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第十五章 この世界で君と共に
第十八話 総力戦(下)
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吹き出した大量の血が、佐藤を囲んで建っていた土壁内部に飛び散る。
周囲が真っ赤に染まる。むせかえるような鉄の匂いがたちこめる。
たまらず両膝をつく。
身体が熱い
身を走る凄まじい痛みと熱を感じた。
叫ぶことも出来ず、ただ赤い血がドクドクと身体から大量に流れ出していることを感じる。
自分の命も同時に流れ出している。
ふいに佐藤の周りを囲んでいた土壁が崩れ、視界が開けた。
紫竜ルーシェが土魔法を解除させたからだ。
そこに一振りの剣を手にした若い男が立っていた。
黒い髪に鳶色の瞳をした背の高い男だった。
手には、何の変哲もない一本の剣が握られている。
その剣を、佐藤優斗は見たことがあった。
“勇者”の鈴木陸が手に入れた“勇者の剣”
試練を終えて帰国した鈴木が、王族達の前で披露した剣だった。
何の飾りのない、どこか無骨な、パッとしない一振りの剣であるのに、それは山をも崩す力がある。
何でも斬ることが出来る、魔法の剣だった。
それを佐藤は知っていた。
一度だけ、鈴木が佐藤に握らせて、試しをさせてくれたことがあったからだ。
当然、鞘から剣が抜けることはなかった。佐藤の手ではビクとも動かない剣。それを鈴木は簡単に引き抜くことが出来た。陽の光の下で、煌めく刀身。彼は選ばれた“勇者”だった。
そして今、目の前の鳶色の瞳をした、この異世界の若者が、その鈴木が持っていた“勇者の剣”を手にしている。
彼は倒れ伏した佐藤のそばに近づいてくる。
(ああ。昔から、出会った時から、私は鈴木が大嫌いだった)
同じ学校、同じ学年、同じクラスの鈴木陸は、佐藤にとって目障りな生徒だった。
頭が良く、背も高くハンサムで見た目も良ければ、家も裕福だと聞く。絵に描いたような“良い子”の生徒。まるで物語の主人公のような少年だった。
どんなにか佐藤が努力を重ねても、鈴木は常に自分の前を颯爽と歩いていた。追いかけても追いつけない。
一度として、佐藤は鈴木に勝てたことがない。
嫌いだ、大嫌いだ。
ずっと自分の前を歩く“良い子”のこいつが大嫌いだ。
“勇者”に選ばれ、この世界を救う試練を与えられたという鈴木が、大嫌いだ。
でもその鈴木が結局、最期まで。
目の前の鳶色の瞳の若い男は、鈴木陸ではない。
姿が違う。彼は明らかにこの異世界の人間だろう。小さな紫色の竜がパタパタと飛んで、その若い男の肩に止まる。小さな竜の大きな黒い両眼が、じっと倒れ伏している佐藤を見つめる。
鈴木陸ではない。
それなのに、この異世界の勇者は何故か、鈴木陸のような気がしてならなかった。
鈴木の“勇者の剣”の柄を、両手で持ったその男は、佐藤の傍らで足を止め、トドメを刺すために、両手で振り上げた。
(ああ、本当に容赦がない)
(大嫌いだったこいつに、結局私はやられてしまうのか)
“勇者の剣”が首を断つ前に、そんな諦めのような感情が瞬間、横切った。
それには少しばかりの安堵の感情も混じっていたのだった。
そして佐藤の視界はプツリと途切れたのだった。
周囲が真っ赤に染まる。むせかえるような鉄の匂いがたちこめる。
たまらず両膝をつく。
身体が熱い
身を走る凄まじい痛みと熱を感じた。
叫ぶことも出来ず、ただ赤い血がドクドクと身体から大量に流れ出していることを感じる。
自分の命も同時に流れ出している。
ふいに佐藤の周りを囲んでいた土壁が崩れ、視界が開けた。
紫竜ルーシェが土魔法を解除させたからだ。
そこに一振りの剣を手にした若い男が立っていた。
黒い髪に鳶色の瞳をした背の高い男だった。
手には、何の変哲もない一本の剣が握られている。
その剣を、佐藤優斗は見たことがあった。
“勇者”の鈴木陸が手に入れた“勇者の剣”
試練を終えて帰国した鈴木が、王族達の前で披露した剣だった。
何の飾りのない、どこか無骨な、パッとしない一振りの剣であるのに、それは山をも崩す力がある。
何でも斬ることが出来る、魔法の剣だった。
それを佐藤は知っていた。
一度だけ、鈴木が佐藤に握らせて、試しをさせてくれたことがあったからだ。
当然、鞘から剣が抜けることはなかった。佐藤の手ではビクとも動かない剣。それを鈴木は簡単に引き抜くことが出来た。陽の光の下で、煌めく刀身。彼は選ばれた“勇者”だった。
そして今、目の前の鳶色の瞳をした、この異世界の若者が、その鈴木が持っていた“勇者の剣”を手にしている。
彼は倒れ伏した佐藤のそばに近づいてくる。
(ああ。昔から、出会った時から、私は鈴木が大嫌いだった)
同じ学校、同じ学年、同じクラスの鈴木陸は、佐藤にとって目障りな生徒だった。
頭が良く、背も高くハンサムで見た目も良ければ、家も裕福だと聞く。絵に描いたような“良い子”の生徒。まるで物語の主人公のような少年だった。
どんなにか佐藤が努力を重ねても、鈴木は常に自分の前を颯爽と歩いていた。追いかけても追いつけない。
一度として、佐藤は鈴木に勝てたことがない。
嫌いだ、大嫌いだ。
ずっと自分の前を歩く“良い子”のこいつが大嫌いだ。
“勇者”に選ばれ、この世界を救う試練を与えられたという鈴木が、大嫌いだ。
でもその鈴木が結局、最期まで。
目の前の鳶色の瞳の若い男は、鈴木陸ではない。
姿が違う。彼は明らかにこの異世界の人間だろう。小さな紫色の竜がパタパタと飛んで、その若い男の肩に止まる。小さな竜の大きな黒い両眼が、じっと倒れ伏している佐藤を見つめる。
鈴木陸ではない。
それなのに、この異世界の勇者は何故か、鈴木陸のような気がしてならなかった。
鈴木の“勇者の剣”の柄を、両手で持ったその男は、佐藤の傍らで足を止め、トドメを刺すために、両手で振り上げた。
(ああ、本当に容赦がない)
(大嫌いだったこいつに、結局私はやられてしまうのか)
“勇者の剣”が首を断つ前に、そんな諦めのような感情が瞬間、横切った。
それには少しばかりの安堵の感情も混じっていたのだった。
そして佐藤の視界はプツリと途切れたのだった。
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