転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第十章 亡国の姫君

第十五話 情報の収集任務(下)

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 アルバート王子がイスフェラ皇国など三か国へ向かう命を受けたことについて、バンナムは表情には出さないが、不満そうな空気を漂わせていた。

「殿下を開戦国へ情報収集に向かわせるなんて」

 守るべき御身であるはずなのに、おかしいと主張したいのだ。
 しかし、アルバート王子は自身が軍属であり、いつか危険な戦いの中に身を置くことも覚悟していた。自分の身を心配してくれるのは有難いが、これも任務である。竜騎兵団において遊軍の位置づけである王子は、ウラノス騎兵団長から直接命令を出しやすいであろうし、かつ、足の速い紫竜持ちの竜騎兵である。さらに今回は、アルバート王子の兄王子シルヴェスターがいるかも知れない場所へ行き、兄王子からも情報を収集するのだ。竜騎兵団の中で、自分が行うのが一番ふさわしい任務であると言えた。
 それに王子自身、サトー王国に反旗を翻している三つの国々の戦いぶりが知りたい。

 ただ、この任務を引き受けることで、気にかかる事があるとしたら。

 そう、身籠っている妹のマリアンヌを、山間の観察拠点の建物内に置いて行くことであろう。
 その間、アルバートは彼女の様子を見ることは出来ない。



 アルバート王子が出立前、観察拠点の建物へ足を運ぶと、マリアンヌは微笑みを浮かべて応対してくれた。
 かつての婚約者レイモンドからの手紙を受け取った時には、さすがに動揺した感があったが、それ以降は穏やかに毎日を過ごしているらしい。リヨンネやキース、そして黒竜シェーラと青竜エルハルトがよくしてくれるのだろう。最近では、キースがマリアンヌに編み物を教えており(手先の器用なキースは何でもできるのだなと、リヨンネやシェーラ達から絶賛の嵐であったらしい)、マリアンヌと黒竜シェーラは二人して生まれてくる赤ん坊のための、靴下などを編んでいた。

 今も、椅子に座ったマリアンヌは白い毛糸で赤ん坊用の帽子を編んでいた。キースの指導がいいのか、なかなか上手に編み上げている。
 そして彼女はやって来た兄王子に尋ねた。

「どうなさったのですか、お兄様」

 アルバート王子は淡々と、自分が命令を受けて開戦中の三か国へ渡ることを話すと、さすがにマリアンヌも顔色を青ざめさせていた。彼女の心を乱してしまうため、マリアンヌに、何も伝えずに赴くことも王子は考えたが、それもどうかと思ったのだ。

「情報収集だけだ。すぐに帰ってくる」

「どうか、お気をつけてくださいませ」
 
 ぎゅっと編み上げた帽子を手に握り締めている。
 リヨンネは王子に向かって言った。

「マリアンヌ様のことはお任せ下さい。無事にご出産までお守り致します」

「リヨンネ先生、宜しくお願いします」

 アルバート王子は深々と頭を下げる。この地を自分が離れることで心配なのはそれであった。

「冬が来る前に準備を進めて、王都へ行きます。今のところ、マリアンヌ様も順調ですし、大丈夫です」

「はい」

 そこで、リヨンネは思い出したように急に別室へ入り、何やらゴソゴソとして戻ってきた。
 彼は手紙を差し出した。

「それは?」

「その、殿下。アレドリア王国には私の甥のユーリスがいます」

 そういえば、そうであった。
 バンクール商会長ジャクセンの一人息子ユーリスは、アレドリア王国の大学で学者として研究しているのだ。黄金竜の雛を連れて旅立っていった彼は、リヨンネの甥であった。

「もし殿下がアレドリア王国で、ユーリスに会うことがあれば、この手紙をユーリスに渡して頂きたいのです。黄金竜の雛を育てているユーリスに、黄金竜の情報を少しでも渡してあげたいと思って、これは私が少しずつ調べて書きつけておいたものです」

 リヨンネ
 いい人過ぎる

 その場にいた者達全員の感想がそれであった。

「分かった。アレドリアにも行く予定だ。ユーリスに会って渡そう」

「有難うございます、殿下」

「ピルルピルピルル(ウェイズリーは元気かな)」

 以前会った時は、ユーリスのことを番だと言い張って、べったりとその胸元に張り付いていた黄金竜の雛である。山に捨てようとしていたユーリスに、泣いてしがみつくようにしていた黄金竜の雛のどこか情けない姿しか思い浮かばない。

「ウェイズリーは元気だろう」

 そうアルバート王子が答えている一方で、リヨンネは眉を曇らせていた。
 
「ユーリスも、開戦国の一つであるアレドリアにいるのです。その身が心配です。こちらへ戻ってくればいいのですが」

 実際、リヨンネは知らなかったが、バンクール商会長でユーリスの父であるジャクセンは、開戦の前後からユーリスに、国へ戻って来るように何度も手紙を出していた。
 心配そうな様子のリヨンネ達を見て、黒竜シェーラは「ふん、心配しなくても大丈夫よ」と答えていた。

「どうしてですか」

 なにやら黒竜シェーラは、毛糸の何かがうまく編み上げられなかったのか、毛糸の糸を引っ張ってもう一度やり直そうとしていた。苛々している彼女の脇から、青竜エルハルトが「どれ、俺にやらせてみろ」と言っている。

「だって、ユーリスのそばには黄金竜ウェイズリーがいるのでしょう? この世で一番安全だといえるわ」

 リヨンネと小さな竜の姿のルーシェが二人揃って首を傾げている。

「どうしてですか?」

「ピルルゥ?(どうして?)」

「だって、黄金竜がいるのよ。黄金竜は番であると認めているユーリスを、誰も傷つけることを許さないはずだわ。いい、王子。私からアドバイスしてあげる」

「はい」

 毛糸がぐしゃぐしゃになったその編み物の残骸に顔をしかめ、シェーラはそれを青竜エルハルトに押し付けていた。エルハルトとキースが困り顔で、その編み物の残骸から少しずつ糸を解いて戻していっている。

「黄金竜を味方にするものが、この戦いに勝利できるわ!!」

「はぁ」

「サトー王国とかよくわからないけど、黄金竜は“絶対の覇者”なの!! いい、絶対に絶対に味方につけなくちゃだめなのよ」

「分かりました。参考にさせて頂きます」

 そう答えると、両腕を組んだシェーラは満足そうにうんうんと頷いていた。


 黒竜シェーラがいう、“絶対の覇者”だという黄金竜。
 そしてその雛である黄金竜ウェイズリー。
 アルバート王子とルーシェの記憶に残る黄金竜の雛の姿は、「ユーリスが大好きだから離れたくない」「迷惑をかけないようにするから、そばに置いて欲しい」「(ユーリスに)嫌われたら生きていられない」と女々しくも非常に情動的な生き物であった。
 とてもシェーラの話す“絶対の覇者”という威厳はなかった。
 とりあえず、参考にするということで聞き流したアルバート王子であった。



 また紫竜ルーシェは、アルバート王子が向かうというイスフェラ皇国、アレドリア王国、ハルヴェラ王国の三か国の名を聞いて、何か心に引っかかっていた。そのことをなんとか思い出そうと「うーんうーん」と小さな竜は頭を悩ませていたが、結局思い出すことはなかった。

(まぁ、大事な事なら、行ったらきっと思い出すよね)

 そう思って、とりあえずはそのままにしている。




 ルーシェは忘れていた。
 そう、かつての親友三橋友親の言葉を。

『委員長は生きている。あいつは凄いんだぞ』

 委員長。そう、同じ学校のクラスメイトで、委員長とあだ名で呼ばれていたしっかり者の女子生徒。
 その彼女はハルヴェラ王国の王太子妃になっているという言葉を。
 すっかり忘れ果てていたのであった。
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