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第十章 亡国の姫君
第十四話 情報の収集任務(上)
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ウラノス騎兵団長が、バルトロメオ辺境伯と共に、北方地方に帰還した。
途中で辺境伯を、辺境伯の城へ届け、その後竜騎兵団の拠点へ戻る。
ウラノス騎兵団長は非常に疲れた表情でいた。
結局、国王と第一王子リチャードの説得は成功せず、現在王国は、イスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国の提唱する三カ国の軍事同盟には加盟していない。イスフェラ皇国がサトー王国へ宣戦布告をした直後、ハルヴェラ王国、アレドリア王国は追ってすぐさま参戦していた。
今回、サトー王国がザナルカンド王国の王城をすぐさま落とし、東の国境沿いの城まで魔法攻撃で灰塵に帰したことで、彼の国が容赦なく他国を侵略することは明らかであった。そしてザナルカンド王国の降伏により、アルバート王子達のいるこの王国も、ついにサトー王国と領土が接することになった。
いつかサトー王国が東進する。
それが分かっていながら、軍事同盟に入らず、周辺国の戦闘の状況を見てから参戦しようとは日和見も過ぎる。
イスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国の三か国はすでに戦闘状態にあり、サトー王国が当面、この王国に侵攻する余裕はないだろうという予測が立てられるからこその、日和見であろう。だが、このような対応なら、実際に侵攻があった際にはどの国も手を差し伸べてくれないのではないかとも思える。
兵を国境沿いに集結させ、来たるべき日の侵攻に備えて軍備を増強する話になっている。
(しかし)
アルバート王子は、実際にザナルカンド王国の東の国境沿いの城が落ちるところを目撃した。
(一撃で、城が壊滅した)
(いかに兵士を揃え、軍備を増強しようとも、アレは防げないのではないか)
空から星のように何かが落ちてきた。
次の瞬間、閃光が走り、衝撃もまた走り抜けた。
いつぞやの、ルーシェの親友であったトモチカも言っていたではないか。
『あいつは戦略もへったくれもない方法で攻めてくる』
強力な魔法攻撃の一撃。
ピンポイントで敵の首脳部や要所を叩く。それも徹底的に。
あのような、星のように落ちてくる攻撃を防ぐことはなかなか至難であろう。
高位の防御魔法を張り巡らせて、跳ね返すしかない。
それが出来るほどの魔術師達を用意せねばならない。
その首都が学術都市と謳われ、高名な学者のみならず、高位魔術師達を数多く抱えるアレドリア王国ならそれが可能かも知れない。そしてイスフェラ皇国もまた稀代の魔術師と呼ばれるイーサン=クレイラが存在する。
対してこの王国はどうであろうか。
王宮の抱える魔術師達には、天空から星のように落ちてくる魔法攻撃を防ぐ手段を持っているのだろうか。
しかし、何の策もなく、軍事同盟にも入らず、孤高でこの王国を守れると父たる陛下が考えているとは思えなかった。きっと何かしらの策があるのだろうと思う。それが何であるのか分からない。
数日後、ウラノス騎兵団長は、アルバート王子と紫竜を団長室へ呼んだ。
彼はその場でこう命じた。
「殿下にはイスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国へ向かって頂きたい。今回の戦いで、三カ国はよく善戦しているという話を聞きます」
王国の七番目とはいえ、アルバートは王子である。それを戦争状態にある危険な場所へやるのかと、室内にいたバンナムがそう言いたげに口を開こうとしたところで、ウラノス騎兵団長はなおも続けた。
「イスフェラ皇国には、どうやらシルヴェスター王子殿下がいらっしゃるのではないかという噂を聞いています」
突然そのようなことを言われ、アルバート王子は驚いた。
「…………兄上が」
五番目のシルヴェスター王子は、ここ数年ずっとその行方が不明であった。
シルヴェスター王子の母は、元は王宮の女官であったという。王に手を付けられた彼女は、名ばかりの妃に列せられたが、王子出産後、早々に王宮から出された。アルバート王子が知るシルヴェスター王子は、後ろ盾も何もない王子で、王宮内ではアルバート王子以上に弱い立場であったということだ。シルヴェスター王子は突然、王立学園在学中に失踪した。不遇過ぎる自身への待遇に不満があったのではないかという専らの話である。
遠い北方の竜騎兵団にいるアルバートは、その事実を知っているだけで、何故シルヴェスター王子が失踪したのか理由を知ることもなかった。
「イスフェラ皇国の善戦の理由にはシルヴェスター王子殿下の活躍もあるらしいのです。殿下には、シルヴェスター王子殿下と接触して頂き、その善戦の理由を探って頂きたい」
これらの情報は、近衛騎士団が西方地域で情報を収集させている兵士や情報屋から得たものであった。何故、シルヴェスター王子が西方へ渡っているのか、その辺りの理由も気になるところであった。
同じ王族で、シルヴェスター王子の顔を知るであろうアルバート王子なら、シルヴェスター王子にも接触しやすく情報も得やすいだろうとウラノス騎兵団長は考えたのだ。
「戦地に近い場所です。殿下に足を運んで頂くのは本来、ふさわしくない場所であることは理解しております」
サトー王国と開戦しているが、実際の戦地はイスフェラ皇国の上にあった旧カリン王国であり、イスフェラ皇国と同盟国は、サトー王国との戦線を押し上げて旧カリン王国の領土を奪取しようとしている状況である。
ウラノス騎兵団長の傍らにいたエイベル副騎兵団長が何通もの封書をテーブルの上に置いた。
「騎兵団長が書いて下さった紹介状です。殿下の身元を保証するものとなります。また、各国の軍上層部宛の信書も、そして通行証も別途ご用意致します。竜騎兵団の使いの者については三か国ともに歓迎してくれるであろう話を聞いています」
準備は着々と進められていたらしい。
「承知しました」
アルバート王子も、自分の兄王子のことが気になった。
西方諸国へ渡り、戦争の中、身を置いた王子。
そしてその活躍。
いったい何をどうしたらそうなったのだろうと興味を持っていたのだった。
途中で辺境伯を、辺境伯の城へ届け、その後竜騎兵団の拠点へ戻る。
ウラノス騎兵団長は非常に疲れた表情でいた。
結局、国王と第一王子リチャードの説得は成功せず、現在王国は、イスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国の提唱する三カ国の軍事同盟には加盟していない。イスフェラ皇国がサトー王国へ宣戦布告をした直後、ハルヴェラ王国、アレドリア王国は追ってすぐさま参戦していた。
今回、サトー王国がザナルカンド王国の王城をすぐさま落とし、東の国境沿いの城まで魔法攻撃で灰塵に帰したことで、彼の国が容赦なく他国を侵略することは明らかであった。そしてザナルカンド王国の降伏により、アルバート王子達のいるこの王国も、ついにサトー王国と領土が接することになった。
いつかサトー王国が東進する。
それが分かっていながら、軍事同盟に入らず、周辺国の戦闘の状況を見てから参戦しようとは日和見も過ぎる。
イスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国の三か国はすでに戦闘状態にあり、サトー王国が当面、この王国に侵攻する余裕はないだろうという予測が立てられるからこその、日和見であろう。だが、このような対応なら、実際に侵攻があった際にはどの国も手を差し伸べてくれないのではないかとも思える。
兵を国境沿いに集結させ、来たるべき日の侵攻に備えて軍備を増強する話になっている。
(しかし)
アルバート王子は、実際にザナルカンド王国の東の国境沿いの城が落ちるところを目撃した。
(一撃で、城が壊滅した)
(いかに兵士を揃え、軍備を増強しようとも、アレは防げないのではないか)
空から星のように何かが落ちてきた。
次の瞬間、閃光が走り、衝撃もまた走り抜けた。
いつぞやの、ルーシェの親友であったトモチカも言っていたではないか。
『あいつは戦略もへったくれもない方法で攻めてくる』
強力な魔法攻撃の一撃。
ピンポイントで敵の首脳部や要所を叩く。それも徹底的に。
あのような、星のように落ちてくる攻撃を防ぐことはなかなか至難であろう。
高位の防御魔法を張り巡らせて、跳ね返すしかない。
それが出来るほどの魔術師達を用意せねばならない。
その首都が学術都市と謳われ、高名な学者のみならず、高位魔術師達を数多く抱えるアレドリア王国ならそれが可能かも知れない。そしてイスフェラ皇国もまた稀代の魔術師と呼ばれるイーサン=クレイラが存在する。
対してこの王国はどうであろうか。
王宮の抱える魔術師達には、天空から星のように落ちてくる魔法攻撃を防ぐ手段を持っているのだろうか。
しかし、何の策もなく、軍事同盟にも入らず、孤高でこの王国を守れると父たる陛下が考えているとは思えなかった。きっと何かしらの策があるのだろうと思う。それが何であるのか分からない。
数日後、ウラノス騎兵団長は、アルバート王子と紫竜を団長室へ呼んだ。
彼はその場でこう命じた。
「殿下にはイスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国へ向かって頂きたい。今回の戦いで、三カ国はよく善戦しているという話を聞きます」
王国の七番目とはいえ、アルバートは王子である。それを戦争状態にある危険な場所へやるのかと、室内にいたバンナムがそう言いたげに口を開こうとしたところで、ウラノス騎兵団長はなおも続けた。
「イスフェラ皇国には、どうやらシルヴェスター王子殿下がいらっしゃるのではないかという噂を聞いています」
突然そのようなことを言われ、アルバート王子は驚いた。
「…………兄上が」
五番目のシルヴェスター王子は、ここ数年ずっとその行方が不明であった。
シルヴェスター王子の母は、元は王宮の女官であったという。王に手を付けられた彼女は、名ばかりの妃に列せられたが、王子出産後、早々に王宮から出された。アルバート王子が知るシルヴェスター王子は、後ろ盾も何もない王子で、王宮内ではアルバート王子以上に弱い立場であったということだ。シルヴェスター王子は突然、王立学園在学中に失踪した。不遇過ぎる自身への待遇に不満があったのではないかという専らの話である。
遠い北方の竜騎兵団にいるアルバートは、その事実を知っているだけで、何故シルヴェスター王子が失踪したのか理由を知ることもなかった。
「イスフェラ皇国の善戦の理由にはシルヴェスター王子殿下の活躍もあるらしいのです。殿下には、シルヴェスター王子殿下と接触して頂き、その善戦の理由を探って頂きたい」
これらの情報は、近衛騎士団が西方地域で情報を収集させている兵士や情報屋から得たものであった。何故、シルヴェスター王子が西方へ渡っているのか、その辺りの理由も気になるところであった。
同じ王族で、シルヴェスター王子の顔を知るであろうアルバート王子なら、シルヴェスター王子にも接触しやすく情報も得やすいだろうとウラノス騎兵団長は考えたのだ。
「戦地に近い場所です。殿下に足を運んで頂くのは本来、ふさわしくない場所であることは理解しております」
サトー王国と開戦しているが、実際の戦地はイスフェラ皇国の上にあった旧カリン王国であり、イスフェラ皇国と同盟国は、サトー王国との戦線を押し上げて旧カリン王国の領土を奪取しようとしている状況である。
ウラノス騎兵団長の傍らにいたエイベル副騎兵団長が何通もの封書をテーブルの上に置いた。
「騎兵団長が書いて下さった紹介状です。殿下の身元を保証するものとなります。また、各国の軍上層部宛の信書も、そして通行証も別途ご用意致します。竜騎兵団の使いの者については三か国ともに歓迎してくれるであろう話を聞いています」
準備は着々と進められていたらしい。
「承知しました」
アルバート王子も、自分の兄王子のことが気になった。
西方諸国へ渡り、戦争の中、身を置いた王子。
そしてその活躍。
いったい何をどうしたらそうなったのだろうと興味を持っていたのだった。
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