバート王子が荷支度を手伝うバンナムと顔を見合わせていると、取り次ぎした侍従がこう伝えた。
「ヴィシュー侯爵家レイモンド様です」
それは、マリアンヌのかつての婚約者の令息であった。
二年前、マリアンヌとの婚約を解消させられたレイモンド。
彼は最後まで、マリアンヌとの婚約解消を拒否していた。しかし王命には逆らえず、父侯爵の説得を受け、泣く泣くマリアンヌの手を離した。幼い頃、将来の結婚を約束し合ったレイモンドとマリアンヌは、相愛であった。その二人の仲を裂いて為したザナルカンドの王子との結婚が、このような形で破綻することになろうとは、当時のアルバートは元より、誰も想像していなかったことだった。
二年前、十五歳の少年であったレイモンドは、改めて対面した時には背も伸び、十七歳の若者になっていた。
「会って頂きありがとうございます。殿下」
部屋の隅にたくさんの荷物がまとめて置かれている様子をチラリと見て、レイモンドは言った。
「まるでお引越しのような荷物ですね」
母であるマルグリッド妃は、マリアンヌが北方で匿われていることを知ってから、彼女の為の荷物を猛然と揃えだしていた。服は勿論のこと、家具までも用意しようとしていたので、必死にアルバートはそれを止めなければならなかった(小柄な竜のルーシェもたくさんの木箱は運べないと困った様子だった。マルグリッドは「では、送ります」と途中から方針を変えて、送ることを前提に荷物を揃えだしていた)。
「…………そうですね」
内心、アルバートはギクリとしていた。
たくさんの荷物を用意したり、それを運ぶからといって、そこにマリアンヌの存在が嗅ぎつかれることはないと思っている。
レイモンドはアルバート王子の対面の椅子に座った。彼にお茶を用意した侍従が一礼して退室した後、口を開いた。
「マリアンヌ姫はご無事でしょうか」
その言葉に、アルバート王子は動揺する感情を急ぎ飲み込んだ。
静かに問い返す。
「何を仰っているのでしょうか」
「先に申し上げます。私は殿下の味方です。マリアンヌ姫がご無事なら、それでいいと思っています。殿下が、この王宮に到着してからすぐに人目を避けて飛び立ち、そのまましばらくの間、王宮へ戻って来なかったことを知っております」
どこから情報が漏れたのだと、内心アルバート王子は思っていた。
母妃周辺の女官や侍女であろうか。口の固い者を選んでいるという話であったが。
「それから、マルグリッド妃が若い女性向けのドレスや服を随分と急いで用意させている話を聞きました」
内心、アルバート王子はため息をついていた。
(…………母上)
そんなところから足がつくとは思ってもみなかった。
「繰り返しますが、私は殿下の味方です。この情報を得てからも一切他言しておりません。今後も誓って他言は致しません」
赤毛の貴公子は、アルバート王子の鳶色の瞳を見据えて言った。
「姫は、ご無事なのでしょうか」
その真っ直ぐな視線と声に、王子は答えた。
「ああ、無事だ」
アルバート王子の言葉に、みるからに赤毛の若者はホッとした表情をしていた。
「良かった。ご無事なのですね」
『お兄様、お願い致します。どうか、私とレイモンドの為にも、ザナルカンド王国へ婿入りなさって下さい』
二年前、妹のマリアンヌはこの若者との恋を成就させるために懸命だった。
同じように真っ直ぐな瞳で兄王子を見つめてそう言ったのだ。
でも結局その恋は実ることはなく、二人は引き裂かれた。
レイモンドは、両親達から新たな婚約者を迎えるように言われていたが、彼は決して首を振らなかったという。ずっと、彼は幼い頃からの、彼の姫君のことを想っていた。
「怪我の一つもしていない」
「そうですか。殿下、本当に有難うございます。もし、叶うことなら」
レイモンドは胸元からそっと一通の手紙を取り出して、アルバート王子の前のテーブルの上に置いた。
「手紙を彼女に渡して頂きたい」
68
あなたにおすすめの小説
腐男子♥異世界転生
よしの と こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、カクヨムさん、Caitaさんでも掲載しています。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました
湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。
蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。
だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。
しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。
「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」
――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈
__________
追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ
一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる
(主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです)
※R成分薄めです
__________
小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です
o,+:。☆.*・+。
お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/
ありがとうございます!!
BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる