転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第十四章 招かれざる客人

第一話 報告(上)

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 目の前には見上げるほど背の高い鬱蒼と茂った針葉樹の森が続いている。
 そしてその森の向こうの山の中腹に遠く見えるのが、竜騎兵団の拠点の建物だった。
 懐かしい、景色だった。
 今では故郷のように思っている場所。

 ルーシェはアルバート王子の胸の中で、それを認めて「ピルルルルルルルルルルル」と高らかに鳴いた。その叫び声が遠く山を反響して響いていく。

 
 ルティ魔術師は苦しそうな様子から回復していたが、どこか疲労し切った表情をしている。
 他人が“召喚”し別次元に“待機状態”であったものを奪い取るようにした今回の“召喚”魔法は彼に大きな負担を与えた。一気に年齢を重ねたような顔をしている。
 疲労困憊のルティ魔術師は、そうした中でも疑問を抱いていた。

(私の“召喚”魔法は足りなかった)

 そう。カルフィー魔術師が怒って叫んだように、あの時のルティ魔術師の“召喚”魔法は、効果を増強するために呪言の追加をしなければならないものであったのだが、すでに口から放たれた魔法ではそれは叶わず、どうにも出来ない状態に置かれたのだ。
 その自分の魔法を力強く後押ししてくれたものがあった。
 自分の刻んだ巨大な魔法陣の上に、更に黒い光の呪文の文字が走り、重ねられた。
 誰がそれを為したのか分からない。

 そしてそのことを、同じ場にいたカルフィー魔術師も疑問に感じているようだったが、今、彼は伴侶の三橋友親の様子を確認していることに忙しいようだ。
 友親のそばに行って「大丈夫か、友親」「辛かったのなら早く言うんだぞ」と声を掛けている。魔力を抜かれた三橋友親は平然としていた。それもまたおかしなことだった。あれほど大量の魔力を抜き取ったのに、普通に平然と何ら変わらぬ様子で立っていられることがおかしい。
 実際、同じ異世界からの転移者である石野凛ことリン王太子妃は、未だに顔色も悪く、具合が悪そうにふらついていた。それをそばの女官達が慌てたように支え、彼女は馬車の中へ戻らされようとしていた。

 アルバート王子に抱き上げられていた小さな竜は、一瞬で大きな竜に姿を変えた。
 そして王子に「ピルピルル(乗って)」と促したので、王子がその竜の背に乗ると、竜はすぐに空へと羽ばたく。

「殿下、どこへ行くんですか」

 バルトロメオ辺境伯の問いかけに、空の上からアルバート王子が答えた。

「先に竜騎兵団へ行って様子を見て参ります」

「ピルルルルルルゥ」

 ルーシェも歌うように声を上げ、そして竜と竜騎兵の若者は、すぐさま険しい山の中腹にある竜騎兵団の拠点の建物を目指したのだった。



 ひんやりと冷たい空気は、懐かしいこの北方の地のものだった。
 白い雲が、空に広がる。
 その中をルーシェは、薄い皮膜の翼をはためかせて飛んでいく。
 眼下には背の高い針葉樹の森がずっと続き、雪を被り始めた山脈も見える。

(ああ、戻ってきている)

 嬉しさに、ルーシェはひっきりなしに「ピルルピルルル」と鳴いて声を上げていた。
 その喜びを、ルーシェの背に跨るアルバート王子も感じて、彼の首を手で優しく撫でる。

 全てが元に戻った時、小さな竜の首に下がっていた首飾りの小さな黒い石が砕け散り、その黒い石は細かい砂のようになって、首飾りの鎖に留まることはなかった。黒い石は失われていた。
 あの時、優しく“後押し”してくれたのは、シェーラの“呪い”の力だった。

 人にも竜にも恐れられ、時に嫌われていた黒竜シェーラの力が、最後に皆を助けてくれた。
 そのことを、ルーシェは空を飛びながら、大声で触れ回って、皆に知ってもらいたい気持ちでいっぱいだった。

 シェーラがいたから
 シェーラの力があったから、みんな助かったんだ!!

 シェーラは本当は優しくて、いい竜なんだよ!!






 でもシェーラはいない。
 そう。みんなが感謝の言葉を捧げるべき存在は、いないのだ。

 
 グスンと紫色の竜が鼻をすすり、黒い大きな目を潤ませたことに気が付いたアルバート王子は、その耳元に優しく囁く。

「お前が感謝の気持ちを持っているだけでも、きっと、シェーラはとても喜ぶと思うぞ。シェーラはお前のことが好きだったからな」

 アルバート王子は、結婚の祝いで、黒竜シェーラがルーシェに、“呪い”のかかった黒い首飾りを贈ったことを聞いていた。その首飾りをルーシェが大切にしていた様子も見ていた。そしてその首飾りの力が、どうやら“消失”解消の一助となっていたことも、彼は見てとっていた。

「ピルルピルピルルルピルルルルゥゥゥ(早くシェーラに「ありがとう」と言いたい)」

 卵に戻ってしまったシェーラは、リヨンネの話だと“育て直し”の状態にあり、卵から孵っても過去の記憶の全てを失い、幼竜から竜生を再スタートすることになるらしい。
 だから、彼女はルーシェのことも忘れている。

 ルーシェがシェーラに会ったとしても、彼女はもう、彼のことが分からない。「ありがとう」の言葉を伝えても、きっと彼女には理解できない。
 それがひどく寂しい。




 ルーシェは竜騎兵団の拠点の離着陸場に到着した。
 竜騎兵団の建物の外には、いつものように見習いの竜騎兵達がいて、一生懸命に変わらず働いていた。
 離着陸場に到着するや否や、ルーシェは小さな竜の姿に変わって、王子の肩に止まる。
 アルバート王子は、そのまま急ぎ足で、まずは自分の護衛を務めていたバンナムの姿を探した。
 彼は、アルバート王子とルーシェが、竜騎兵としての任務に就いている間、見習い竜騎兵達に対して剣の手ほどきをしているのだ。彼の伴侶のレネ魔術師は魔術の講義をしている。運動場を目指すと、そこにやはり、若い竜騎兵の見習い達に指導をしているバンナムがいた。

「ピルピルルルルルルルルルルルッ!!」

 ルーシェが込み上げる喜びに飛び上がり、その喜びの余り、すぐさま弾丸のように飛び出そうとしたそれを、さすがに毎回そうさせるわけにはいかないと、むんずとアルバート王子が彼の尻尾を捕まえて止めた。当然ルーシェは空中で動きを止めて、激しくパタパタパタと翼をはためかせ、それから黒い目を吊り上げて王子に振り返った。

「ピルピルピルルピルル!!(なんで止めるんだよ!!)」

 激怒する小さな竜の頭に、アルバート王子は軽く手でぺチンと叩くと、ルーシェは「ピルルゥゥ」と小さな手で頭を押さえている。そのルーシェを抱きかかえたまま、アルバート王子は自分の護衛を務める騎士の男に声をかけた。

「バンナム」

 振り返ったバンナムは、そこに自分の仕える主の姿を認めて、不思議そうな顔をしていた。

「殿下、いつ任務からお戻りになったのですか」

 最後にバンナム達と別れた時、アルバート王子は西方三か国を、ウラノス騎兵団長の命令で巡っていたのだ。バンナムの記憶の中ではアルバート王子はまだ帰国していない。

「…………ああ、それはだな」

 何をどう話せばいいのか分からない。
 だが、少年の時分から自分に忠実に仕えていたバンナムの無事な姿を再び見ることが出来て、アルバート王子は胸の中が熱くなっていた。
 
「詳しいことはあとで話す。これから私はウラノス騎兵団長に報告に行く」

「はい」

 それからアルバート王子は竜騎兵団の団長室へ向かって歩いて行く。
 ノックをすると、団長室から「入れ」とウラノス騎兵団長の声が聞こえてきた。
 それを耳にして、アルバート王子もルーシェも、一瞬(もしかして、これまでのことは全て夢だったのではないか)と思ってしまったほどだった。
 すれ違う竜騎兵達も、建物の様子も変わらない。全く変わっていない。
 彼らは一人として、自分達もパートナーの騎竜達も、この竜騎兵団の拠点の建物も含めて、別の次元に留められていたことに気が付いていない。
 扉を開けると、そこに重厚なデスクに座るウラノス騎兵団長と、彼のそばに立つ銀の髪の麗しいエイベル副騎兵団長の姿を認めた。
 
「ただ今戻りました」

「ご苦労様でした」

 エイベル副騎兵団長のその労わりの言葉も、アルバート王子が西方諸国を巡って無事に帰還したことに対してのものなのだろう。彼らは、それから起きた出来事を一つも知らない。
 エイベル副騎兵団長が柔らかな笑みをアルバート王子に向ける。
 彼は、ウラノス騎兵団長と婚姻してから、そうした表情をよく見せるようになっていた。
 そしてウラノス騎兵団長もまた、エイベル副騎兵団長と一緒にいることが自然で、他の誰と一緒にいる時よりもどこか寛いでいるように見えた。
 二人は、アルバート王子とルーシェを支えてくれた。いつも力を貸してくれた。
 その二人に再び会うことが出来て、アルバート王子もルーシェも胸がいっぱいになっていた。

 椅子に座るように促され、西方諸国でのことを報告するように命じられたアルバート王子は、竜騎兵団長と副騎兵団長の前で、ゆっくりと起きた出来事を話し始めた。

 それは長い長い、話になったのだった。
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